「オタク文化」が生まれなかった経緯IDなし最終更新 2026/02/07 21:421.夢見る名無しさん「芸能界でリベラルの力が強すぎたから=エリートは公文書しか動かせない」https://www.facebook.com/share/1G4KCQ2XrG/2026/01/04 15:46:03106コメント欄へ移動すべて|最新の50件2.夢見る名無しさん第一幕 田舎道。木が一本。夕暮れ時。 エストラゴン、土の盛り上がった所に座り、ブーツを片方脱ごうとしている。息を切らせながら両手で引っ張る。投げ出し、ぐったりし、一息つき、もう一度やってみる。同じことを繰り返す。 ウラジミール、登場。2026/02/07 16:00:413.夢見る名無しさんエストラゴン (また投げ出して)何をやってもダメ。ウラジミール (硬直した小刻みな足取り、がに股で前に出ながら)私もそういう見解に傾いてきました。 生まれてからずーっと、そうならないよう頑張って来たんですけどね。「ウラジミール、お前はまだ全部やってみたわけじゃないだろ」って。 悪あがきの繰り返しってやつです。(戦いに思いをはせながら考え込む。エストラゴンの方を向いて)で、またお前かよ。エストラゴン 俺?ウラジミール 嬉しいよ、また会えて。もう行っちまったきりかと思ってた。エストラゴン 俺も。ウラジミール やっぱりまた一緒だな、おい! お祝いしなくちゃ。どう祝おうか。(考える)立ちな、抱き締めてやるよ。エストラゴン (いらついて)後にしてよ、後に。ウラジミール 殿下は昨晩どちらでお休みになられたのか、うかがってもよろしいかな?エストラゴン どぶ。ウラジミール (感じ入って)どぶかよ! どこの?エストラゴン (身振りなしに)あっち。ウラジミール で、殴られなかったか?エストラゴン 殴られなかったか? 殴られたよ、勿論。ウラジミール いつもと同じやつらか?エストラゴン 同じやつらか? 分かんない。ウラジミール それを思うとなぁ……ここんとこずっと……俺がいなけりゃ……お前なんかどうなってたよ? ……(きっぱりと) 今頃はせいぜいちっぽけな骨の山だな、うん間違いない。エストラゴン それが何か?ウラジミール (ショックを受けて)そりゃあんまりだろう、一人の人間に対して。(間。元気を出して) と思う反面、今更心が折れてどうするんだって言いたいね、俺は。そんなことは百万年前に気付けよって話だ。九〇年代に。エストラゴン お喋りはいいから、脱ぐの手伝ってよ、これ。2026/02/07 16:02:314.夢見る名無しさんウラジミール 手を取り合ってエッフェル塔から飛び降りればよかったんだ。最初に飛び下りた奴らと一緒に。 あの頃は俺達だって見苦しくなかったんだし。けどもう遅いよ。登らせてももらえないもんな。 (エストラゴン、ブーツを引き裂こうとしている)何してんだよ。エストラゴン 靴、脱いでるんだよ。脱いだことないの?ウラジミール ブーツは毎日脱ぐもんだって、しつこく言ってるだろ。何で言うこときかないんだよ。エストラゴン (弱々しく)手伝ってくれよ!ウラジミール 痛いのか?エストラゴン 痛いのかだと? この人、俺が痛いのか知りたいんだってさ!!ウラジミール (カッとして)世界中で痛いのはお前だけだろうよ。俺なんか数にも入らないんだ。 お前が俺と同じ病気持ちになった日には、一体なんて言うか拝聴してみたいもんだな。エストラゴン 痛いのか?ウラジミール 痛いのかだと? この人、俺が痛いのか知りたいんだってよ!エストラゴン (指を差して)だからってチャックぐらい上げときなよ。ウラジミール (前屈みになって)本当だ。(チャックを上げる)人生、小さなものでも大事にしないとな。エストラゴン しょうがないよ。お前、最後の瞬間まで我慢してるんだから。ウラジミール (夢見るように)最後の瞬間かぁ……(瞑想する)希望を先送りにすると、どっかが病む。誰の格言だっけ?エストラゴン ねえ、手伝ってくれないの?2026/02/07 16:05:345.夢見る名無しさんウラジミール 時々感じるんだよ、最後の瞬間はやっぱり来るぞって。するとものすごく妙な気分になる。 (帽子を取り、中を見回し、手を入れてかき回し、振って、またかぶる)何て言うか。ほっとするんだけど、それだけじゃなくて…… (言葉を探す)……ぞっとするんだ。(大袈裟に)ぞぞぞーっとね。(また帽子を取って、中を見回す)変だな。 (異物を追い払うかのように帽子の山を叩いてまた中を見回し、かぶる)何やってもダメだな。 (エストラゴン、全力を振り絞ってブーツを脱ぐ事に成功する。中を見、手を入れてかき回し、ひっくり返し、振ってみて、 地面に何か落ちていないか目を凝らす。何も見つからない。また中をかき回し、前方を見つめるが何も見ていない)どうした?エストラゴン 何でもない。ウラジミール 見せてみな。エストラゴン 何もないよ。ウラジミール もう一回履いてみな。エストラゴン (足を調べて)ちょっと風に当ててみる。ウラジミール これぞ人間ってわけだ。自分の足のせいなのにブーツに当たるんだから。 (また帽子を取り、中を見回し、かき回し、山を叩き、息を吹きかけ、またかぶる)なんかやばい感じがしてきた。 (沈黙。ウラジミール、物思いにふける。エストラゴン、足の指を引っ張る)泥棒のうち一人は救われたんだよなぁ。 (間)悪くない確率だ。(間)ゴゴ。エストラゴン 何?ウラジミール 悔い改めてみようか。エストラゴン 悔い改めるって、何を?ウラジミール いやその……(考える)細かいことは言いっこなしだ。エストラゴン 生まれちゃったこととか? ウラジミール、心から大笑いするが、あっという間に息を止め、恥骨を押さえる。顔が引きつっている。ウラジミール もう思いきり笑うのも無理。エストラゴン 恐るべき喪失だね。2026/02/07 16:07:516.夢見る名無しさんウラジミール せめて笑顔くらいは。(急に口を大きく開けて微笑む。しばらくそのまま。急にやめる)違うな。何やっても駄目だ。(間)ゴゴ。エストラゴン (いらついて)何だよ。ウラジミール 聖書、読んだことあるか?エストラゴン 聖書かぁ……(考えて)ざっと見たと思うけど。ウラジミール 福音書って覚えてるか?エストラゴン 覚えてるよ、聖書の地図、カラーで綺麗だったなぁ。死海はほの暗く青みがかってた。見てるだけで喉が渇いちゃったよ。 ここにしようっていつも言ってたんだ。新婚旅行はここにしようって。二人で泳ぐんだよ。幸せだろうなぁ。ウラジミール 詩人になったらよかったな、お前。エストラゴン 詩人だったよ。(自分のボロ服を指して)見て分からないか?沈黙。ウラジミール 何の話だっけ……足の具合は?エストラゴン 見るからに腫れてるよ。ウラジミール あ、そうだ。泥棒の話だよ、泥棒二人。あの話、覚えてるか?エストラゴン 知らない。ウラジミール 話してやろうか?エストラゴン いらない。ウラジミール 暇つぶしになるぞ。(間)二人組の泥棒がさ、救世主キリスト様と一緒に十字架にかけられたんだとさ。ところが---エストラゴン え、誰と?ウラジミール 救世主キリスト様だよ。二人組の泥棒の話だ。一人は救われた。けどもう一人は……(「救われた」の反対語を探す)……呪われた。エストラゴン え、何から救われたって?ウラジミール 地獄だよ。エストラゴン 俺、行くよ。エストラゴン、動かない。ウラジミール ところがだ……(間)……どういうわけか---おい、退屈じゃないよな? ---どういうわけか、泥棒が救われたって言ってるのは一人だけなんだよ、 福音書を書いた四人のうちで。四人がそこに---まあそこら辺にはいたんだ。なのに泥棒が救われたって言ってんのはたった一人だ。 (間)おい、ゴゴ、たまにはボールを打ち返してくれたらどうなんだよ。2026/02/07 16:09:297.夢見る名無しさんエストラゴン (大袈裟に熱を込めて)その話、びっくりするほど面白いな、いやほんと。ウラジミール 四人のうち一人だけだよ。他の二人は泥棒のことなんか一言も言ってないし、あとの一人なんか、 泥棒は二人とも口汚く罵ったって言ってるんだから。エストラゴン え、誰を?ウラジミール はあ?エストラゴン 一体何の話? 誰を罵ったって?ウラジミール だから救世主だよ。エストラゴン 何で?ウラジミール 助けてくれないからだよ。エストラゴン 地獄から?ウラジミール 馬鹿。死からだよ。エストラゴン 地獄って言わなかった?ウラジミール 死だよ。死。エストラゴン ふうん、それで?ウラジミール それで二人は呪われたってわけだ。エストラゴン 何か問題?ウラジミール だから四人のうちの一人は、二人組の泥棒のうち一人が救われたって言ってるんだってば。エストラゴン あ、そう。じゃあ意見の相違ってやつだね。以上。ウラジミール だって四人全員そこにいたんだよ。なのにそのうちの一人だけが言ってるんだ、泥棒が一人救われたって。 何でそいつを信じなきゃいけない? 他の三人を押し退けて。エストラゴン 誰が信じてるの?ウラジミール みーんなさ。そのバージョンしか知らないからな。エストラゴン 世の中の奴らは皆無知な猿だから。 エストラゴンは痛そうに立ち上がり、片足を引き摺りながら下手袖に向かい、立ち止まり、片手を目の上にかざして遠くを見て、くるりと向きを変え、上手袖に向かい、遠くを見る。ウラジミールはそれを目で追ってからブーツを拾いに行き、中を眺めたかと思うと、取り落とす。ウラジミール おえっ! ウラジミールは唾を吐く。エストラゴンは舞台中央に来て観客席に背を向けて立ち止まる。2026/02/07 16:11:358.夢見る名無しさんエストラゴン 素敵な場所だなぁ。(観客席の方に向き直って舞台前方に進み出て、観客に向かって立ち止まる) 想像力を掻き立てられる眺めだ。(ウラジミールの方を向いて)行こうよ。ウラジミール 駄目だよ。エストラゴン 何で?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン (絶望的に)ああもう! (間)本当にここなの?ウラジミール 何が?エストラゴン 待つ場所だよ。ウラジミール 木のそばって言ってたからな。(二人は木を見る)他にないだろ?エストラゴン これ、何の木?ウラジミール さあ。柳かな。エストラゴン 葉っぱはどこに行った?ウラジミール 枯れちまったんだな。エストラゴン 涙も涸れたか。ウラジミール それか季節じゃないかだ。エストラゴン 柳っていうより植木みたいだ。ウラジミール 茂みというか。エストラゴン 植木だよ。ウラジミール しげ……っと、何が言いたいんだよ。場所間違えてるってか?エストラゴン だって、もう来てたっていいはずだよね。ウラジミール 絶対来るって言ったわけじゃないからな。エストラゴン じゃあ、もし来なかったら?ウラジミール また明日来ればいいよ。エストラゴン で、明後日もか。ウラジミール まあな。エストラゴン そのまた次の日もずっと。ウラジミール だからぁ。エストラゴン ゴドーが来るまでね。ウラジミール 冷たいぜ、お前。エストラゴン 昨日も来たよね、俺達。ウラジミール そりゃ勘違いだよ。エストラゴン 昨日何したっけ?2026/02/07 16:13:369.夢見る名無しさんウラジミール 昨日何したか?エストラゴン うん。ウラジミール そりゃ……(怒って)お前がいると何でもかんでもあやふやになっちまうよ。エストラゴン 俺達、ここにいたよ。俺はそう思う。ウラジミール (辺りを見回して)見覚えがあるのか?エストラゴン そんなこと言ってないだろ。ウラジミール はあ?エストラゴン どっちだっていいんだよ、そんなことは。ウラジミール だけどやっぱり……あの木とか……(観客席の方を向いて)……あの泥沼とか。エストラゴン 本当に今晩なのか?ウラジミール 何が?エストラゴン 待ち合わせだよ。ウラジミール 土曜日って言った。(間)と思う。エストラゴン 思うわけね。ウラジミール メモしといたはずだよ。(あちこちのポケットを探ると、雑多なゴミがあふれ出す)エストラゴン (意地悪く)けど、いつの土曜? 大体今日は土曜なの? (間)それとも月曜? (間)ひょっとして金曜とか?ウラジミール (日付が風景に書き込まれているかのように、狂ったように辺りを見回して)そんな馬鹿な!エストラゴン それか木曜?ウラジミール どうしよう?エストラゴン もし昨日来たのに俺達がいなかったとしたら、今日はもう来ないよね。ウラジミール でも昨日ここにいたって言ったよな。エストラゴン 勘違いかもね。(間)ねえ、ちょっと黙らない? いいよね?ウラジミール (力なく)分かったよ。(エストラゴンは土の盛り上がった所に座る。ウラジミールは興奮して行ったり来たりするが、 時折立ち止まって遠くを見つめる。エストラゴンは眠り込んでしまう。ウラジミールはエストラゴンの前に立って) ゴゴ! ……ゴゴ! ……ゴゴったらゴゴ!エストラゴン、びくっとして目を醒ます。エストラゴン (不快な状況に引き戻されて)寝てた! (絶望的に)何でいつも寝かせておいてくれないの?ウラジミール 寂しかったんだよ。エストラゴン 夢、見てた。ウラジミール その話はいいよ!2026/02/07 16:15:1310.夢見る名無しさんエストラゴン その夢はね……ウラジミール いいって言ってるだろ!エストラゴン (宇宙全体を指差して)こいつだけあればいいの? (沈黙)ジジ、お前やさしくないよ。 秘密の夢の話を誰にすればいいんだよ、お前が聞いてくれなかったら。ウラジミール だったら自分の胸にしまっておくんだな。分かってるだろ、我慢できないんだよ。エストラゴン (冷ややかに)時々思うんだ、俺達、別れた方がいいんじゃないかってさ。ウラジミール どうせ遠くまで行けないくせに。エストラゴン そりゃ残念だな。本当に残念だよ(間)そう思わない、ジジ、本当に残念だって? (間)行く道の美しさや(間)で会う旅人たちの善良さを想えば。(間。甘えて)ねぇ、そうじゃない、ジジ?ウラジミール まあ落ち着こうや。エストラゴン (官能的に)落ち着こうや……こうや……イギリス人なら給えって言うよ。落ち着き給えって。(間)知ってるよね、売春宿のイギリス人の話。ウラジミール まあな。エストラゴン 聞かせてよ。ウラジミール もういいよ!エストラゴン イギリス人が、ちと酔っ払って売春宿に行きましたとさ。おかみが聞くにゃあ、ブロンドがいいかい、黒髪がいいかい、それとも赤毛? さあ続けて。ウラジミール いい加減にしろ! ウラジミール、さっさと退場する。エストラゴン、立ち上がって舞台端ぎりぎりまで後を追う。ボクサーを応援するような仕草。 ウラジミール、登場。エストラゴンを通り過ぎ、うなだれたまま舞台を横切る。エストラゴン、ウラジミールに近付き、立ち止まる。エストラゴン (優しく)話したいことがあったんだよね? (沈黙。エストラゴン、一歩近付いて)何か言いたいことがあったんだろ? (沈黙。もう一歩近付いて)ジジ……。ウラジミール (背を向けたまま)ないよ、言いたいことなんか。2026/02/07 16:19:3911.夢見る名無しさんエストラゴン (近付いて)怒ったの? (沈黙。近付いて)ごめんよ。(沈黙。近付く。ウラジミールの方に手を置いて)ほら、ジジ。 (沈黙)手を出しなよ。(ウラジミール、半ば振り向く)抱きしめなよ! (ウラジミール、硬直する)意地はるなって。 (ウラジミール、和らぐ。二人、抱き合う。エストラゴン、飛びのいて)ニンニクくさっ!ウラジミール 腎臓にいいんだ。(沈黙。エストラゴン、木をしげしげと見る)さて、どうしようか。エストラゴン 待つ。ウラジミール けど、待ってるあいだは?エストラゴン 首でも吊ってみる?ウラジミール ふむ、勃起するかもな。エストラゴン (大興奮して)勃起するの!ウラジミール おまけもあるぞ。あれが落ちたところにマンドラゴラが生えるんだ。だから引っこ抜くとキャッて叫ぶんだよ。お前知ってた?エストラゴン 早く吊ろうよ、首!ウラジミール あの枝で? (二人、木の方に行く)大丈夫かなぁ。エストラゴン 何時だって挑戦あるのみさ。ウラジミール さあどうぞ。エストラゴン お先にどうぞ。ウラジミール いやいや、お先に。エストラゴン 何でだよ。ウラジミール 俺より軽いんだから。エストラゴン だろ!ウラジミール はあ?エストラゴン 頭を使ってごらんよ。 ウラジミール、頭を使ってみる。2026/02/07 16:22:0612.夢見る名無しさんウラジミール (結局)光が見えない。エストラゴン つまりね。(考えて)枝はさ……枝はね……(怒って)頭を使えってば!ウラジミール お前だけが希望の星だ。エストラゴン (努力して)ゴゴ軽いだろ---枝折れないだろ---ゴゴ死ぬ。ジジ重いだろ---枝折れるだろ---ジジ独りぼっちだ。だけど---ウラジミール そんなこと思ってもみなかったよ。エストラゴン お前の首が吊れたら何だって釣れるよ。ウラジミール けど俺の方が重いんだっけ?エストラゴン お前がそう言ったんじゃないか。俺、分からないよ。確率は五分五分。まあそんなところだ。ウラジミール はあ? じゃあどうするんだよ?エストラゴン 何もしないことさ。その方が安全だよ。ウラジミール じゃあ待つか。で、何て言うか確かめよう。エストラゴン 誰が?ウラジミール ゴドーだよ。エストラゴン いいね。ウラジミール じゃあ待とう。で、俺達がどんな状態にあるのかはっきりさせよう。エストラゴン せめて鉄が凍る前には打ちたいって気もするけどね。ウラジミール 興味あるんだよ、奴が何をしてくれるのか。話に乗るか乗らないかは聞いてから決めればいい。エストラゴン 俺達、正確には何を頼んだんだっけ?ウラジミール お前、いなかったっけ?エストラゴン 聞いてなかった。ウラジミール えーっと、特にはっきりとは。エストラゴン お祈り的な。ウラジミール それだ。エストラゴン ざっくりしたお願いっていうか。ウラジミール そうそう。エストラゴン で、答えは?ウラジミール 考えとくって。エストラゴン 何も約束できないけど。ウラジミール よく考えてみるって。2026/02/07 16:23:0013.夢見る名無しさんエストラゴン 家に帰って心静かに。ウラジミール 家族にも相談して。エストラゴン 友達にもね。ウラジミール エージェントにも。エストラゴン 取引先にも。ウラジミール 帳簿にも。エストラゴン 銀行口座もだ。ウラジミール 決めるのはそれからだ。エストラゴン ごもっとも。ウラジミール だろ?エストラゴン だね。ウラジミール だな。沈黙。エストラゴン (不安に駆られて)で、俺達は?ウラジミール はい?エストラゴン 俺達はって聞いてるんだよ。ウラジミール はあ。エストラゴン 俺達の立場は?ウラジミール 立場って?エストラゴン ゆっくり考えてみて。ウラジミール 立場ねぇ。っていうか地面にひれ伏すんだろ。エストラゴン そこまで悲惨?ウラジミール 閣下は特権を主張されるおつもりか?エストラゴン 俺達、もう何の権利もないの? ウラジミールの笑い、前と同様に固まる。ただし微笑みはなし。ウラジミール 笑わせてくれるよ。笑えるものならね。エストラゴン 俺達は権利を失ったってこと?ウラジミール (きっぱりと)自分から手放しちまったんだよ。2026/02/07 16:24:3114.夢見る名無しさん 沈黙。二人、動かない。腕をだらりと下げて首を垂れ、膝を折った形のまま。エストラゴン (気弱に)俺達、縛られてるんじゃないのかな? (間)俺達さあ---ウラジミール しっ! 二人、耳を澄ます。グロテスクなほど硬直した格好。エストラゴン 何も聞こえないよ。ウラジミール しいっ! (二人、耳を澄ます。エストラゴン、バランスを崩して倒れそうになる。ウラジミールの腕にしがみつき、ウラジミール、よろける。 二人は身を寄せ合って耳をそばだてる)俺もだ。(安堵のため息。二人は力を抜いて離れる)エストラゴン 脅かすなよ。ウラジミール てっきり来たかと思ったんだ。エストラゴン 誰が?ウラジミール ゴドー。エストラゴン ああもう! 風にそよぐ葦の音さ。ウラジミール 絶対叫び声だったって。エストラゴン だいたい、何で叫ぶんだよ。ウラジミール 馬を走らせてるとか。 沈黙。エストラゴン (激しく)腹減ったぁ。ウラジミール ニンジン食うか?エストラゴン それっきゃないのか?ウラジミール カブ、あったかも。エストラゴン ニンジンくれ。(ウラジミール、ポケットを探ってカブを取り出し、エストラゴンに渡す。エストラゴンは一口かじる。怒って)カブだよ!ウラジミール あ、ごめん! てっきりニンジンかと。(またポケットを探るが、カブしか見つからない)カブしかない。 (ポケットを探る)お前、最後のやつ食っちまったんだよ。(ポケットを探る)(ポケットを探る)待てよ、あった。 (ニンジンを引っ張り出し、エストラゴンにやる)ほら、相棒。(エストラゴン、ニンジンを袖で拭って食べ始める)カブよこせ。 (エストラゴンから返されたカブをポケットにしまう)大事に食えよ、それが最後だ。2026/02/07 16:26:1615.夢見る名無しさんエストラゴン 俺、質問したよね。ウラジミール ああ。エストラゴン 答えてもらった?ウラジミール ニンジンうまいか?エストラゴン ニンジン味だ。ウラジミール そりゃよかったよかった。(間)何が知りたかったんだっけ?エストラゴン 忘れた。(?む)これだからいやになる。(ニンジンをありがたそうに眺め、指でつまんでぶらぶらさせる)このニンジンのことは忘れないよ。 (しっぽをうっとりとしゃぶる)ああそうだ、思い出したよ。ウラジミール で?エストラゴン (口いっぱいに頬張って、上の空で)俺達、ひはられてにゃいのか!ウラジミール 分かんねえよ。エストラゴン (噛んで飲み込む)俺達、縛られてるんじゃないかって聞いてんだよ。ウラジミール 縛られてる?エストラゴン し・ば・ら・れ・て・る。ウラジミール 縛られてるって何だよ。エストラゴン 束縛されてるってことだよ。ウラジミール 誰に? 誰から?エストラゴン お前のあれにだよ。ウラジミール ゴドーか? ゴドーに縛られてるって? まさか! ありえない。(間)今のところは、だけどな。エストラゴン ゴドーっていうのか。ウラジミール まあな。エストラゴン あれ。(ニンジンのヘタをつまんで残りを持ち上げ、目の前で回して)おかしいな、噛めば噛むほど不味くなる。ウラジミール 俺は逆だな。エストラゴン てことは?ウラジミール ?んでりゃ慣れる。エストラゴン (じっくり考えて)それ、逆って言うか?ウラジミール 気質の問題だな。エストラゴン 性格っていうか。ウラジミール どうしようもないってことだ。2026/02/07 16:27:3416.夢見る名無しさんエストラゴン あがいたところで。ウラジミール 人それぞれだ。エストラゴン じたばたしたって。ウラジミール 本質は変わらない。エストラゴン 何やっても駄目ってことだ。(ニンジンの残りをウラジミールに差し出して)最後の一口、食べる? 恐ろしい叫び声が間近に聞こえ、エストラゴンは思わずニンジンを落とす。二人、固まる。そして突然舞台袖に向かって走り出す。エストラゴンは途中で立ち止まり、踵を返してニンジンを拾い上げてポケットにねじ込み、待っているウラジミールめがけて走り出すが、またとって返してブーツを拾い上げ、ウラジミールに駆け寄る。二人で身を縮め肩を寄せ合い、恐ろしい声に背を向けて待つ。ポゾーとラッキー、登場。ポゾーはラッキーの首にロープをかけて操っているので、最初に姿を現すのはラッキーだ。その後に長いロープが続き、舞台の中ほどまで来たところでようやくポゾーが現れる。ラッキーは重い鞄と折りたたみ椅子とピクニック用のバスケットとオーバーコートを持っている。ポゾーは鞭を持っている。ポゾー (舞台袖から)進め! (鞭の音。ポゾー、現れる。ラッキーと二人で舞台を横切っていく。 ラッキー、ウラジミールとエストラゴンの前を通り過ぎて舞台袖に退場。ポゾー、ウラジミールとエストラゴンの姿を認めて立ち止まる。 ロープがぴんと張る。ポゾー、荒っぽく引っ張る)下がれ! (ラッキーが荷物を全部持ったまま倒れる音。 ウラジミールとエストラゴン、音のした方に顔を向けるが、助けに行きたい気持ちと怖いという感情に引き裂かれている。 ウラジミール、ラッキーの元に行こうとする。エストラゴン、袖をつかんで止める)2026/02/07 16:29:5817.夢見る名無しさんウラジミール 放せよ!エストラゴン じっとしてなよ。ポゾー 気を付けて! こいつ、邪悪だからね。(ウラジミールとエストラゴン、ポゾーの方を向く)よそ者にはね。エストラゴン (小声で)この人?ウラジミール 誰が?エストラゴン (名前を思い出そうとして)ええっと……ウラジミール ゴドーか?エストラゴン うん。ポゾー 自己紹介しようか。私はポゾー。ウラジミール (エストラゴンに)違った!エストラゴン ゴドーって言ったよ。ウラジミール 言ってないよ!エストラゴン (ポゾーにおどおどと)あの、ゴドーさんでは?ポゾー (脅すような声で)私はポゾー! (沈黙)ポゾーだ! (沈黙)この名前に覚えはありませんか? (沈黙)覚えはないかと聞いてるんだ。 (ウラジミールとエストラゴンは首を傾げ合う)エストラゴン (思い出しているふりをして)ポゾー……ポゾーねぇ……。ウラジミール (同じく)ポゾー……ポゾーねぇ……。ポゾー ポポポポゾーだ!エストラゴン ああ! ポゾーか……えーっと……ポゾーねぇ……。ウラジミール ポゾー? ポゾー?エストラゴン ポゾーねぇ……うーん……ちょっと……その……ええっとぉ…。 ポゾー、威嚇するように前に出る。ウラジミール (機嫌をとって)昔、ゴドーって一家と知り合いでね。母親が淋病を患ってて。エストラゴン (慌てて)俺達、地元の者じゃないんで。2026/02/07 16:31:2318.夢見る名無しさんポゾー (立ち止まって)とはいえ、君達、人間だよね。(眼鏡をかけて)見たところ。(眼鏡をはずして)私と同じ種族か。 (大笑いして)ポゾー様と同じ種族とはな! 神の似姿だ!ウラジミール えっと、あのう……ポゾー (高飛車に)ゴドーとは誰だ?エストラゴン ゴドー?ポゾー 君達、私をゴドーと間違えたじゃないか。エストラゴン いえいえ、まさかそんな。ポゾー そいつは誰だ?ウラジミール ええっと、まあその……知り合いっていうか。エストラゴン とんでもない。ほとんど知らないんで。ウラジミール そうだった……あんまり知らないんだった……けど、そうは言っても……エストラゴン 俺なんか、会っても分からないぐらいで。ポゾー でも私をゴドーと間違えた。エストラゴン (ポゾーの前で後ずさりしながら)それはその……なんて言うか……薄暗いし……緊張したし……待ってたし……正直に言います…… そうかなぁと……ほんの一瞬……。ポゾー 待ってた? つまり君達はそいつを待ってたんだね?ウラジミール いやその……ポゾー ここで? この私の土地で?ウラジミール 悪気はなかったんです。エストラゴン よかれと思って。ポゾー 道はみんなのものだからな。ウラジミール だと思ってました。ポゾー 情けないことだよ。しかし、もういるものはしょうがない。エストラゴン 俺達にもどうしようもないことで。2026/02/07 16:32:5019.夢見る名無しさんポゾー (鷹揚な身振りで)この話はここまでだ。(ロープを引いて)起きろ、豚! (間)転ぶたびに居眠りですよ。(ロープを引いて)立つんだ、豚野郎! (ラッキーが起き上がり、荷物を拾い集める音。ポゾーはロープを引いて)下がれ! (ラッキー、後ろ向きに登場)止まれ! (ラッキー、止まる) 回れ! (ラッキー、回る。ウラジミールとエストラゴンに愛想よく)君たちに会えて嬉しいよ。(二人が信じられないという顔をするので) いやほんと、ほんと、嬉しいのなんのって。(ロープを引いて)もっと寄れ! (ラッキー、進み出る)止まれ! (ラッキー、止まる)」 そうとも、ずっと一人旅をしていると道は長いからね……(時計を見る)……うん、六時間か、そうだ、都合六時間になるが人っ子一人見かけなかったよ。 (ラッキーに)コートだ! (ラッキー、鞄を置いて進み出て、コートを渡す)持て! (ポゾー、鞄を差し出す。 ラッキー、進み出るが、両手が塞がっているため鞭を口にくわえ、元の位置に戻る。ポゾー、コートを着始めるが手を止めて)コート! (ラッキー、鞄とバスケットと折りたたみ椅子を置いて進み出て、ポゾーがコートを着るのを手伝い、元の位置に戻って鞄とバスケットと椅子を持つ)2026/02/07 16:36:0520.夢見る名無しさん 今宵はほのかな秋の訪れを感じるなぁ。(ポゾー、コートのボタンを止め終わると身を屈め、自分の姿をチェックし、身を起こして)鞭だ! (ラッキー、進み出て身を屈める。ポゾー、ラッキーの口から鞭をひっつかむ。ラッキー、元の位置に戻る) そうなんですよ、私は同類の人々との交流なしにやっていけないたちなんです。(眼鏡をかけて二人の同類を見て) 完全に同類ってわけじゃなくてもね。(眼鏡をはずして)椅子だ! (ラッキー、鞄とバスケットを置いて進み出て、椅子を開き、 元の位置に戻って鞄とバスケットを持つ)もっと近くに! (ラッキー、鞄とバスケットを置いて進み出て、 椅子を動かし、元の位置に戻って鞄とバスケットを持つ。ポゾーは腰かけ、鞭の柄をラッキーの胸に押し付けて)下がれ! (ラッキー、後ずさる)もっとだ! (ラッキー、もう一歩後ずさる)止まれ! (ラッキー、止まる。ウラジミールとエストラゴンに) そんなわけで、もしよろしければ、次の冒険に出かける前にしばし君達とお喋りしたいなぁ。バスケット! (ラッキー、進み出てバスケットを手渡し、元の位置に戻る)新鮮な空気を吸うと疲れた胃も元気になるね。 (バスケットを開け、鶏肉一切れとワインを一瓶取り出して)バスケットだ! (ラッキー進み出てバスケットを持ち上げて元の位置に戻る) もっと下がれ! (ラッキー、もう一歩後ずさる)こいつ、匂うんでね。幸せな日々に乾杯! (瓶からワインを飲み、瓶を置き、鶏肉を食べ始める。沈黙。ウラジミールとエストラゴン、始めは用心深く、 次第に大胆にラッキーの周囲を回りながら、上から下までじろじろと観察する。ポゾー、鶏肉をむさぼり、骨までしゃぶってから捨てる。 ラッキー、ゆっくりと姿勢を崩し、鞄とバスケットが地面につきそうになるとびくっとして大勢を立て直すが、また姿勢を崩し始める。 立ったまま眠っている人のリズムだ)2026/02/07 16:44:4221.夢見る名無しさんエストラゴン どっか悪いのかな?ウラジミール 疲れてるみたいだ。エストラゴン なんで鞄、置かないのかな?ウラジミール 知るか。(二人、ラッキーに近寄る)気を付けろよ!エストラゴン 何か言ってみてよ。ウラジミール おい!エストラゴン え?ウラジミール (指差しながら)首、見ろよ!エストラゴン (ラッキーの首を見て)別にどうってことないけど。ウラジミール こっちだ。 エストラゴン、ウラジミールの脇に来る。エストラゴン あちゃー。ウラジミール 膿が出てる。エストラゴン ロープだね。ウラジミール こすれるんだな。エストラゴン しょうがないよ。ウラジミール 結び目だな。エストラゴン すりむけてる。二人はラッキーの観察を再開し、顔に目を止める。ウラジミール (気が進まないふうで)顔は悪くないな。エストラゴン (肩をすくめ顔をしかめて)そうかな?ウラジミール ちょっと女っぽいけど。エストラゴン よだれだ。ウラジミール しょうがないよ。エストラゴン 垂れ流してる。ウラジミール 頭が足りないんだな。エストラゴン 先天性だね。ウラジミール (目を近付けて)甲状腺の病気かも。2026/02/07 16:45:5122.夢見る名無しさんエストラゴン (同じく)それはどうかな。ウラジミール 息切れしてる。エストラゴン しょうがないよ。ウラジミール それにこの目!エストラゴン どうかした?ウラジミール 飛び出してるよ、顔面から。エストラゴン 死にかかってるんだよ。ウラジミール それはどうかな。(間)何か聞いてみなよ。エストラゴン いいのかなぁ。ウラジミール 大丈夫だよ。エストラゴン (おずおずと)あのぉ……ウラジミール 声張って。エストラゴン あのっ……。ポゾー そっとしといてやろう! (二人、振り向く。ポゾーは食事を終えて手の甲で口を拭っている)分からないかなぁ、休みたがっているのが? バスケット! (ポゾー、マッチを擦ってパイプに火を点けようとする。エストラゴン、地面に落ちている鶏の骨を目にして意地汚く見つめる。 ポゾー、ラッキーが動かないので怒ってマッチを投げ捨て、ロープを引く)バスケットだ! (ラッキー、びっくりして倒れそうになり、我に返って進み出、ワインの瓶をバスケットに入れて元の位置に戻る。 ポゾー、二本目のマッチを擦ってパイプに火を点ける)しょうがないよ、あいつがやるような仕事じゃないんだから。 (パイプを吸い、両脚を伸ばして)ああ! 落ち着いた。エストラゴン (おずおずと)あの、ちょっと……。ポゾー どうした、君?エストラゴン えっと……あの……もういいんですか? ……もう……いらない? ……あの……骨だけど。ウラジミール (呆れて)待てなかったのか?ポゾー いやいや、よく聞いてくれました。私に骨は必要か? (鞭の先で骨を転がして)いやいや、私個人には必要ない。(エストラゴン、骨に一歩近付く)しかし、だ……(エストラゴン、はたと立ち止まる)……しかし原則として、骨は荷物持ちのものである。だからやつに聞くべきだ。(エストラゴン、ラッキーの方を向き、ためらう)どうぞどうぞ、怖がることはない。聞けば答えるから。(エストラゴン、ラッキーの方に向かい、前で止まる)エストラゴン あのぉ……ちょっと……ポゾー お前に用事だそうだ、豚! 答えろ! (エストラゴンに)もう一度聞いてくれ。2026/02/07 16:47:5523.夢見る名無しさんエストラゴン あの、失礼ですが、あの骨、いらないんですか?ラッキーは長いことエストラゴンを見る。ポゾー (大喜びで)失礼ですが、だって! (ラッキー、首を垂れる)答えろ! 骨が欲しいのか、欲しくないのか? (ラッキー、沈黙。エストラゴンに)骨は君のものだ。(エストラゴン、骨に飛びついて拾い上げ、かじり始める)しかし気に入らんな。 こいつが骨を断るなんて前代未聞だ。(ラッキーを心配げに見て)病に倒れられたら厄介だからねぇ。(パイプをふかす)ウラジミール (カッとなって)恥知らずめ! 沈黙。エストラゴン、びっくりしてかじるのをやめ、ポゾーとウラジミールを交互に見る。ポゾーは表面上は穏やか。ウラジミールは戸惑う。ポゾー (ウラジミールに)何か特におっしゃりたいことでも?ウラジミール (どもりつつも毅然として)人を……(ラッキーの方を示す身振り)……あんな風に扱うなんて……俺……無理……人間をあんな…… ダメでしょ……この恥知らず!エストラゴン (負けじと)情けないことだ! (またかじり始める)ポゾー 手厳しいな。(ウラジミールに)失礼だが、お歳は? (沈黙)六十歳? 七十歳? (エストラゴンに)この方、いくつ?エストラゴン 十一。2026/02/07 16:50:5824.夢見る名無しさんポゾー こりゃ失礼。(鞭の柄でパイプをこんこんと叩いて立ち上がり)そろそろお暇しようかな。付き合ってくれてありがとう。(思案して) 発つ前にもう一服するなら話は別なんだけどね。いかが? (二人とも無言)と言っても、私はね、いつもはあんまり吸わないんだよ。 ほんのちょっとたしなむ程度でね。立て続けにぷかぷかなんて私の流儀じゃないんだ。(手を心臓にあてて溜息をついて)心臓がバクバクするからね。 (沈黙)ニコチンのせいだ。用心していても吸い込んでしまうものなんだよ。(ため息をついて)分かるよね。(沈黙)ひょっとして君ら、 吸わないのかな? 吸うの? 吸わないの? ま、どっちでもいいか。(沈黙)しかしなんだな、どうやってまた座ったらいいかなぁ。 わざとらしくない感じで。もう立ち上がっちゃったしなぁ。なんて言うか……ぎこちなく見えないように。(ウラジミールに)はい? (沈黙)何か言わなかった? (沈黙)ま、どっちでもいいか。さてと……(考え込む)エストラゴン ああ! 落ち着いた。(骨をポケットにしまう)ウラジミール 行こう。エストラゴン 今すぐ?ポゾー ちょっと待った。(ロープを引く)椅子! (鞭で場所を指す。ラッキー、椅子を動かす)もっと! そこだ! (椅子に座る。ラッキー、元の位置に戻る)座れた! (パイプを詰める)ウラジミール (激しく)行くぞ!ポゾー 私が追い立ててるんじゃないよね。ちょっと待ってもらえないか、後悔はさせないから。エストラゴン (施しの匂いを嗅ぎ取って)俺達急いでないんで。2026/02/07 16:52:5525.夢見る名無しさんポゾー (パイプに火を点けて)続けて吸うとあんまりうまくないな……(パイプから口をはずし、じっと見つめて)…… いや一服目ほどじゃないって意味だけど。(パイプをもう一度口に運んで)やっぱりうまいわ、これ。ウラジミール 俺、行くわ。ポゾー こちらは私の存在に我慢ならんよだなぁ。きっと私はあまり人間味がないんだな。けどそれがなんだ? (ウラジミールに) 急いては事を仕損じる、だ。君が今立ち去ったとしよう。まだ昼間だっていうのに。だってどう見たってまだ昼間でしょ。 (全員、空を見上げる)ね。(全員、空を見るのをやめる)すると、どうなる? ---(口からパイプを離し、確かめる)---消えてる--- (パイプに火をつけて)---すると---(パイプに息を吹きかけて)---すると---(息を吹きかけて)---すると君らの約束はどうなるんだ…… ゴデーだか……ゴドーだか……ゴダンだか……とにかく君らの将来がかかっている、その人物との約束だよ…… 少なくとも近い将来はかかってるはずだ。ウラジミール 何で知ってるんだよ!ポゾー また話しかけてくれたよ! このままいけば、あっという間に旧知の仲だな。エストラゴン 何であいつは荷物を置かないんだ?ポゾー 私もその人に会えればきっと幸せになるよ。だって人に会うたびに幸せになるものでしょ。 どんな下等な生き物からも人は学び、心を豊かにし、自分の幸せをかみしめるものだ。君らだって…… (二人に話しかけてるのが分かるように、わざとらしく交互に見て)……君らだって、私に何かを与えてくれてる、のかもしれない。エストラゴン 何であいつは荷物を置かないんだ?ポゾー だとしたらびっくりだけどね。ウラジミール ちょっとあなた、質問されてんですけどね。ポゾー (大喜びで)質問か! 誰が? なんて? ちょっと前まで君らは私に敬語を使い、怖がって震えていた。なのにもう質問してくるとは。 先が思いやられるな、おい!ウラジミール (エストラゴンに)どうやら通じてるみたいだぞ。エストラゴン (ラッキーの周りを回りながら)え?ウラジミール 聞くなら今だ。受け入れ態勢ばっちりだよ。2026/02/07 16:55:3026.夢見る名無しさんエストラゴン 聞くって何を?ウラジミール 何であいつは荷物を置かないか。エストラゴン そこなんだよ、不思議なのは。ウラジミール あいつに聞けよ、ほら。ポゾー (この会話に聞き耳をたてながら、質問がうやむやにならないか心配して)君らが聞きたいのは、何故あいつが荷物をおろさないか、だね。ウラジミール そ。ポゾー (エストラゴンに)それで間違いないね?エストラゴン あいつ息が荒いね。アザラシかよ。ポゾー お答えしよう。(エストラゴンに)でも君、静かにしてくれないかな。苛々するんだよ!ウラジミール おい。エストラゴン へ?ウラジミール これから喋るぞ。 エストラゴン、ウラジミールの傍らに行き、並んで動かずに待つ。ポゾー よし。では、みんな、いいね? みんな、ちゃんと見てる? (ラッキーを見て、ロープを引く。ラッキー、顔を上げる)こっちを見ろ、豚! (ラッキー、ポゾーを見る)よし。(パイプをポケットにしまい、小さな咽喉用スプレーを取り出して喉に噴霧し、ポケットに戻す。 咳払いをし、唾を吐き、またスプレーを出して喉に噴霧し、ポケットにしまって)準備万端だ。みんな聴いてる? 準備はいいかな? (全員を順番に見て、ロープを引いて)おい豚野郎! (ラッキー、顔を上げる)一人空しく喋るのはやなんだよ。よし。さてと。(考え込む)エストラゴン 俺、行くわ。ポゾー 正確に言うとどんな質問だったかな?ウラジミール 何であいつは---ポゾー (怒って)口をはさむんじゃないよ! (間。少し穏やかに)一斉に喋ったらわけが分からないだろう。(間)何の話だったかな? (間。もっと大きく)何の話だったかな? ウラジミール、重い荷物を持っている人の真似。ポゾーはそれを見て首をかしげる。2026/02/07 16:57:2927.夢見る名無しさんエストラゴン (力を込めて)荷物。(ラッキーを指差して)何故? ずっと持ってる? (体をだらっと曲げて、息遣いも荒く)全然おろさない。 (体を起こしてほっとしながら両手を広げて)何故?ポゾー なんだ! もっと早く言ってくれればよかったのに。あいつは何で楽にしないかってことだね。よし、この際はっきりさせてやろう。 奴には権利がないのか? 勿論あるとも。ってことは、奴自身が楽したくないってことだ。筋の通った話だよ。じゃあ楽したくないのはなぜか? (間)諸君、その理由っていうのはだね。ウラジミール (エストラゴンに)ノートとっとけよ。ポゾー 奴は私の心に訴えかけたいんだよ、放り出されないようにね。エストラゴン どういうこと?ポゾー 分かりやすい言い方じゃなかったかな。奴は私に取り入ろうとしてるんだ。そうすれば私が離れないだろうと思ってね。 いや、これも正確じゃないな。ウラジミール あんた、あいつを追い払いたいのか?ポゾー 奴の方が私を騙そうとしてるんだよ。そんなことはさせないがね。ウラジミール 追い払うつもりなのか?ポゾー 奴はね、一生懸命荷物を持ってるところを見せつければ、私がやつを手元に置き続けたくなると思ってるんだ。エストラゴン だけどあんたはもう、うんざりなんだね。ポゾー 実際、奴の運び方は豚並みだ。奴がやるような仕事じゃないんだよ。ウラジミール だから追い払いたい?ポゾー 奴はね、疲れ知らずの姿を見せつければ、私が決心を鈍らせると思ってるんだ。哀れな策略だよ。 まるで私が奴隷不足で困ってるみたいじゃないか! (三人ともラッキーを見る)奴ときたら、天空を支えるジュピターの息子、 アトラス気取りなんだよ! (沈黙)まあ、そんなところだ。他に何か? (スプレーで喉に噴霧する)ウラジミール 追っ払いたいのかって聞いてるんだよ。ポゾー いいかい、私が奴で奴が私だったかもしれないんだ。たまたまそうならなかっただけの話だ。人それぞれに役割があるんだよ。ウラジミール ぱらいてぇのか?ポゾー 失礼ですが?ウラジミール 追っ払いたいのかと聞いてます。2026/02/07 17:00:1628.夢見る名無しさんポゾー そうだよ。とはいえ、追い払ってもよかったのに、そうはしないんだな。つまり尻を蹴飛ばしてただ追い出すんじゃなくて、市場に連れて行くんだよ。 善意ってわけだ。いい値がつくといいけどね。正直、こんな生き物を追い払うなんてできっこないからな。一番いいのは殺してやることだ。 (ラッキー、むせび泣く)エストラゴン 泣いてるよ。ポゾー 老いぼれた犬だってもう少し誇りってものがあるだろうになぁ。(ハンカチをエストラゴンに差し出して)可哀想だと思うなら、慰めてやってくれ。 (エストラゴン、ためらう)さあ。(エストラゴン、ハンカチを受け取る)涙を拭いてやりなさい。見棄てられてないって、奴もちょっとは感じるだろう。 エストラゴン、ためらう。ウラジミール よこせよ。俺がやってやるよ。 エストラゴン、ハンカチを渡すのを拒む。子供っぽい、いやいやの仕草。ポゾー 急がないと、泣き止んでしまうよ。(エストラゴン、ラッキーに近寄り、涙を拭こうとする。ラッキー、エストラゴンの向こう脛を激しく蹴る。 エストラゴンはハンカチを落として後ろに飛び退き、あまりの痛さに呻きつつ、足を引き摺って舞台を回る)ハンカチだ! ラッキーは鞄とバスケットを置いてハンカチを拾い上げ、ポゾーに手渡し、元の位置に戻って鞄とバスケットを持つ。エストラゴン 何だよ、この野郎! (ズボンのすそをめくりあげて)こいつのせいでびっこだよ!ポゾー 奴はよそ者が嫌いだと言ったはずだ。ウラジミール (エストラゴンに)見せてみな。(エストラゴン、足を見せる。怒ってポゾーに)血が出てるぞ!ポゾー 元気なしるしだ。エストラゴン (片足立ちで)もう二度と歩けないよ!ウラジミール (やさしく)俺がおぶってやるよ。(間)必要なら、だけど。2026/02/07 17:02:3529.夢見る名無しさんポゾー あいつ、泣き止んだな。(エストラゴンに)君が代わってやったってことだよ。(抒情的に)世界中の涙の量は決まってるんだ。 誰かが泣き出せば、どこかで誰かが泣き止むってわけだ。笑いも同じだよ。(笑って)だから自分達の時代を悪く言うのは止めよう。 前の時代よりも不幸ってわけじゃないんだから。(間)褒めるには当たらないがね。(間)何も言わないことだ。(間。思慮深げに) まあ人口が増えたのは確かだな。ウラジミール 歩いてみなよ。 エストラゴン、足を引き摺りながら二、三歩歩き、ラッキーの前で立ち止まって唾を吐きかけ、土の盛り上がった所に座る。ポゾー こういった美しいことを私に教えてくれたのは誰だと思う? (間。ラッキーを指差して)私のラッキーだよ。ウラジミール (空を見上げて)夜はもう二度と来ないのかな?ポゾー 奴がいなけりゃ、つまらないことしか考えたり感じたりできなかっただろう。(間。激烈に)仕事の悩みとかね! (穏やかに) 最高の美、品格、真実、そんなものには手が届かなかった。だから私はクヌークを手に入れたんだ。ウラジミール (はっとして空を窺うのをやめて)クヌーク?ポゾー あれからもう六十年になるか……(時計を見て)……そう、かれこれ六十年だ。(誇らしげに身を起こして)そんな歳には見えないだろう? 奴に比べれば、私は若者にしか見えないんじゃないか、え? (間)帽子! (ラッキー、バスケットを置いてかぶっていた帽子を取る。 長い白髪が顔にかかる。帽子を脇に挟んでバスケットを持つ)ほれ。(ポゾーは帽子を取る。完全な禿げ頭。また帽子をかぶる)見た?ウラジミール なのにあんた、あいつを首にしようっていうのか? こんなに年取った忠実な召使いを。エストラゴン 鬼! ポゾーはだんだん動揺してくる。ウラジミール さんざんうまい汁を吸った挙句にポイ捨てか、まるで……バナナの皮みたいに。全くもう……2026/02/07 17:05:1030.夢見る名無しさんポゾー (うめきながら、両手で頭を抱えて)耐えられないんだよぉ……もう……奴のやり方には……君らには分からないんだ……ああ怖ろしい…… もうやめてもらうしか……(両腕を振り回して)……気が狂いそうだよぉ……(両手で頭を抱えたまま崩れ落ちて)……ううっ我慢できない…… もうこれ以上は…… 沈黙。全員、ポゾーを見る。ウラジミール 我慢できないって。エストラゴン もうこれ以上は。ウラジミール 気が狂うって。エストラゴン ひどいね。ウラジミール (ラッキーに)お前、よくもこんな! 最低だな! こんないいご主人様を! 磔の刑かよ! 何年も一緒にいたっていうのに! まったくもう!ポゾー (すすり泣きながら)昔はとっても優しかったんだよ……助けてくれたし……楽しませてくれたし……私の天使だった……でも今はね…… 私を殺そうとするんだよぉ。エストラゴン (ウラジミールに)取り替えたいってことか?ウラジミール え?エストラゴン あいつを誰かと取り替えたいのかな。ウラジミール そうじゃないだろ。エストラゴン え?ウラジミール 知らないよ。エストラゴン 聞いてよ。ポゾー (少し落ち着いて)諸君、ちょっとどうかしてた。すまん。私が今言ったことは全部忘れてくれ。(次第に自分を取り戻して) 自分でもよく思い出せないんだけど、私の言葉に真実はひとかけらもなかった。それだけは確かだよ。(身を起して、胸を叩いて) 大体私が苦しめられるような人間に見えるか? (ポケットを探って)パイプはどこにやったかな?ウラジミール 素敵な夜だな。エストラゴン 忘れがたい。ウラジミール しかもまだ終わってない。エストラゴン そうらしい。2026/02/07 17:07:0231.夢見る名無しさんウラジミール 始まったばかりだ。エストラゴン ひどいな。ウラジミール パントマイムの方がましだ。エストラゴン サーカスとか。ウラジミール ミュージックホールとか。エストラゴン サーカスとか。ポゾー ブライヤーパイプ、どうしたんだろう?エストラゴン あいつ、見ものだな。パイプなくしてやんの。(けたたましく笑う)ウラジミール すぐ戻るよ。(急いで舞台袖に向かう)エストラゴン 廊下の突き当りを左だよ。ウラジミール 席とっといて。(退場)ポゾー カップ・アンド・ピーターソンのパイプ、なくしちゃったよ!エストラゴン (おかしくて身をよじりながら)やめて! 死んじゃうよ!ポゾー (顔を上げて)君達、ひょっとして知らない? ---(ウラジミールがいないことに気付いて)あれ! 行っちゃったのか! さよならも言わないで! 何だよ! 待ってくれればよかったのに!エストラゴン 待ってたら破裂してたよ。ポゾー ああ! (間)まあそういうことなら……エストラゴン おいでよ。ポゾー なんで?エストラゴン 来れば分かるよ。ポゾー 立ち上がれってこと?エストラゴン 早く! (ポゾー、立ち上がってエストラゴンの傍らに行く。エストラゴン、舞台袖を指差す)ほら!ポゾー (眼鏡をかけながら)ああ、なるほどね!エストラゴン 終了。2026/02/07 17:08:2932.夢見る名無しさん ウラジミール、登場。物憂げ。ラッキーを肩で押し退け、椅子を蹴飛ばし、苛々と行ったり来たりする。ポゾー ご機嫌ななめだな。エストラゴン (ウラジミールに)いいとこ見逃したよ。残念でした。(ウラジミール、立ち止まり、椅子を起こし、行ったり来たりしながら、次第に落ち着く)ポゾー 落ち着いたな。(周囲を見回して)いやあ、何もかも落ち着いたじゃないか。大いなる静けさの降臨だ。 (顔を上げて)ほら! 牧神もまどろんでいる。ウラジミール 夜はもう二度と来ないのかな? 三人とも空を見上げる。ポゾー 夜が来る前に出発する気はないんだろう?エストラゴン そりゃあ、だって---ポゾー いやごもっとも、ごもっとも。私だって君らの立場でゴダンだか……ゴデーだか……ゴドーだか……分かるよね? その人物と約束してたとしたら、暗くなるまで待つよ。諦めるのはそれからだ。(椅子を見て)もう一度座れると嬉しいんだけど、 どうもやり方が分からないんだなぁ。エストラゴン 何かお手伝いでも?ポゾー 頼んでくれるといいかもね。エストラゴン はい?ポゾー 座るように頼んでくれる?エストラゴン そんなことで?ポゾー いいんじゃないかな。エストラゴン じゃあいくよ。座ってよ、頼むから。ポゾー いやいやそんな、お構いなく! (間。脇台詞で)もう一回頼んで。エストラゴン まあそう仰らず、おかけくだせえ。お願いしますよ。じゃないと風邪をひいちまいますぜ。ポゾー 君、本当にそう思うの?エストラゴン そりゃもう絶対確実でござんすよ。ポゾー 君の言う通りかもしれないな。(座って)やった、また座れた! ねえ君、感謝するよ。(時計を見て) しかしそろそろ本当に出発しなければ。スケジュールを見るとね。ウラジミール 時間は止まってるよ。2026/02/07 17:10:1833.夢見る名無しさんポゾー (時計を耳にぴったりと当てて)君、そりゃ駄目だよ。そんなことを本気で思っちゃ。(時計をポケットに戻して) 何を信じようと勝手だが、それだけは駄目だ。エストラゴン (ポゾーに)今日のこいつには何でも真っ暗に見えちまうんだよ。ポゾー この大空は別だけどね! (うまい切り返しに自己満足して笑う)いやいや私には分かるんだ。君らはこの土地の出じゃないんだろう? ここの黄昏がどんなか、分からないのもしょうがない。私が教えてやってもいいぞ。 (沈黙。エストラゴンはブーツを、ウラジミールは帽子をいじくり回す)いや断れないなあ。(スプレーを使って)えへん、ちょっといいかな。 (ウラジミールとエストラゴンはいじくり続け、ラッキーは居眠りをしている。ポゾー、鞭を鳴らすが、か細い音しかしない)この鞭、どうしたんだ? (立ち上がってもっと激しく鞭を鳴らし、やっとうまくいく。ラッキー、跳び上がる。ウラジミールは帽子を、エストラゴンはブーツを、 ラッキーは帽子をそれぞれ地面に落とす。ポゾー、鞭を投げ出して)この鞭も寿命だな。(ウラジミールとエストラゴンを見て)何の話だっけ?ウラジミール 行こうぜ。エストラゴン でもどうかお座りくだせえよ。死んじまいますぜ。ポゾー それもそうだ。(座って、エストラゴンに)君の名は?エストラゴン アダム。2026/02/07 17:12:3934.夢見る名無しさんポゾー (聞いてない)ああ、そうだった! 夜の話だ。(顔を上げて)でももうちょっと集中してくれるかな。じゃないと話が進まないよ。 (空を見て)ご覧。(ラッキー以外、空を見る。ラッキーはまた居眠りを始めている。ポゾー、ロープを引いて)空を見てくれよ、豚。 (ラッキーも空を見る)よし、もういいぞ。(全員空を見るのをやめる)この空の何がすごいかって? 空としてだ。淡い色で光が射していて、 昼間の今頃のありふれた空だ。(間)これぐらいの緯度ならどこも同じだよ。(間)お天気が良ければの話だが。(抒情的に) けれどもなんと一時間前には(時計を見て、単調に)ま、だいたいそんなもんだ。(抒情的に)赤と白の光が絶え間なく降り注いでいたのでした。 (口ごもって、単調に)えっと午前十時ごろからかな、(抒情的に)目もくらむばかりに降り注いだ後、まばゆい光は次第にその輝きを失って、 空は青ざめ始めたのでした。(段々と両手が下りてくる仕草)そう、青ざめて、少しずつ淡~い色合いになって行ったのです。 やがて(ドラマチックな間。両手をぱっと広げる大袈裟な身振りで)バババババン! 終わってしまったぁ! で、今は小休止だ。 けれど---(警告を与えるように手を上げて)---けれどこの優しさと平穏のヴェールの陰に隠れて夜は着々と準備を整え、 (響き渡る声で)突然襲いかかって来るのであります、(指をパチッと鳴らして)バン! こんな感じで! (インスピレーションが去って行く) 思いがけないタイミングでね。(沈黙。暗い気持ちになって)まあこんなところだよ、この娼婦なる大地の上ではね。 長い沈黙。2026/02/07 17:15:2935.夢見る名無しさんエストラゴン とにかく分かってれば。ウラジミール 時期が来るのを待つだけだ。エストラゴン 何を待てばいいのか、それだけ分かってれば。ウラジミール もう心配しなくていい。エストラゴン ただ待つだけだ。ウラジミール 俺達、慣れっこだしな。(帽子を拾い上げて中を見回し、振ってからかぶる)ポゾー 私の話、どうだった? (ウラジミールとエストラゴン、ぽかんとしてポゾーを見る) 面白かった? まあまあ? 普通? いまいち? 全然ダメ?ウラジミール (先に理解して)オー、ベリー・グッド、ベリ・ベリ・グッドだったよ。ポゾー (エストラゴンに)君は?エストラゴン オー、トレ・ビヤーン、トレ、トレ、トレ・ビイヤーン。ポゾー (熱を込めて)ありがとう、いや、ありがとう! (間)そういう励ましがなきゃやってられないよ! (間) 終わりの方、ちょっと弱くなかった? ねえ?ウラジミール ああ、ほんのちょっと弱かったかもね、ちょこっとだけ。エストラゴン わざとかと思ったよ。ポゾー 記憶力がどうもね。 沈黙。2026/02/07 17:17:0336.夢見る名無しさんエストラゴン ところで、何も起こらないね。ポゾー 退屈ってこと?エストラゴン まあね。ポゾー (ウラジミールに)君は?ウラジミール さっきの方が面白かったな。 沈黙。ポゾー、内面で葛藤する。ポゾー 諸君、君らはその……私にちゃんと付き合ってくれたよね。エストラゴン いやそんな。ウラジミール とんでもない!ポゾー いやいや、君らはちゃんとした人たちだよ。だから私は自分の心に聞いてみた。私にできることはないのか? この善良な人たちがこんなに退屈を持て余している時に。エストラゴン じゃあ十。ウラジミール 俺達は乞食じゃないぞ。ポゾー できることはないのか、この人達を盛り上げるために? 私は自分の心に聞いてみた。なるほど私は骨も差し上げたし、あれこれお話もした。 夕暮れについて説明もした。でもそれだけでよかったのか? そこだよ、悩ましいのは。それだけでよかったんだろうか?エストラゴン 五でもいい。ウラジミール (エストラゴンに、腹を立てて)もういいよ!エストラゴン これ以上はまけられないね。ポゾー もういいって? そりゃそうだろう。しかし私は気前がいい。そういう性質なんだな。特に今宵は。私にとっちゃあいい迷惑でもね。 (ロープを引く。ラッキー、ポゾーを見る)だって辛くなることは目に見えてるんだから。(鞭を拾い上げて)どれをやらせたい? ダンスする、歌う、物語る、考える、それとも---。エストラゴン え、誰が?ポゾー 誰がって? 君達にものを考えられるわけないだろう。ウラジミール こいつ、考えるのか?2026/02/07 17:19:5937.夢見る名無しさんポゾー 勿論だよ。しかも声に出して。昔はそりゃあ美しく考えたものさ。何時間でも聞いていられたよ。それが今じゃあ…… (身震いして)私にとっちゃあいい迷惑だよ。まあいい、やつに考えてほしいってことだね? 我々のために何か。エストラゴン ダンスの方がいいなあ。そっちの方が楽しいよ、きっと。ポゾー いやそういうわけでも。エストラゴン そっちの方が楽しそうだよね、ジジ。ウラジミール 俺、考えてもらう派。エストラゴン じゃあまずダンスして、それから考えてもらおうよ。そんなのあり?ウラジミール (ポゾーに)いいかな?ポゾー 勿論。朝飯前だよ。順番も自然だ。 ポゾー、短く笑う。ウラジミール じゃあダンスからだ。 沈黙。ポゾー 聞いてるのか、豚野郎!エストラゴン 拒否したことないの?ポゾー 一度だけね。(沈黙)踊れ、泣き虫野郎! (ラッキー、バスケットを置いて前に進み出てポゾーの方を向く。ラッキー、踊る。ラッキー、やめる)エストラゴン これだけ?ポゾー アンコール! ラッキー、同じダンスを踊ってやめる。エストラゴン けっ! 俺だって。(ラッキーを真似る。転びそうになって)ちょっと練習すればね。ポゾー 昔はファランドールだってフリングだってブランルだってジグだってファンダンゴだって、なんならホーンパイプの舞曲だって踊れたもんだ。 飛び跳ねてたよ。大喜びでね。それが今じゃあ、あれが精一杯だ。あのダンスのこと、やつがなんて呼んでるか分かるか?エストラゴン 苦しんでいる贖罪のヤギのダンス。ウラジミール うんこが硬くてつらい時のダンス。ポゾー 網だよ。網にからまってるつもりなんだ。ウラジミール (審美家風に身をよじって)そういえば何かこう……2026/02/07 17:22:1138.夢見る名無しさん ラッキー、荷物の方に戻ろうとする。ポゾー (馬を止めるように)どーどーっ! ラッキー、固まる。エストラゴン 拒否した時のこと、話してくれよ。ポゾー いいとも。いいとも。(ポケットを探って)ちょっと待った。(探って)喉のスプレーをどうしたかな? (探って)まさかひょっとして…… (顔を上げると呆然とした表情。息も絶え絶えに)噴霧器をなくして……しまったぁ……!エストラゴン (息も絶え絶えに)私の左の肺はもう駄目……だ……! (弱々しく咳をする。響き渡る声で)しかし右の肺は絶好調だーっ!ポゾー (普通の声で)どうってことないさ! さて何の話だったかな。(思案して)ちょっと待った。(思案して)まさかひょっとして…… (顔を上げて)一緒に思い出してくれよ!エストラゴン ちょっと待った!ウラジミール ちょっと待った!ポゾー ちょっと待った! 三人同時に帽子を脱いで額に手を当て、集中する。エストラゴン (勝ち誇って)ああ!ウラジミール こいつ、思い出したな。ポゾー (待ち切れずに)で?エストラゴン 奴はなんで鞄を置かないのか。ウラジミール アホか!ポゾー 本当に?ウラジミール あのね、その話はもう終わったでしょ?ポゾー 終わったかな?エストラゴン 終わったっけ?ウラジミール とにもかくにも、荷物置いちまってるし。エストラゴン (ラッキーをちらりと見て)だね。で?2026/02/07 17:23:1039.夢見る名無しさんウラジミール 置いちまったんだから、なんで置かないのか、聞けるわけないだろ。ポゾー 鉄壁の論理だ!エストラゴン でもなんで荷物を置いちゃったのかな?ポゾー そこが知りたい。ウラジミール ダンスだよ。エストラゴン そうだったよ!ポゾー そうだったな! 沈黙。三人とも帽子をかぶる。エストラゴン 何も起こらない、誰も来ない、誰も行かない、もうやだよ!ウラジミール (ポゾーに)奴に考えるように言ってくれよ。ポゾー 帽子をかぶせてやってくれ。ウラジミール 帽子?ポゾー 帽子をかぶらないと考えられないんだ。ウラジミール (エストラゴンに)帽子をかぶせてやれよ。エストラゴン 俺が! あんなことされたのに! 絶対やだ!ウラジミール 俺がやるよ。 ウラジミール、動かない。エストラゴン (ポゾーに)奴に自分で拾うように言いなよ。ポゾー かぶせてやった方がいいんだ。ウラジミール 俺がやるよ。 ウラジミール、帽子を拾い、腕を伸ばしてラッキーに差し出す。ラッキーは動かない。2026/02/07 17:24:3140.夢見る名無しさんポゾー 頭にかぶせてやらないと。エストラゴン (ポゾーに)奴に受け取れって言いなよ。ポゾー 頭にかぶせてやった方がいいんだって。ウラジミール かぶせてやるよ。 ウラジミール、ラッキーの後ろに回り込んで慎重に近付き、頭に帽子をかぶせ、ささっと後ずさりする。ラッキーは動かない。沈黙。エストラゴン 何待ち?ポゾー 下がって! (ウラジミールとエストラゴン、ラッキーから離れる。ポゾー、ロープを引く。ラッキー、ポゾーを見る) 考えるんだ、豚! (間。ラッキー、ダンスを始める)ストップ! (ラッキー、やめる)前に出ろ! (ラッキー、進み出る)止まれ! (ラッキー、止まる)考えろ! 沈黙。ラッキー 一方、この件については……ポゾー ストップ! (ラッキー、やめる)下がれ! (ラッキー、後ろに下がる)止まれ! (ラッキー、止まる)回れ! (ラッキー、観客席の方を向く) 考えろ!2026/02/07 17:26:0441.夢見る名無しさん ラッキーの長台詞の間、他の登場人物たちは以下のように段階的に反応する。①ウラジミールとエストラゴンは話に集中、ポゾーは落胆し嫌悪する。②ウラジミールとエストラゴンは抗議し始め、ポゾーの苦しみは募る。③ウラジミールとエストラゴンはまた耳を傾け、ポゾーはどんどん動揺し、罵る。④ウラジミールとエストラゴンは激しく抗議し、ポゾーは飛び上がってロープを引く。 全員で抗議の叫び。ラッキーはロープを引き、よろめきながら、台詞を叫ぶ。 三人とも、もがいて台詞を叫んでいるラッキーに飛び掛かる。2026/02/07 17:28:0542.夢見る名無しさんラッキー パンチャーとワットマンが公的な研究で述べたように人格神が存在するならばクァクァクァクァ 神は白い髭たくわえクァクァクァクァ外延のない時間の外側で聖なる無関心聖なる無感動聖なる無言の高みから我々を愛し慈しみ給う いや例外はあるな理由は不明いずれわかるよ神は人々と一緒に苦しみ給う聖なるミランダの如くその人々は苦しみの中に投げ込まれ 火の中に投げ込まれるのだ理由は不明いずれわかるよその火その炎は燃え上って天空をも焦がすのだ即ち地獄から非常に青く静かで 穏やかな天国まで焼き尽くすこと疑いなし天国は非常に穏やかでその穏やかさはたとえ時々途切れてもないよりはましいやちょっと待てよ 考えてみればおまけに可能世界ポッシーに置かれた実在エッシーの人体そそそ測定学アカカカカデミーの栄誉に輝いた コーガンとコーマンの営みが最後までいかなかった結果人間の営みにつきものの疑念を除けば全く疑いの余地なく立証されたのは次の通り いやちょっと待てよ理由は不明即ちパンチャーとワットマンの公的な研究の結果オナラフとゲッパーの営みが最後までいかなかったという観点 から全く疑いの余地なく立証されたのはつまり理由は不明コーガンとコーマンの営みが最後までいかなかったという観点から立証されたのは 即ち多くが否定しても立証されたのはコーガンとコーマンの可能世界ポッシーにおいて人は実在エッシーにおいて人は早い話が 人はつまるところ人は栄養補給と排泄の進歩にもかかわらず同時に並行してやせ衰えて衰弱してやせ衰えて衰弱して見えるということ 理由は不明おまけに身体文化の発展スポーツの実践例えばテニスサッカーランニングサイクリングスイミング飛ぶ浮かぶ乗る滑る カモギイーで打つスケートテニス全般消滅しつつある飛ぶスポーツ全般秋の夏の冬の冬のテニス全般ホッケー全般一言で言えば ペニシリンと代用薬にもかかわらずおっと話を戻そう同時に並行して理由は不明人は縮んでどんどん小さくなるテニスにもかかわらず2026/02/07 17:32:3243.夢見る名無しさん おっと話を戻そう飛ぶ滑る八ホール十八ホールのゴルフ一言で言えばテニス全般にもかかわらず理由は不明 フェッカム・ペッカム・フルハム・クラッパムにおいて即ち同時に並行しておまけに理由は不明いずれわかるよ人はやせ衰えて だんだん小さくなる話を戻そう一言で言えばフルハム・チャップマンだ一人当たりの損失はバークレー司教の死以来おおよそ だいたい多かれ少なかれ一人当たり一インチ百グラムにまで少数丸めて甘く計って丸く太った数字は丸裸だがコネマロでは足に ストッキング履いてるよ一言で言えば理由は不明どうでもいい事実はどうだっていいもっとずっとずっと重大なことがあるように思われる おまけにもっとずっとずっと重大なことはつまり光に照らせば光だよシュタインベックとペテルマンの最後までいかなかった骨折り損の光に 照らせばシュタインベックとペテルマンの最後までいかなかった骨折り損の光に照らせばつまり平地に山間部に海辺に川べりに流れる水 流れる火空気は同じそれから大地も即ち空気それと大地は大寒波と深い闇に覆われて空気と大地石ころごろごろ大寒波に覆われたのだ ああ悲しい第七紀に空気大地海大地石ころごろごろ水の底深く大寒波にに見舞われて海も陸もそして空気も話を戻そう理由は不明 テニスにもかかわらず事実はそこにあるいずれわかるよ話を戻そうああ悲しいさてさて手短に言えば要するにさてさて石ころごろごろ 誰にも疑いようがない話を戻そういやちょっと待てよ話を戻そう頭蓋骨はやせ衰えて衰弱して同時に並行しておまけに理由は不明テニスにも かかわらずさてさて髭も炎も涙も石ころも本当に青く本当に穏やかああ悲しいさてさて頭蓋骨頭蓋骨頭蓋骨コネマラの頭蓋骨テニスにも かかわらず営みは放棄されて最後までいかずもっと重大なのは一言で言えば石ころごろごろ話を戻そうああ悲しい放棄されて終わらなかった 頭蓋骨コネマラの頭蓋骨テニスにもかかわらず頭蓋骨ああ石ころコーマン(乱闘。大声でわめいて)テニス……石ころ…… 本当に穏やかで……コーマン……最後までいかな……2026/02/07 17:41:0144.夢見る名無しさんポゾー 帽子! ウラジミールはラッキーの帽子を奪い取る。ラッキー、沈黙。ラッキー、倒れる。沈黙。勝者たちは喘いでいる。エストラゴン ざまあみろ! ウラジミール、帽子を調べ、内側をのぞく。ポゾー よこすんだ! (帽子をウラジミールの手からひったくり、地面に投げ捨て、踏みつけて)奴が考えるのもこれでお終いだ!ウラジミール でもこいつ、歩けるのかな?ポゾー 歩けなきゃ這って進めばいいんだ! (ラッキーを蹴飛ばして)立て、豚!エストラゴン 死んじゃったんじゃないの。ウラジミール 殺す気かよ?ポゾー 立て、このごくつぶし! (ロープを引っ張って)手伝ってくれ!ウラジミール どうやって?ポゾー 立ち上がらせるんだよ。 ウラジミールとエストラゴンはラッキーを立ち上がらせ、一瞬支えるが、手を放す。ラッキー、倒れる。エストラゴン わざとやってんだよ!ポゾー ちゃんと支えてくれなくちゃ。(間)ほらほら立ち上がらせて!エストラゴン 地獄に堕ちろ!ウラジミール なあ、もう一回だけ。エストラゴン 俺達をなんだと思ってんだよ。 二人はラッキーを抱え上げる。2026/02/07 17:42:1545.夢見る名無しさんポゾー 放すんじゃないぞ! (ウラジミールとエストラゴン、よろめく)動いちゃだめだ! (鞄とバスケットを引っ掴んでラッキーの方に持って来て) しっかり支えて! (ラッキーの手に鞄を持たせる。ラッキー、あっという間に落とす)放すんじゃないぞ! (鞄をラッキーの手にもう一度握らせる。カバンの重みを感じて、ラッキーは次第に感覚を取り戻し、鞄の取っ手を自分で握る) しっかり支えて! (バスケットを同様に持たせて)よし! 放していいぞ! (ウラジミールとエストラゴン、ラッキーから離れる。 ラッキー、よろめいたりふらついたり身体をだらりと折ったりしながらも、どうにかこうにか鞄とバスケットを持ったまま立っている。 ポゾー、後ずさりして鞭を鳴らして)進め! (ラッキー、よろめきながら前進する)下がれ! (ラッキー、よろめきながら下がる)回れ! (ラッキー、回る)よっしゃ! もう歩けるな。(ウラジミールとエストラゴンの方を振り返って)諸君、ありがとう。是非とも諸君には…… (ポケットを探って)……ぜひとも……(探って)……ぜひ……(探って)……時計をどこへやったかな? (探って) ハーフハンタースタイルのガラス蓋とデッドビート・エスケープメント、即ち直進脱進機つきの由緒正しい懐中時計だよ、諸君。 (涙にむせびながら)おじいちゃんにもらったんだよ! (地面を探す。ウラジミールとエストラゴンも同様に地面を探す。 ポゾーは形をとどめていないラッキーの帽子を足で裏返す)こうなったら---ウラジミール チョッキのポケットかもね。ポゾー ちょっと待って。(耳を腹につけようと体を折り曲げ、耳を澄ます。沈黙)何も聞こえないな。 (二人を手招きする。ウラジミールとエストラゴン、ポゾーに近寄り、身体を曲げてポゾーの腹に耳を当てる)チクタク聞こえるだろ。ウラジミール 静かに! 三人とも体を折り曲げて耳を澄ます。2026/02/07 17:44:3246.夢見る名無しさんエストラゴン 何か聞こえる。ポゾー どこから?ウラジミール そりゃ心臓だよ。ポゾー (がっかりして)なんじゃい!ウラジミール うるさいよ!エストラゴン 止まっちゃったんじゃないの。 三人とも体を起こす。ポゾー 臭いのはどっちだよ?エストラゴン 口が臭いのはこいつ、足が臭いのは俺。ポゾー もう行かなくちゃ。エストラゴン ハーフハンタースタイルの懐中時計はいいの?ポゾー 領地に忘れてきたんだろう。 沈黙。エストラゴン それでは、アデュー。ポゾー アデュー。ウラジミール アデュー。ポゾー アデュー。 沈黙。誰も動かない。ウラジミール アデュー。ポゾー アデュー。エストラゴン アデュー。 沈黙。2026/02/07 17:45:2847.夢見る名無しさんポゾー そしてありがとう。ウラジミール こちらこそ。ポゾー いやいやそんな。エストラゴン いやほんと。ポゾー いやいや。ウラジミール ほんとほんと。エストラゴン いやいや。 沈黙。ポゾー なんだか……(長いことためらって)……立ち去りがたいなぁ。エストラゴン それが人生だ。 ポゾーは向きを変えてラッキーから遠ざかり、ロープを繰り出しながら袖に向かう。ウラジミール そっちじゃないよ。ポゾー 助走がいるんだよ。(ロープが伸びきるところ、つまり舞台袖で止まり、向きを変えて叫ぶ)下がって! (ウラジミールとエストラゴンは下がってポゾーの方を見る。鞭の音)進め! 進め!エストラゴン 進め!ウラジミール 進め! ラッキー、動き始める。2026/02/07 17:46:1848.夢見る名無しさんポゾー もっと速く! (舞台袖から姿を現し、ラッキーの後から舞台を横切る。ウラジミールとエストラゴン、帽子を振る。ラッキー退場) 進め! 進め! (ポゾー、まさに退場しようとする瞬間、立ち止まって振り返る。ロープがぴんと張る。ラッキーが倒れる大きな音) 椅子! (ウラジミール、椅子をひっつかんでポゾーに渡す。ポゾー、ラッキーに投げる)アデュー。ウラジミールとエストラゴン (手を振りながら)アデュー! アデュー!ポゾー 起きろ、豚! (ラッキーが起き上がる大きな音)進め! (ポゾー退場)もっと速く! 進め! アデュー! 豚! それっ! アデュー! 長い沈黙。ウラジミール 暇つぶしになったな。エストラゴン 何やってたって時は経つよ。ウラジミール そうだけど、こんなに速くないだろ。 間。エストラゴン 今度は何する?ウラジミール さあな。エストラゴン 行こうよ。ウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン (絶望的に)ああもう! 間。ウラジミール 変わったよな、あいつら!エストラゴン 誰?ウラジミール あの二人組だよ。エストラゴン ああいいね。ちょっと会話してみようか。ウラジミール 変わったよな?エストラゴン え?ウラジミール 変わったって。エストラゴン かもね。皆変わっていくんだ。変われないのは俺達だけだよ。2026/02/07 17:48:1649.夢見る名無しさんウラジミール かもねだぁ? 絶対変わったって。ちゃんと見ただろ。エストラゴン うんまあね。でも知らないもん、あいつらのこと。ウラジミール いや知ってるよ。エストラゴン いや知らないね。ウラジミール 俺たち知ってるんだってば。お前、なんでも忘れちまうんだな。(間。独り言)あいつらが別人だったら話は違うけど。エストラゴン じゃあ何であいつら、俺達のことが分からなかったんだよ。ウラジミール 愚問だな。俺だってあいつらのこと、分からないふりしたし。それに俺達のことなんか、誰も分かりゃしないよ。エストラゴン もういいよ。大事なのは---いてっ! (ウラジミール、無反応)いてて!ウラジミール 別人だったとしたら……エストラゴン ジジ! 今度はこっちの足! (よたよたと土の盛り上がった所まで歩く)ウラジミール 別人だったとしたら……少年 (舞台袖から)おじさん! エストラゴン、立ち止まる。二人とも声がした方を向く。エストラゴン また始まるぞ。ウラジミール おいで、坊や。 少年、おどおどしながら登場。立ち止まる。少年 アルバートさん……?ウラジミール そうだよ。エストラゴン 何しに来た?ウラジミール おいで。 少年、動かない。エストラゴン 来いって言ってるのが分かんないのか? 少年、おどおどしながら進み、立ち止まる。2026/02/07 17:49:3850.夢見る名無しさんウラジミール なんだい?少年 ゴドーさんが……ウラジミール やっぱり……(間)おいで。エストラゴン (激しく)来いってば! (少年、おどおどしながら進む)なんでこんなに遅かったんだよ?ウラジミール ゴドーさんから伝言あるんだろ?少年 はい。ウラジミール そうか。どんな伝言だい?エストラゴン 何でこんなに遅かったんだよ? 少年はどちらに答えればいいか分からず、かわるがわる二人を見る。ウラジミール (エストラゴンに)放っといてやれよ。エストラゴン (激しく)放っといてほしいのはこっちだよ。(少年に近寄って)今何時か分かってるのか?少年 (後ずさりしながら)僕のせいじゃありません。エストラゴン じゃあ誰のせいだよ? 俺か?少年 怖かったんです。エストラゴン 何がだよ? 俺達か? (間)答えろよ!ウラジミール 分かってるって。あいつらが怖かったんだよな。エストラゴン お前、いつからここにいた?少年 だいぶ前から。ウラジミール 鞭の音だろ?少年 はい。ウラジミール 大声もだね。少年 はい。ウラジミール 大きな男二人も。少年 はい。ウラジミール あいつらのこと、知ってるのか?少年 僕、分かりません。ウラジミール 君、この土地の子か? (沈黙)ここらが地元なのか?少年 はい。エストラゴン 全部嘘っぱちだよ。(少年の腕をつかんでゆすりながら)本当のこと言えよ。少年 (震えながら)でも本当なんです。2026/02/07 17:50:5051.夢見る名無しさんウラジミール 放してやれよ! どうしたんだよ? (エストラゴン、少年を離して両手で顔を覆いながら離れる。ウラジミールと少年はそれを見つめる。 エストラゴンは手をだらりと下げるが、その顔は歪んでいる。)一体どうしたんだよ?エストラゴン 俺、不幸だ。ウラジミール そんなことないだろ! いつからだよ?エストラゴン 忘れた。ウラジミール 記憶ってのはびっくりするような悪さをするからな! (エストラゴン、喋ろうとするが諦めて、びっこを引きながら元の場所に戻る。少年に)で?少年 ゴドーさんが---ウラジミール 君、前にも会ったことあるよな?少年 僕、分かりません。ウラジミール 俺のこと、分からないのか?少年 分かりません。ウラジミール 昨日来たのは君じゃないのか?少年 僕じゃありません。ウラジミール 今日が初めて?少年 はい。 沈黙。ウラジミール 言葉、言葉、か。(間)それで?少年 (急いで)ゴドーさんからの伝言で、今夜は来られないけど、明日は必ずって。 沈黙。ウラジミール それだけ?少年 それだけ。沈黙。2026/02/07 17:52:3552.夢見る名無しさんウラジミール 君はゴドーさんのとこで働いてるのか?少年 そうです。ウラジミール どんな仕事?少年 山羊の世話。ウラジミール ゴドーさんは君に優しい?少年 優しいです。ウラジミール 殴ったりしない?少年 いえ、僕のことは。ウラジミール じゃあ誰を殴るの?少年 お兄ちゃん。ウラジミール ああ、お兄ちゃんがいるんだね。少年 はい。ウラジミール お兄ちゃんの仕事は?少年 羊の世話。ウラジミール ゴドーさんはなんで君を殴らない?少年 僕、分かりません。ウラジミール 君のことが好きなんだな。少年 分かりません。 沈黙。2026/02/07 17:53:5153.夢見る名無しさんウラジミール 食べ物は沢山くれる? (少年、ためらう)食べ物はちゃんともらってるのか?少年 たっぷり。ウラジミール 君は不幸じゃないんだな? (少年、ためらう)聞いてるのか?少年 聞いてますけど。ウラジミール で?少年 僕、分かりません。ウラジミール 自分が不幸かどうか分からないのか?少年 分かりません。ウラジミール 俺と同じくらい馬鹿だな。(沈黙)君はどこで寝る?少年 屋根裏です。ウラジミール お兄ちゃんと一緒?少年 はい。ウラジミール 干し草の中で?少年 はい。 沈黙。ウラジミール もういいよ、帰んな。少年 ゴドーさんにはなんて?ウラジミール そうだなぁ……(ためらって)俺達に会ったって。(間)本当に俺達に会ったよね、君。少年 会いました。 少年は後ずさりして、ためらってから、踵を返して走って退場。照明が急に落ちる。一瞬にして夜だ。背景に月が出て、空に昇り、静止。舞台上に青白い光を投げかける。2026/02/07 17:54:4854.夢見る名無しさんウラジミール やっとか! (エストラゴン、起きると両手にブーツを持ってウラジミールの方へ行く。 舞台の一番前にブーツを置き、体を起こして月をじっと見つめる)何してる?エストラゴン 疲れきって青ざめてる。ウラジミール はあ?エストラゴン 天に昇って俺達人間を見つめるのに疲れてるんだ。ウラジミール お前のブーツだよ。ブーツ、どうする気だ?エストラゴン (振り向いてブーツを見て)ここに置いていくよ。(間)他の奴が来るよ、丁度……えっと…… 俺みたいな奴が。でも、もっと足が小さいんだ。このブーツを履けばハッピーになるよ。ウラジミール けどお前、裸足じゃ歩けないよ。エストラゴン キリストは歩いた。ウラジミール キリストだぁ! キリストは関係ないだろ。お前、キリストと自分を一緒にする気かよ!エストラゴン 俺、今までずっと自分とキリストを一緒にしてきた。ウラジミール けど、キリストがいたのはな、暖かい土地なんだよ。からっとした。エストラゴン うん。それにあっという間に磔になった。 沈黙。ウラジミール もう、ここにいてもしょうがないな。エストラゴン どこへ行ったってしょうがないよ。ウラジミール おいゴゴ、そんな言い方するなよ。明日になればうまくいくって。エストラゴン なんで分かるの?ウラジミール 聞いてなかったのか、あの子が言ったこと。エストラゴン うん。ウラジミール ゴドー、明日は必ず来るってさ。(間)どうよ?エストラゴン じゃあ俺達、ここで待ってればいいんだね。ウラジミール 馬鹿だな。夜露をしのがなきゃ。(エストラゴンの腕をとって)おいで。 ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。最初は従うが、やがて抵抗する。二人、立ち止まる。2026/02/07 17:56:4355.夢見る名無しさんエストラゴン (木を見て)ロープを持っていたらなぁ。ウラジミール ほら、寒いよ。ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。前と同じ。エストラゴン 明日、言ってよね。ロープを忘れるなって。ウラジミール 分かったよ。おいで。ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。前と同じ。エストラゴン 俺達、つるんでからどれくらいになる?ウラジミール さあな。五十年ぐらいか。エストラゴン ねえ覚えてる? 俺がローヌ川に身投げした日のこと。ウラジミール 葡萄摘んでたっけ。エストラゴン お前が俺を釣り上げちゃった。ウラジミール みんな終わったことだ。もうとっくに忘れちまった。エストラゴン 日の光を浴びて服が乾いたっけ。ウラジミール もういいよ、思い出話は。行こう。 ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。前と同じ。エストラゴン 待って。ウラジミール 寒いよ!エストラゴン 待ってったら! (エストラゴン、ウラジミールから離れて)俺達、別々にいた方がよかったんじゃないかな、お互いひとりひとりで。 (舞台を横切って、土の盛り上がった所に座って)同じ道を行くようには出来てなかったんだよ。ウラジミール (怒らないで)よく分からん。エストラゴン うん、よく分からないね、何もかも。 ウラジミール、ゆっくりと舞台を横切り、エストラゴンの横に座る。2026/02/07 17:57:5856.夢見る名無しさんウラジミール 別れたっていいんだよ、お前がその方がいいと思うなら。エストラゴン もう手遅れだよ。 沈黙。ウラジミール そうだな。もう手遅れだな。エストラゴン じゃあ、行こうか?ウラジミール うん、行こう。 二人、動かない。 幕。2026/02/07 17:58:3557.夢見る名無しさん第二幕 翌日。同じ時間。同じ場所。 エストラゴンのブーツが、踵を揃えてつま先を開いた格好で、舞台前面中央に置いてある。同じ場所にラッキーの帽子。 木には四、五枚の葉っぱ。 ウラジミール、興奮して登場。立ち止まってじっと木を見、やおら鼻息も荒く舞台中を動き回り始める。ブーツの前で立ち止まり、片方をつまみ上げ、調べ、匂いを嗅ぎ、嫌悪感を露にし、そっと元に戻し、行ったり来たりする。下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、片手を目の上にかざして遠くを見渡し、行ったり来たりする。上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、同じことをする。行ったり来たりする。いきなり立ち止まって大声で歌い始める。2026/02/07 19:16:4858.夢見る名無しさんウラジミール 犬が忍び---(初めの音が高すぎたのでやめる。咳払いをしてまた歌い出す) 犬が忍び込んだよキッチンに パンを盗んだってさ そしたらコックが現れて おたまで叩き殺しちゃったとさ そしたら犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘っ--- (中断して考え込み、また歌い出す) そしたら犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘ったってさ そして墓石にこう刻んだよ 犬たちの目につくようにさ 犬が忍び込んだよキッチンに パンを盗んだってさ そしたらコックが現れて おたまで叩き殺しちゃったとさ そしたら犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘っ--- (中断して考え込み、また歌い出す) すると犬が走って来たよみんなで 犬の墓を掘っ--- (中断して考え込み、低い声で) 犬の墓を掘ったってさ……2026/02/07 19:18:2859.夢見る名無しさん ウラジミール、一瞬口を閉じ、動きを止める。やがて鼻息も荒く舞台中を動き回り始める。木の前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、ブーツの前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、遠くを見つめ、上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、遠くを見つめる。エストラゴン、裸足でうなだれて下手から登場。ゆっくりと舞台を横切る。ウラジミール、振り向いてエストラゴンを見る。ウラジミール また来たな! (エストラゴン、立ち止まるが頭を上げない。ウラジミール、エストラゴンの元へ行く)おいで、抱き締めてやるから。エストラゴン 触るなよ! ウラジミール、思いとどまる。傷ついて。ウラジミール あっち行けってか? (間)ゴゴ! (間。ウラジミール、エストラゴンをじっくり観察して)殴られたのか? (間)ゴゴ! (エストラゴン、黙ってうなだれたまま)昨夜どこにいた?エストラゴン 触るなよ! 聞くなよ! 話しかけるなよ! 一緒にいてよ!ウラジミール お前のこと、放っといたことなんてあったか?エストラゴン 俺のこと、止めなかったよね。ウラジミール こっち向いて。(エストラゴン、顔を上げない。激しく)ちょっと見てくれないかな! エストラゴン、顔を上げる。二人、長い間見つめ合い、突然抱き合って、互いの背中を叩き合う。抱擁終了。エストラゴン、支えを失って転びそうになる。2026/02/07 19:20:5160.夢見る名無しさんエストラゴン 厄日かよ!ウラジミール 誰に殴られたんだよ? 行ってみな。エストラゴン おかげでまた一日が過ぎた。ウラジミール まだだよ。エストラゴン 俺にとっては、もう終わったんだ、これから何が起こったってさ。(沈黙)お前、歌うたってただろ。ウラジミール そういや、歌ってたな。エストラゴン やられたよ。俺、思ったんだ、あいつは独りぼっちだ、俺が永遠に行っちゃったと思ってる。なのに歌なんか歌ってるって。ウラジミール 気分ってものは思い通りにはいかないもんだ。俺、一日中元気はつらつだったんだよ。(間)夜中に一回も起きなかったからな!エストラゴン (悲しげに)ほらね、俺がいない方がおしっこの出がいいんじゃないか。ウラジミール 淋しかったよ……と同時にハッピーだった。おかしいよな。エストラゴン (ショックを受けて)ハッピーだった?ウラジミール 適切な言葉じゃないかもしれないけど。エストラゴン で、今はどうなの?ウラジミール 今? ……(嬉しそうに)またお前と一緒だ……(淡々と)また二人一緒かよ……(暗く)またここか。エストラゴン ほらね、俺が一緒だと落ち込むんだ。俺だって独りの方が気分いいよ。ウラジミール (いらっとして)じゃあ、なんでいつもぼろぼろになって戻って来るんだよ。エストラゴン さあね。ウラジミール 俺にはちゃーんと分かってる。お前は自分の身を守れないからな。俺が一緒だったら殴らせたりしなかったよ。エストラゴン そんなに甘かないよ。ウラジミール どういうことだよ。エストラゴン 十人いたんだから。ウラジミール 違うよ。俺が言ってるのは、殴られる前の話だ。人から殴られるようなことをお前にさせなかったってことだよ。エストラゴン 何もしてないよ。ウラジミール じゃあなんで殴られたんだよ。エストラゴン 知るか。2026/02/07 19:21:4961.夢見る名無しさんウラジミール あのなあ、ゴゴ、いいか。お前には分からなくても、俺なら分かるってことがあるんだ。お前だって感じてるはずだよ。エストラゴン だって、何もしてないもん。ウラジミール そうかもな。けど、物事には、ちゃんとしたやり方ってものがあるんだよ、やり方ってものが。お前がそのまんま生きていきたいならね。エストラゴン 何もしてないってば。ウラジミール お前だって嬉しいはずだよ、本当は。気付いていないだけで。エストラゴン 嬉しいって、何が?ウラジミール 俺の所に帰ってきたことだよ。エストラゴン よく言うよ。ウラジミール とりあえず言ってみなよ。嘘でもいいから。エストラゴン 何て?ウラジミール 嬉しいなって。エストラゴン 嬉しいな。ウラジミール 俺も。エストラゴン 俺も。ウラジミール 俺達、ハッピー。エストラゴン 俺達、ハッピー。(沈黙)で、どうする? ハッピーになったところで。ウラジミール ゴドーを待つ。(エストラゴン、呻き声を出す。沈黙)昨日から変化したことだってあるんだよ。エストラゴン けど、もし来なかったら?ウラジミール (一瞬うろたえて)その時になったら考えよう。(間)昨日から変化したことがあるって言っただろ。エストラゴン 何もかもじわじわ減っていくんだ。ウラジミール 見ろよ、あの木。エストラゴン 膿の量だって一瞬一瞬で変わっていく。ウラジミール 木だよ、あの木、見てみなって。 エストラゴン、木を見上げる。2026/02/07 19:23:1162.夢見る名無しさんエストラゴン 昨日はなかったっけ。ウラジミール あったよ、勿論。覚えてないのか? もうちょっとで首吊るとこだったんだぞ。お前、吊らなかったけどさ。忘れちまったのか?エストラゴン 夢でも見たんだろ。ウラジミール もう忘れたって、そんなのあり?エストラゴン 俺ならね。すぐ忘れるか、絶対忘れないかどっちかだ。ウラジミール じゃあ、ポゾーとラッキーは? あいつらのことも忘れたのか?エストラゴン ポゾーとラッキーって?ウラジミール こいつ、何でもかんでも忘れちまうよ!エストラゴン そういえばあ、俺の向こう脛を蹴っ飛ばした頭のいかれた奴、いたなぁ。そいつ、なんか馬鹿やってた。ウラジミール それ、ラッキーだよ。エストラゴン 思い出した。でも、それ、いつだっけ?ウラジミール そいつのボスがいただろ? 覚えてないか?エストラゴン 骨、もらった。ウラジミール それがポゾーだ。エストラゴン で、それが全部昨日のことだっていうわけ?ウラジミール その通り。エストラゴン で、今俺達がいるのは?ウラジミール どこだと思う? ここ、見覚えないか?エストラゴン (いきなり激怒して)見覚え! そんなもんあるわけないだろ! 俺のお粗末な人生でさ! 泥の中をはいずり回ってきたっていうのに! よく俺に向かって、風景の話なんか! (周囲を荒々しく見回して)見ろよ、この糞の山! ここから出られたことあったか!ウラジミール まあまあ。エストラゴン 景色って、なんだよ! ウジ虫の話でもしてろよ!ウラジミール だからってお前、これ(身振りで示して)がマコン地方と似てるなんて言うなよ。全然違うからな。エストラゴン マコン地方だと! 誰がマコン地方のことなんか言ったよ!ウラジミール でもお前、マコン地方にいたことあったよな。2026/02/07 19:24:2363.夢見る名無しさんエストラゴン ないよ。マコン地方なんか行ったこともない。反吐みたいな人生をここで送ってきたんだってば! ここで! このカッコン地方でさ!ウラジミール けど、俺たちマコン地方にいたじゃないか、誓ってもいい。一緒に葡萄摘んでただろ、ほら、あの人の家だ(指を鳴らして) ……名前は思い出せないけど、ほら、あそこだ(指を鳴らして)……場所の名前も思い出せないけど。覚えてない?エストラゴン (少し落ち着いて)かもね。俺、なんでも見過ごしちゃうからね。ウラジミール え、あそこじゃなんでもかんでも赤かったのに!エストラゴン (爆発して)俺はなんでも見過ごすんだってば! 沈黙。ウラジミール、深いため息。ウラジミール お前とやってくのは難しいよ、ゴゴ。エストラゴン 別れた方がいいかもね。ウラジミール そればっかりだ。ぼろぼろになって戻って来るくせに。エストラゴン 俺を殺すのが一番だよ。他の奴みたいにさ。ウラジミール 他の奴? (間)他の奴って?エストラゴン 他の何十億人もの奴。ウラジミール (格言ぽく)人は皆小さき十字架を背負うものなり。(ため息をついて)やがてその生を終えるまで。(思いついて)そして忘れられる。エストラゴン じゃ、とりあえず穏やかに話をしようよ。黙ってるなんてできっこないんだからさ。ウラジミール それもそうだな。俺達、話のネタは尽きないからな。エストラゴン おかげでものを考えなくて済むね。ウラジミール 言い訳が立つからな。エストラゴン おかげで聞かなくて済むよね。ウラジミール 理由があるからな。エストラゴン この死んだ奴ら全員の声をさ。ウラジミール こいつら羽音みたいにかさかさ音をたてる。エストラゴン 木の葉っていうか。ウラジミール 砂というか。エストラゴン 木の葉っていうか。 沈黙。2026/02/07 19:25:5464.夢見る名無しさんウラジミール いっぺんに喋るからな。エストラゴン みんな独り言だけど。 沈黙。ウラジミール というか、ささやく。エストラゴン ひそひそ。ウラジミール ざわざわ。エストラゴン ひそひそ。 沈黙。ウラジミール こいつら、なんて?エストラゴン 自分の人生のこと喋ってんだよ。ウラジミール 生きただけじゃ足りないんだな。エストラゴン 喋らずにいられないんだ。ウラジミール 死んだだけじゃ足りないんだな。エストラゴン 足りないんだよ。 沈黙。ウラジミール 羽みたいにかさかさ音をたてる。エストラゴン 木の葉っていうか。ウラジミール 灰というか。エストラゴン 木の葉っていうか。 長い沈黙。2026/02/07 19:27:0965.夢見る名無しさんウラジミール なんか言えよ!エストラゴン えーっと。 長い沈黙。ウラジミール (怒って)なんか言えったら!エストラゴン 今、何してるんだっけ?ウラジミール ゴドーを待ってる。エストラゴン ああもう! 沈黙。ウラジミール 駄目だな!エストラゴン 歌ってよ。ウラジミール 駄目駄目! (思案して)始めからやり直してみる?エストラゴン それ、簡単そうだ。ウラジミール 出だしが難しいけど。エストラゴン 出だしなんか、何だっていいよ。ウラジミール だな。でも、決めなくちゃ。エストラゴン だね。 沈黙。ウラジミール 協力しろよ!エストラゴン えーっと。 沈黙。2026/02/07 19:27:5766.夢見る名無しさんウラジミール ネタ探してると、声が聞こえてくるよな。エストラゴン くる、くる。ウラジミール 聞こえてくると、見つからなくなるよな。エストラゴン なる、なる。ウラジミール そうすると考えなくなるよな。エストラゴン でも考えてるじゃん。ウラジミール いやいや、そんなわけないよ。エストラゴン それだよ、言い合いしてみようよ。ウラジミール 考えてないってば。エストラゴン って考えてるんだろ。ウラジミール 俺達はもう、ずーっと考え続ける心配はないんだってば。エストラゴン だったら俺達、なんで文句言ってるんだよ。ウラジミール 考えることだって最悪ってわけじゃないし。エストラゴン かもね。けど少なくともあれだよ。ウラジミール あれって?エストラゴン それだよ、質問し合えばいいんだ。ウラジミール 少なくともあれだよってどういう意味だよ。エストラゴン この方がずーっとましだってこと。ウラジミール 確かに。エストラゴン ね? 自分達の幸運に感謝したらどうかな?ウラジミール 怖いのはさ、もうとっくに考えちゃったってことだよ。エストラゴン でも、俺達、考えたことなんてあったっけ?ウラジミール この死んだ奴ら全員、どこから来たんだよ?エストラゴン この骸骨達か。ウラジミール な。エストラゴン 確かに。ウラジミール 俺達、ちょっと考えちゃっただろ。エストラゴン 始まった途端にね。ウラジミール 死体安置所だな! 死体安置所!エストラゴン 見なくていいよ。ウラジミール どうしたって目に入るだろ。エストラゴン 確かに。2026/02/07 19:30:0967.夢見る名無しさんウラジミール 流れに任せろ。エストラゴン はい?ウラジミール 流れに任せるんだ。エストラゴン 思い切って素の状態に戻るべきだね。ウラジミール そうしてきたよな、俺達。エストラゴン 確かに。ウラジミール そうだ、やっぱり最悪ってわけじゃないよ。エストラゴン 何が?ウラジミール 考えちゃったってことさ。エストラゴン 当たり前だよ。ウラジミール けど、考えなくてもよかったんだ。エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?(フランス語で「しょうがないじゃないですか」の意)ウラジミール は?エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?ウラジミール ああ、ク・ヴレ・ヴね! おっしゃる通り。 沈黙。エストラゴン 小手調べとしては、悪くなかったよね。ウラジミール まあな。けど今度はまた別のネタを見つけなきゃ。エストラゴン えーっと。 エストラゴン、帽子を脱いで集中する。ウラジミール えーっと。(帽子を脱いで集中する。長い間)あっ! 二人、帽子をかぶり、リラックス。エストラゴン で?ウラジミール 俺、なんて言ったよ? そこから始めればいいんだ。エストラゴン なんて言ったか? いつ?ウラジミール 一番初めだよ。2026/02/07 19:31:1468.夢見る名無しさんエストラゴン なんの?ウラジミール 今夜……えっと……えーっと……エストラゴン 俺、歴史学者じゃないからね。ウラジミール えっと……抱き合って……ハッピーになって……ハッピー……ハッピーになったところでどうするんだって言って…… 待とうよって……待って……えっと……もうちょっとだ……待とうよって……俺達、ハッピーになって……えっと……あっ! 木だ!エストラゴン 木?ウラジミール 覚えてないのか?エストラゴン 疲れちゃった。ウラジミール ほら。 二人、木を見る。エストラゴン 別に。ウラジミール いやいや、昨夜は枯れ木だったろ。ところが今日は葉っぱがついてる。エストラゴン 葉っぱって?ウラジミール たった一晩でだぞ。エストラゴン 春だねぇ。ウラジミール でも一晩でだぞ!エストラゴン だからぁ、俺達、昨夜はここにいなかったんだってば。また悪夢でも見たんだろ。ウラジミール じゃあ、俺達昨夜どこにいたか、言ってみなよ。エストラゴン 知るか。どっか別の小屋だよ。がらがらの場所なんてそこら中にあるんだから。ウラジミール (自分の考えを確信して)よし。昨夜はここにいなかったとしよう。じゃあ、俺達、昨夜何してた?エストラゴン 何してた?ウラジミール 思い出してみなよ。エストラゴン えっと……お喋りかな。ウラジミール (自分を抑えて)どんな?2026/02/07 19:33:0069.夢見る名無しさんエストラゴン いや……いろいろだよ……これといったことは。(確信を持って)そうだ、思い出した。 昨夜俺達は、特にこれといったこともなく、お喋りをしたよ。半世紀の間ずーっとそうしてきたよ。ウラジミール お前、何が起こったとか、どんな状況だったとか、覚えてないわけ?エストラゴン (うんざりして)虐めないでよ、ジジ。ウラジミール 太陽とか。月とか。覚えてないの?エストラゴン どうせそこにあったんだろ、いつも通り。ウラジミール いつもと違うことには何も気づかなかった?エストラゴン ううっ。ウラジミール じゃあポゾーは? ラッキーは?エストラゴン ポゾーって?ウラジミール 骨だよ。エストラゴン あれ、魚の骨みたいだったな。ウラジミール あの骨、くれたのがポゾーだよ。エストラゴン ふうん。ウラジミール それに蹴られた。エストラゴン そうだよ、誰か俺を蹴りやがった。ウラジミール それ、ラッキーね。エストラゴン 全部昨日だっていうの?ウラジミール 足、見せてみなよ。エストラゴン どっち?ウラジミール 両方だ。ほらズボンめくって。(エストラゴン、片足を差し出して、よろめく。ウラジミール、その足を掴んで、二人、よろめく) ズボンめくれってば。エストラゴン 無理。 ウラジミール、エストラゴンのズボンをめくりあげて足を見て、離す。エストラゴン、倒れそうになる。ウラジミール 逆だよ。(エストラゴン、同じ足を出す)反対の足だってば、豚野郎! (エストラゴン、もう片方の足を出す。勝ち誇ったように) ほら傷! 膿かけてるぞ!エストラゴン それが何か?ウラジミール (足を離して)お前のブーツは?エストラゴン どこかに捨てちゃったみたい。ウラジミール いつ?2026/02/07 19:34:5370.夢見る名無しさんエストラゴン 分かんない。ウラジミール なんで?エストラゴン (爆発して)なんで分かんないか分かんないよ!ウラジミール 違うよ。なんで捨てちゃったのか聞いてるんだよ。エストラゴン (爆発して)痛かったんだよ!ウラジミール (勝ち誇ったように、ブーツを指差して)ほらそこにある! (エストラゴン、ブーツを見る) お前が昨日ブーツを置いていった、まさにその場所だ! エストラゴン、ブーツに近寄り、しげしげと調べる。エストラゴン 俺のじゃないね。ウラジミール (びっくり仰天して)お前のじゃない!エストラゴン 俺のは黒かった。これ、茶色。ウラジミール 黒かったって、確かか?エストラゴン うーん、グレーっていうか。ウラジミール で、これは茶色か? 見せてみな。エストラゴン (ブーツの片方をつまみ上げて)うーん、グリーンっていうか。ウラジミール 見せろよ。(エストラゴン、ブーツを渡す。ウラジミール、それをよく見て、怒って投げ捨てて)何だってこんな---エストラゴン ね、なにもかもひどいもんだ---ウラジミール あ! 分かった。うん、そうだ、分かったよ。エストラゴン なにもかもひどい---ウラジミール 単純な話だよ。誰かが来て、お前のを履いて、自分のを置いてった。エストラゴン なんで?ウラジミール 自分のがきつかったから、お前のを履いてったんだよ。エストラゴン 俺のだってきつかったよ。ウラジミール お前にはな。でもそいつにはよかったんだよ。エストラゴン (理解しようと頑張ってみたが無理で)疲れちゃった。(間)もう行こうよ。ウラジミール だめ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (間。絶望して)じゃあどうすんだよ、ねえどうすんだよぉ!2026/02/07 19:36:3471.夢見る名無しさんウラジミール どうしようもないよ。エストラゴン けど、もううんざりだよ、こんなの。ウラジミール カブ、食べる?エストラゴン カブしかないの?ウラジミール カブとダイコン。エストラゴン ニンジンは?ウラジミール ないよ。だいたいお前、ニンジンニンジン言いすぎだよ。エストラゴン じゃあカブでいい。(ウラジミール、ポケットの中を探るが、ダイコンしか見つからない。 やがてカブを引っ張り出し、エストラゴンに渡す。エストラゴン、カブを調べ、匂いを嗅いで)黒くなってる!ウラジミール カブだよ。エストラゴン ピンクのじゃなきゃいやなの、知ってるくせに!ウラジミール じゃあいらないんだな?エストラゴン ピンクじゃなきゃ、やだ!ウラジミール じゃあ返せよ。 エストラゴン、返す。エストラゴン 俺、行くわ。ニンジンを求めて。 エストラゴン、動かない。ウラジミール 本当、どうでもいい話になってきたな。エストラゴン まだまだだよ。 沈黙。ウラジミール 試してみたら?エストラゴン もう全部やってみた。ウラジミール いやいや、ブーツがあるって。エストラゴン それ、何かいいことあるかな?ウラジミール 暇つぶしになるよ。(エストラゴン、ためらう)ほんとほんと、気晴らしになるって。エストラゴン 骨休めね。2026/02/07 19:38:2372.夢見る名無しさんウラジミール 元気回復だ。エストラゴン 骨休めね。ウラジミール やってみな。エストラゴン 手伝ってくれる?ウラジミール 勿論。エストラゴン 俺達、そこそこうまくやってるよね? ねえジジ、俺たち二人でさ。ウラジミール うんうん。さあ左からだ。エストラゴン 俺達、いつもなんか見つけるもんね。ねえジジ、おかげで生きてるって気がするよね。ウラジミール (じりじりしながら)うんうん、俺達は魔術師だな。けど決めたことはやり通そうよ、忘れる前にさ。 (ブーツをつまみ上げて)さ、足出せよ。逆だ、この豚野郎! (エストラゴン、反対の足を上げる)もっと上げて! (二人、絡まり合ってよろめきながら舞台をあちこちする。ウラジミール、ようやくブーツを履かせることに成功して)歩いてみな。 (エストラゴン、歩いてみる)どうよ?エストラゴン ぴったりだよ。ウラジミール (ポケットから紐を取り出しながら)紐、結んでみようか。エストラゴン (激しく)やだやだやだ、紐はやだ、紐だけは!ウラジミール 後悔するぞ。もう片っぽもはいてみよう。(前と同様に)どうよ?エストラゴン (しぶしぶ)こっちもぴったり。ウラジミール 痛くない?エストラゴン 今のところはね。ウラジミール じゃあ、もらっとけよ。エストラゴン 大き過ぎるもん。ウラジミール そのうち靴下が手に入るよ、きっと。エストラゴン うん。ウラジミール じゃあ、もらっとくよな?エストラゴン ブーツのことはもういいよ。ウラジミール うん、だけど---エストラゴン (激しく)もういいってば! (沈黙)まあ、座ろうかな。 エストラゴン、座る場所を探し、土の盛り上がったところに座る。2026/02/07 19:39:5873.夢見る名無しさんウラジミール 昨夜もそこに座ってたな。エストラゴン 眠れたらいいのに。ウラジミール 昨夜は眠ったぞ。エストラゴン やってみる。 エストラゴン、顔を両膝に埋めて、また胎児の姿勢をとる。ウラジミール ちょっと待った。(エストラゴンの元に行き、隣に座って、大声で歌い始める)ねんねんねんねんねんねんよ~エストラゴン (怒って顔を上げて)うるさいよ!ウラジミール (優しく)ねんねんねんねんねんねんよ~ ねんねんねんねんねんねんよ~ (エストラゴン、眠る。ウラジミール、そっと立ち上がってコートを脱ぎ、エストラゴンの肩にかけてやる。 それから腕を振りながら行ったり来たり歩き始める。体を温めるためだ。エストラゴン、びくっとして目を覚まし、飛び上がり、 狂ったように辺りを見回す。ウラジミール、エストラゴンの元に駆け寄り、体に腕を回して) よしよし……よしよし……ジジがついてる……もう怖くないよ……。エストラゴン ああ!ウラジミール よしよし……よしよし……もう大丈夫だ。エストラゴン 俺、落ちて---ウラジミール もう大丈夫だ。終わったんだよ。エストラゴン てっぺんからさ---ウラジミール やめろよ! さ、ちょっと歩こう。 ウラジミール、エストラゴンの腕をとり、行ったり来たり歩かせる。エストラゴン、やがて歩くのを嫌がり始める。エストラゴン もういいよ。疲れちゃった。ウラジミール 何もしないで、突っ立ってる方がいいの?エストラゴン うん。ウラジミール 好きにしなよ。 ウラジミール、エストラゴンの腕を離し、コートを拾って着る。エストラゴン 行こうよ。2026/02/07 19:41:5974.夢見る名無しさんウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (ウラジミール、行ったり来たり歩く)じっとしてられないの?ウラジミール 寒いんだよ。エストラゴン 来るの、早すぎたね。ウラジミール いつも日暮れ時だよ。エストラゴン ちっとも日が暮れそうにないよ。ウラジミール いきなり暮れるんだよ。昨日もそうだった。エストラゴン そして夜が来る。ウラジミール そうすれば立ち去れる。エストラゴン そしてまた日が昇る。(間。絶望して)どうすんだよ、どうすんだよ!ウラジミール (足を止めて、激しく)ぐずぐず言うなよ! お前の泣き言にはうんざりだ!エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール (ラッキーの帽子が目に入って)おっと!エストラゴン さらば。ウラジミール ラッキーの帽子だよ。(帽子に近寄って)もう一時間もいたのに全然気がつかなかったな。(大喜びで)やった!エストラゴン 俺にはもう二度と会えないんだからな。ウラジミール やっぱりこの場所でよかったんだ。もう大丈夫。(帽子を拾い上げ、じっと見つめ、形を整えて)もとは立派な帽子だったんだろうな。 (帽子を脱いでそれをかぶり、自分のはエストラゴンに渡して)ほら。エストラゴン え?ウラジミール 持ってろよ。2026/02/07 19:43:1575.夢見る名無しさん エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取る。ウラジミール、かぶっているラッキーの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、自分の帽子を脱いでウラジミールの帽子をかぶり、自分のをウラジミールに渡す。ウラジミール、エストラゴンの帽子を受け取る。エストラゴン、ウラジミールの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いでエストラゴンの帽子をかぶり、ラッキーの帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、ラッキーの帽子を受け取る。ウラジミール、エストラゴンの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ウラジミールの帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、ウラジミールの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、自分の帽子を受け取る。エストラゴン、ラッキーの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、エストラゴンの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、エストラゴンの帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、自分の帽子を受け取る。ウラジミール、自分の帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ラッキーの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、ラッキーの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、ラッキーの帽子を受け取る。エストラゴン、自分の帽子を頭に合わせる。ウラジミール、自分の帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、自分の帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取る。ウラジミール、ラッキーの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ウラジミールの帽子をウラジミールに返す。ウラジミール、自分の帽子を受け取り、エストラゴンに返す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取り、ウラジミールに返す。ウラジミール、自分の帽子を受け取り、投げ捨てる。2026/02/07 19:45:2676.夢見る名無しさんウラジミール 俺にぴったり?エストラゴン 分かるわけないだろ。ウラジミール じゃなくて、似合うかって聞いてんだよ。 ウラジミール、くねくねとしなを作って頭を左右に振り、マネキンのように気取って見せる。エストラゴン 最悪。ウラジミール まあな、けどいつものよりましだろ。エストラゴン どっちもどっち。ウラジミール じゃあ、こっちにする。あの帽子には、飽き飽きしてたんだ。(間)なんていうか。(間)あの帽子のほうが、俺に飽き飽きしてたっていうか。 ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いで、中を見回し、振って、山を叩き、またかぶる。エストラゴン 俺、行くわ。 沈黙。ウラジミール 遊ばないの?エストラゴン 何して?ウラジミール ポゾーとラッキーごっこ。エストラゴン 聞いたことないよ。ウラジミール 俺、ラッキー。お前、ポゾーね。(ラッキーの真似をして、荷物の重みで体を折り曲げる格好。エストラゴン、呆気にとられてそれを見る) どうぞ。エストラゴン どうすればいいの?ウラジミール 酷いこと言って!エストラゴン (考えて)スケベ!ウラジミール もっと!エストラゴン 淋病持ち! このスピロヘータ野郎! ウラジミール、体を二つに折って、前後に揺さぶる。2026/02/07 19:46:5977.夢見る名無しさんウラジミール 考えろって言って。エストラゴン へ?ウラジミール 言えよ、考えろ、豚! って。エストラゴン 考えろ、豚! 沈黙。ウラジミール 無理。エストラゴン もういいよ。ウラジミール 踊れって言えよ。エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール 踊れ、豚野郎! (身をよじる。エストラゴン、上手から急いで退場)無理。(顔を上げ、エストラゴンがいないことに気付いて)ゴゴ! (舞台を激しく動き回る。エストラゴン、上手から登場。息を切らしている。ウラジミールのもとに走って来て、 ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)やっと帰ってきたね!エストラゴン 俺、呪われてるよ!ウラジミール お前、どこ行ってたんだよ! もう帰って来ないのかと思った。エストラゴン 奴らが来る!ウラジミール 誰だよ?エストラゴン 分かんない。ウラジミール 何人だ?エストラゴン 分かんない。2026/02/07 19:48:2778.夢見る名無しさんウラジミール (勝ち誇ったように)ゴドーだ! やっと来た! ゴゴ、ゴドーだよ! 俺達、救われたんだ! 迎えに行こう! (エストラゴンを舞台袖に引っ張っていこうとする。エストラゴン、抵抗し、振りほどき、下手から退場)ゴゴ! 戻って来い! (上手端まで走っていき、地平線のほうを見渡す。エストラゴン、下手から登場。ウラジミールのもとに走って来て、 ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)またまた帰ってきたね!エストラゴン 俺、地獄に堕ちる!ウラジミール お前、どこへ行ってたんだよ?エストラゴン こっちも来るよ!ウラジミール 我々は包囲されている! (エストラゴン、舞台奥に逃げ込む)あほか! そっちに出口ないぞ! (エストラゴンの腕をつかんで舞台前面に引きずり出す。観客席を身振りで示して)こっちだ! 誰もいないぞ! さあ行け! 早く! (エストラゴンを観客席の方に押しやる。エストラゴン、恐怖に駆られて後ずさりする)いやなのか? (観客席を一瞥して) 気持ちは分かる。さてと。(考えて)残る選択肢は姿を消すことだな。エストラゴン どこに!ウラジミール 木の後ろだ。(エストラゴン、ためらう)早く! 木の後ろだよ! (エストラゴン、木の後ろに行ってしゃがむが、 体が隠れてないことに気付き、木の後ろから出て来る)全くこの木ときたら、何の役にも立たないよ。エストラゴン (少し落ち着いて)焦ったぁ。ごめんね。もう大丈夫。さてどうすればいい?ウラジミール 何もないよ。エストラゴン あっち行って立ちなよ。(ウラジミールを下手端に引っ張って行き、舞台に背を向けて立たせて)いい、じっとして見張っててよ。 (ウラジミール、目の上に手をかざして地平線を見渡す。エストラゴン、上手端に走って行って、同じ姿勢。二人とも振り返って互いを見て) 背中合わせだ。昔懐かしあの頃みたいだ! (二人は束の間、互いを見続け、やがて見張りに戻る)何か来てる?ウラジミール (振り向いて)え?エストラゴン (もっと大きな声で)何か来るの見える?ウラジミール いんや。2026/02/07 19:51:2579.夢見る名無しさんエストラゴン 俺も。 二人、見張りを続ける。沈黙。ウラジミール お前、幻でも見たんだな。エストラゴン (振り向いて)え?ウラジミール (もっと大きな声で)お前、幻でも見たんだろ!エストラゴン 叫ばなくてもいいだろ! 二人、見張りを続ける。沈黙。ウラジミール (同時に振り向いて)あのさ---エストラゴンウラジミール おっと失礼!エストラゴン どうぞ続けて。ウラジミール いえいえ、お先にどうぞ。エストラゴン いえいえ、そちらから。ウラジミール 割り込んだのはこっちですから。エストラゴン いえいえ、こちらですから。 二人、怒って互いを睨みつける。2026/02/07 19:52:4280.夢見る名無しさんウラジミール 堅苦しい猿め!エストラゴン 几帳面な豚野郎!ウラジミール 最後まで言えばいいだろ!エストラゴン お前こそ! 沈黙。互いに近付き、立ち止まる。ウラジミール まぬけ!エストラゴン それだよ、お互いに罵倒し合おう。 二人、いったん離れてからまた向かい合って。ウラジミール まぬけ!エストラゴン 人間の屑!ウラジミール 発育不全!エストラゴン 寄生虫!ウラジミール ドブネズミ!エストラゴン 糞坊主!ウラジミール 白痴!エストラゴン (決定的に)劇評家!ウラジミール ぐあ! ウラジミール、へなへなとなって、打ちひしがれ、顔を背ける。2026/02/07 19:53:3881.夢見る名無しさんエストラゴン よし、仲直りだ。ウラジミール ゴゴ!エストラゴン ジジ!ウラジミール さあ、君の手を!エストラゴン 僕の手を!ウラジミール さあ、僕の腕の中においで!エストラゴン 君の腕?ウラジミール 僕の胸に!エストラゴン よおし! 二人、抱き合う。二人、離れる。沈黙。ウラジミール あっと言う間に時が経つなぁ、ふざけてるとさ! 沈黙。エストラゴン 今度は何する?ウラジミール 待ちながらなぁ。エストラゴン 待ちながらねぇ。 沈黙。ウラジミール 体操でもするか。エストラゴン 体動かすか。ウラジミール 跳躍運動して。エストラゴン 脱力する。ウラジミール 屈伸運動して。エストラゴン 脱力する。ウラジミール ウォームアップだ。エストラゴン クールダウンだ。ウラジミール さあやってみよう。2026/02/07 19:54:4282.夢見る名無しさんウラジミール、片足ずつ跳ぶ。エストラゴン、真似する。エストラゴン (やめて)もういいよ。疲れた。ウラジミール (やめて)調子が出ないな。ちょっと深呼吸でもしてみるか?エストラゴン 息するのもうんざりだよ。ウラジミール それもそうだ。(間)じゃ、木になってみようよ、バランス感覚だ。エストラゴン 木って? ウラジミール、木になる。片足立ちでよろめく。ウラジミール (やめて)お前の番。エストラゴン、木になる。よろめく。エストラゴン 神様は俺のことを見てると思う?ウラジミール 目を閉じなきゃ駄目だよ。 エストラゴン、目を閉じる。もっとよろめく。エストラゴン (やめて、両手の拳を振り回しながら、声を限りに)神様、どうか私にお慈悲を!ウラジミール (腹を立てて)俺にもだろ?エストラゴン 私に! 私にです! お慈悲を! どうか私に! ポゾーとラッキー、登場。ポゾーは目が見えない。ラッキーは前と同様に荷物を持っている。前と同様にロープで繋がれているもののロープはずっと短くなっている。そのおかげで、ポゾーはラッキーの後についていきやすくなっている。ラッキーは前と違う帽子をかぶっている。ラッキー、ウラジミールとエストラゴンを見て立ち止まる。ポゾー、そのまま進み、ラッキーにぶつかる。ウラジミール ゴゴ!ポゾー (ラッキーにつかまる。ラッキー、よろめく)どうした? 誰だ? ラッキー、なにもかも投げ出し、ポゾーを巻き添えにして転ぶ。二人は散らばった荷物の間になすすべもなく倒れる。2026/02/07 19:56:2383.夢見る名無しさんエストラゴン ゴドーか?ウラジミール やっと来た! (荷物の山の方に向かう)ついに援軍到来だ!ポゾー 助けてー!エストラゴン ゴドーなの?ウラジミール 俺達、弱気になってたけど、これで今夜も切り抜けられるぞ。ポゾー 助けてー!エストラゴン 聞こえないの?ウラジミール 俺達、もう二人っきりで夜が来るのを待ったり、ゴドーを待ったり、あと……えーっと、とにかく待ったりしなくてもいいんだよ。 夕方ずっと俺達、誰の助けもなく、頑張ってきたよな。けどそれも終わりだ。明日が来たも同然だよ。ポゾー 助けてー!ウラジミール また時が流れ始めたぞ。日は沈み、月は昇り、俺達は……ここをあとにするんだ。ポゾー お慈悲を!ウラジミール ポゾーだ、ポゾーだよ!エストラゴン この人だと思ったよ。ウラジミール 誰って?エストラゴン ゴドーだろ。ウラジミール ゴドーじゃないよ。エストラゴン ゴドーじゃないの?ウラジミール ゴドーじゃないよ。エストラゴン じゃあ誰?ウラジミール ポゾーだよ。ポゾー ここだ! ここ! 起こしてくれよ!ウラジミール 起き上がれないんだな。エストラゴン 行こうよ。ウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう!ウラジミール こいつまた、骨をくれるかもしれないぞ。2026/02/07 19:58:0684.夢見る名無しさんエストラゴン 骨って?ウラジミール 鶏の骨だよ。覚えてないのか?エストラゴン こいつだっけ?ウラジミール そうだよ。エストラゴン 聞いてよ。ウラジミール 先に手伝ってやったほうがいいよ、きっと。エストラゴン なにを?ウラジミール 起き上がるの。エストラゴン こいつ、起き上がれないの?ウラジミール 起き上がりたいのに。エストラゴン じゃあ勝手に起きればいいじゃん。ウラジミール できないんだよ。エストラゴン なんで?ウラジミール さあね。 ポゾー、身もだえし、唸り、両手の拳で地面を叩く。エストラゴン 先に骨をくれるか聞いたほうがいいよ。断られたら放っておけばいい。ウラジミール つまりこいつの命運は俺達が握ってるってことか。エストラゴン そういうこと。ウラジミール てことは、俺達が善行を施すかどうかは条件次第ってことだな。エストラゴン へ?ウラジミール 頭いいな。けど、一つ心配なことが。ポゾー 助けてー!エストラゴン なんだよ?2026/02/07 19:58:5885.夢見る名無しさんウラジミール ラッキーがいきなり動き出すかも。そうしたら俺達、どうしようもない。エストラゴン ラッキーって?ウラジミール 昨日お前を襲った奴だよ。エストラゴン だって十人いたんだよ。ウラジミール そうじゃなくて、その前。蹴った奴。エストラゴン そいつがいるの?ウラジミール まさにご本人だよ。(ラッキーを身振りで示して)今のところは大人しいけど、いつ暴れ狂うか分からない。ポゾー 助けてー!エストラゴン ボコボコにしてやったら? 二人で。ウラジミール 寝込みを襲うってことか?エストラゴン うん。ウラジミール いい考えだ。でもできるかな? 本当に寝てるのか、あいつ? (間)いや、一番いいのは、ポゾーを利用することだよ。 あいつが助けを呼んだら---ポゾー 助けてー!ウラジミール 助けるんだ。エストラゴン こいつを? 俺達が?ウラジミール 確実にお礼が返ってくるという予測のもとにだ。エストラゴン でも、あいつがもし---2026/02/07 19:59:5686.夢見る名無しさんウラジミール くだらないお喋りは時間の無駄! (間。熱烈に)行動あるのみだ。チャンスなんだから! 誰かに必要とされるなんて、毎日あることじゃないよ。 本当はさ、別に俺達じゃなくたっていいんだ。他の奴等だってよかったんだ。そいつらの方がいいかどうかは別として。 俺達の耳の中でずっとこだましてるあの救いを求める叫び、あれは人類すべてに対して発信されたものだ。 だがしかしだよ、今この瞬間、この場所で、人類とは俺達のことなんだ。好むと好まざるにかかわらず。それを利用しない手はないだろ。 手遅れにならないうちにな! 一度は糞みたいな人類を立派に代表してみたっていいじゃないか。 過酷な運命が俺達にやれって言ってるんだから! どうよ? (エストラゴン、何も言わない) まあ確かに、腕組みをして賛成と反対の重さを量ってるのは、俺達がまさに人類である証拠だよな。 トラなら何の迷いもなく同類の救助に駆けつけるもんな。或いは茂みの奥深くへとそっと隠れるかもしれない。 けどそんな事はどうだっていい。俺達がどうするのか、それこそが問題なんだよ。そしてありがたいことに、俺達はたまたま答えを知ってるってわけだ。 そうだよ、この大混乱の中で、一つだけ明らかなことがある。俺達は、ゴドーを待ってるんだ---2026/02/07 20:02:4087.夢見る名無しさんエストラゴン ああもう!ポゾー 助けてー!ウラジミール 或いは、夜の帳が降りるのを。(間)俺達は約束を守ってきたし、それこそが大事なんだ。俺達は聖人でも何でもない。 それでも約束は守る。俺達ぐらい誇れる人間が一体どれだけいるだろう。エストラゴン くさるほど。ウラジミール あ、そう?エストラゴン 分かんない。ウラジミール そうかもね。ポゾー 助けてー!ウラジミール 分かってるのは、こんな状況じゃ、時間が立つのが遅いってことだ。俺達はな、あの手この手で何とかやり過ごしてるんだよ--- なんていうか---始めは意味ありげに見えるけど、そのうちただの習慣になっちまうようなことでさ。 そうやって理性が崩壊するのを食い止めてるともいえる。まあそれはそうだ。けど、理性なんてとっくの昔から、 深い深い海の底みたいな終わりなき夜を彷徨ってるんじゃないのか? 俺、時々そんな風に思うんだ。俺の説、分かってんの?エストラゴン (ここだけ格言的に)我々は皆狂人として生を受け、そのまま生きる者もいる。ポゾー 助けてー! お金払うから。エストラゴン いくら?ポゾー 百。エストラゴン 安っ。ウラジミール いやそこまでは。エストラゴン 百でいいの?ウラジミール いやそうじゃなくて。この世に生を受けた時から頭がおかしいなんて言い過ぎだよ。まあそこは問題じゃないけどさ。ポゾー 二百にする!2026/02/07 20:05:2288.夢見る名無しさんウラジミール 俺達は待ってる。退屈してる。(片手を挙げて)いや、反論するな。俺達、死ぬほど退屈してる。 それは確かだ。だよな? そこへ気晴らしがやって来る。さて、どうするよ? 俺達、せっかくの気晴らしを無駄にしてるんだ。 さあ、お仕事だ! (荷物の山に近付き、平然と立ち止まって)あっと言う間に何もかも消えちまったら、 また二人っきりで裸舞台の真ん中に取り残されるんだ。(思いを馳せる)ポゾー 二百だってば!ウラジミール 今行くよ。 ウラジミール、ポゾーを立たせようとするが、失敗。もう一度やってみるが、よろめいて転倒する。起き上がろうとするが、できない。エストラゴン どうしたの?ウラジミール 助けてー!エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール 見捨てるなよ! 殺されるーっ!ポゾー ここはどこだ?ウラジミール ゴゴ!ポゾー 助けてー!エストラゴン 行くってば。ウラジミール まず俺を助けろよ。で、一緒に行けばいいよ。エストラゴン 約束する?ウラジミール 誓うよ。エストラゴン もう二度と戻ってこない?ウラジミール 来ないよ!エストラゴン ピレネー山脈に行こう。ウラジミール お前の行きたい所ならどこだって。エストラゴン 俺、ピレネー山脈を放浪したいっていつも思ってたんだ。ウラジミール 放浪してくれよ。エストラゴン (後ずさりして)おならしたの誰?ウラジミール ポゾーだよ。ポゾー ここだ! ここだよ! お慈悲を!エストラゴン くさっ!2026/02/07 20:06:4789.夢見る名無しさんウラジミール 早く! 手を貸せったら!エストラゴン 俺、行くわ。(間。もっと大声で)行くからね!ウラジミール まあ、結局は自力で起き上がればいいってことだよ。(やってみるが、失敗する)時が来ればね。エストラゴン どうしたの?ウラジミール 地獄に堕ちろ。エストラゴン そこにいるつもり?ウラジミール 当分は。エストラゴン ほら、起きなよ。風邪ひくよ。ウラジミール 俺のことはいいんだ。エストラゴン ねえ、ジジ、意地はらないでよ。 エストラゴン、ウラジミールに手を差し出す。ウラジミール、急いで掴もうとする。ウラジミール 引っ張って! エストラゴン、引っ張る。よろめいて、転倒する。長い沈黙。ポゾー 助けに来てー!ウラジミール 来てますよー。ポゾー お前、誰だ?ウラジミール 人類です。沈黙。エストラゴン 優しき母なる大地よ!ウラジミール お前、起き上がれる?エストラゴン さあ。ウラジミール やってごらん。エストラゴン あとにしてよ、あとに。 沈黙。2026/02/07 20:08:2190.夢見る名無しさんポゾー どうなってんだ?ウラジミール (激しく)いい加減にしてくれよ、この疫病神! こいつ、自分のことしか考えてないな!エストラゴン ちょっとうとうとしてみようか。ウラジミール お前、聞いたか? こいつ、どうなったのか知りたいんだってさ!エストラゴン 放っとけばいいよ。眠ろう。 沈黙。ポゾー お慈悲を! お慈悲を!エストラゴン (びくっとして)何?ウラジミール 眠ってたのか?エストラゴン そうみたい。ウラジミール またポゾーの野郎だよ。エストラゴン こいつ、黙らせてよ。股間を蹴っちゃいなよ。ウラジミール (ポゾーを殴りつけて)いい加減にしろよ、この毛じらみ野郎! (ポゾー、痛みで泣き叫びながらウラジミールから逃れ、這って逃げる。 ポゾー、止まり、助けを呼びながら、見えない目で宙を見る。ウラジミール、肘をついてポゾーが逃げる様子を見て)逃げたぞ! (ポゾー、崩れ落ちる)ダウンした!エストラゴン これからどうする?ウラジミール 奴のところまで這っていけるかも。エストラゴン 置いていかないでよ!ウラジミール 呼んでみてもいいけど。エストラゴン それがいいよ。ウラジミール ポゾー! (沈黙)ポゾー! (沈黙)無視かよ。エストラゴン 声を合わせて。ウラジミール (同時に)ポゾー! ポゾー!エストラゴン2026/02/07 20:09:5891.夢見る名無しさんウラジミール 動いたぞ。エストラゴン あいつ、本当にポゾーっていうの?ウラジミール (不安になって)ポゾーさん! 戻って来て下さいよ! 痛いことしませんから!エストラゴン 別の名前で呼んでみたら?ウラジミール あいつ、くたばっちまったらどうしよう。エストラゴン 面白いじゃん。ウラジミール 何がだよ。エストラゴン 別の名前を試そうよ。色々さ。暇つぶしになるよ。そのうち当たるって。ウラジミール だからぁ、やつの名前はポゾーだよ。エストラゴン すぐ分かるよ。(考えて)アベル! アベル!ポゾー 助けてー!エストラゴン 一回で当たった!ウラジミール そろそろ飽きてきたな、このモチーフ。エストラゴン 片割れはきっとカインだ! カイン! カイン!ポゾー 助けてー!エストラゴン あいつ、一人で全人類かよ。(沈黙)見てよ、あのちっぽけな雲。ウラジミール (目を上げて)どこ?エストラゴン ほら。てっぺんのほう。ウラジミール で? あの雲のどこがいいんだよ? 沈黙。2026/02/07 20:11:0692.夢見る名無しさんエストラゴン そろそろなんか別のことをしようか。ウラジミール ちょうどそう言おうと思ってたんだ。エストラゴン けど、なんかあるかなぁ?ウラジミール う~ん。 沈黙。エストラゴン とりあえず起き上がってみる?ウラジミール やってみて損はない。 二人、立ち上がる。エストラゴン 楽勝だな。ウラジミール やる気の問題だよ。エストラゴン で、どうするの?ポゾー 助けてー!エストラゴン 行こうよ。ウラジミール 駄目だ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (絶望的に)どうすんだよ、どうすんだよ!ポゾー 助けてー!ウラジミール 助けてみる?エストラゴン あいつ、どうしたいの?ウラジミール 起き上がりたいんだよ。エストラゴン じゃあなんで起きないの?ウラジミール 俺達に手伝ってほしいんだよ。エストラゴン じゃあ手伝ってやろうよ。なに待ってんだよ? 二人、ポゾーを立たせて、手を放す。ポゾー、倒れる。2026/02/07 20:11:5293.夢見る名無しさんウラジミール 支えてなきゃだめだ。(二人、もう一度ポゾーを立たせる。ポゾー、腕を二人の首に回して、二人の間にぶら下がる)楽になった?ポゾー お前、誰だ?ウラジミール 俺のこと、分からないの?ポゾー 目が見えないんでね。 沈黙。エストラゴン きっと未来は見えるんだ。ウラジミール いつから?ポゾー 視力は抜群だったんだ。君らは友達?エストラゴン (けたたましく笑って)俺達が友達かどうか知りたいんだってさ。ウラジミール 違うよ、こいつの友達かどうか聞いてるんだよ。エストラゴン で?ウラジミール 友達だって自信を持って言えるよ。助けてやったんだから。エストラゴン なるほど。友達じゃなかったらはたして助けたかどうか。ウラジミール 助けたな、多分。エストラゴン それもそうだ。ウラジミール そこ、今は深入りしないでおこう。ポゾー 君ら、追剥か?エストラゴン 追剥! 俺達が追剥に見えるってか?ウラジミール 馬鹿、目が見えないんだから!エストラゴン あ、そうだった! (間)本人が言うにはね。ポゾー 置いてかないでくれ!ウラジミール そんなことするか。エストラゴン 今のところは。ポゾー 今何時?ウラジミール (空を見て)七時かな……八時かなぁ……。エストラゴン そりゃ、一年のうちのいつ頃かによるな。ポゾー 今は夕方なのか? 沈黙。ウラジミールとエストラゴン、夕陽をじっと見つめる。2026/02/07 20:13:0394.夢見る名無しさんエストラゴン 日が昇る。ウラジミール まさか。エストラゴン きっと夜明けだ。ウラジミール 馬鹿だな。西だよ、あっちは。エストラゴン なんで分かる?ポゾー (苦悶して)夕方なのか?ウラジミール どっちにしても日は動いてないよ。エストラゴン 昇ってるって言っただろ。ポゾー なんで答えてくれない?エストラゴン チャンスをくれよ。ウラジミール (安心させるように)夕方だよ、夕方。夜の帳が下りてきた。ここにいる俺の友達は、そうじゃないって思わせようとした。 正直、一瞬心が揺れたよ。けど、俺だってこの長い一日を無駄に生きてきたわけじゃないんだ。 保証するよ、今日のレパートリーの終焉間近だって。(間)具合はどうだ?エストラゴン 何時までこいつをぶら下げてなきゃならないの? (二人、ポゾーを離そうとしてみるが、ポゾーが倒れそうになるので、また掴まえる) 俺達、石像じゃないよ!ウラジミール あんた、目はよかったってことだよな。俺の聞き違いじゃなければ。ポゾー 視力は抜群だったよ! そりゃもう、よく見えたもんだ! 沈黙。エストラゴン (苛々して)話、続けて! 膨らませてよ!ウラジミール ほっといてやれよ。幸福だった頃に思いを馳せてるのが分からないのか? (間) メモリア・プラエテリトールム・ボノールム{ラテン語。「過去は何時でも美しい」の意}---辛いだろうな。エストラゴン 分からないよ、俺達には。ウラジミール で、突然そうなったわけ?ポゾー 本当に素晴らしく目がよかったんだ!ウラジミール 突然そうなったのか聞いてるんだよ。ポゾー ある晴れた日、目覚めたら見えなくなっていた。運命の女神と同じくらい盲目になっていたんだ。(間)時々思うよ。 まだ眠ってるんじゃないかってね。ウラジミール それはいつのこと?ポゾー さあね。2026/02/07 20:15:1395.夢見る名無しさんウラジミール でも、昨日より前じゃ---ポゾー (激しく)私に聞くな! 盲人には時間の観念がないんだ。時間に関する事柄も、盲人たちからは隠されているんだよ。ウラジミール そりゃびっくりだ! 絶対逆だと思ってたよ。エストラゴン 俺、行くわ。ポゾー ここはどこだ?ウラジミール さあね。ポゾー ひょっとして舞台とか呼ばれる場所じゃないよね?ウラジミール 聞いたことないな。ポゾー どんなところ?ウラジミール (見回して)何とも言えないな。何にも似てないし。何もない。木が一本だけ。ポゾー じゃあ舞台じゃないな。エストラゴン (盛り下がって)なんか気晴らしはないの!ポゾー 私の召使はどこだ?ウラジミール どっかその辺にいるよ。ポゾー なんで呼んでも返事がないんだろう?エストラゴン さあね。眠ってるみたいだよ。死んでるのかもね。ポゾー 何があったんだ、厳密に言うと?エストラゴン 厳密に、だってさ!ウラジミール あんたたち二人とも滑って転んだんだよ。(間)転倒したんだ。ポゾー あいつ怪我してないか、見て来てもらえないかな?ウラジミール あんたから手が離せないだろ。ポゾー 二人で行かなくても。ウラジミール (エストラゴンに)お前行けよ。エストラゴン あんなことされたのに? 絶対やだ!ポゾー そうだよそうだよ、君の友達に行ってもらいたいな、ものすごく臭いんだ。(沈黙)この人は何を待ってるのかな?ウラジミール お前、何を待ってるんだっけ?エストラゴン ゴドーを待ってる。 沈黙。2026/02/07 20:16:5196.夢見る名無しさんウラジミール こいつ、正確には何をすればいい?ポゾー まずロープを引いてくれ。好きなだけ強く。首を絞めないようにね。奴は普通ならそれに反応するはずだ。 もし反応がなければ、ブーツで一発お見舞いしてやればいい。顔と急所を思いきりね。ウラジミール (エストラゴンに)な、怖がることないよ。ていうか、復讐のチャンスだよ。エストラゴン もし奴が防御したら?ポゾー いやいや、奴は防御したことなんかないよ。ウラジミール 俺が飛んでって助けてやるよ。エストラゴン ちゃんと見ててよ。 エストラゴン、ラッキーの所に行く。ウラジミール まず生きてるか確認しろよ。死んでたら意味ないからな。エストラゴン (ラッキーの上に身を屈めて)息してるよ。ウラジミール じゃ、やっちまえ。 エストラゴン、突然怒りがこみ上げて、罵声を浴びせながらラッキーを蹴り始める。が、自分の足を痛めて、片足を引き摺り、唸り声を上げながら離れる。ラッキー、目を覚ます。エストラゴン 何だよ、このけだものめ! エストラゴン、土の盛り上がった所に座って、ブーツを脱ごうとする。が、すぐに思い直し、眠りにつこうと、両腕で膝を抱え、顔を腕に埋める。ポゾー 何かまずいことでも?ウラジミール 友達が怪我をした。ポゾー ラッキーもか?ウラジミール てことは奴はそうなんだな?ポゾー え?ウラジミール ラッキーなんだな?ポゾー 何のことだ。ウラジミール で、あんたはポゾーだな?ポゾー もちろんポゾーだ。ウラジミール 昨日と同じ?ポゾー 昨日だって?2026/02/07 20:18:3497.夢見る名無しさんウラジミール 俺達、昨日会ったよな。(沈黙)覚えてないか?ポゾー 昨日誰かに会ったなんて覚えてないね。だが、明日になったら、今日誰かに会ったなんて覚えちゃいないさ。だから私を当てにしないことだ。ウラジミール でも---ポゾー もう沢山だ。立てよ、豚!ウラジミール あんたはそいつを市場に売りに行こうとしてた。あんたは俺達に話をしてくれた。そいつは踊ったし考えてみせた。あんたは目が見えた。ポゾー そう言いたいなら言えばいい。放してくれ! (ウラジミール、離れる)立て! ラッキー、立ち上がって荷物をかき集める。ウラジミール ここからどこへ?ポゾー 行くぞ! ラッキー、荷物を持ってポゾーの前に控える。ポゾー 鞭だ! (ラッキー、荷物を全部置いて鞭を探し、見つけ、ポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)ロープだ! (ラッキー、荷物を全部置いてロープの端をポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)ウラジミール かばんの中には何が?ポゾー 砂だよ。(ロープを引いて)進め!ウラジミール まだ行かないで!ポゾー 行くよ。ウラジミール 助けが呼べない状況で倒れたらどうするんだよ。ポゾー 起き上がれるようになるまで待てばいい。そして進むだけだ。進め!ウラジミール 行っちまう前に、歌うように言ってくれよ。ポゾー 誰に?ウラジミール ラッキーだよ。ポゾー 歌えと?2026/02/07 20:20:1598.夢見る名無しさんウラジミール そう。でなけりゃ、考えろって。でなけりゃ、何か語れってさ。ポゾー しかしこいつは口がきけないんだ。ウラジミール 口がきけない!ポゾー 口がきけないんだ。唸ることも出来ない。ウラジミール 口がきけないって! いつからだよ。ポゾー (急にカッとして)くそったれな時間の話で俺をいじめるのは、いい加減にしてくれ! いつのことだ! とか、いつからだ! とか。 ある日、それじゃ足りないのか? いつもと同じ、ある日じゃ。ある日、あいつは口がきけなくなった。ある日、私は目が見えなくなった。 ある日、私達は耳も聞こえなくなるだろう。ある日、私達は生まれた。ある日、死ぬ。いつもと同じ一日、同じ瞬間。それじゃ足りないのか? (少し気を静めて)女たちは墓穴に跨って子供を産む。日の光が束の間瞬いて、そしてまた夜が来る。(ロープを引いて)進め! ポゾーとラッキー、退場。ウラジミール、舞台端まで追いかけ、見送る。転倒する音。ウラジミールのマイムが、二人がまた倒れたことをダメ押しのように伝える。沈黙。ウラジミール、エストラゴンのもとに行き、しばしじっと見つめ、やがて揺り起こす。エストラゴン (暴れる仕草。支離滅裂な言葉。やがて)なんで寝かせておいてくれないの?ウラジミール 淋しかったんだ。エストラゴン 幸福な夢、見てたのに。ウラジミール 暇つぶしにはなったな。エストラゴン その夢はね---ウラジミール (激しく)言うな! (沈黙)あいつ、本当に目が見えなかったのかな。エストラゴン 目が見えなかったって、誰が?ウラジミール ポゾーだよ。エストラゴン 目が見えなかったの?ウラジミール 本人がそう言ってた。エストラゴン で、それがどうかした?ウラジミール 俺達のこと、見てた気がした。2026/02/07 20:22:2199.夢見る名無しさんエストラゴン 夢でも見たんだろ。(間)行こうよ。駄目か。ああもう! (間)本当にあいつは違ったの?ウラジミール 誰?エストラゴン ゴドー。ウラジミール だから、誰が?エストラゴン ポゾー。ウラジミール 全然違うよ! (少し自信を無くして)違うだろ! (さらに自信を無くして)違うさ!エストラゴン とりあえず、立ち上がるとするか。(痛そうに立ち上がって)痛っ! ジジ!ウラジミール もう何をどう考えたらいいのか分からない。エストラゴン 足! (座って、ブーツを両方脱ごうとして)手伝ってよ!ウラジミール 俺は眠ってたのか? 他の奴等が苦しんでいる時に。今も眠ってるのか?明日、目が覚めたら、いや、目が覚めたと思ったら、今日のことをなんて言うんだろう? 友達のエストラゴンと、この場所で、日が暮れるまでゴドーを待ったって? ポゾーが荷物持ちと通りかかって、俺達に話しかけたって? そうかもな。けど、そこにどれほどの真実がある? (エストラゴン、ブーツと格闘するがうまくいかず、またうたた寝をする。ウラジミール、その姿をじっと見つめて)こいつは何も知らないままだ。また殴られた話をして、俺はニンジンをやるだろう。(間)墓穴に跨って子供を産む。難産だ。穴の底じゃあ、墓掘りたちがのろのろと分娩用の鉗子を使って赤ん坊を取り出す。俺達はゆっくり老いていく。空気中には俺達の叫び声が充満してる。(耳を澄まして)けど習慣とは、大した消音材だよ。(またエストラゴンを見て)俺だって。誰かが俺を見て言ってるよ、こいつは眠ってる、何も知らない、眠らせといてやれって。(間)もうこんな生活、やってられないよ! (間)俺、何言ってるんだ? ウラジミール、興奮して行ったり来たりし、やがて舞台上手端で立ち止まり、考え込む。下手から少年、登場。立ち止まる。沈黙。2026/02/07 20:24:18100.夢見る名無しさん少年 あのぉ……(ウラジミール、振り向く)アルバートさん……ウラジミール またかよ。(間)俺のこと、分からない?少年 分かりません。ウラジミール 君、昨日も来なかった?少年 来てませんけど。ウラジミール これが初めて?少年 はい。 沈黙。ウラジミール ゴドーさんから伝言、あるんだろ?少年 はい。ウラジミール 今夜は来られないって。少年 はい。ウラジミール でも明日は来る。少年 はい。ウラジミール 絶対に。少年 はい。 沈黙。ウラジミール 誰かに会った?少年 会ってませんけど。ウラジミール 二人の……(ためらって)……人間にも?少年 誰にも。 沈黙。2026/02/07 20:25:34101.夢見る名無しさん 沈黙。ウラジミール ゴドーさんって、何してるの? (沈黙)聞いてるの?少年 聞いてます。ウラジミール で?少年 特に何も。 沈黙。ウラジミール 君の兄弟は元気なの?少年 病気なんです。ウラジミール 昨日来たのはその子かな。少年 僕、分かりません。 沈黙。ウラジミール (優しく)髭、はやしてる? ゴドーさんて。少年 はやしてますけど。ウラジミール 金色? それとも……(ためらって)……黒い髭?少年 白かな。 沈黙。ウラジミール 神様、私達にお慈悲を! 沈黙。2026/02/07 20:26:45102.夢見る名無しさん少年 ゴドーさんにはなんて?ウラジミール そうだなぁ……(ためらって)……俺と、あと……(ためらって)……俺に会ったって伝えてくれ。 (間。ウラジミール、前に出る。少年、後ずさりする。ウラジミール、立ち止まる。少年、立ち止まる。いきなり激昂して) 確かに俺に会ったよな! 明日またやって来て、俺に会ったことないなんて言わせないぞ! (沈黙。ウラジミール、いきなり前に飛び出す。少年、身をかわして走って退場。沈黙。日が落ちて、月が上がる。 第一幕と同様に、ウラジミール、うなだれて立ち尽くす。エストラゴン、目を覚まし、両方のブーツを脱ぎ、片足ずつ持って立ち上がり、 舞台前面中央に置き、それからウラジミールのもとに行く)エストラゴン どうかした?ウラジミール 何でもないよ。エストラゴン 俺、行くわ。ウラジミール 俺も。エストラゴン 長いこと、眠ってた?ウラジミール さあね。 沈黙。エストラゴン どこ行く?ウラジミール 遠くは無理だよ。エストラゴン えー、遠くまで行こうよ。ウラジミール 駄目だよ。エストラゴン なんで?ウラジミール 明日戻って来なくちゃ。エストラゴン なんで?ウラジミール ゴドーを待つ。エストラゴン ああもう! (沈黙)ゴドー、来なかったの?ウラジミール うん。2026/02/07 20:31:02103.夢見る名無しさんエストラゴン もう遅いしね。ウラジミール うん。もう夜だしな。エストラゴン すっぽかしたらどうかな? (間)すっぽかしちゃったら?ウラジミール 酷い目に合わされるよ。(沈黙。木を見て)なにもかも死んでる。けど、木だけは生きてる。エストラゴン (木を見て)あれ、何?ウラジミール 木だよ。エストラゴン うん。何の木かな?ウラジミール さあね。柳かなぁ。 エストラゴン、ウラジミールを木の方に引っ張って行く。二人、木の前で立ち尽くす。沈黙。エストラゴン ねえ、首吊ろうよ。ウラジミール どうやって?エストラゴン ロープかなんか、持ってないの?ウラジミール ないよ。エストラゴン じゃ、駄目だね。 沈黙。ウラジミール 行こうか。エストラゴン ちょっと待って、ベルトがあった。ウラジミール 短いだろ。エストラゴン 脚、引っ張ってくれよ。ウラジミール 俺の脚は誰が引っ張るんだよ?エストラゴン 確かに。ウラジミール とにかく見せてみなよ。(エストラゴン、だぶだぶのズボンを締めている紐をゆるめる。ズボンが足首までずり落ちる。二人、紐を見て) いざとなれば、いけそうだな。けど、千切れないかな?エストラゴン 確かめてみようよ。ほら。2026/02/07 20:32:43104.夢見る名無しさん 二人、それぞれの端を持って引っ張る。紐、千切れる。二人、転びそうになる。ウラジミール 話にならん。 沈黙。エストラゴン 明日、戻って来るって言ったよね?ウラジミール うん。エストラゴン じゃあ丈夫なロープ、持ってこようよ。ウラジミール そうだな。 沈黙。エストラゴン ジジ。ウラジミール うん。エストラゴン もうこんな生活、やってられないよ。ウラジミール お前、そう思ってるんだな。エストラゴン ねえ、別れたらどうかな? 俺達、別れた方がいいんじゃないかな。ウラジミール 明日、首を吊ろう。(間)ゴドーが来なかったらね。エストラゴン もし来たら?ウラジミール 俺達は救われる。 ウラジミール、(ラッキーの)帽子を脱ぎ、中を見回し、内側を手で探り、振って、山を叩き、またかぶる。2026/02/07 20:33:34105.夢見る名無しさんエストラゴン いい? 行こうよ。ウラジミール ズボンを上げなよ。エストラゴン え?ウラジミール ズボンを上げなって。エストラゴン ズボンを脱げって?ウラジミール ズボンを上げなってば。エストラゴン (ズボンがずり落ちていることに気付いて)本当だ。(ズボンを上げる)ウラジミール じゃあ、行こうか?エストラゴン うん、行こう。 二人、動かない。 幕。2026/02/07 20:34:16106.夢見る名無しさんヤナギ2026/02/07 21:42:33
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田舎道。木が一本。夕暮れ時。
エストラゴン、土の盛り上がった所に座り、ブーツを片方脱ごうとしている。息を切らせながら両手で引っ張る。
投げ出し、ぐったりし、一息つき、もう一度やってみる。同じことを繰り返す。
ウラジミール、登場。
ウラジミール (硬直した小刻みな足取り、がに股で前に出ながら)私もそういう見解に傾いてきました。
生まれてからずーっと、そうならないよう頑張って来たんですけどね。「ウラジミール、お前はまだ全部やってみたわけじゃないだろ」って。
悪あがきの繰り返しってやつです。(戦いに思いをはせながら考え込む。エストラゴンの方を向いて)で、またお前かよ。
エストラゴン 俺?
ウラジミール 嬉しいよ、また会えて。もう行っちまったきりかと思ってた。
エストラゴン 俺も。
ウラジミール やっぱりまた一緒だな、おい! お祝いしなくちゃ。どう祝おうか。(考える)立ちな、抱き締めてやるよ。
エストラゴン (いらついて)後にしてよ、後に。
ウラジミール 殿下は昨晩どちらでお休みになられたのか、うかがってもよろしいかな?
エストラゴン どぶ。
ウラジミール (感じ入って)どぶかよ! どこの?
エストラゴン (身振りなしに)あっち。
ウラジミール で、殴られなかったか?
エストラゴン 殴られなかったか? 殴られたよ、勿論。
ウラジミール いつもと同じやつらか?
エストラゴン 同じやつらか? 分かんない。
ウラジミール それを思うとなぁ……ここんとこずっと……俺がいなけりゃ……お前なんかどうなってたよ? ……(きっぱりと)
今頃はせいぜいちっぽけな骨の山だな、うん間違いない。
エストラゴン それが何か?
ウラジミール (ショックを受けて)そりゃあんまりだろう、一人の人間に対して。(間。元気を出して)
と思う反面、今更心が折れてどうするんだって言いたいね、俺は。そんなことは百万年前に気付けよって話だ。九〇年代に。
エストラゴン お喋りはいいから、脱ぐの手伝ってよ、これ。
あの頃は俺達だって見苦しくなかったんだし。けどもう遅いよ。登らせてももらえないもんな。
(エストラゴン、ブーツを引き裂こうとしている)何してんだよ。
エストラゴン 靴、脱いでるんだよ。脱いだことないの?
ウラジミール ブーツは毎日脱ぐもんだって、しつこく言ってるだろ。何で言うこときかないんだよ。
エストラゴン (弱々しく)手伝ってくれよ!
ウラジミール 痛いのか?
エストラゴン 痛いのかだと? この人、俺が痛いのか知りたいんだってさ!!
ウラジミール (カッとして)世界中で痛いのはお前だけだろうよ。俺なんか数にも入らないんだ。
お前が俺と同じ病気持ちになった日には、一体なんて言うか拝聴してみたいもんだな。
エストラゴン 痛いのか?
ウラジミール 痛いのかだと? この人、俺が痛いのか知りたいんだってよ!
エストラゴン (指を差して)だからってチャックぐらい上げときなよ。
ウラジミール (前屈みになって)本当だ。(チャックを上げる)人生、小さなものでも大事にしないとな。
エストラゴン しょうがないよ。お前、最後の瞬間まで我慢してるんだから。
ウラジミール (夢見るように)最後の瞬間かぁ……(瞑想する)希望を先送りにすると、どっかが病む。誰の格言だっけ?
エストラゴン ねえ、手伝ってくれないの?
(帽子を取り、中を見回し、手を入れてかき回し、振って、またかぶる)何て言うか。ほっとするんだけど、それだけじゃなくて……
(言葉を探す)……ぞっとするんだ。(大袈裟に)ぞぞぞーっとね。(また帽子を取って、中を見回す)変だな。
(異物を追い払うかのように帽子の山を叩いてまた中を見回し、かぶる)何やってもダメだな。
(エストラゴン、全力を振り絞ってブーツを脱ぐ事に成功する。中を見、手を入れてかき回し、ひっくり返し、振ってみて、
地面に何か落ちていないか目を凝らす。何も見つからない。また中をかき回し、前方を見つめるが何も見ていない)どうした?
エストラゴン 何でもない。
ウラジミール 見せてみな。
エストラゴン 何もないよ。
ウラジミール もう一回履いてみな。
エストラゴン (足を調べて)ちょっと風に当ててみる。
ウラジミール これぞ人間ってわけだ。自分の足のせいなのにブーツに当たるんだから。
(また帽子を取り、中を見回し、かき回し、山を叩き、息を吹きかけ、またかぶる)なんかやばい感じがしてきた。
(沈黙。ウラジミール、物思いにふける。エストラゴン、足の指を引っ張る)泥棒のうち一人は救われたんだよなぁ。
(間)悪くない確率だ。(間)ゴゴ。
エストラゴン 何?
ウラジミール 悔い改めてみようか。
エストラゴン 悔い改めるって、何を?
ウラジミール いやその……(考える)細かいことは言いっこなしだ。
エストラゴン 生まれちゃったこととか?
ウラジミール、心から大笑いするが、あっという間に息を止め、恥骨を押さえる。顔が引きつっている。
ウラジミール もう思いきり笑うのも無理。
エストラゴン 恐るべき喪失だね。
エストラゴン (いらついて)何だよ。
ウラジミール 聖書、読んだことあるか?
エストラゴン 聖書かぁ……(考えて)ざっと見たと思うけど。
ウラジミール 福音書って覚えてるか?
エストラゴン 覚えてるよ、聖書の地図、カラーで綺麗だったなぁ。死海はほの暗く青みがかってた。見てるだけで喉が渇いちゃったよ。
ここにしようっていつも言ってたんだ。新婚旅行はここにしようって。二人で泳ぐんだよ。幸せだろうなぁ。
ウラジミール 詩人になったらよかったな、お前。
エストラゴン 詩人だったよ。(自分のボロ服を指して)見て分からないか?
沈黙。
ウラジミール 何の話だっけ……足の具合は?
エストラゴン 見るからに腫れてるよ。
ウラジミール あ、そうだ。泥棒の話だよ、泥棒二人。あの話、覚えてるか?
エストラゴン 知らない。
ウラジミール 話してやろうか?
エストラゴン いらない。
ウラジミール 暇つぶしになるぞ。(間)二人組の泥棒がさ、救世主キリスト様と一緒に十字架にかけられたんだとさ。ところが---
エストラゴン え、誰と?
ウラジミール 救世主キリスト様だよ。二人組の泥棒の話だ。一人は救われた。けどもう一人は……(「救われた」の反対語を探す)……呪われた。
エストラゴン え、何から救われたって?
ウラジミール 地獄だよ。
エストラゴン 俺、行くよ。
エストラゴン、動かない。
ウラジミール ところがだ……(間)……どういうわけか---おい、退屈じゃないよな? ---どういうわけか、泥棒が救われたって言ってるのは一人だけなんだよ、
福音書を書いた四人のうちで。四人がそこに---まあそこら辺にはいたんだ。なのに泥棒が救われたって言ってんのはたった一人だ。
(間)おい、ゴゴ、たまにはボールを打ち返してくれたらどうなんだよ。
ウラジミール 四人のうち一人だけだよ。他の二人は泥棒のことなんか一言も言ってないし、あとの一人なんか、
泥棒は二人とも口汚く罵ったって言ってるんだから。
エストラゴン え、誰を?
ウラジミール はあ?
エストラゴン 一体何の話? 誰を罵ったって?
ウラジミール だから救世主だよ。
エストラゴン 何で?
ウラジミール 助けてくれないからだよ。
エストラゴン 地獄から?
ウラジミール 馬鹿。死からだよ。
エストラゴン 地獄って言わなかった?
ウラジミール 死だよ。死。
エストラゴン ふうん、それで?
ウラジミール それで二人は呪われたってわけだ。
エストラゴン 何か問題?
ウラジミール だから四人のうちの一人は、二人組の泥棒のうち一人が救われたって言ってるんだってば。
エストラゴン あ、そう。じゃあ意見の相違ってやつだね。以上。
ウラジミール だって四人全員そこにいたんだよ。なのにそのうちの一人だけが言ってるんだ、泥棒が一人救われたって。
何でそいつを信じなきゃいけない? 他の三人を押し退けて。
エストラゴン 誰が信じてるの?
ウラジミール みーんなさ。そのバージョンしか知らないからな。
エストラゴン 世の中の奴らは皆無知な猿だから。
エストラゴンは痛そうに立ち上がり、片足を引き摺りながら下手袖に向かい、立ち止まり、片手を目の上にかざして遠くを見て、くるりと向きを変え、
上手袖に向かい、遠くを見る。ウラジミールはそれを目で追ってからブーツを拾いに行き、中を眺めたかと思うと、取り落とす。
ウラジミール おえっ!
ウラジミールは唾を吐く。エストラゴンは舞台中央に来て観客席に背を向けて立ち止まる。
想像力を掻き立てられる眺めだ。(ウラジミールの方を向いて)行こうよ。
ウラジミール 駄目だよ。
エストラゴン 何で?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン (絶望的に)ああもう! (間)本当にここなの?
ウラジミール 何が?
エストラゴン 待つ場所だよ。
ウラジミール 木のそばって言ってたからな。(二人は木を見る)他にないだろ?
エストラゴン これ、何の木?
ウラジミール さあ。柳かな。
エストラゴン 葉っぱはどこに行った?
ウラジミール 枯れちまったんだな。
エストラゴン 涙も涸れたか。
ウラジミール それか季節じゃないかだ。
エストラゴン 柳っていうより植木みたいだ。
ウラジミール 茂みというか。
エストラゴン 植木だよ。
ウラジミール しげ……っと、何が言いたいんだよ。場所間違えてるってか?
エストラゴン だって、もう来てたっていいはずだよね。
ウラジミール 絶対来るって言ったわけじゃないからな。
エストラゴン じゃあ、もし来なかったら?
ウラジミール また明日来ればいいよ。
エストラゴン で、明後日もか。
ウラジミール まあな。
エストラゴン そのまた次の日もずっと。
ウラジミール だからぁ。
エストラゴン ゴドーが来るまでね。
ウラジミール 冷たいぜ、お前。
エストラゴン 昨日も来たよね、俺達。
ウラジミール そりゃ勘違いだよ。
エストラゴン 昨日何したっけ?
エストラゴン うん。
ウラジミール そりゃ……(怒って)お前がいると何でもかんでもあやふやになっちまうよ。
エストラゴン 俺達、ここにいたよ。俺はそう思う。
ウラジミール (辺りを見回して)見覚えがあるのか?
エストラゴン そんなこと言ってないだろ。
ウラジミール はあ?
エストラゴン どっちだっていいんだよ、そんなことは。
ウラジミール だけどやっぱり……あの木とか……(観客席の方を向いて)……あの泥沼とか。
エストラゴン 本当に今晩なのか?
ウラジミール 何が?
エストラゴン 待ち合わせだよ。
ウラジミール 土曜日って言った。(間)と思う。
エストラゴン 思うわけね。
ウラジミール メモしといたはずだよ。(あちこちのポケットを探ると、雑多なゴミがあふれ出す)
エストラゴン (意地悪く)けど、いつの土曜? 大体今日は土曜なの? (間)それとも月曜? (間)ひょっとして金曜とか?
ウラジミール (日付が風景に書き込まれているかのように、狂ったように辺りを見回して)そんな馬鹿な!
エストラゴン それか木曜?
ウラジミール どうしよう?
エストラゴン もし昨日来たのに俺達がいなかったとしたら、今日はもう来ないよね。
ウラジミール でも昨日ここにいたって言ったよな。
エストラゴン 勘違いかもね。(間)ねえ、ちょっと黙らない? いいよね?
ウラジミール (力なく)分かったよ。(エストラゴンは土の盛り上がった所に座る。ウラジミールは興奮して行ったり来たりするが、
時折立ち止まって遠くを見つめる。エストラゴンは眠り込んでしまう。ウラジミールはエストラゴンの前に立って)
ゴゴ! ……ゴゴ! ……ゴゴったらゴゴ!
エストラゴン、びくっとして目を醒ます。
エストラゴン (不快な状況に引き戻されて)寝てた! (絶望的に)何でいつも寝かせておいてくれないの?
ウラジミール 寂しかったんだよ。
エストラゴン 夢、見てた。
ウラジミール その話はいいよ!
ウラジミール いいって言ってるだろ!
エストラゴン (宇宙全体を指差して)こいつだけあればいいの? (沈黙)ジジ、お前やさしくないよ。
秘密の夢の話を誰にすればいいんだよ、お前が聞いてくれなかったら。
ウラジミール だったら自分の胸にしまっておくんだな。分かってるだろ、我慢できないんだよ。
エストラゴン (冷ややかに)時々思うんだ、俺達、別れた方がいいんじゃないかってさ。
ウラジミール どうせ遠くまで行けないくせに。
エストラゴン そりゃ残念だな。本当に残念だよ(間)そう思わない、ジジ、本当に残念だって?
(間)行く道の美しさや(間)で会う旅人たちの善良さを想えば。(間。甘えて)ねぇ、そうじゃない、ジジ?
ウラジミール まあ落ち着こうや。
エストラゴン (官能的に)落ち着こうや……こうや……イギリス人なら給えって言うよ。落ち着き給えって。(間)知ってるよね、売春宿のイギリス人の話。
ウラジミール まあな。
エストラゴン 聞かせてよ。
ウラジミール もういいよ!
エストラゴン イギリス人が、ちと酔っ払って売春宿に行きましたとさ。おかみが聞くにゃあ、ブロンドがいいかい、黒髪がいいかい、それとも赤毛? さあ続けて。
ウラジミール いい加減にしろ!
ウラジミール、さっさと退場する。エストラゴン、立ち上がって舞台端ぎりぎりまで後を追う。ボクサーを応援するような仕草。
ウラジミール、登場。エストラゴンを通り過ぎ、うなだれたまま舞台を横切る。エストラゴン、ウラジミールに近付き、立ち止まる。
エストラゴン (優しく)話したいことがあったんだよね? (沈黙。エストラゴン、一歩近付いて)何か言いたいことがあったんだろ? (沈黙。もう一歩近付いて)ジジ……。
ウラジミール (背を向けたまま)ないよ、言いたいことなんか。
(沈黙)手を出しなよ。(ウラジミール、半ば振り向く)抱きしめなよ! (ウラジミール、硬直する)意地はるなって。
(ウラジミール、和らぐ。二人、抱き合う。エストラゴン、飛びのいて)ニンニクくさっ!
ウラジミール 腎臓にいいんだ。(沈黙。エストラゴン、木をしげしげと見る)さて、どうしようか。
エストラゴン 待つ。
ウラジミール けど、待ってるあいだは?
エストラゴン 首でも吊ってみる?
ウラジミール ふむ、勃起するかもな。
エストラゴン (大興奮して)勃起するの!
ウラジミール おまけもあるぞ。あれが落ちたところにマンドラゴラが生えるんだ。だから引っこ抜くとキャッて叫ぶんだよ。お前知ってた?
エストラゴン 早く吊ろうよ、首!
ウラジミール あの枝で? (二人、木の方に行く)大丈夫かなぁ。
エストラゴン 何時だって挑戦あるのみさ。
ウラジミール さあどうぞ。
エストラゴン お先にどうぞ。
ウラジミール いやいや、お先に。
エストラゴン 何でだよ。
ウラジミール 俺より軽いんだから。
エストラゴン だろ!
ウラジミール はあ?
エストラゴン 頭を使ってごらんよ。
ウラジミール、頭を使ってみる。
エストラゴン つまりね。(考えて)枝はさ……枝はね……(怒って)頭を使えってば!
ウラジミール お前だけが希望の星だ。
エストラゴン (努力して)ゴゴ軽いだろ---枝折れないだろ---ゴゴ死ぬ。ジジ重いだろ---枝折れるだろ---ジジ独りぼっちだ。だけど---
ウラジミール そんなこと思ってもみなかったよ。
エストラゴン お前の首が吊れたら何だって釣れるよ。
ウラジミール けど俺の方が重いんだっけ?
エストラゴン お前がそう言ったんじゃないか。俺、分からないよ。確率は五分五分。まあそんなところだ。
ウラジミール はあ? じゃあどうするんだよ?
エストラゴン 何もしないことさ。その方が安全だよ。
ウラジミール じゃあ待つか。で、何て言うか確かめよう。
エストラゴン 誰が?
ウラジミール ゴドーだよ。
エストラゴン いいね。
ウラジミール じゃあ待とう。で、俺達がどんな状態にあるのかはっきりさせよう。
エストラゴン せめて鉄が凍る前には打ちたいって気もするけどね。
ウラジミール 興味あるんだよ、奴が何をしてくれるのか。話に乗るか乗らないかは聞いてから決めればいい。
エストラゴン 俺達、正確には何を頼んだんだっけ?
ウラジミール お前、いなかったっけ?
エストラゴン 聞いてなかった。
ウラジミール えーっと、特にはっきりとは。
エストラゴン お祈り的な。
ウラジミール それだ。
エストラゴン ざっくりしたお願いっていうか。
ウラジミール そうそう。
エストラゴン で、答えは?
ウラジミール 考えとくって。
エストラゴン 何も約束できないけど。
ウラジミール よく考えてみるって。
ウラジミール 家族にも相談して。
エストラゴン 友達にもね。
ウラジミール エージェントにも。
エストラゴン 取引先にも。
ウラジミール 帳簿にも。
エストラゴン 銀行口座もだ。
ウラジミール 決めるのはそれからだ。
エストラゴン ごもっとも。
ウラジミール だろ?
エストラゴン だね。
ウラジミール だな。
沈黙。
エストラゴン (不安に駆られて)で、俺達は?
ウラジミール はい?
エストラゴン 俺達はって聞いてるんだよ。
ウラジミール はあ。
エストラゴン 俺達の立場は?
ウラジミール 立場って?
エストラゴン ゆっくり考えてみて。
ウラジミール 立場ねぇ。っていうか地面にひれ伏すんだろ。
エストラゴン そこまで悲惨?
ウラジミール 閣下は特権を主張されるおつもりか?
エストラゴン 俺達、もう何の権利もないの?
ウラジミールの笑い、前と同様に固まる。ただし微笑みはなし。
ウラジミール 笑わせてくれるよ。笑えるものならね。
エストラゴン 俺達は権利を失ったってこと?
ウラジミール (きっぱりと)自分から手放しちまったんだよ。
エストラゴン (気弱に)俺達、縛られてるんじゃないのかな? (間)俺達さあ---
ウラジミール しっ!
二人、耳を澄ます。グロテスクなほど硬直した格好。
エストラゴン 何も聞こえないよ。
ウラジミール しいっ! (二人、耳を澄ます。エストラゴン、バランスを崩して倒れそうになる。ウラジミールの腕にしがみつき、ウラジミール、よろける。
二人は身を寄せ合って耳をそばだてる)俺もだ。(安堵のため息。二人は力を抜いて離れる)
エストラゴン 脅かすなよ。
ウラジミール てっきり来たかと思ったんだ。
エストラゴン 誰が?
ウラジミール ゴドー。
エストラゴン ああもう! 風にそよぐ葦の音さ。
ウラジミール 絶対叫び声だったって。
エストラゴン だいたい、何で叫ぶんだよ。
ウラジミール 馬を走らせてるとか。
沈黙。
エストラゴン (激しく)腹減ったぁ。
ウラジミール ニンジン食うか?
エストラゴン それっきゃないのか?
ウラジミール カブ、あったかも。
エストラゴン ニンジンくれ。(ウラジミール、ポケットを探ってカブを取り出し、エストラゴンに渡す。エストラゴンは一口かじる。怒って)カブだよ!
ウラジミール あ、ごめん! てっきりニンジンかと。(またポケットを探るが、カブしか見つからない)カブしかない。
(ポケットを探る)お前、最後のやつ食っちまったんだよ。(ポケットを探る)(ポケットを探る)待てよ、あった。
(ニンジンを引っ張り出し、エストラゴンにやる)ほら、相棒。(エストラゴン、ニンジンを袖で拭って食べ始める)カブよこせ。
(エストラゴンから返されたカブをポケットにしまう)大事に食えよ、それが最後だ。
ウラジミール ああ。
エストラゴン 答えてもらった?
ウラジミール ニンジンうまいか?
エストラゴン ニンジン味だ。
ウラジミール そりゃよかったよかった。(間)何が知りたかったんだっけ?
エストラゴン 忘れた。(?む)これだからいやになる。(ニンジンをありがたそうに眺め、指でつまんでぶらぶらさせる)このニンジンのことは忘れないよ。
(しっぽをうっとりとしゃぶる)ああそうだ、思い出したよ。
ウラジミール で?
エストラゴン (口いっぱいに頬張って、上の空で)俺達、ひはられてにゃいのか!
ウラジミール 分かんねえよ。
エストラゴン (噛んで飲み込む)俺達、縛られてるんじゃないかって聞いてんだよ。
ウラジミール 縛られてる?
エストラゴン し・ば・ら・れ・て・る。
ウラジミール 縛られてるって何だよ。
エストラゴン 束縛されてるってことだよ。
ウラジミール 誰に? 誰から?
エストラゴン お前のあれにだよ。
ウラジミール ゴドーか? ゴドーに縛られてるって? まさか! ありえない。(間)今のところは、だけどな。
エストラゴン ゴドーっていうのか。
ウラジミール まあな。
エストラゴン あれ。(ニンジンのヘタをつまんで残りを持ち上げ、目の前で回して)おかしいな、噛めば噛むほど不味くなる。
ウラジミール 俺は逆だな。
エストラゴン てことは?
ウラジミール ?んでりゃ慣れる。
エストラゴン (じっくり考えて)それ、逆って言うか?
ウラジミール 気質の問題だな。
エストラゴン 性格っていうか。
ウラジミール どうしようもないってことだ。
ウラジミール 人それぞれだ。
エストラゴン じたばたしたって。
ウラジミール 本質は変わらない。
エストラゴン 何やっても駄目ってことだ。(ニンジンの残りをウラジミールに差し出して)最後の一口、食べる?
恐ろしい叫び声が間近に聞こえ、エストラゴンは思わずニンジンを落とす。二人、固まる。そして突然舞台袖に向かって走り出す。
エストラゴンは途中で立ち止まり、踵を返してニンジンを拾い上げてポケットにねじ込み、待っているウラジミールめがけて走り出すが、
またとって返してブーツを拾い上げ、ウラジミールに駆け寄る。二人で身を縮め肩を寄せ合い、恐ろしい声に背を向けて待つ。
ポゾーとラッキー、登場。ポゾーはラッキーの首にロープをかけて操っているので、最初に姿を現すのはラッキーだ。
その後に長いロープが続き、舞台の中ほどまで来たところでようやくポゾーが現れる。
ラッキーは重い鞄と折りたたみ椅子とピクニック用のバスケットとオーバーコートを持っている。
ポゾーは鞭を持っている。
ポゾー (舞台袖から)進め! (鞭の音。ポゾー、現れる。ラッキーと二人で舞台を横切っていく。
ラッキー、ウラジミールとエストラゴンの前を通り過ぎて舞台袖に退場。ポゾー、ウラジミールとエストラゴンの姿を認めて立ち止まる。
ロープがぴんと張る。ポゾー、荒っぽく引っ張る)下がれ! (ラッキーが荷物を全部持ったまま倒れる音。
ウラジミールとエストラゴン、音のした方に顔を向けるが、助けに行きたい気持ちと怖いという感情に引き裂かれている。
ウラジミール、ラッキーの元に行こうとする。エストラゴン、袖をつかんで止める)
エストラゴン じっとしてなよ。
ポゾー 気を付けて! こいつ、邪悪だからね。(ウラジミールとエストラゴン、ポゾーの方を向く)よそ者にはね。
エストラゴン (小声で)この人?
ウラジミール 誰が?
エストラゴン (名前を思い出そうとして)ええっと……
ウラジミール ゴドーか?
エストラゴン うん。
ポゾー 自己紹介しようか。私はポゾー。
ウラジミール (エストラゴンに)違った!
エストラゴン ゴドーって言ったよ。
ウラジミール 言ってないよ!
エストラゴン (ポゾーにおどおどと)あの、ゴドーさんでは?
ポゾー (脅すような声で)私はポゾー! (沈黙)ポゾーだ! (沈黙)この名前に覚えはありませんか? (沈黙)覚えはないかと聞いてるんだ。
(ウラジミールとエストラゴンは首を傾げ合う)
エストラゴン (思い出しているふりをして)ポゾー……ポゾーねぇ……。
ウラジミール (同じく)ポゾー……ポゾーねぇ……。
ポゾー ポポポポゾーだ!
エストラゴン ああ! ポゾーか……えーっと……ポゾーねぇ……。
ウラジミール ポゾー? ポゾー?
エストラゴン ポゾーねぇ……うーん……ちょっと……その……ええっとぉ…。
ポゾー、威嚇するように前に出る。
ウラジミール (機嫌をとって)昔、ゴドーって一家と知り合いでね。母親が淋病を患ってて。
エストラゴン (慌てて)俺達、地元の者じゃないんで。
(大笑いして)ポゾー様と同じ種族とはな! 神の似姿だ!
ウラジミール えっと、あのう……
ポゾー (高飛車に)ゴドーとは誰だ?
エストラゴン ゴドー?
ポゾー 君達、私をゴドーと間違えたじゃないか。
エストラゴン いえいえ、まさかそんな。
ポゾー そいつは誰だ?
ウラジミール ええっと、まあその……知り合いっていうか。
エストラゴン とんでもない。ほとんど知らないんで。
ウラジミール そうだった……あんまり知らないんだった……けど、そうは言っても……
エストラゴン 俺なんか、会っても分からないぐらいで。
ポゾー でも私をゴドーと間違えた。
エストラゴン (ポゾーの前で後ずさりしながら)それはその……なんて言うか……薄暗いし……緊張したし……待ってたし……正直に言います……
そうかなぁと……ほんの一瞬……。
ポゾー 待ってた? つまり君達はそいつを待ってたんだね?
ウラジミール いやその……
ポゾー ここで? この私の土地で?
ウラジミール 悪気はなかったんです。
エストラゴン よかれと思って。
ポゾー 道はみんなのものだからな。
ウラジミール だと思ってました。
ポゾー 情けないことだよ。しかし、もういるものはしょうがない。
エストラゴン 俺達にもどうしようもないことで。
(ラッキーが起き上がり、荷物を拾い集める音。ポゾーはロープを引いて)下がれ! (ラッキー、後ろ向きに登場)止まれ! (ラッキー、止まる)
回れ! (ラッキー、回る。ウラジミールとエストラゴンに愛想よく)君たちに会えて嬉しいよ。(二人が信じられないという顔をするので)
いやほんと、ほんと、嬉しいのなんのって。(ロープを引いて)もっと寄れ! (ラッキー、進み出る)止まれ! (ラッキー、止まる)」
そうとも、ずっと一人旅をしていると道は長いからね……(時計を見る)……うん、六時間か、そうだ、都合六時間になるが人っ子一人見かけなかったよ。
(ラッキーに)コートだ! (ラッキー、鞄を置いて進み出て、コートを渡す)持て! (ポゾー、鞄を差し出す。
ラッキー、進み出るが、両手が塞がっているため鞭を口にくわえ、元の位置に戻る。ポゾー、コートを着始めるが手を止めて)コート!
(ラッキー、鞄とバスケットと折りたたみ椅子を置いて進み出て、ポゾーがコートを着るのを手伝い、元の位置に戻って鞄とバスケットと椅子を持つ)
(ラッキー、進み出て身を屈める。ポゾー、ラッキーの口から鞭をひっつかむ。ラッキー、元の位置に戻る)
そうなんですよ、私は同類の人々との交流なしにやっていけないたちなんです。(眼鏡をかけて二人の同類を見て)
完全に同類ってわけじゃなくてもね。(眼鏡をはずして)椅子だ! (ラッキー、鞄とバスケットを置いて進み出て、椅子を開き、
元の位置に戻って鞄とバスケットを持つ)もっと近くに! (ラッキー、鞄とバスケットを置いて進み出て、
椅子を動かし、元の位置に戻って鞄とバスケットを持つ。ポゾーは腰かけ、鞭の柄をラッキーの胸に押し付けて)下がれ!
(ラッキー、後ずさる)もっとだ! (ラッキー、もう一歩後ずさる)止まれ! (ラッキー、止まる。ウラジミールとエストラゴンに)
そんなわけで、もしよろしければ、次の冒険に出かける前にしばし君達とお喋りしたいなぁ。バスケット!
(ラッキー、進み出てバスケットを手渡し、元の位置に戻る)新鮮な空気を吸うと疲れた胃も元気になるね。
(バスケットを開け、鶏肉一切れとワインを一瓶取り出して)バスケットだ! (ラッキー進み出てバスケットを持ち上げて元の位置に戻る)
もっと下がれ! (ラッキー、もう一歩後ずさる)こいつ、匂うんでね。幸せな日々に乾杯!
(瓶からワインを飲み、瓶を置き、鶏肉を食べ始める。沈黙。ウラジミールとエストラゴン、始めは用心深く、
次第に大胆にラッキーの周囲を回りながら、上から下までじろじろと観察する。ポゾー、鶏肉をむさぼり、骨までしゃぶってから捨てる。
ラッキー、ゆっくりと姿勢を崩し、鞄とバスケットが地面につきそうになるとびくっとして大勢を立て直すが、また姿勢を崩し始める。
立ったまま眠っている人のリズムだ)
ウラジミール 疲れてるみたいだ。
エストラゴン なんで鞄、置かないのかな?
ウラジミール 知るか。(二人、ラッキーに近寄る)気を付けろよ!
エストラゴン 何か言ってみてよ。
ウラジミール おい!
エストラゴン え?
ウラジミール (指差しながら)首、見ろよ!
エストラゴン (ラッキーの首を見て)別にどうってことないけど。
ウラジミール こっちだ。
エストラゴン、ウラジミールの脇に来る。
エストラゴン あちゃー。
ウラジミール 膿が出てる。
エストラゴン ロープだね。
ウラジミール こすれるんだな。
エストラゴン しょうがないよ。
ウラジミール 結び目だな。
エストラゴン すりむけてる。
二人はラッキーの観察を再開し、顔に目を止める。
ウラジミール (気が進まないふうで)顔は悪くないな。
エストラゴン (肩をすくめ顔をしかめて)そうかな?
ウラジミール ちょっと女っぽいけど。
エストラゴン よだれだ。
ウラジミール しょうがないよ。
エストラゴン 垂れ流してる。
ウラジミール 頭が足りないんだな。
エストラゴン 先天性だね。
ウラジミール (目を近付けて)甲状腺の病気かも。
ウラジミール 息切れしてる。
エストラゴン しょうがないよ。
ウラジミール それにこの目!
エストラゴン どうかした?
ウラジミール 飛び出してるよ、顔面から。
エストラゴン 死にかかってるんだよ。
ウラジミール それはどうかな。(間)何か聞いてみなよ。
エストラゴン いいのかなぁ。
ウラジミール 大丈夫だよ。
エストラゴン (おずおずと)あのぉ……
ウラジミール 声張って。
エストラゴン あのっ……。
ポゾー そっとしといてやろう! (二人、振り向く。ポゾーは食事を終えて手の甲で口を拭っている)分からないかなぁ、休みたがっているのが?
バスケット! (ポゾー、マッチを擦ってパイプに火を点けようとする。エストラゴン、地面に落ちている鶏の骨を目にして意地汚く見つめる。
ポゾー、ラッキーが動かないので怒ってマッチを投げ捨て、ロープを引く)バスケットだ!
(ラッキー、びっくりして倒れそうになり、我に返って進み出、ワインの瓶をバスケットに入れて元の位置に戻る。
ポゾー、二本目のマッチを擦ってパイプに火を点ける)しょうがないよ、あいつがやるような仕事じゃないんだから。
(パイプを吸い、両脚を伸ばして)ああ! 落ち着いた。
エストラゴン (おずおずと)あの、ちょっと……。
ポゾー どうした、君?
エストラゴン えっと……あの……もういいんですか? ……もう……いらない? ……あの……骨だけど。
ウラジミール (呆れて)待てなかったのか?
ポゾー いやいや、よく聞いてくれました。私に骨は必要か? (鞭の先で骨を転がして)いやいや、私個人には必要ない。(エストラゴン、骨に一歩近付く)しかし、だ……(エストラゴン、はたと立ち止まる)……しかし原則として、骨は荷物持ちのものである。だからやつに聞くべきだ。(エストラゴン、ラッキーの方を向き、ためらう)どうぞどうぞ、怖がることはない。聞けば答えるから。(エストラゴン、ラッキーの方に向かい、前で止まる)
エストラゴン あのぉ……ちょっと……
ポゾー お前に用事だそうだ、豚! 答えろ! (エストラゴンに)もう一度聞いてくれ。
ラッキーは長いことエストラゴンを見る。
ポゾー (大喜びで)失礼ですが、だって! (ラッキー、首を垂れる)答えろ! 骨が欲しいのか、欲しくないのか?
(ラッキー、沈黙。エストラゴンに)骨は君のものだ。(エストラゴン、骨に飛びついて拾い上げ、かじり始める)しかし気に入らんな。
こいつが骨を断るなんて前代未聞だ。(ラッキーを心配げに見て)病に倒れられたら厄介だからねぇ。(パイプをふかす)
ウラジミール (カッとなって)恥知らずめ!
沈黙。エストラゴン、びっくりしてかじるのをやめ、ポゾーとウラジミールを交互に見る。ポゾーは表面上は穏やか。ウラジミールは戸惑う。
ポゾー (ウラジミールに)何か特におっしゃりたいことでも?
ウラジミール (どもりつつも毅然として)人を……(ラッキーの方を示す身振り)……あんな風に扱うなんて……俺……無理……人間をあんな……
ダメでしょ……この恥知らず!
エストラゴン (負けじと)情けないことだ! (またかじり始める)
ポゾー 手厳しいな。(ウラジミールに)失礼だが、お歳は? (沈黙)六十歳? 七十歳? (エストラゴンに)この方、いくつ?
エストラゴン 十一。
発つ前にもう一服するなら話は別なんだけどね。いかが? (二人とも無言)と言っても、私はね、いつもはあんまり吸わないんだよ。
ほんのちょっとたしなむ程度でね。立て続けにぷかぷかなんて私の流儀じゃないんだ。(手を心臓にあてて溜息をついて)心臓がバクバクするからね。
(沈黙)ニコチンのせいだ。用心していても吸い込んでしまうものなんだよ。(ため息をついて)分かるよね。(沈黙)ひょっとして君ら、
吸わないのかな? 吸うの? 吸わないの? ま、どっちでもいいか。(沈黙)しかしなんだな、どうやってまた座ったらいいかなぁ。
わざとらしくない感じで。もう立ち上がっちゃったしなぁ。なんて言うか……ぎこちなく見えないように。(ウラジミールに)はい?
(沈黙)何か言わなかった? (沈黙)ま、どっちでもいいか。さてと……(考え込む)
エストラゴン ああ! 落ち着いた。(骨をポケットにしまう)
ウラジミール 行こう。
エストラゴン 今すぐ?
ポゾー ちょっと待った。(ロープを引く)椅子! (鞭で場所を指す。ラッキー、椅子を動かす)もっと! そこだ!
(椅子に座る。ラッキー、元の位置に戻る)座れた! (パイプを詰める)
ウラジミール (激しく)行くぞ!
ポゾー 私が追い立ててるんじゃないよね。ちょっと待ってもらえないか、後悔はさせないから。
エストラゴン (施しの匂いを嗅ぎ取って)俺達急いでないんで。
いや一服目ほどじゃないって意味だけど。(パイプをもう一度口に運んで)やっぱりうまいわ、これ。
ウラジミール 俺、行くわ。
ポゾー こちらは私の存在に我慢ならんよだなぁ。きっと私はあまり人間味がないんだな。けどそれがなんだ? (ウラジミールに)
急いては事を仕損じる、だ。君が今立ち去ったとしよう。まだ昼間だっていうのに。だってどう見たってまだ昼間でしょ。
(全員、空を見上げる)ね。(全員、空を見るのをやめる)すると、どうなる? ---(口からパイプを離し、確かめる)---消えてる---
(パイプに火をつけて)---すると---(パイプに息を吹きかけて)---すると---(息を吹きかけて)---すると君らの約束はどうなるんだ……
ゴデーだか……ゴドーだか……ゴダンだか……とにかく君らの将来がかかっている、その人物との約束だよ……
少なくとも近い将来はかかってるはずだ。
ウラジミール 何で知ってるんだよ!
ポゾー また話しかけてくれたよ! このままいけば、あっという間に旧知の仲だな。
エストラゴン 何であいつは荷物を置かないんだ?
ポゾー 私もその人に会えればきっと幸せになるよ。だって人に会うたびに幸せになるものでしょ。
どんな下等な生き物からも人は学び、心を豊かにし、自分の幸せをかみしめるものだ。君らだって……
(二人に話しかけてるのが分かるように、わざとらしく交互に見て)……君らだって、私に何かを与えてくれてる、のかもしれない。
エストラゴン 何であいつは荷物を置かないんだ?
ポゾー だとしたらびっくりだけどね。
ウラジミール ちょっとあなた、質問されてんですけどね。
ポゾー (大喜びで)質問か! 誰が? なんて? ちょっと前まで君らは私に敬語を使い、怖がって震えていた。なのにもう質問してくるとは。
先が思いやられるな、おい!
ウラジミール (エストラゴンに)どうやら通じてるみたいだぞ。
エストラゴン (ラッキーの周りを回りながら)え?
ウラジミール 聞くなら今だ。受け入れ態勢ばっちりだよ。
ウラジミール 何であいつは荷物を置かないか。
エストラゴン そこなんだよ、不思議なのは。
ウラジミール あいつに聞けよ、ほら。
ポゾー (この会話に聞き耳をたてながら、質問がうやむやにならないか心配して)君らが聞きたいのは、何故あいつが荷物をおろさないか、だね。
ウラジミール そ。
ポゾー (エストラゴンに)それで間違いないね?
エストラゴン あいつ息が荒いね。アザラシかよ。
ポゾー お答えしよう。(エストラゴンに)でも君、静かにしてくれないかな。苛々するんだよ!
ウラジミール おい。
エストラゴン へ?
ウラジミール これから喋るぞ。
エストラゴン、ウラジミールの傍らに行き、並んで動かずに待つ。
ポゾー よし。では、みんな、いいね? みんな、ちゃんと見てる? (ラッキーを見て、ロープを引く。ラッキー、顔を上げる)こっちを見ろ、豚!
(ラッキー、ポゾーを見る)よし。(パイプをポケットにしまい、小さな咽喉用スプレーを取り出して喉に噴霧し、ポケットに戻す。
咳払いをし、唾を吐き、またスプレーを出して喉に噴霧し、ポケットにしまって)準備万端だ。みんな聴いてる? 準備はいいかな?
(全員を順番に見て、ロープを引いて)おい豚野郎! (ラッキー、顔を上げる)一人空しく喋るのはやなんだよ。よし。さてと。(考え込む)
エストラゴン 俺、行くわ。
ポゾー 正確に言うとどんな質問だったかな?
ウラジミール 何であいつは---
ポゾー (怒って)口をはさむんじゃないよ! (間。少し穏やかに)一斉に喋ったらわけが分からないだろう。(間)何の話だったかな?
(間。もっと大きく)何の話だったかな?
ウラジミール、重い荷物を持っている人の真似。ポゾーはそれを見て首をかしげる。
(体を起こしてほっとしながら両手を広げて)何故?
ポゾー なんだ! もっと早く言ってくれればよかったのに。あいつは何で楽にしないかってことだね。よし、この際はっきりさせてやろう。
奴には権利がないのか? 勿論あるとも。ってことは、奴自身が楽したくないってことだ。筋の通った話だよ。じゃあ楽したくないのはなぜか?
(間)諸君、その理由っていうのはだね。
ウラジミール (エストラゴンに)ノートとっとけよ。
ポゾー 奴は私の心に訴えかけたいんだよ、放り出されないようにね。
エストラゴン どういうこと?
ポゾー 分かりやすい言い方じゃなかったかな。奴は私に取り入ろうとしてるんだ。そうすれば私が離れないだろうと思ってね。
いや、これも正確じゃないな。
ウラジミール あんた、あいつを追い払いたいのか?
ポゾー 奴の方が私を騙そうとしてるんだよ。そんなことはさせないがね。
ウラジミール 追い払うつもりなのか?
ポゾー 奴はね、一生懸命荷物を持ってるところを見せつければ、私がやつを手元に置き続けたくなると思ってるんだ。
エストラゴン だけどあんたはもう、うんざりなんだね。
ポゾー 実際、奴の運び方は豚並みだ。奴がやるような仕事じゃないんだよ。
ウラジミール だから追い払いたい?
ポゾー 奴はね、疲れ知らずの姿を見せつければ、私が決心を鈍らせると思ってるんだ。哀れな策略だよ。
まるで私が奴隷不足で困ってるみたいじゃないか! (三人ともラッキーを見る)奴ときたら、天空を支えるジュピターの息子、
アトラス気取りなんだよ! (沈黙)まあ、そんなところだ。他に何か? (スプレーで喉に噴霧する)
ウラジミール 追っ払いたいのかって聞いてるんだよ。
ポゾー いいかい、私が奴で奴が私だったかもしれないんだ。たまたまそうならなかっただけの話だ。人それぞれに役割があるんだよ。
ウラジミール ぱらいてぇのか?
ポゾー 失礼ですが?
ウラジミール 追っ払いたいのかと聞いてます。
善意ってわけだ。いい値がつくといいけどね。正直、こんな生き物を追い払うなんてできっこないからな。一番いいのは殺してやることだ。
(ラッキー、むせび泣く)
エストラゴン 泣いてるよ。
ポゾー 老いぼれた犬だってもう少し誇りってものがあるだろうになぁ。(ハンカチをエストラゴンに差し出して)可哀想だと思うなら、慰めてやってくれ。
(エストラゴン、ためらう)さあ。(エストラゴン、ハンカチを受け取る)涙を拭いてやりなさい。見棄てられてないって、奴もちょっとは感じるだろう。
エストラゴン、ためらう。
ウラジミール よこせよ。俺がやってやるよ。
エストラゴン、ハンカチを渡すのを拒む。子供っぽい、いやいやの仕草。
ポゾー 急がないと、泣き止んでしまうよ。(エストラゴン、ラッキーに近寄り、涙を拭こうとする。ラッキー、エストラゴンの向こう脛を激しく蹴る。
エストラゴンはハンカチを落として後ろに飛び退き、あまりの痛さに呻きつつ、足を引き摺って舞台を回る)ハンカチだ!
ラッキーは鞄とバスケットを置いてハンカチを拾い上げ、ポゾーに手渡し、元の位置に戻って鞄とバスケットを持つ。
エストラゴン 何だよ、この野郎! (ズボンのすそをめくりあげて)こいつのせいでびっこだよ!
ポゾー 奴はよそ者が嫌いだと言ったはずだ。
ウラジミール (エストラゴンに)見せてみな。(エストラゴン、足を見せる。怒ってポゾーに)血が出てるぞ!
ポゾー 元気なしるしだ。
エストラゴン (片足立ちで)もう二度と歩けないよ!
ウラジミール (やさしく)俺がおぶってやるよ。(間)必要なら、だけど。
誰かが泣き出せば、どこかで誰かが泣き止むってわけだ。笑いも同じだよ。(笑って)だから自分達の時代を悪く言うのは止めよう。
前の時代よりも不幸ってわけじゃないんだから。(間)褒めるには当たらないがね。(間)何も言わないことだ。(間。思慮深げに)
まあ人口が増えたのは確かだな。
ウラジミール 歩いてみなよ。
エストラゴン、足を引き摺りながら二、三歩歩き、ラッキーの前で立ち止まって唾を吐きかけ、土の盛り上がった所に座る。
ポゾー こういった美しいことを私に教えてくれたのは誰だと思う? (間。ラッキーを指差して)私のラッキーだよ。
ウラジミール (空を見上げて)夜はもう二度と来ないのかな?
ポゾー 奴がいなけりゃ、つまらないことしか考えたり感じたりできなかっただろう。(間。激烈に)仕事の悩みとかね! (穏やかに)
最高の美、品格、真実、そんなものには手が届かなかった。だから私はクヌークを手に入れたんだ。
ウラジミール (はっとして空を窺うのをやめて)クヌーク?
ポゾー あれからもう六十年になるか……(時計を見て)……そう、かれこれ六十年だ。(誇らしげに身を起こして)そんな歳には見えないだろう?
奴に比べれば、私は若者にしか見えないんじゃないか、え? (間)帽子! (ラッキー、バスケットを置いてかぶっていた帽子を取る。
長い白髪が顔にかかる。帽子を脇に挟んでバスケットを持つ)ほれ。(ポゾーは帽子を取る。完全な禿げ頭。また帽子をかぶる)見た?
ウラジミール なのにあんた、あいつを首にしようっていうのか? こんなに年取った忠実な召使いを。
エストラゴン 鬼!
ポゾーはだんだん動揺してくる。
ウラジミール さんざんうまい汁を吸った挙句にポイ捨てか、まるで……バナナの皮みたいに。全くもう……
もうやめてもらうしか……(両腕を振り回して)……気が狂いそうだよぉ……(両手で頭を抱えたまま崩れ落ちて)……ううっ我慢できない……
もうこれ以上は……
沈黙。全員、ポゾーを見る。
ウラジミール 我慢できないって。
エストラゴン もうこれ以上は。
ウラジミール 気が狂うって。
エストラゴン ひどいね。
ウラジミール (ラッキーに)お前、よくもこんな! 最低だな! こんないいご主人様を! 磔の刑かよ! 何年も一緒にいたっていうのに!
まったくもう!
ポゾー (すすり泣きながら)昔はとっても優しかったんだよ……助けてくれたし……楽しませてくれたし……私の天使だった……でも今はね……
私を殺そうとするんだよぉ。
エストラゴン (ウラジミールに)取り替えたいってことか?
ウラジミール え?
エストラゴン あいつを誰かと取り替えたいのかな。
ウラジミール そうじゃないだろ。
エストラゴン え?
ウラジミール 知らないよ。
エストラゴン 聞いてよ。
ポゾー (少し落ち着いて)諸君、ちょっとどうかしてた。すまん。私が今言ったことは全部忘れてくれ。(次第に自分を取り戻して)
自分でもよく思い出せないんだけど、私の言葉に真実はひとかけらもなかった。それだけは確かだよ。(身を起して、胸を叩いて)
大体私が苦しめられるような人間に見えるか? (ポケットを探って)パイプはどこにやったかな?
ウラジミール 素敵な夜だな。
エストラゴン 忘れがたい。
ウラジミール しかもまだ終わってない。
エストラゴン そうらしい。
エストラゴン ひどいな。
ウラジミール パントマイムの方がましだ。
エストラゴン サーカスとか。
ウラジミール ミュージックホールとか。
エストラゴン サーカスとか。
ポゾー ブライヤーパイプ、どうしたんだろう?
エストラゴン あいつ、見ものだな。パイプなくしてやんの。(けたたましく笑う)
ウラジミール すぐ戻るよ。(急いで舞台袖に向かう)
エストラゴン 廊下の突き当りを左だよ。
ウラジミール 席とっといて。(退場)
ポゾー カップ・アンド・ピーターソンのパイプ、なくしちゃったよ!
エストラゴン (おかしくて身をよじりながら)やめて! 死んじゃうよ!
ポゾー (顔を上げて)君達、ひょっとして知らない? ---(ウラジミールがいないことに気付いて)あれ! 行っちゃったのか!
さよならも言わないで! 何だよ! 待ってくれればよかったのに!
エストラゴン 待ってたら破裂してたよ。
ポゾー ああ! (間)まあそういうことなら……
エストラゴン おいでよ。
ポゾー なんで?
エストラゴン 来れば分かるよ。
ポゾー 立ち上がれってこと?
エストラゴン 早く! (ポゾー、立ち上がってエストラゴンの傍らに行く。エストラゴン、舞台袖を指差す)ほら!
ポゾー (眼鏡をかけながら)ああ、なるほどね!
エストラゴン 終了。
ポゾー ご機嫌ななめだな。
エストラゴン (ウラジミールに)いいとこ見逃したよ。残念でした。(ウラジミール、立ち止まり、椅子を起こし、行ったり来たりしながら、次第に落ち着く)
ポゾー 落ち着いたな。(周囲を見回して)いやあ、何もかも落ち着いたじゃないか。大いなる静けさの降臨だ。
(顔を上げて)ほら! 牧神もまどろんでいる。
ウラジミール 夜はもう二度と来ないのかな?
三人とも空を見上げる。
ポゾー 夜が来る前に出発する気はないんだろう?
エストラゴン そりゃあ、だって---
ポゾー いやごもっとも、ごもっとも。私だって君らの立場でゴダンだか……ゴデーだか……ゴドーだか……分かるよね?
その人物と約束してたとしたら、暗くなるまで待つよ。諦めるのはそれからだ。(椅子を見て)もう一度座れると嬉しいんだけど、
どうもやり方が分からないんだなぁ。
エストラゴン 何かお手伝いでも?
ポゾー 頼んでくれるといいかもね。
エストラゴン はい?
ポゾー 座るように頼んでくれる?
エストラゴン そんなことで?
ポゾー いいんじゃないかな。
エストラゴン じゃあいくよ。座ってよ、頼むから。
ポゾー いやいやそんな、お構いなく! (間。脇台詞で)もう一回頼んで。
エストラゴン まあそう仰らず、おかけくだせえ。お願いしますよ。じゃないと風邪をひいちまいますぜ。
ポゾー 君、本当にそう思うの?
エストラゴン そりゃもう絶対確実でござんすよ。
ポゾー 君の言う通りかもしれないな。(座って)やった、また座れた! ねえ君、感謝するよ。(時計を見て)
しかしそろそろ本当に出発しなければ。スケジュールを見るとね。
ウラジミール 時間は止まってるよ。
何を信じようと勝手だが、それだけは駄目だ。
エストラゴン (ポゾーに)今日のこいつには何でも真っ暗に見えちまうんだよ。
ポゾー この大空は別だけどね! (うまい切り返しに自己満足して笑う)いやいや私には分かるんだ。君らはこの土地の出じゃないんだろう?
ここの黄昏がどんなか、分からないのもしょうがない。私が教えてやってもいいぞ。
(沈黙。エストラゴンはブーツを、ウラジミールは帽子をいじくり回す)いや断れないなあ。(スプレーを使って)えへん、ちょっといいかな。
(ウラジミールとエストラゴンはいじくり続け、ラッキーは居眠りをしている。ポゾー、鞭を鳴らすが、か細い音しかしない)この鞭、どうしたんだ?
(立ち上がってもっと激しく鞭を鳴らし、やっとうまくいく。ラッキー、跳び上がる。ウラジミールは帽子を、エストラゴンはブーツを、
ラッキーは帽子をそれぞれ地面に落とす。ポゾー、鞭を投げ出して)この鞭も寿命だな。(ウラジミールとエストラゴンを見て)何の話だっけ?
ウラジミール 行こうぜ。
エストラゴン でもどうかお座りくだせえよ。死んじまいますぜ。
ポゾー それもそうだ。(座って、エストラゴンに)君の名は?
エストラゴン アダム。
(空を見て)ご覧。(ラッキー以外、空を見る。ラッキーはまた居眠りを始めている。ポゾー、ロープを引いて)空を見てくれよ、豚。
(ラッキーも空を見る)よし、もういいぞ。(全員空を見るのをやめる)この空の何がすごいかって? 空としてだ。淡い色で光が射していて、
昼間の今頃のありふれた空だ。(間)これぐらいの緯度ならどこも同じだよ。(間)お天気が良ければの話だが。(抒情的に)
けれどもなんと一時間前には(時計を見て、単調に)ま、だいたいそんなもんだ。(抒情的に)赤と白の光が絶え間なく降り注いでいたのでした。
(口ごもって、単調に)えっと午前十時ごろからかな、(抒情的に)目もくらむばかりに降り注いだ後、まばゆい光は次第にその輝きを失って、
空は青ざめ始めたのでした。(段々と両手が下りてくる仕草)そう、青ざめて、少しずつ淡~い色合いになって行ったのです。
やがて(ドラマチックな間。両手をぱっと広げる大袈裟な身振りで)バババババン! 終わってしまったぁ! で、今は小休止だ。
けれど---(警告を与えるように手を上げて)---けれどこの優しさと平穏のヴェールの陰に隠れて夜は着々と準備を整え、
(響き渡る声で)突然襲いかかって来るのであります、(指をパチッと鳴らして)バン! こんな感じで! (インスピレーションが去って行く)
思いがけないタイミングでね。(沈黙。暗い気持ちになって)まあこんなところだよ、この娼婦なる大地の上ではね。
長い沈黙。
ウラジミール 時期が来るのを待つだけだ。
エストラゴン 何を待てばいいのか、それだけ分かってれば。
ウラジミール もう心配しなくていい。
エストラゴン ただ待つだけだ。
ウラジミール 俺達、慣れっこだしな。(帽子を拾い上げて中を見回し、振ってからかぶる)
ポゾー 私の話、どうだった? (ウラジミールとエストラゴン、ぽかんとしてポゾーを見る)
面白かった? まあまあ? 普通? いまいち? 全然ダメ?
ウラジミール (先に理解して)オー、ベリー・グッド、ベリ・ベリ・グッドだったよ。
ポゾー (エストラゴンに)君は?
エストラゴン オー、トレ・ビヤーン、トレ、トレ、トレ・ビイヤーン。
ポゾー (熱を込めて)ありがとう、いや、ありがとう! (間)そういう励ましがなきゃやってられないよ! (間)
終わりの方、ちょっと弱くなかった? ねえ?
ウラジミール ああ、ほんのちょっと弱かったかもね、ちょこっとだけ。
エストラゴン わざとかと思ったよ。
ポゾー 記憶力がどうもね。
沈黙。
ポゾー 退屈ってこと?
エストラゴン まあね。
ポゾー (ウラジミールに)君は?
ウラジミール さっきの方が面白かったな。
沈黙。ポゾー、内面で葛藤する。
ポゾー 諸君、君らはその……私にちゃんと付き合ってくれたよね。
エストラゴン いやそんな。
ウラジミール とんでもない!
ポゾー いやいや、君らはちゃんとした人たちだよ。だから私は自分の心に聞いてみた。私にできることはないのか?
この善良な人たちがこんなに退屈を持て余している時に。
エストラゴン じゃあ十。
ウラジミール 俺達は乞食じゃないぞ。
ポゾー できることはないのか、この人達を盛り上げるために? 私は自分の心に聞いてみた。なるほど私は骨も差し上げたし、あれこれお話もした。
夕暮れについて説明もした。でもそれだけでよかったのか? そこだよ、悩ましいのは。それだけでよかったんだろうか?
エストラゴン 五でもいい。
ウラジミール (エストラゴンに、腹を立てて)もういいよ!
エストラゴン これ以上はまけられないね。
ポゾー もういいって? そりゃそうだろう。しかし私は気前がいい。そういう性質なんだな。特に今宵は。私にとっちゃあいい迷惑でもね。
(ロープを引く。ラッキー、ポゾーを見る)だって辛くなることは目に見えてるんだから。(鞭を拾い上げて)どれをやらせたい?
ダンスする、歌う、物語る、考える、それとも---。
エストラゴン え、誰が?
ポゾー 誰がって? 君達にものを考えられるわけないだろう。
ウラジミール こいつ、考えるのか?
(身震いして)私にとっちゃあいい迷惑だよ。まあいい、やつに考えてほしいってことだね? 我々のために何か。
エストラゴン ダンスの方がいいなあ。そっちの方が楽しいよ、きっと。
ポゾー いやそういうわけでも。
エストラゴン そっちの方が楽しそうだよね、ジジ。
ウラジミール 俺、考えてもらう派。
エストラゴン じゃあまずダンスして、それから考えてもらおうよ。そんなのあり?
ウラジミール (ポゾーに)いいかな?
ポゾー 勿論。朝飯前だよ。順番も自然だ。
ポゾー、短く笑う。
ウラジミール じゃあダンスからだ。
沈黙。
ポゾー 聞いてるのか、豚野郎!
エストラゴン 拒否したことないの?
ポゾー 一度だけね。(沈黙)踊れ、泣き虫野郎! (ラッキー、バスケットを置いて前に進み出てポゾーの方を向く。ラッキー、踊る。ラッキー、やめる)
エストラゴン これだけ?
ポゾー アンコール!
ラッキー、同じダンスを踊ってやめる。
エストラゴン けっ! 俺だって。(ラッキーを真似る。転びそうになって)ちょっと練習すればね。
ポゾー 昔はファランドールだってフリングだってブランルだってジグだってファンダンゴだって、なんならホーンパイプの舞曲だって踊れたもんだ。
飛び跳ねてたよ。大喜びでね。それが今じゃあ、あれが精一杯だ。あのダンスのこと、やつがなんて呼んでるか分かるか?
エストラゴン 苦しんでいる贖罪のヤギのダンス。
ウラジミール うんこが硬くてつらい時のダンス。
ポゾー 網だよ。網にからまってるつもりなんだ。
ウラジミール (審美家風に身をよじって)そういえば何かこう……
ポゾー (馬を止めるように)どーどーっ!
ラッキー、固まる。
エストラゴン 拒否した時のこと、話してくれよ。
ポゾー いいとも。いいとも。(ポケットを探って)ちょっと待った。(探って)喉のスプレーをどうしたかな? (探って)まさかひょっとして……
(顔を上げると呆然とした表情。息も絶え絶えに)噴霧器をなくして……しまったぁ……!
エストラゴン (息も絶え絶えに)私の左の肺はもう駄目……だ……! (弱々しく咳をする。響き渡る声で)しかし右の肺は絶好調だーっ!
ポゾー (普通の声で)どうってことないさ! さて何の話だったかな。(思案して)ちょっと待った。(思案して)まさかひょっとして……
(顔を上げて)一緒に思い出してくれよ!
エストラゴン ちょっと待った!
ウラジミール ちょっと待った!
ポゾー ちょっと待った!
三人同時に帽子を脱いで額に手を当て、集中する。
エストラゴン (勝ち誇って)ああ!
ウラジミール こいつ、思い出したな。
ポゾー (待ち切れずに)で?
エストラゴン 奴はなんで鞄を置かないのか。
ウラジミール アホか!
ポゾー 本当に?
ウラジミール あのね、その話はもう終わったでしょ?
ポゾー 終わったかな?
エストラゴン 終わったっけ?
ウラジミール とにもかくにも、荷物置いちまってるし。
エストラゴン (ラッキーをちらりと見て)だね。で?
ポゾー 鉄壁の論理だ!
エストラゴン でもなんで荷物を置いちゃったのかな?
ポゾー そこが知りたい。
ウラジミール ダンスだよ。
エストラゴン そうだったよ!
ポゾー そうだったな!
沈黙。三人とも帽子をかぶる。
エストラゴン 何も起こらない、誰も来ない、誰も行かない、もうやだよ!
ウラジミール (ポゾーに)奴に考えるように言ってくれよ。
ポゾー 帽子をかぶせてやってくれ。
ウラジミール 帽子?
ポゾー 帽子をかぶらないと考えられないんだ。
ウラジミール (エストラゴンに)帽子をかぶせてやれよ。
エストラゴン 俺が! あんなことされたのに! 絶対やだ!
ウラジミール 俺がやるよ。
ウラジミール、動かない。
エストラゴン (ポゾーに)奴に自分で拾うように言いなよ。
ポゾー かぶせてやった方がいいんだ。
ウラジミール 俺がやるよ。
ウラジミール、帽子を拾い、腕を伸ばしてラッキーに差し出す。ラッキーは動かない。
エストラゴン (ポゾーに)奴に受け取れって言いなよ。
ポゾー 頭にかぶせてやった方がいいんだって。
ウラジミール かぶせてやるよ。
ウラジミール、ラッキーの後ろに回り込んで慎重に近付き、頭に帽子をかぶせ、ささっと後ずさりする。ラッキーは動かない。沈黙。
エストラゴン 何待ち?
ポゾー 下がって! (ウラジミールとエストラゴン、ラッキーから離れる。ポゾー、ロープを引く。ラッキー、ポゾーを見る)
考えるんだ、豚! (間。ラッキー、ダンスを始める)ストップ! (ラッキー、やめる)前に出ろ! (ラッキー、進み出る)止まれ!
(ラッキー、止まる)考えろ!
沈黙。
ラッキー 一方、この件については……
ポゾー ストップ! (ラッキー、やめる)下がれ! (ラッキー、後ろに下がる)止まれ! (ラッキー、止まる)回れ! (ラッキー、観客席の方を向く)
考えろ!
①ウラジミールとエストラゴンは話に集中、ポゾーは落胆し嫌悪する。
②ウラジミールとエストラゴンは抗議し始め、ポゾーの苦しみは募る。
③ウラジミールとエストラゴンはまた耳を傾け、ポゾーはどんどん動揺し、罵る。
④ウラジミールとエストラゴンは激しく抗議し、ポゾーは飛び上がってロープを引く。
全員で抗議の叫び。ラッキーはロープを引き、よろめきながら、台詞を叫ぶ。
三人とも、もがいて台詞を叫んでいるラッキーに飛び掛かる。
神は白い髭たくわえクァクァクァクァ外延のない時間の外側で聖なる無関心聖なる無感動聖なる無言の高みから我々を愛し慈しみ給う
いや例外はあるな理由は不明いずれわかるよ神は人々と一緒に苦しみ給う聖なるミランダの如くその人々は苦しみの中に投げ込まれ
火の中に投げ込まれるのだ理由は不明いずれわかるよその火その炎は燃え上って天空をも焦がすのだ即ち地獄から非常に青く静かで
穏やかな天国まで焼き尽くすこと疑いなし天国は非常に穏やかでその穏やかさはたとえ時々途切れてもないよりはましいやちょっと待てよ
考えてみればおまけに可能世界ポッシーに置かれた実在エッシーの人体そそそ測定学アカカカカデミーの栄誉に輝いた
コーガンとコーマンの営みが最後までいかなかった結果人間の営みにつきものの疑念を除けば全く疑いの余地なく立証されたのは次の通り
いやちょっと待てよ理由は不明即ちパンチャーとワットマンの公的な研究の結果オナラフとゲッパーの営みが最後までいかなかったという観点
から全く疑いの余地なく立証されたのはつまり理由は不明コーガンとコーマンの営みが最後までいかなかったという観点から立証されたのは
即ち多くが否定しても立証されたのはコーガンとコーマンの可能世界ポッシーにおいて人は実在エッシーにおいて人は早い話が
人はつまるところ人は栄養補給と排泄の進歩にもかかわらず同時に並行してやせ衰えて衰弱してやせ衰えて衰弱して見えるということ
理由は不明おまけに身体文化の発展スポーツの実践例えばテニスサッカーランニングサイクリングスイミング飛ぶ浮かぶ乗る滑る
カモギイーで打つスケートテニス全般消滅しつつある飛ぶスポーツ全般秋の夏の冬の冬のテニス全般ホッケー全般一言で言えば
ペニシリンと代用薬にもかかわらずおっと話を戻そう同時に並行して理由は不明人は縮んでどんどん小さくなるテニスにもかかわらず
フェッカム・ペッカム・フルハム・クラッパムにおいて即ち同時に並行しておまけに理由は不明いずれわかるよ人はやせ衰えて
だんだん小さくなる話を戻そう一言で言えばフルハム・チャップマンだ一人当たりの損失はバークレー司教の死以来おおよそ
だいたい多かれ少なかれ一人当たり一インチ百グラムにまで少数丸めて甘く計って丸く太った数字は丸裸だがコネマロでは足に
ストッキング履いてるよ一言で言えば理由は不明どうでもいい事実はどうだっていいもっとずっとずっと重大なことがあるように思われる
おまけにもっとずっとずっと重大なことはつまり光に照らせば光だよシュタインベックとペテルマンの最後までいかなかった骨折り損の光に
照らせばシュタインベックとペテルマンの最後までいかなかった骨折り損の光に照らせばつまり平地に山間部に海辺に川べりに流れる水
流れる火空気は同じそれから大地も即ち空気それと大地は大寒波と深い闇に覆われて空気と大地石ころごろごろ大寒波に覆われたのだ
ああ悲しい第七紀に空気大地海大地石ころごろごろ水の底深く大寒波にに見舞われて海も陸もそして空気も話を戻そう理由は不明
テニスにもかかわらず事実はそこにあるいずれわかるよ話を戻そうああ悲しいさてさて手短に言えば要するにさてさて石ころごろごろ
誰にも疑いようがない話を戻そういやちょっと待てよ話を戻そう頭蓋骨はやせ衰えて衰弱して同時に並行しておまけに理由は不明テニスにも
かかわらずさてさて髭も炎も涙も石ころも本当に青く本当に穏やかああ悲しいさてさて頭蓋骨頭蓋骨頭蓋骨コネマラの頭蓋骨テニスにも
かかわらず営みは放棄されて最後までいかずもっと重大なのは一言で言えば石ころごろごろ話を戻そうああ悲しい放棄されて終わらなかった
頭蓋骨コネマラの頭蓋骨テニスにもかかわらず頭蓋骨ああ石ころコーマン(乱闘。大声でわめいて)テニス……石ころ……
本当に穏やかで……コーマン……最後までいかな……
ウラジミールはラッキーの帽子を奪い取る。ラッキー、沈黙。ラッキー、倒れる。沈黙。勝者たちは喘いでいる。
エストラゴン ざまあみろ!
ウラジミール、帽子を調べ、内側をのぞく。
ポゾー よこすんだ! (帽子をウラジミールの手からひったくり、地面に投げ捨て、踏みつけて)奴が考えるのもこれでお終いだ!
ウラジミール でもこいつ、歩けるのかな?
ポゾー 歩けなきゃ這って進めばいいんだ! (ラッキーを蹴飛ばして)立て、豚!
エストラゴン 死んじゃったんじゃないの。
ウラジミール 殺す気かよ?
ポゾー 立て、このごくつぶし! (ロープを引っ張って)手伝ってくれ!
ウラジミール どうやって?
ポゾー 立ち上がらせるんだよ。
ウラジミールとエストラゴンはラッキーを立ち上がらせ、一瞬支えるが、手を放す。ラッキー、倒れる。
エストラゴン わざとやってんだよ!
ポゾー ちゃんと支えてくれなくちゃ。(間)ほらほら立ち上がらせて!
エストラゴン 地獄に堕ちろ!
ウラジミール なあ、もう一回だけ。
エストラゴン 俺達をなんだと思ってんだよ。
二人はラッキーを抱え上げる。
しっかり支えて! (ラッキーの手に鞄を持たせる。ラッキー、あっという間に落とす)放すんじゃないぞ!
(鞄をラッキーの手にもう一度握らせる。カバンの重みを感じて、ラッキーは次第に感覚を取り戻し、鞄の取っ手を自分で握る)
しっかり支えて! (バスケットを同様に持たせて)よし! 放していいぞ! (ウラジミールとエストラゴン、ラッキーから離れる。
ラッキー、よろめいたりふらついたり身体をだらりと折ったりしながらも、どうにかこうにか鞄とバスケットを持ったまま立っている。
ポゾー、後ずさりして鞭を鳴らして)進め! (ラッキー、よろめきながら前進する)下がれ! (ラッキー、よろめきながら下がる)回れ!
(ラッキー、回る)よっしゃ! もう歩けるな。(ウラジミールとエストラゴンの方を振り返って)諸君、ありがとう。是非とも諸君には……
(ポケットを探って)……ぜひとも……(探って)……ぜひ……(探って)……時計をどこへやったかな? (探って)
ハーフハンタースタイルのガラス蓋とデッドビート・エスケープメント、即ち直進脱進機つきの由緒正しい懐中時計だよ、諸君。
(涙にむせびながら)おじいちゃんにもらったんだよ! (地面を探す。ウラジミールとエストラゴンも同様に地面を探す。
ポゾーは形をとどめていないラッキーの帽子を足で裏返す)こうなったら---
ウラジミール チョッキのポケットかもね。
ポゾー ちょっと待って。(耳を腹につけようと体を折り曲げ、耳を澄ます。沈黙)何も聞こえないな。
(二人を手招きする。ウラジミールとエストラゴン、ポゾーに近寄り、身体を曲げてポゾーの腹に耳を当てる)チクタク聞こえるだろ。
ウラジミール 静かに!
三人とも体を折り曲げて耳を澄ます。
ポゾー どこから?
ウラジミール そりゃ心臓だよ。
ポゾー (がっかりして)なんじゃい!
ウラジミール うるさいよ!
エストラゴン 止まっちゃったんじゃないの。
三人とも体を起こす。
ポゾー 臭いのはどっちだよ?
エストラゴン 口が臭いのはこいつ、足が臭いのは俺。
ポゾー もう行かなくちゃ。
エストラゴン ハーフハンタースタイルの懐中時計はいいの?
ポゾー 領地に忘れてきたんだろう。
沈黙。
エストラゴン それでは、アデュー。
ポゾー アデュー。
ウラジミール アデュー。
ポゾー アデュー。
沈黙。誰も動かない。
ウラジミール アデュー。
ポゾー アデュー。
エストラゴン アデュー。
沈黙。
ウラジミール こちらこそ。
ポゾー いやいやそんな。
エストラゴン いやほんと。
ポゾー いやいや。
ウラジミール ほんとほんと。
エストラゴン いやいや。
沈黙。
ポゾー なんだか……(長いことためらって)……立ち去りがたいなぁ。
エストラゴン それが人生だ。
ポゾーは向きを変えてラッキーから遠ざかり、ロープを繰り出しながら袖に向かう。
ウラジミール そっちじゃないよ。
ポゾー 助走がいるんだよ。(ロープが伸びきるところ、つまり舞台袖で止まり、向きを変えて叫ぶ)下がって!
(ウラジミールとエストラゴンは下がってポゾーの方を見る。鞭の音)進め! 進め!
エストラゴン 進め!
ウラジミール 進め!
ラッキー、動き始める。
進め! 進め! (ポゾー、まさに退場しようとする瞬間、立ち止まって振り返る。ロープがぴんと張る。ラッキーが倒れる大きな音)
椅子! (ウラジミール、椅子をひっつかんでポゾーに渡す。ポゾー、ラッキーに投げる)アデュー。
ウラジミールとエストラゴン (手を振りながら)アデュー! アデュー!
ポゾー 起きろ、豚! (ラッキーが起き上がる大きな音)進め! (ポゾー退場)もっと速く! 進め! アデュー! 豚! それっ! アデュー!
長い沈黙。
ウラジミール 暇つぶしになったな。
エストラゴン 何やってたって時は経つよ。
ウラジミール そうだけど、こんなに速くないだろ。
間。
エストラゴン 今度は何する?
ウラジミール さあな。
エストラゴン 行こうよ。
ウラジミール 駄目だよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン (絶望的に)ああもう!
間。
ウラジミール 変わったよな、あいつら!
エストラゴン 誰?
ウラジミール あの二人組だよ。
エストラゴン ああいいね。ちょっと会話してみようか。
ウラジミール 変わったよな?
エストラゴン え?
ウラジミール 変わったって。
エストラゴン かもね。皆変わっていくんだ。変われないのは俺達だけだよ。
エストラゴン うんまあね。でも知らないもん、あいつらのこと。
ウラジミール いや知ってるよ。
エストラゴン いや知らないね。
ウラジミール 俺たち知ってるんだってば。お前、なんでも忘れちまうんだな。(間。独り言)あいつらが別人だったら話は違うけど。
エストラゴン じゃあ何であいつら、俺達のことが分からなかったんだよ。
ウラジミール 愚問だな。俺だってあいつらのこと、分からないふりしたし。それに俺達のことなんか、誰も分かりゃしないよ。
エストラゴン もういいよ。大事なのは---いてっ! (ウラジミール、無反応)いてて!
ウラジミール 別人だったとしたら……
エストラゴン ジジ! 今度はこっちの足! (よたよたと土の盛り上がった所まで歩く)
ウラジミール 別人だったとしたら……
少年 (舞台袖から)おじさん!
エストラゴン、立ち止まる。二人とも声がした方を向く。
エストラゴン また始まるぞ。
ウラジミール おいで、坊や。
少年、おどおどしながら登場。立ち止まる。
少年 アルバートさん……?
ウラジミール そうだよ。
エストラゴン 何しに来た?
ウラジミール おいで。
少年、動かない。
エストラゴン 来いって言ってるのが分かんないのか?
少年、おどおどしながら進み、立ち止まる。
少年 ゴドーさんが……
ウラジミール やっぱり……(間)おいで。
エストラゴン (激しく)来いってば! (少年、おどおどしながら進む)なんでこんなに遅かったんだよ?
ウラジミール ゴドーさんから伝言あるんだろ?
少年 はい。
ウラジミール そうか。どんな伝言だい?
エストラゴン 何でこんなに遅かったんだよ?
少年はどちらに答えればいいか分からず、かわるがわる二人を見る。
ウラジミール (エストラゴンに)放っといてやれよ。
エストラゴン (激しく)放っといてほしいのはこっちだよ。(少年に近寄って)今何時か分かってるのか?
少年 (後ずさりしながら)僕のせいじゃありません。
エストラゴン じゃあ誰のせいだよ? 俺か?
少年 怖かったんです。
エストラゴン 何がだよ? 俺達か? (間)答えろよ!
ウラジミール 分かってるって。あいつらが怖かったんだよな。
エストラゴン お前、いつからここにいた?
少年 だいぶ前から。
ウラジミール 鞭の音だろ?
少年 はい。
ウラジミール 大声もだね。
少年 はい。
ウラジミール 大きな男二人も。
少年 はい。
ウラジミール あいつらのこと、知ってるのか?
少年 僕、分かりません。
ウラジミール 君、この土地の子か? (沈黙)ここらが地元なのか?
少年 はい。
エストラゴン 全部嘘っぱちだよ。(少年の腕をつかんでゆすりながら)本当のこと言えよ。
少年 (震えながら)でも本当なんです。
エストラゴンは手をだらりと下げるが、その顔は歪んでいる。)一体どうしたんだよ?
エストラゴン 俺、不幸だ。
ウラジミール そんなことないだろ! いつからだよ?
エストラゴン 忘れた。
ウラジミール 記憶ってのはびっくりするような悪さをするからな! (エストラゴン、喋ろうとするが諦めて、びっこを引きながら元の場所に戻る。少年に)で?
少年 ゴドーさんが---
ウラジミール 君、前にも会ったことあるよな?
少年 僕、分かりません。
ウラジミール 俺のこと、分からないのか?
少年 分かりません。
ウラジミール 昨日来たのは君じゃないのか?
少年 僕じゃありません。
ウラジミール 今日が初めて?
少年 はい。
沈黙。
ウラジミール 言葉、言葉、か。(間)それで?
少年 (急いで)ゴドーさんからの伝言で、今夜は来られないけど、明日は必ずって。
沈黙。
ウラジミール それだけ?
少年 それだけ。
沈黙。
少年 そうです。
ウラジミール どんな仕事?
少年 山羊の世話。
ウラジミール ゴドーさんは君に優しい?
少年 優しいです。
ウラジミール 殴ったりしない?
少年 いえ、僕のことは。
ウラジミール じゃあ誰を殴るの?
少年 お兄ちゃん。
ウラジミール ああ、お兄ちゃんがいるんだね。
少年 はい。
ウラジミール お兄ちゃんの仕事は?
少年 羊の世話。
ウラジミール ゴドーさんはなんで君を殴らない?
少年 僕、分かりません。
ウラジミール 君のことが好きなんだな。
少年 分かりません。
沈黙。
少年 たっぷり。
ウラジミール 君は不幸じゃないんだな? (少年、ためらう)聞いてるのか?
少年 聞いてますけど。
ウラジミール で?
少年 僕、分かりません。
ウラジミール 自分が不幸かどうか分からないのか?
少年 分かりません。
ウラジミール 俺と同じくらい馬鹿だな。(沈黙)君はどこで寝る?
少年 屋根裏です。
ウラジミール お兄ちゃんと一緒?
少年 はい。
ウラジミール 干し草の中で?
少年 はい。
沈黙。
ウラジミール もういいよ、帰んな。
少年 ゴドーさんにはなんて?
ウラジミール そうだなぁ……(ためらって)俺達に会ったって。(間)本当に俺達に会ったよね、君。
少年 会いました。
少年は後ずさりして、ためらってから、踵を返して走って退場。照明が急に落ちる。
一瞬にして夜だ。背景に月が出て、空に昇り、静止。舞台上に青白い光を投げかける。
舞台の一番前にブーツを置き、体を起こして月をじっと見つめる)何してる?
エストラゴン 疲れきって青ざめてる。
ウラジミール はあ?
エストラゴン 天に昇って俺達人間を見つめるのに疲れてるんだ。
ウラジミール お前のブーツだよ。ブーツ、どうする気だ?
エストラゴン (振り向いてブーツを見て)ここに置いていくよ。(間)他の奴が来るよ、丁度……えっと……
俺みたいな奴が。でも、もっと足が小さいんだ。このブーツを履けばハッピーになるよ。
ウラジミール けどお前、裸足じゃ歩けないよ。
エストラゴン キリストは歩いた。
ウラジミール キリストだぁ! キリストは関係ないだろ。お前、キリストと自分を一緒にする気かよ!
エストラゴン 俺、今までずっと自分とキリストを一緒にしてきた。
ウラジミール けど、キリストがいたのはな、暖かい土地なんだよ。からっとした。
エストラゴン うん。それにあっという間に磔になった。
沈黙。
ウラジミール もう、ここにいてもしょうがないな。
エストラゴン どこへ行ったってしょうがないよ。
ウラジミール おいゴゴ、そんな言い方するなよ。明日になればうまくいくって。
エストラゴン なんで分かるの?
ウラジミール 聞いてなかったのか、あの子が言ったこと。
エストラゴン うん。
ウラジミール ゴドー、明日は必ず来るってさ。(間)どうよ?
エストラゴン じゃあ俺達、ここで待ってればいいんだね。
ウラジミール 馬鹿だな。夜露をしのがなきゃ。(エストラゴンの腕をとって)おいで。
ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。最初は従うが、やがて抵抗する。二人、立ち止まる。
ウラジミール ほら、寒いよ。
ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。前と同じ。
エストラゴン 明日、言ってよね。ロープを忘れるなって。
ウラジミール 分かったよ。おいで。
ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。前と同じ。
エストラゴン 俺達、つるんでからどれくらいになる?
ウラジミール さあな。五十年ぐらいか。
エストラゴン ねえ覚えてる? 俺がローヌ川に身投げした日のこと。
ウラジミール 葡萄摘んでたっけ。
エストラゴン お前が俺を釣り上げちゃった。
ウラジミール みんな終わったことだ。もうとっくに忘れちまった。
エストラゴン 日の光を浴びて服が乾いたっけ。
ウラジミール もういいよ、思い出話は。行こう。
ウラジミール、エストラゴンを引っ張っていく。前と同じ。
エストラゴン 待って。
ウラジミール 寒いよ!
エストラゴン 待ってったら! (エストラゴン、ウラジミールから離れて)俺達、別々にいた方がよかったんじゃないかな、お互いひとりひとりで。
(舞台を横切って、土の盛り上がった所に座って)同じ道を行くようには出来てなかったんだよ。
ウラジミール (怒らないで)よく分からん。
エストラゴン うん、よく分からないね、何もかも。
ウラジミール、ゆっくりと舞台を横切り、エストラゴンの横に座る。
エストラゴン もう手遅れだよ。
沈黙。
ウラジミール そうだな。もう手遅れだな。
エストラゴン じゃあ、行こうか?
ウラジミール うん、行こう。
二人、動かない。
幕。
翌日。同じ時間。同じ場所。
エストラゴンのブーツが、踵を揃えてつま先を開いた格好で、舞台前面中央に置いてある。同じ場所にラッキーの帽子。
木には四、五枚の葉っぱ。
ウラジミール、興奮して登場。立ち止まってじっと木を見、やおら鼻息も荒く舞台中を動き回り始める。
ブーツの前で立ち止まり、片方をつまみ上げ、調べ、匂いを嗅ぎ、嫌悪感を露にし、そっと元に戻し、行ったり来たりする。
下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、片手を目の上にかざして遠くを見渡し、行ったり来たりする。
上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、同じことをする。行ったり来たりする。いきなり立ち止まって大声で歌い始める。
犬が忍び込んだよキッチンに
パンを盗んだってさ
そしたらコックが現れて
おたまで叩き殺しちゃったとさ
そしたら犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘っ---
(中断して考え込み、また歌い出す)
そしたら犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘ったってさ
そして墓石にこう刻んだよ
犬たちの目につくようにさ
犬が忍び込んだよキッチンに
パンを盗んだってさ
そしたらコックが現れて
おたまで叩き殺しちゃったとさ
そしたら犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘っ---
(中断して考え込み、また歌い出す)
すると犬が走って来たよみんなで
犬の墓を掘っ---
(中断して考え込み、低い声で)
犬の墓を掘ったってさ……
木の前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、ブーツの前でいったん立ち止まり、行ったり来たりし、下手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、
遠くを見つめ、上手の舞台袖ぎりぎりのところで立ち止まり、遠くを見つめる。エストラゴン、裸足でうなだれて下手から登場。ゆっくりと舞台を横切る。
ウラジミール、振り向いてエストラゴンを見る。
ウラジミール また来たな! (エストラゴン、立ち止まるが頭を上げない。ウラジミール、エストラゴンの元へ行く)おいで、抱き締めてやるから。
エストラゴン 触るなよ!
ウラジミール、思いとどまる。傷ついて。
ウラジミール あっち行けってか? (間)ゴゴ! (間。ウラジミール、エストラゴンをじっくり観察して)殴られたのか? (間)ゴゴ!
(エストラゴン、黙ってうなだれたまま)昨夜どこにいた?
エストラゴン 触るなよ! 聞くなよ! 話しかけるなよ! 一緒にいてよ!
ウラジミール お前のこと、放っといたことなんてあったか?
エストラゴン 俺のこと、止めなかったよね。
ウラジミール こっち向いて。(エストラゴン、顔を上げない。激しく)ちょっと見てくれないかな!
エストラゴン、顔を上げる。二人、長い間見つめ合い、突然抱き合って、互いの背中を叩き合う。抱擁終了。エストラゴン、支えを失って転びそうになる。
ウラジミール 誰に殴られたんだよ? 行ってみな。
エストラゴン おかげでまた一日が過ぎた。
ウラジミール まだだよ。
エストラゴン 俺にとっては、もう終わったんだ、これから何が起こったってさ。(沈黙)お前、歌うたってただろ。
ウラジミール そういや、歌ってたな。
エストラゴン やられたよ。俺、思ったんだ、あいつは独りぼっちだ、俺が永遠に行っちゃったと思ってる。なのに歌なんか歌ってるって。
ウラジミール 気分ってものは思い通りにはいかないもんだ。俺、一日中元気はつらつだったんだよ。(間)夜中に一回も起きなかったからな!
エストラゴン (悲しげに)ほらね、俺がいない方がおしっこの出がいいんじゃないか。
ウラジミール 淋しかったよ……と同時にハッピーだった。おかしいよな。
エストラゴン (ショックを受けて)ハッピーだった?
ウラジミール 適切な言葉じゃないかもしれないけど。
エストラゴン で、今はどうなの?
ウラジミール 今? ……(嬉しそうに)またお前と一緒だ……(淡々と)また二人一緒かよ……(暗く)またここか。
エストラゴン ほらね、俺が一緒だと落ち込むんだ。俺だって独りの方が気分いいよ。
ウラジミール (いらっとして)じゃあ、なんでいつもぼろぼろになって戻って来るんだよ。
エストラゴン さあね。
ウラジミール 俺にはちゃーんと分かってる。お前は自分の身を守れないからな。俺が一緒だったら殴らせたりしなかったよ。
エストラゴン そんなに甘かないよ。
ウラジミール どういうことだよ。
エストラゴン 十人いたんだから。
ウラジミール 違うよ。俺が言ってるのは、殴られる前の話だ。人から殴られるようなことをお前にさせなかったってことだよ。
エストラゴン 何もしてないよ。
ウラジミール じゃあなんで殴られたんだよ。
エストラゴン 知るか。
エストラゴン だって、何もしてないもん。
ウラジミール そうかもな。けど、物事には、ちゃんとしたやり方ってものがあるんだよ、やり方ってものが。お前がそのまんま生きていきたいならね。
エストラゴン 何もしてないってば。
ウラジミール お前だって嬉しいはずだよ、本当は。気付いていないだけで。
エストラゴン 嬉しいって、何が?
ウラジミール 俺の所に帰ってきたことだよ。
エストラゴン よく言うよ。
ウラジミール とりあえず言ってみなよ。嘘でもいいから。
エストラゴン 何て?
ウラジミール 嬉しいなって。
エストラゴン 嬉しいな。
ウラジミール 俺も。
エストラゴン 俺も。
ウラジミール 俺達、ハッピー。
エストラゴン 俺達、ハッピー。(沈黙)で、どうする? ハッピーになったところで。
ウラジミール ゴドーを待つ。(エストラゴン、呻き声を出す。沈黙)昨日から変化したことだってあるんだよ。
エストラゴン けど、もし来なかったら?
ウラジミール (一瞬うろたえて)その時になったら考えよう。(間)昨日から変化したことがあるって言っただろ。
エストラゴン 何もかもじわじわ減っていくんだ。
ウラジミール 見ろよ、あの木。
エストラゴン 膿の量だって一瞬一瞬で変わっていく。
ウラジミール 木だよ、あの木、見てみなって。
エストラゴン、木を見上げる。
ウラジミール あったよ、勿論。覚えてないのか? もうちょっとで首吊るとこだったんだぞ。お前、吊らなかったけどさ。忘れちまったのか?
エストラゴン 夢でも見たんだろ。
ウラジミール もう忘れたって、そんなのあり?
エストラゴン 俺ならね。すぐ忘れるか、絶対忘れないかどっちかだ。
ウラジミール じゃあ、ポゾーとラッキーは? あいつらのことも忘れたのか?
エストラゴン ポゾーとラッキーって?
ウラジミール こいつ、何でもかんでも忘れちまうよ!
エストラゴン そういえばあ、俺の向こう脛を蹴っ飛ばした頭のいかれた奴、いたなぁ。そいつ、なんか馬鹿やってた。
ウラジミール それ、ラッキーだよ。
エストラゴン 思い出した。でも、それ、いつだっけ?
ウラジミール そいつのボスがいただろ? 覚えてないか?
エストラゴン 骨、もらった。
ウラジミール それがポゾーだ。
エストラゴン で、それが全部昨日のことだっていうわけ?
ウラジミール その通り。
エストラゴン で、今俺達がいるのは?
ウラジミール どこだと思う? ここ、見覚えないか?
エストラゴン (いきなり激怒して)見覚え! そんなもんあるわけないだろ! 俺のお粗末な人生でさ!
泥の中をはいずり回ってきたっていうのに! よく俺に向かって、風景の話なんか! (周囲を荒々しく見回して)見ろよ、この糞の山!
ここから出られたことあったか!
ウラジミール まあまあ。
エストラゴン 景色って、なんだよ! ウジ虫の話でもしてろよ!
ウラジミール だからってお前、これ(身振りで示して)がマコン地方と似てるなんて言うなよ。全然違うからな。
エストラゴン マコン地方だと! 誰がマコン地方のことなんか言ったよ!
ウラジミール でもお前、マコン地方にいたことあったよな。
ウラジミール けど、俺たちマコン地方にいたじゃないか、誓ってもいい。一緒に葡萄摘んでただろ、ほら、あの人の家だ(指を鳴らして)
……名前は思い出せないけど、ほら、あそこだ(指を鳴らして)……場所の名前も思い出せないけど。覚えてない?
エストラゴン (少し落ち着いて)かもね。俺、なんでも見過ごしちゃうからね。
ウラジミール え、あそこじゃなんでもかんでも赤かったのに!
エストラゴン (爆発して)俺はなんでも見過ごすんだってば!
沈黙。ウラジミール、深いため息。
ウラジミール お前とやってくのは難しいよ、ゴゴ。
エストラゴン 別れた方がいいかもね。
ウラジミール そればっかりだ。ぼろぼろになって戻って来るくせに。
エストラゴン 俺を殺すのが一番だよ。他の奴みたいにさ。
ウラジミール 他の奴? (間)他の奴って?
エストラゴン 他の何十億人もの奴。
ウラジミール (格言ぽく)人は皆小さき十字架を背負うものなり。(ため息をついて)やがてその生を終えるまで。(思いついて)そして忘れられる。
エストラゴン じゃ、とりあえず穏やかに話をしようよ。黙ってるなんてできっこないんだからさ。
ウラジミール それもそうだな。俺達、話のネタは尽きないからな。
エストラゴン おかげでものを考えなくて済むね。
ウラジミール 言い訳が立つからな。
エストラゴン おかげで聞かなくて済むよね。
ウラジミール 理由があるからな。
エストラゴン この死んだ奴ら全員の声をさ。
ウラジミール こいつら羽音みたいにかさかさ音をたてる。
エストラゴン 木の葉っていうか。
ウラジミール 砂というか。
エストラゴン 木の葉っていうか。
沈黙。
エストラゴン みんな独り言だけど。
沈黙。
ウラジミール というか、ささやく。
エストラゴン ひそひそ。
ウラジミール ざわざわ。
エストラゴン ひそひそ。
沈黙。
ウラジミール こいつら、なんて?
エストラゴン 自分の人生のこと喋ってんだよ。
ウラジミール 生きただけじゃ足りないんだな。
エストラゴン 喋らずにいられないんだ。
ウラジミール 死んだだけじゃ足りないんだな。
エストラゴン 足りないんだよ。
沈黙。
ウラジミール 羽みたいにかさかさ音をたてる。
エストラゴン 木の葉っていうか。
ウラジミール 灰というか。
エストラゴン 木の葉っていうか。
長い沈黙。
エストラゴン えーっと。
長い沈黙。
ウラジミール (怒って)なんか言えったら!
エストラゴン 今、何してるんだっけ?
ウラジミール ゴドーを待ってる。
エストラゴン ああもう!
沈黙。
ウラジミール 駄目だな!
エストラゴン 歌ってよ。
ウラジミール 駄目駄目! (思案して)始めからやり直してみる?
エストラゴン それ、簡単そうだ。
ウラジミール 出だしが難しいけど。
エストラゴン 出だしなんか、何だっていいよ。
ウラジミール だな。でも、決めなくちゃ。
エストラゴン だね。
沈黙。
ウラジミール 協力しろよ!
エストラゴン えーっと。
沈黙。
エストラゴン くる、くる。
ウラジミール 聞こえてくると、見つからなくなるよな。
エストラゴン なる、なる。
ウラジミール そうすると考えなくなるよな。
エストラゴン でも考えてるじゃん。
ウラジミール いやいや、そんなわけないよ。
エストラゴン それだよ、言い合いしてみようよ。
ウラジミール 考えてないってば。
エストラゴン って考えてるんだろ。
ウラジミール 俺達はもう、ずーっと考え続ける心配はないんだってば。
エストラゴン だったら俺達、なんで文句言ってるんだよ。
ウラジミール 考えることだって最悪ってわけじゃないし。
エストラゴン かもね。けど少なくともあれだよ。
ウラジミール あれって?
エストラゴン それだよ、質問し合えばいいんだ。
ウラジミール 少なくともあれだよってどういう意味だよ。
エストラゴン この方がずーっとましだってこと。
ウラジミール 確かに。
エストラゴン ね? 自分達の幸運に感謝したらどうかな?
ウラジミール 怖いのはさ、もうとっくに考えちゃったってことだよ。
エストラゴン でも、俺達、考えたことなんてあったっけ?
ウラジミール この死んだ奴ら全員、どこから来たんだよ?
エストラゴン この骸骨達か。
ウラジミール な。
エストラゴン 確かに。
ウラジミール 俺達、ちょっと考えちゃっただろ。
エストラゴン 始まった途端にね。
ウラジミール 死体安置所だな! 死体安置所!
エストラゴン 見なくていいよ。
ウラジミール どうしたって目に入るだろ。
エストラゴン 確かに。
エストラゴン はい?
ウラジミール 流れに任せるんだ。
エストラゴン 思い切って素の状態に戻るべきだね。
ウラジミール そうしてきたよな、俺達。
エストラゴン 確かに。
ウラジミール そうだ、やっぱり最悪ってわけじゃないよ。
エストラゴン 何が?
ウラジミール 考えちゃったってことさ。
エストラゴン 当たり前だよ。
ウラジミール けど、考えなくてもよかったんだ。
エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?(フランス語で「しょうがないじゃないですか」の意)
ウラジミール は?
エストラゴン ク・ヴレ・ヴ?
ウラジミール ああ、ク・ヴレ・ヴね! おっしゃる通り。
沈黙。
エストラゴン 小手調べとしては、悪くなかったよね。
ウラジミール まあな。けど今度はまた別のネタを見つけなきゃ。
エストラゴン えーっと。
エストラゴン、帽子を脱いで集中する。
ウラジミール えーっと。(帽子を脱いで集中する。長い間)あっ!
二人、帽子をかぶり、リラックス。
エストラゴン で?
ウラジミール 俺、なんて言ったよ? そこから始めればいいんだ。
エストラゴン なんて言ったか? いつ?
ウラジミール 一番初めだよ。
ウラジミール 今夜……えっと……えーっと……
エストラゴン 俺、歴史学者じゃないからね。
ウラジミール えっと……抱き合って……ハッピーになって……ハッピー……ハッピーになったところでどうするんだって言って……
待とうよって……待って……えっと……もうちょっとだ……待とうよって……俺達、ハッピーになって……えっと……あっ! 木だ!
エストラゴン 木?
ウラジミール 覚えてないのか?
エストラゴン 疲れちゃった。
ウラジミール ほら。
二人、木を見る。
エストラゴン 別に。
ウラジミール いやいや、昨夜は枯れ木だったろ。ところが今日は葉っぱがついてる。
エストラゴン 葉っぱって?
ウラジミール たった一晩でだぞ。
エストラゴン 春だねぇ。
ウラジミール でも一晩でだぞ!
エストラゴン だからぁ、俺達、昨夜はここにいなかったんだってば。また悪夢でも見たんだろ。
ウラジミール じゃあ、俺達昨夜どこにいたか、言ってみなよ。
エストラゴン 知るか。どっか別の小屋だよ。がらがらの場所なんてそこら中にあるんだから。
ウラジミール (自分の考えを確信して)よし。昨夜はここにいなかったとしよう。じゃあ、俺達、昨夜何してた?
エストラゴン 何してた?
ウラジミール 思い出してみなよ。
エストラゴン えっと……お喋りかな。
ウラジミール (自分を抑えて)どんな?
昨夜俺達は、特にこれといったこともなく、お喋りをしたよ。半世紀の間ずーっとそうしてきたよ。
ウラジミール お前、何が起こったとか、どんな状況だったとか、覚えてないわけ?
エストラゴン (うんざりして)虐めないでよ、ジジ。
ウラジミール 太陽とか。月とか。覚えてないの?
エストラゴン どうせそこにあったんだろ、いつも通り。
ウラジミール いつもと違うことには何も気づかなかった?
エストラゴン ううっ。
ウラジミール じゃあポゾーは? ラッキーは?
エストラゴン ポゾーって?
ウラジミール 骨だよ。
エストラゴン あれ、魚の骨みたいだったな。
ウラジミール あの骨、くれたのがポゾーだよ。
エストラゴン ふうん。
ウラジミール それに蹴られた。
エストラゴン そうだよ、誰か俺を蹴りやがった。
ウラジミール それ、ラッキーね。
エストラゴン 全部昨日だっていうの?
ウラジミール 足、見せてみなよ。
エストラゴン どっち?
ウラジミール 両方だ。ほらズボンめくって。(エストラゴン、片足を差し出して、よろめく。ウラジミール、その足を掴んで、二人、よろめく)
ズボンめくれってば。
エストラゴン 無理。
ウラジミール、エストラゴンのズボンをめくりあげて足を見て、離す。エストラゴン、倒れそうになる。
ウラジミール 逆だよ。(エストラゴン、同じ足を出す)反対の足だってば、豚野郎! (エストラゴン、もう片方の足を出す。勝ち誇ったように)
ほら傷! 膿かけてるぞ!
エストラゴン それが何か?
ウラジミール (足を離して)お前のブーツは?
エストラゴン どこかに捨てちゃったみたい。
ウラジミール いつ?
ウラジミール なんで?
エストラゴン (爆発して)なんで分かんないか分かんないよ!
ウラジミール 違うよ。なんで捨てちゃったのか聞いてるんだよ。
エストラゴン (爆発して)痛かったんだよ!
ウラジミール (勝ち誇ったように、ブーツを指差して)ほらそこにある! (エストラゴン、ブーツを見る)
お前が昨日ブーツを置いていった、まさにその場所だ!
エストラゴン、ブーツに近寄り、しげしげと調べる。
エストラゴン 俺のじゃないね。
ウラジミール (びっくり仰天して)お前のじゃない!
エストラゴン 俺のは黒かった。これ、茶色。
ウラジミール 黒かったって、確かか?
エストラゴン うーん、グレーっていうか。
ウラジミール で、これは茶色か? 見せてみな。
エストラゴン (ブーツの片方をつまみ上げて)うーん、グリーンっていうか。
ウラジミール 見せろよ。(エストラゴン、ブーツを渡す。ウラジミール、それをよく見て、怒って投げ捨てて)何だってこんな---
エストラゴン ね、なにもかもひどいもんだ---
ウラジミール あ! 分かった。うん、そうだ、分かったよ。
エストラゴン なにもかもひどい---
ウラジミール 単純な話だよ。誰かが来て、お前のを履いて、自分のを置いてった。
エストラゴン なんで?
ウラジミール 自分のがきつかったから、お前のを履いてったんだよ。
エストラゴン 俺のだってきつかったよ。
ウラジミール お前にはな。でもそいつにはよかったんだよ。
エストラゴン (理解しようと頑張ってみたが無理で)疲れちゃった。(間)もう行こうよ。
ウラジミール だめ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (間。絶望して)じゃあどうすんだよ、ねえどうすんだよぉ!
エストラゴン けど、もううんざりだよ、こんなの。
ウラジミール カブ、食べる?
エストラゴン カブしかないの?
ウラジミール カブとダイコン。
エストラゴン ニンジンは?
ウラジミール ないよ。だいたいお前、ニンジンニンジン言いすぎだよ。
エストラゴン じゃあカブでいい。(ウラジミール、ポケットの中を探るが、ダイコンしか見つからない。
やがてカブを引っ張り出し、エストラゴンに渡す。エストラゴン、カブを調べ、匂いを嗅いで)黒くなってる!
ウラジミール カブだよ。
エストラゴン ピンクのじゃなきゃいやなの、知ってるくせに!
ウラジミール じゃあいらないんだな?
エストラゴン ピンクじゃなきゃ、やだ!
ウラジミール じゃあ返せよ。
エストラゴン、返す。
エストラゴン 俺、行くわ。ニンジンを求めて。
エストラゴン、動かない。
ウラジミール 本当、どうでもいい話になってきたな。
エストラゴン まだまだだよ。
沈黙。
ウラジミール 試してみたら?
エストラゴン もう全部やってみた。
ウラジミール いやいや、ブーツがあるって。
エストラゴン それ、何かいいことあるかな?
ウラジミール 暇つぶしになるよ。(エストラゴン、ためらう)ほんとほんと、気晴らしになるって。
エストラゴン 骨休めね。
エストラゴン 骨休めね。
ウラジミール やってみな。
エストラゴン 手伝ってくれる?
ウラジミール 勿論。
エストラゴン 俺達、そこそこうまくやってるよね? ねえジジ、俺たち二人でさ。
ウラジミール うんうん。さあ左からだ。
エストラゴン 俺達、いつもなんか見つけるもんね。ねえジジ、おかげで生きてるって気がするよね。
ウラジミール (じりじりしながら)うんうん、俺達は魔術師だな。けど決めたことはやり通そうよ、忘れる前にさ。
(ブーツをつまみ上げて)さ、足出せよ。逆だ、この豚野郎! (エストラゴン、反対の足を上げる)もっと上げて!
(二人、絡まり合ってよろめきながら舞台をあちこちする。ウラジミール、ようやくブーツを履かせることに成功して)歩いてみな。
(エストラゴン、歩いてみる)どうよ?
エストラゴン ぴったりだよ。
ウラジミール (ポケットから紐を取り出しながら)紐、結んでみようか。
エストラゴン (激しく)やだやだやだ、紐はやだ、紐だけは!
ウラジミール 後悔するぞ。もう片っぽもはいてみよう。(前と同様に)どうよ?
エストラゴン (しぶしぶ)こっちもぴったり。
ウラジミール 痛くない?
エストラゴン 今のところはね。
ウラジミール じゃあ、もらっとけよ。
エストラゴン 大き過ぎるもん。
ウラジミール そのうち靴下が手に入るよ、きっと。
エストラゴン うん。
ウラジミール じゃあ、もらっとくよな?
エストラゴン ブーツのことはもういいよ。
ウラジミール うん、だけど---
エストラゴン (激しく)もういいってば! (沈黙)まあ、座ろうかな。
エストラゴン、座る場所を探し、土の盛り上がったところに座る。
エストラゴン 眠れたらいいのに。
ウラジミール 昨夜は眠ったぞ。
エストラゴン やってみる。
エストラゴン、顔を両膝に埋めて、また胎児の姿勢をとる。
ウラジミール ちょっと待った。(エストラゴンの元に行き、隣に座って、大声で歌い始める)ねんねんねんねん
ねんねんよ~
エストラゴン (怒って顔を上げて)うるさいよ!
ウラジミール (優しく)ねんねんねんねんねんねんよ~ ねんねんねんねんねんねんよ~
(エストラゴン、眠る。ウラジミール、そっと立ち上がってコートを脱ぎ、エストラゴンの肩にかけてやる。
それから腕を振りながら行ったり来たり歩き始める。体を温めるためだ。エストラゴン、びくっとして目を覚まし、飛び上がり、
狂ったように辺りを見回す。ウラジミール、エストラゴンの元に駆け寄り、体に腕を回して)
よしよし……よしよし……ジジがついてる……もう怖くないよ……。
エストラゴン ああ!
ウラジミール よしよし……よしよし……もう大丈夫だ。
エストラゴン 俺、落ちて---
ウラジミール もう大丈夫だ。終わったんだよ。
エストラゴン てっぺんからさ---
ウラジミール やめろよ! さ、ちょっと歩こう。
ウラジミール、エストラゴンの腕をとり、行ったり来たり歩かせる。エストラゴン、やがて歩くのを嫌がり始める。
エストラゴン もういいよ。疲れちゃった。
ウラジミール 何もしないで、突っ立ってる方がいいの?
エストラゴン うん。
ウラジミール 好きにしなよ。
ウラジミール、エストラゴンの腕を離し、コートを拾って着る。
エストラゴン 行こうよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (ウラジミール、行ったり来たり歩く)じっとしてられないの?
ウラジミール 寒いんだよ。
エストラゴン 来るの、早すぎたね。
ウラジミール いつも日暮れ時だよ。
エストラゴン ちっとも日が暮れそうにないよ。
ウラジミール いきなり暮れるんだよ。昨日もそうだった。
エストラゴン そして夜が来る。
ウラジミール そうすれば立ち去れる。
エストラゴン そしてまた日が昇る。(間。絶望して)どうすんだよ、どうすんだよ!
ウラジミール (足を止めて、激しく)ぐずぐず言うなよ! お前の泣き言にはうんざりだ!
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール (ラッキーの帽子が目に入って)おっと!
エストラゴン さらば。
ウラジミール ラッキーの帽子だよ。(帽子に近寄って)もう一時間もいたのに全然気がつかなかったな。(大喜びで)やった!
エストラゴン 俺にはもう二度と会えないんだからな。
ウラジミール やっぱりこの場所でよかったんだ。もう大丈夫。(帽子を拾い上げ、じっと見つめ、形を整えて)もとは立派な帽子だったんだろうな。
(帽子を脱いでそれをかぶり、自分のはエストラゴンに渡して)ほら。
エストラゴン え?
ウラジミール 持ってろよ。
エストラゴン、自分の帽子を脱いでウラジミールの帽子をかぶり、自分のをウラジミールに渡す。ウラジミール、エストラゴンの帽子を受け取る。
エストラゴン、ウラジミールの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いでエストラゴンの帽子をかぶり、ラッキーの帽子をエストラゴンに渡す。
エストラゴン、ラッキーの帽子を受け取る。ウラジミール、エストラゴンの帽子を頭に合わせる。
エストラゴン、ウラジミールの帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、ウラジミールの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、自分の帽子を受け取る。
エストラゴン、ラッキーの帽子を頭に合わせる。ウラジミール、エストラゴンの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、エストラゴンの帽子をエストラゴンに渡す。
エストラゴン、自分の帽子を受け取る。ウラジミール、自分の帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ラッキーの帽子を脱いで自分の帽子をかぶり、
ラッキーの帽子をウラジミールに渡す。ウラジミール、ラッキーの帽子を受け取る。エストラゴン、自分の帽子を頭に合わせる。
ウラジミール、自分の帽子を脱いでラッキーの帽子をかぶり、自分の帽子をエストラゴンに渡す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取る。
ウラジミール、ラッキーの帽子を頭に合わせる。エストラゴン、ウラジミールの帽子をウラジミールに返す。
ウラジミール、自分の帽子を受け取り、エストラゴンに返す。エストラゴン、ウラジミールの帽子を受け取り、ウラジミールに返す。
ウラジミール、自分の帽子を受け取り、投げ捨てる。
エストラゴン 分かるわけないだろ。
ウラジミール じゃなくて、似合うかって聞いてんだよ。
ウラジミール、くねくねとしなを作って頭を左右に振り、マネキンのように気取って見せる。
エストラゴン 最悪。
ウラジミール まあな、けどいつものよりましだろ。
エストラゴン どっちもどっち。
ウラジミール じゃあ、こっちにする。あの帽子には、飽き飽きしてたんだ。(間)なんていうか。(間)あの帽子のほうが、俺に飽き飽きしてたっていうか。
ウラジミール、ラッキーの帽子を脱いで、中を見回し、振って、山を叩き、またかぶる。
エストラゴン 俺、行くわ。
沈黙。
ウラジミール 遊ばないの?
エストラゴン 何して?
ウラジミール ポゾーとラッキーごっこ。
エストラゴン 聞いたことないよ。
ウラジミール 俺、ラッキー。お前、ポゾーね。(ラッキーの真似をして、荷物の重みで体を折り曲げる格好。エストラゴン、呆気にとられてそれを見る)
どうぞ。
エストラゴン どうすればいいの?
ウラジミール 酷いこと言って!
エストラゴン (考えて)スケベ!
ウラジミール もっと!
エストラゴン 淋病持ち! このスピロヘータ野郎!
ウラジミール、体を二つに折って、前後に揺さぶる。
エストラゴン へ?
ウラジミール 言えよ、考えろ、豚! って。
エストラゴン 考えろ、豚!
沈黙。
ウラジミール 無理。
エストラゴン もういいよ。
ウラジミール 踊れって言えよ。
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール 踊れ、豚野郎! (身をよじる。エストラゴン、上手から急いで退場)無理。(顔を上げ、エストラゴンがいないことに気付いて)ゴゴ!
(舞台を激しく動き回る。エストラゴン、上手から登場。息を切らしている。ウラジミールのもとに走って来て、
ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)やっと帰ってきたね!
エストラゴン 俺、呪われてるよ!
ウラジミール お前、どこ行ってたんだよ! もう帰って来ないのかと思った。
エストラゴン 奴らが来る!
ウラジミール 誰だよ?
エストラゴン 分かんない。
ウラジミール 何人だ?
エストラゴン 分かんない。
(エストラゴンを舞台袖に引っ張っていこうとする。エストラゴン、抵抗し、振りほどき、下手から退場)ゴゴ! 戻って来い!
(上手端まで走っていき、地平線のほうを見渡す。エストラゴン、下手から登場。ウラジミールのもとに走って来て、
ウラジミールの腕の中に崩れ落ちる)またまた帰ってきたね!
エストラゴン 俺、地獄に堕ちる!
ウラジミール お前、どこへ行ってたんだよ?
エストラゴン こっちも来るよ!
ウラジミール 我々は包囲されている! (エストラゴン、舞台奥に逃げ込む)あほか! そっちに出口ないぞ!
(エストラゴンの腕をつかんで舞台前面に引きずり出す。観客席を身振りで示して)こっちだ! 誰もいないぞ! さあ行け! 早く!
(エストラゴンを観客席の方に押しやる。エストラゴン、恐怖に駆られて後ずさりする)いやなのか? (観客席を一瞥して)
気持ちは分かる。さてと。(考えて)残る選択肢は姿を消すことだな。
エストラゴン どこに!
ウラジミール 木の後ろだ。(エストラゴン、ためらう)早く! 木の後ろだよ! (エストラゴン、木の後ろに行ってしゃがむが、
体が隠れてないことに気付き、木の後ろから出て来る)全くこの木ときたら、何の役にも立たないよ。
エストラゴン (少し落ち着いて)焦ったぁ。ごめんね。もう大丈夫。さてどうすればいい?
ウラジミール 何もないよ。
エストラゴン あっち行って立ちなよ。(ウラジミールを下手端に引っ張って行き、舞台に背を向けて立たせて)いい、じっとして見張っててよ。
(ウラジミール、目の上に手をかざして地平線を見渡す。エストラゴン、上手端に走って行って、同じ姿勢。二人とも振り返って互いを見て)
背中合わせだ。昔懐かしあの頃みたいだ! (二人は束の間、互いを見続け、やがて見張りに戻る)何か来てる?
ウラジミール (振り向いて)え?
エストラゴン (もっと大きな声で)何か来るの見える?
ウラジミール いんや。
二人、見張りを続ける。沈黙。
ウラジミール お前、幻でも見たんだな。
エストラゴン (振り向いて)え?
ウラジミール (もっと大きな声で)お前、幻でも見たんだろ!
エストラゴン 叫ばなくてもいいだろ!
二人、見張りを続ける。沈黙。
ウラジミール
(同時に振り向いて)あのさ---
エストラゴン
ウラジミール おっと失礼!
エストラゴン どうぞ続けて。
ウラジミール いえいえ、お先にどうぞ。
エストラゴン いえいえ、そちらから。
ウラジミール 割り込んだのはこっちですから。
エストラゴン いえいえ、こちらですから。
二人、怒って互いを睨みつける。
エストラゴン 几帳面な豚野郎!
ウラジミール 最後まで言えばいいだろ!
エストラゴン お前こそ!
沈黙。互いに近付き、立ち止まる。
ウラジミール まぬけ!
エストラゴン それだよ、お互いに罵倒し合おう。
二人、いったん離れてからまた向かい合って。
ウラジミール まぬけ!
エストラゴン 人間の屑!
ウラジミール 発育不全!
エストラゴン 寄生虫!
ウラジミール ドブネズミ!
エストラゴン 糞坊主!
ウラジミール 白痴!
エストラゴン (決定的に)劇評家!
ウラジミール ぐあ!
ウラジミール、へなへなとなって、打ちひしがれ、顔を背ける。
ウラジミール ゴゴ!
エストラゴン ジジ!
ウラジミール さあ、君の手を!
エストラゴン 僕の手を!
ウラジミール さあ、僕の腕の中においで!
エストラゴン 君の腕?
ウラジミール 僕の胸に!
エストラゴン よおし!
二人、抱き合う。二人、離れる。沈黙。
ウラジミール あっと言う間に時が経つなぁ、ふざけてるとさ!
沈黙。
エストラゴン 今度は何する?
ウラジミール 待ちながらなぁ。
エストラゴン 待ちながらねぇ。
沈黙。
ウラジミール 体操でもするか。
エストラゴン 体動かすか。
ウラジミール 跳躍運動して。
エストラゴン 脱力する。
ウラジミール 屈伸運動して。
エストラゴン 脱力する。
ウラジミール ウォームアップだ。
エストラゴン クールダウンだ。
ウラジミール さあやってみよう。
エストラゴン (やめて)もういいよ。疲れた。
ウラジミール (やめて)調子が出ないな。ちょっと深呼吸でもしてみるか?
エストラゴン 息するのもうんざりだよ。
ウラジミール それもそうだ。(間)じゃ、木になってみようよ、バランス感覚だ。
エストラゴン 木って?
ウラジミール、木になる。片足立ちでよろめく。
ウラジミール (やめて)お前の番。
エストラゴン、木になる。よろめく。
エストラゴン 神様は俺のことを見てると思う?
ウラジミール 目を閉じなきゃ駄目だよ。
エストラゴン、目を閉じる。もっとよろめく。
エストラゴン (やめて、両手の拳を振り回しながら、声を限りに)神様、どうか私にお慈悲を!
ウラジミール (腹を立てて)俺にもだろ?
エストラゴン 私に! 私にです! お慈悲を! どうか私に!
ポゾーとラッキー、登場。ポゾーは目が見えない。ラッキーは前と同様に荷物を持っている。
前と同様にロープで繋がれているもののロープはずっと短くなっている。
そのおかげで、ポゾーはラッキーの後についていきやすくなっている。ラッキーは前と違う帽子をかぶっている。
ラッキー、ウラジミールとエストラゴンを見て立ち止まる。ポゾー、そのまま進み、ラッキーにぶつかる。
ウラジミール ゴゴ!
ポゾー (ラッキーにつかまる。ラッキー、よろめく)どうした? 誰だ?
ラッキー、なにもかも投げ出し、ポゾーを巻き添えにして転ぶ。二人は散らばった荷物の間になすすべもなく倒れる。
ウラジミール やっと来た! (荷物の山の方に向かう)ついに援軍到来だ!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン ゴドーなの?
ウラジミール 俺達、弱気になってたけど、これで今夜も切り抜けられるぞ。
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 聞こえないの?
ウラジミール 俺達、もう二人っきりで夜が来るのを待ったり、ゴドーを待ったり、あと……えーっと、とにかく待ったりしなくてもいいんだよ。
夕方ずっと俺達、誰の助けもなく、頑張ってきたよな。けどそれも終わりだ。明日が来たも同然だよ。
ポゾー 助けてー!
ウラジミール また時が流れ始めたぞ。日は沈み、月は昇り、俺達は……ここをあとにするんだ。
ポゾー お慈悲を!
ウラジミール ポゾーだ、ポゾーだよ!
エストラゴン この人だと思ったよ。
ウラジミール 誰って?
エストラゴン ゴドーだろ。
ウラジミール ゴドーじゃないよ。
エストラゴン ゴドーじゃないの?
ウラジミール ゴドーじゃないよ。
エストラゴン じゃあ誰?
ウラジミール ポゾーだよ。
ポゾー ここだ! ここ! 起こしてくれよ!
ウラジミール 起き上がれないんだな。
エストラゴン 行こうよ。
ウラジミール 駄目だよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう!
ウラジミール こいつまた、骨をくれるかもしれないぞ。
ウラジミール 鶏の骨だよ。覚えてないのか?
エストラゴン こいつだっけ?
ウラジミール そうだよ。
エストラゴン 聞いてよ。
ウラジミール 先に手伝ってやったほうがいいよ、きっと。
エストラゴン なにを?
ウラジミール 起き上がるの。
エストラゴン こいつ、起き上がれないの?
ウラジミール 起き上がりたいのに。
エストラゴン じゃあ勝手に起きればいいじゃん。
ウラジミール できないんだよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール さあね。
ポゾー、身もだえし、唸り、両手の拳で地面を叩く。
エストラゴン 先に骨をくれるか聞いたほうがいいよ。断られたら放っておけばいい。
ウラジミール つまりこいつの命運は俺達が握ってるってことか。
エストラゴン そういうこと。
ウラジミール てことは、俺達が善行を施すかどうかは条件次第ってことだな。
エストラゴン へ?
ウラジミール 頭いいな。けど、一つ心配なことが。
ポゾー 助けてー!
エストラゴン なんだよ?
エストラゴン ラッキーって?
ウラジミール 昨日お前を襲った奴だよ。
エストラゴン だって十人いたんだよ。
ウラジミール そうじゃなくて、その前。蹴った奴。
エストラゴン そいつがいるの?
ウラジミール まさにご本人だよ。(ラッキーを身振りで示して)今のところは大人しいけど、いつ暴れ狂うか分からない。
ポゾー 助けてー!
エストラゴン ボコボコにしてやったら? 二人で。
ウラジミール 寝込みを襲うってことか?
エストラゴン うん。
ウラジミール いい考えだ。でもできるかな? 本当に寝てるのか、あいつ? (間)いや、一番いいのは、ポゾーを利用することだよ。
あいつが助けを呼んだら---
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 助けるんだ。
エストラゴン こいつを? 俺達が?
ウラジミール 確実にお礼が返ってくるという予測のもとにだ。
エストラゴン でも、あいつがもし---
本当はさ、別に俺達じゃなくたっていいんだ。他の奴等だってよかったんだ。そいつらの方がいいかどうかは別として。
俺達の耳の中でずっとこだましてるあの救いを求める叫び、あれは人類すべてに対して発信されたものだ。
だがしかしだよ、今この瞬間、この場所で、人類とは俺達のことなんだ。好むと好まざるにかかわらず。それを利用しない手はないだろ。
手遅れにならないうちにな! 一度は糞みたいな人類を立派に代表してみたっていいじゃないか。
過酷な運命が俺達にやれって言ってるんだから! どうよ? (エストラゴン、何も言わない)
まあ確かに、腕組みをして賛成と反対の重さを量ってるのは、俺達がまさに人類である証拠だよな。
トラなら何の迷いもなく同類の救助に駆けつけるもんな。或いは茂みの奥深くへとそっと隠れるかもしれない。
けどそんな事はどうだっていい。俺達がどうするのか、それこそが問題なんだよ。そしてありがたいことに、俺達はたまたま答えを知ってるってわけだ。
そうだよ、この大混乱の中で、一つだけ明らかなことがある。俺達は、ゴドーを待ってるんだ---
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 或いは、夜の帳が降りるのを。(間)俺達は約束を守ってきたし、それこそが大事なんだ。俺達は聖人でも何でもない。
それでも約束は守る。俺達ぐらい誇れる人間が一体どれだけいるだろう。
エストラゴン くさるほど。
ウラジミール あ、そう?
エストラゴン 分かんない。
ウラジミール そうかもね。
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 分かってるのは、こんな状況じゃ、時間が立つのが遅いってことだ。俺達はな、あの手この手で何とかやり過ごしてるんだよ---
なんていうか---始めは意味ありげに見えるけど、そのうちただの習慣になっちまうようなことでさ。
そうやって理性が崩壊するのを食い止めてるともいえる。まあそれはそうだ。けど、理性なんてとっくの昔から、
深い深い海の底みたいな終わりなき夜を彷徨ってるんじゃないのか? 俺、時々そんな風に思うんだ。俺の説、分かってんの?
エストラゴン (ここだけ格言的に)我々は皆狂人として生を受け、そのまま生きる者もいる。
ポゾー 助けてー! お金払うから。
エストラゴン いくら?
ポゾー 百。
エストラゴン 安っ。
ウラジミール いやそこまでは。
エストラゴン 百でいいの?
ウラジミール いやそうじゃなくて。この世に生を受けた時から頭がおかしいなんて言い過ぎだよ。まあそこは問題じゃないけどさ。
ポゾー 二百にする!
それは確かだ。だよな? そこへ気晴らしがやって来る。さて、どうするよ? 俺達、せっかくの気晴らしを無駄にしてるんだ。
さあ、お仕事だ! (荷物の山に近付き、平然と立ち止まって)あっと言う間に何もかも消えちまったら、
また二人っきりで裸舞台の真ん中に取り残されるんだ。(思いを馳せる)
ポゾー 二百だってば!
ウラジミール 今行くよ。
ウラジミール、ポゾーを立たせようとするが、失敗。もう一度やってみるが、よろめいて転倒する。起き上がろうとするが、できない。
エストラゴン どうしたの?
ウラジミール 助けてー!
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール 見捨てるなよ! 殺されるーっ!
ポゾー ここはどこだ?
ウラジミール ゴゴ!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 行くってば。
ウラジミール まず俺を助けろよ。で、一緒に行けばいいよ。
エストラゴン 約束する?
ウラジミール 誓うよ。
エストラゴン もう二度と戻ってこない?
ウラジミール 来ないよ!
エストラゴン ピレネー山脈に行こう。
ウラジミール お前の行きたい所ならどこだって。
エストラゴン 俺、ピレネー山脈を放浪したいっていつも思ってたんだ。
ウラジミール 放浪してくれよ。
エストラゴン (後ずさりして)おならしたの誰?
ウラジミール ポゾーだよ。
ポゾー ここだ! ここだよ! お慈悲を!
エストラゴン くさっ!
エストラゴン 俺、行くわ。(間。もっと大声で)行くからね!
ウラジミール まあ、結局は自力で起き上がればいいってことだよ。(やってみるが、失敗する)時が来ればね。
エストラゴン どうしたの?
ウラジミール 地獄に堕ちろ。
エストラゴン そこにいるつもり?
ウラジミール 当分は。
エストラゴン ほら、起きなよ。風邪ひくよ。
ウラジミール 俺のことはいいんだ。
エストラゴン ねえ、ジジ、意地はらないでよ。
エストラゴン、ウラジミールに手を差し出す。ウラジミール、急いで掴もうとする。
ウラジミール 引っ張って!
エストラゴン、引っ張る。よろめいて、転倒する。長い沈黙。
ポゾー 助けに来てー!
ウラジミール 来てますよー。
ポゾー お前、誰だ?
ウラジミール 人類です。
沈黙。
エストラゴン 優しき母なる大地よ!
ウラジミール お前、起き上がれる?
エストラゴン さあ。
ウラジミール やってごらん。
エストラゴン あとにしてよ、あとに。
沈黙。
ウラジミール (激しく)いい加減にしてくれよ、この疫病神! こいつ、自分のことしか考えてないな!
エストラゴン ちょっとうとうとしてみようか。
ウラジミール お前、聞いたか? こいつ、どうなったのか知りたいんだってさ!
エストラゴン 放っとけばいいよ。眠ろう。
沈黙。
ポゾー お慈悲を! お慈悲を!
エストラゴン (びくっとして)何?
ウラジミール 眠ってたのか?
エストラゴン そうみたい。
ウラジミール またポゾーの野郎だよ。
エストラゴン こいつ、黙らせてよ。股間を蹴っちゃいなよ。
ウラジミール (ポゾーを殴りつけて)いい加減にしろよ、この毛じらみ野郎! (ポゾー、痛みで泣き叫びながらウラジミールから逃れ、這って逃げる。
ポゾー、止まり、助けを呼びながら、見えない目で宙を見る。ウラジミール、肘をついてポゾーが逃げる様子を見て)逃げたぞ!
(ポゾー、崩れ落ちる)ダウンした!
エストラゴン これからどうする?
ウラジミール 奴のところまで這っていけるかも。
エストラゴン 置いていかないでよ!
ウラジミール 呼んでみてもいいけど。
エストラゴン それがいいよ。
ウラジミール ポゾー! (沈黙)ポゾー! (沈黙)無視かよ。
エストラゴン 声を合わせて。
ウラジミール
(同時に)ポゾー! ポゾー!
エストラゴン
エストラゴン あいつ、本当にポゾーっていうの?
ウラジミール (不安になって)ポゾーさん! 戻って来て下さいよ! 痛いことしませんから!
エストラゴン 別の名前で呼んでみたら?
ウラジミール あいつ、くたばっちまったらどうしよう。
エストラゴン 面白いじゃん。
ウラジミール 何がだよ。
エストラゴン 別の名前を試そうよ。色々さ。暇つぶしになるよ。そのうち当たるって。
ウラジミール だからぁ、やつの名前はポゾーだよ。
エストラゴン すぐ分かるよ。(考えて)アベル! アベル!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 一回で当たった!
ウラジミール そろそろ飽きてきたな、このモチーフ。
エストラゴン 片割れはきっとカインだ! カイン! カイン!
ポゾー 助けてー!
エストラゴン あいつ、一人で全人類かよ。(沈黙)見てよ、あのちっぽけな雲。
ウラジミール (目を上げて)どこ?
エストラゴン ほら。てっぺんのほう。
ウラジミール で? あの雲のどこがいいんだよ?
沈黙。
ウラジミール ちょうどそう言おうと思ってたんだ。
エストラゴン けど、なんかあるかなぁ?
ウラジミール う~ん。
沈黙。
エストラゴン とりあえず起き上がってみる?
ウラジミール やってみて損はない。
二人、立ち上がる。
エストラゴン 楽勝だな。
ウラジミール やる気の問題だよ。
エストラゴン で、どうするの?
ポゾー 助けてー!
エストラゴン 行こうよ。
ウラジミール 駄目だ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (絶望的に)どうすんだよ、どうすんだよ!
ポゾー 助けてー!
ウラジミール 助けてみる?
エストラゴン あいつ、どうしたいの?
ウラジミール 起き上がりたいんだよ。
エストラゴン じゃあなんで起きないの?
ウラジミール 俺達に手伝ってほしいんだよ。
エストラゴン じゃあ手伝ってやろうよ。なに待ってんだよ?
二人、ポゾーを立たせて、手を放す。ポゾー、倒れる。
ポゾー お前、誰だ?
ウラジミール 俺のこと、分からないの?
ポゾー 目が見えないんでね。
沈黙。
エストラゴン きっと未来は見えるんだ。
ウラジミール いつから?
ポゾー 視力は抜群だったんだ。君らは友達?
エストラゴン (けたたましく笑って)俺達が友達かどうか知りたいんだってさ。
ウラジミール 違うよ、こいつの友達かどうか聞いてるんだよ。
エストラゴン で?
ウラジミール 友達だって自信を持って言えるよ。助けてやったんだから。
エストラゴン なるほど。友達じゃなかったらはたして助けたかどうか。
ウラジミール 助けたな、多分。
エストラゴン それもそうだ。
ウラジミール そこ、今は深入りしないでおこう。
ポゾー 君ら、追剥か?
エストラゴン 追剥! 俺達が追剥に見えるってか?
ウラジミール 馬鹿、目が見えないんだから!
エストラゴン あ、そうだった! (間)本人が言うにはね。
ポゾー 置いてかないでくれ!
ウラジミール そんなことするか。
エストラゴン 今のところは。
ポゾー 今何時?
ウラジミール (空を見て)七時かな……八時かなぁ……。
エストラゴン そりゃ、一年のうちのいつ頃かによるな。
ポゾー 今は夕方なのか?
沈黙。ウラジミールとエストラゴン、夕陽をじっと見つめる。
ウラジミール まさか。
エストラゴン きっと夜明けだ。
ウラジミール 馬鹿だな。西だよ、あっちは。
エストラゴン なんで分かる?
ポゾー (苦悶して)夕方なのか?
ウラジミール どっちにしても日は動いてないよ。
エストラゴン 昇ってるって言っただろ。
ポゾー なんで答えてくれない?
エストラゴン チャンスをくれよ。
ウラジミール (安心させるように)夕方だよ、夕方。夜の帳が下りてきた。ここにいる俺の友達は、そうじゃないって思わせようとした。
正直、一瞬心が揺れたよ。けど、俺だってこの長い一日を無駄に生きてきたわけじゃないんだ。
保証するよ、今日のレパートリーの終焉間近だって。(間)具合はどうだ?
エストラゴン 何時までこいつをぶら下げてなきゃならないの? (二人、ポゾーを離そうとしてみるが、ポゾーが倒れそうになるので、また掴まえる)
俺達、石像じゃないよ!
ウラジミール あんた、目はよかったってことだよな。俺の聞き違いじゃなければ。
ポゾー 視力は抜群だったよ! そりゃもう、よく見えたもんだ!
沈黙。
エストラゴン (苛々して)話、続けて! 膨らませてよ!
ウラジミール ほっといてやれよ。幸福だった頃に思いを馳せてるのが分からないのか? (間)
メモリア・プラエテリトールム・ボノールム{ラテン語。「過去は何時でも美しい」の意}---辛いだろうな。
エストラゴン 分からないよ、俺達には。
ウラジミール で、突然そうなったわけ?
ポゾー 本当に素晴らしく目がよかったんだ!
ウラジミール 突然そうなったのか聞いてるんだよ。
ポゾー ある晴れた日、目覚めたら見えなくなっていた。運命の女神と同じくらい盲目になっていたんだ。(間)時々思うよ。
まだ眠ってるんじゃないかってね。
ウラジミール それはいつのこと?
ポゾー さあね。
ポゾー (激しく)私に聞くな! 盲人には時間の観念がないんだ。時間に関する事柄も、盲人たちからは隠されているんだよ。
ウラジミール そりゃびっくりだ! 絶対逆だと思ってたよ。
エストラゴン 俺、行くわ。
ポゾー ここはどこだ?
ウラジミール さあね。
ポゾー ひょっとして舞台とか呼ばれる場所じゃないよね?
ウラジミール 聞いたことないな。
ポゾー どんなところ?
ウラジミール (見回して)何とも言えないな。何にも似てないし。何もない。木が一本だけ。
ポゾー じゃあ舞台じゃないな。
エストラゴン (盛り下がって)なんか気晴らしはないの!
ポゾー 私の召使はどこだ?
ウラジミール どっかその辺にいるよ。
ポゾー なんで呼んでも返事がないんだろう?
エストラゴン さあね。眠ってるみたいだよ。死んでるのかもね。
ポゾー 何があったんだ、厳密に言うと?
エストラゴン 厳密に、だってさ!
ウラジミール あんたたち二人とも滑って転んだんだよ。(間)転倒したんだ。
ポゾー あいつ怪我してないか、見て来てもらえないかな?
ウラジミール あんたから手が離せないだろ。
ポゾー 二人で行かなくても。
ウラジミール (エストラゴンに)お前行けよ。
エストラゴン あんなことされたのに? 絶対やだ!
ポゾー そうだよそうだよ、君の友達に行ってもらいたいな、ものすごく臭いんだ。(沈黙)この人は何を待ってるのかな?
ウラジミール お前、何を待ってるんだっけ?
エストラゴン ゴドーを待ってる。
沈黙。
ポゾー まずロープを引いてくれ。好きなだけ強く。首を絞めないようにね。奴は普通ならそれに反応するはずだ。
もし反応がなければ、ブーツで一発お見舞いしてやればいい。顔と急所を思いきりね。
ウラジミール (エストラゴンに)な、怖がることないよ。ていうか、復讐のチャンスだよ。
エストラゴン もし奴が防御したら?
ポゾー いやいや、奴は防御したことなんかないよ。
ウラジミール 俺が飛んでって助けてやるよ。
エストラゴン ちゃんと見ててよ。
エストラゴン、ラッキーの所に行く。
ウラジミール まず生きてるか確認しろよ。死んでたら意味ないからな。
エストラゴン (ラッキーの上に身を屈めて)息してるよ。
ウラジミール じゃ、やっちまえ。
エストラゴン、突然怒りがこみ上げて、罵声を浴びせながらラッキーを蹴り始める。が、自分の足を痛めて、片足を引き摺り、唸り声を上げながら離れる。ラッキー、目を覚ます。
エストラゴン 何だよ、このけだものめ!
エストラゴン、土の盛り上がった所に座って、ブーツを脱ごうとする。が、すぐに思い直し、眠りにつこうと、両腕で膝を抱え、顔を腕に埋める。
ポゾー 何かまずいことでも?
ウラジミール 友達が怪我をした。
ポゾー ラッキーもか?
ウラジミール てことは奴はそうなんだな?
ポゾー え?
ウラジミール ラッキーなんだな?
ポゾー 何のことだ。
ウラジミール で、あんたはポゾーだな?
ポゾー もちろんポゾーだ。
ウラジミール 昨日と同じ?
ポゾー 昨日だって?
ポゾー 昨日誰かに会ったなんて覚えてないね。だが、明日になったら、今日誰かに会ったなんて覚えちゃいないさ。だから私を当てにしないことだ。
ウラジミール でも---
ポゾー もう沢山だ。立てよ、豚!
ウラジミール あんたはそいつを市場に売りに行こうとしてた。あんたは俺達に話をしてくれた。そいつは踊ったし考えてみせた。あんたは目が見えた。
ポゾー そう言いたいなら言えばいい。放してくれ! (ウラジミール、離れる)立て!
ラッキー、立ち上がって荷物をかき集める。
ウラジミール ここからどこへ?
ポゾー 行くぞ!
ラッキー、荷物を持ってポゾーの前に控える。
ポゾー 鞭だ! (ラッキー、荷物を全部置いて鞭を探し、見つけ、ポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)ロープだ!
(ラッキー、荷物を全部置いてロープの端をポゾーの手に握らせ、また荷物を全部持つ)
ウラジミール かばんの中には何が?
ポゾー 砂だよ。(ロープを引いて)進め!
ウラジミール まだ行かないで!
ポゾー 行くよ。
ウラジミール 助けが呼べない状況で倒れたらどうするんだよ。
ポゾー 起き上がれるようになるまで待てばいい。そして進むだけだ。進め!
ウラジミール 行っちまう前に、歌うように言ってくれよ。
ポゾー 誰に?
ウラジミール ラッキーだよ。
ポゾー 歌えと?
ポゾー しかしこいつは口がきけないんだ。
ウラジミール 口がきけない!
ポゾー 口がきけないんだ。唸ることも出来ない。
ウラジミール 口がきけないって! いつからだよ。
ポゾー (急にカッとして)くそったれな時間の話で俺をいじめるのは、いい加減にしてくれ! いつのことだ! とか、いつからだ! とか。
ある日、それじゃ足りないのか? いつもと同じ、ある日じゃ。ある日、あいつは口がきけなくなった。ある日、私は目が見えなくなった。
ある日、私達は耳も聞こえなくなるだろう。ある日、私達は生まれた。ある日、死ぬ。いつもと同じ一日、同じ瞬間。それじゃ足りないのか?
(少し気を静めて)女たちは墓穴に跨って子供を産む。日の光が束の間瞬いて、そしてまた夜が来る。(ロープを引いて)進め!
ポゾーとラッキー、退場。ウラジミール、舞台端まで追いかけ、見送る。転倒する音。
ウラジミールのマイムが、二人がまた倒れたことをダメ押しのように伝える。沈黙。ウラジミール、エストラゴンのもとに行き、しばしじっと見つめ、
やがて揺り起こす。
エストラゴン (暴れる仕草。支離滅裂な言葉。やがて)なんで寝かせておいてくれないの?
ウラジミール 淋しかったんだ。
エストラゴン 幸福な夢、見てたのに。
ウラジミール 暇つぶしにはなったな。
エストラゴン その夢はね---
ウラジミール (激しく)言うな! (沈黙)あいつ、本当に目が見えなかったのかな。
エストラゴン 目が見えなかったって、誰が?
ウラジミール ポゾーだよ。
エストラゴン 目が見えなかったの?
ウラジミール 本人がそう言ってた。
エストラゴン で、それがどうかした?
ウラジミール 俺達のこと、見てた気がした。
ウラジミール 誰?
エストラゴン ゴドー。
ウラジミール だから、誰が?
エストラゴン ポゾー。
ウラジミール 全然違うよ! (少し自信を無くして)違うだろ! (さらに自信を無くして)違うさ!
エストラゴン とりあえず、立ち上がるとするか。(痛そうに立ち上がって)痛っ! ジジ!
ウラジミール もう何をどう考えたらいいのか分からない。
エストラゴン 足! (座って、ブーツを両方脱ごうとして)手伝ってよ!
ウラジミール 俺は眠ってたのか? 他の奴等が苦しんでいる時に。今も眠ってるのか?
明日、目が覚めたら、いや、目が覚めたと思ったら、今日のことをなんて言うんだろう? 友達のエストラゴンと、この場所で、
日が暮れるまでゴドーを待ったって? ポゾーが荷物持ちと通りかかって、俺達に話しかけたって? そうかもな。
けど、そこにどれほどの真実がある? (エストラゴン、ブーツと格闘するがうまくいかず、またうたた寝をする。
ウラジミール、その姿をじっと見つめて)こいつは何も知らないままだ。また殴られた話をして、俺はニンジンをやるだろう。
(間)墓穴に跨って子供を産む。難産だ。穴の底じゃあ、墓掘りたちがのろのろと分娩用の鉗子を使って赤ん坊を取り出す。
俺達はゆっくり老いていく。空気中には俺達の叫び声が充満してる。(耳を澄まして)けど習慣とは、大した消音材だよ。
(またエストラゴンを見て)俺だって。誰かが俺を見て言ってるよ、こいつは眠ってる、何も知らない、眠らせといてやれって。
(間)もうこんな生活、やってられないよ! (間)俺、何言ってるんだ?
ウラジミール、興奮して行ったり来たりし、やがて舞台上手端で立ち止まり、考え込む。下手から少年、登場。立ち止まる。沈黙。
ウラジミール またかよ。(間)俺のこと、分からない?
少年 分かりません。
ウラジミール 君、昨日も来なかった?
少年 来てませんけど。
ウラジミール これが初めて?
少年 はい。
沈黙。
ウラジミール ゴドーさんから伝言、あるんだろ?
少年 はい。
ウラジミール 今夜は来られないって。
少年 はい。
ウラジミール でも明日は来る。
少年 はい。
ウラジミール 絶対に。
少年 はい。
沈黙。
ウラジミール 誰かに会った?
少年 会ってませんけど。
ウラジミール 二人の……(ためらって)……人間にも?
少年 誰にも。
沈黙。
ウラジミール ゴドーさんって、何してるの? (沈黙)聞いてるの?
少年 聞いてます。
ウラジミール で?
少年 特に何も。
沈黙。
ウラジミール 君の兄弟は元気なの?
少年 病気なんです。
ウラジミール 昨日来たのはその子かな。
少年 僕、分かりません。
沈黙。
ウラジミール (優しく)髭、はやしてる? ゴドーさんて。
少年 はやしてますけど。
ウラジミール 金色? それとも……(ためらって)……黒い髭?
少年 白かな。
沈黙。
ウラジミール 神様、私達にお慈悲を!
沈黙。
ウラジミール そうだなぁ……(ためらって)……俺と、あと……(ためらって)……俺に会ったって伝えてくれ。
(間。ウラジミール、前に出る。少年、後ずさりする。ウラジミール、立ち止まる。少年、立ち止まる。いきなり激昂して)
確かに俺に会ったよな! 明日またやって来て、俺に会ったことないなんて言わせないぞ!
(沈黙。ウラジミール、いきなり前に飛び出す。少年、身をかわして走って退場。沈黙。日が落ちて、月が上がる。
第一幕と同様に、ウラジミール、うなだれて立ち尽くす。エストラゴン、目を覚まし、両方のブーツを脱ぎ、片足ずつ持って立ち上がり、
舞台前面中央に置き、それからウラジミールのもとに行く)
エストラゴン どうかした?
ウラジミール 何でもないよ。
エストラゴン 俺、行くわ。
ウラジミール 俺も。
エストラゴン 長いこと、眠ってた?
ウラジミール さあね。
沈黙。
エストラゴン どこ行く?
ウラジミール 遠くは無理だよ。
エストラゴン えー、遠くまで行こうよ。
ウラジミール 駄目だよ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール 明日戻って来なくちゃ。
エストラゴン なんで?
ウラジミール ゴドーを待つ。
エストラゴン ああもう! (沈黙)ゴドー、来なかったの?
ウラジミール うん。
ウラジミール うん。もう夜だしな。
エストラゴン すっぽかしたらどうかな? (間)すっぽかしちゃったら?
ウラジミール 酷い目に合わされるよ。(沈黙。木を見て)なにもかも死んでる。けど、木だけは生きてる。
エストラゴン (木を見て)あれ、何?
ウラジミール 木だよ。
エストラゴン うん。何の木かな?
ウラジミール さあね。柳かなぁ。
エストラゴン、ウラジミールを木の方に引っ張って行く。二人、木の前で立ち尽くす。沈黙。
エストラゴン ねえ、首吊ろうよ。
ウラジミール どうやって?
エストラゴン ロープかなんか、持ってないの?
ウラジミール ないよ。
エストラゴン じゃ、駄目だね。
沈黙。
ウラジミール 行こうか。
エストラゴン ちょっと待って、ベルトがあった。
ウラジミール 短いだろ。
エストラゴン 脚、引っ張ってくれよ。
ウラジミール 俺の脚は誰が引っ張るんだよ?
エストラゴン 確かに。
ウラジミール とにかく見せてみなよ。(エストラゴン、だぶだぶのズボンを締めている紐をゆるめる。ズボンが足首までずり落ちる。二人、紐を見て)
いざとなれば、いけそうだな。けど、千切れないかな?
エストラゴン 確かめてみようよ。ほら。
ウラジミール 話にならん。
沈黙。
エストラゴン 明日、戻って来るって言ったよね?
ウラジミール うん。
エストラゴン じゃあ丈夫なロープ、持ってこようよ。
ウラジミール そうだな。
沈黙。
エストラゴン ジジ。
ウラジミール うん。
エストラゴン もうこんな生活、やってられないよ。
ウラジミール お前、そう思ってるんだな。
エストラゴン ねえ、別れたらどうかな? 俺達、別れた方がいいんじゃないかな。
ウラジミール 明日、首を吊ろう。(間)ゴドーが来なかったらね。
エストラゴン もし来たら?
ウラジミール 俺達は救われる。
ウラジミール、(ラッキーの)帽子を脱ぎ、中を見回し、内側を手で探り、振って、山を叩き、またかぶる。
ウラジミール ズボンを上げなよ。
エストラゴン え?
ウラジミール ズボンを上げなって。
エストラゴン ズボンを脱げって?
ウラジミール ズボンを上げなってば。
エストラゴン (ズボンがずり落ちていることに気付いて)本当だ。(ズボンを上げる)
ウラジミール じゃあ、行こうか?
エストラゴン うん、行こう。
二人、動かない。
幕。