ここのスレ人多すぎやろみんなやっぱ寂しいんかなIDなし最終更新 2026/04/04 13:181.夢見る名無しさん俺も寂しいんだよ、、、2026/01/18 23:31:5574コメント欄へ移動すべて|最新の50件25.夢見る名無しさんマンキー ここに何の用だい?毛虫 あっしが? 何も用はない! あんたの息子さんにお会いしてもいいよ。ただし、あの人が風呂に入ってくれればの話だがね。ジョン 何の用だね?毛虫 (悲しそうに首を振って)なんて酷い客のあしらい方だ! ともかくお尋ねして差し障りなければ聞くがね、ご子息はどこにおいででございますか?ジョン あいつは出て行っちまったよ、とっとと出て行ってくれ! ここは興信所じゃないよ!(マエ登場)毛虫 それは残念だ! 残念だな! 息子さんは我々にとっても欠くべからざる人何でね。それに娘さんの話もあったんだ。ご関心がおありならね。マエ 娘はどこにいるの?毛虫 チャイナホテルにいますよ、奥さん、チャイナホテルにね。ジョン 何だって。マエ 何てことだ!マンキー そりゃどういうことだ? そこで何をしているんだ、え、あんた?毛虫 無為徒食ってとこよ。シュリンクさんが、あんたとあんたの息子さんにあの娘を引き取りに来いと伝えろとよ。 あの娘は高くつきすぎる。金がかかってしょうがない。何しろかの女性は、素晴らしく食欲がおありなんだ。 ここのものをたてにもしない、そのくせに俺たちを追い掛け回して、いやらしいことをさせてくれってせがむんだよ。 全く、あれじゃホテルの品が下がる、わざわざ警察につかまえてくれと頼んでいるようなものだ。マエ ジョン!毛虫 (喚く)要するに、あの女は俺たちの厄介者なのさ!マエ 何てことだ!2026/04/03 20:29:0526.夢見る名無しさんマンキー どこにいるんです、僕がすぐ連れて来ますよ。毛虫 へーえ、連れて来る、あんたは猟犬か? ホテルがどこにあるのかどうして知っているんだ? お若いの! こりゃそう簡単にはいかないよ、あのご婦人を絶えず監視していなければならなかったんだぞ。 何もかもあんたの息子さんのせいさ、息子さんにあの牝犬を引き取りに来てその心配をしていただきたいな、明日の晩になったら警察の手を借りるぜ。マエ ああ、神様! あんた、どうか娘の居所を教えてください。息子がどこにいるかも、あたしは知らないんです。あの子は出て行ってしまいました。どうかそんなに冷酷なことを仰らないで、ああ、可哀想なマー、ねえジョン、この人にお願いして! マーはどうしちゃったんでしょう、どんな目にあっているのかしら? ジョージ! ジョン! ああ、何という町だろう、何という人間たちだろう! (退場)(シュリンクが戸口に現れる)毛虫 (びっくりしてもごもごと呟く)ええと、あっしはその……この家の出入り口が二つあったな!(こそこそ出て行く)シュリンク (実直そうに)シュリンクと申します。前は材木屋でしたが、今は蝿をとる他は仕事がなくなった。誰の面倒をみる必要もありません。お宅にねぐらをお借りできますか? お代は払いますよ、下の表札に私が知っている男の名前を見かけました。マンキー あんたがシュリンクさんかい? ここの娘を預かっているのかい?シュリンク 誰のことですか?ジョン マリア・ガルガだよ、あんた、わしの娘のマリア・ガルガさ。シュリンク 知りませんね。あなたの娘さんなんて知りませんよ。ジョン でもたった今ここに来ていた方が……マンキー どうもあなたに頼まれて来たようですよ!ジョン あなたが入っていらっしゃると、こそこそと逃げ出した男ですよ。シュリンク あの人なんか知りませんよ。ジョン だって息子はあんたと……シュリンク この憐れな男相手に冗談を仰ってはいけません。今は私はとるに足りぬ男です。私は財産をすっかり無くしてしまったのです。どうしてこうなったか自分でも筋道がよく分からないことがあるもんですよ。2026/04/03 20:32:1927.夢見る名無しさんマンキー いいかい、俺が船を港に乗り入れる時にはちゃんと水路は心得ているぜ。ジョン こいつに用心しなよ。シュリンク 年をとって柔軟に状況に対応できなくなり、孤独に陥った私には、一家の稼ぎ手である息子さんに去られてしまったあなたを見ていると、同情の念が沸いてきます。 これで私の仕事にも目的ができたと言えるのではないでしょうか。ジョン 理由を言ってもらっても、腹は膨れないさ。俺たちは乞食じゃないぞ、イワシの頭は食えないしさ。しかし孤独なあなたを石のような心で迎える気はない、あんたは、どっかの家族と一緒に食卓につく身分になりたいと思っているんだね。俺たちは貧乏人だぜ。シュリンク 私は何を食っても生きていける男です。私の胃袋は砂利でも消化する。ジョン 部屋は寒いぜ。俺たちはヒラメのように重なって寝ているんだ。シュリンク 私は床にでも寝られる。時分の背丈の半分の場所があればいい。自分の背中を直接風に晒さないですめば、子供のように嬉しくなるのです。今家賃の半額を払っておきますよ。ジョン よしきた、分かったよ。あんたは、戸口の外で風に晒されたくないというんだね。さあ、屋根の下に入んなさい。マエ (入ってくる)夜にならないうちに、一っ走り町に行って来るよ。ジョン おまえはお前が必要になるといつも出かけるんだな、俺はこの人に棲家を提供してやった。孤独な人なんだぞ、お前の息子が家出したから、一人分空きが出来たじゃないか。この人に握手してあげろ。マエ あたしたちの故郷は草原だったからね。シュリンク 知っています。ジョン お前、隅っこで何をごそごそやっているんだ?マエ 自分のベッドを階段の下に運ぶんだよ。ジョン 荷物はどこにあるのかい?シュリンク 私は無一物です。私が階段に寝ますよ、奥さん、私は入り込んだりはしません。私の手には触れないですみますよ、分かっています、私の肌は黄色いですからね。マエ (冷ややかに)私の手なら出しますよ。シュリンク 私は握手していただくに値しません。私が今申し上げた意味でね。あなたは肌の色のことを仰ったんじゃないんですか、失礼しました。2026/04/03 20:34:0828.夢見る名無しさんマエ 夜は階段の上の窓を開けておくことにしよう。(退場)ジョン あれで気はいいんですよ。シュリンク 主があの女にお恵みを与えますように。私はつまらない男です。 私の口を開けて何かをいわせようだなんて考えないで下さい。歯が見えるだけですよ。2026/04/03 20:35:0929.夢見る名無しさんチャイナホテル。八月二十四日、朝。(スキニー、ヒヒ、ジェーン)スキニー (入り口で)お前たち、新しい商売をやりだすことは全然考えないのか?ヒヒ (ハンモックに乗っている、頭を振って)ボスは波止場をぶらついているよ。タヒチ行きの船客の面をいちいちチェックする仕事しかしていない、あの若造がボスの魂と財産をすっかりさらって、 行方が知れなくなったからよ、タヒチに消えたんだろうさ。ボスは奴を探しているのさ、ボスは奴の残った僅かな持ち物を一切合財ここに運び込んで保管しているよ。煙草の吸殻までさ、 (ジェーンのことを言う)ここに飼っている女はもう三週間もボスにロハで食わしてもらっている。若造の妹までここにおいてやっている。こっちは堅気な娘よ。 ボスがあの女をどうするつもりなのか皆目見当もつかない、ボスはあの女とよく一晩中語り明かしているぜ。スキニー なのにお前らの方はボスに放り出されて黙っているのか、それでもお前らはボスを養ってやるのか、おまけにボスの女までな。ヒヒ 石炭運びで稼ぐ二、三ドルの金を、ボスは若造の家族に渡してしまう。ボスが今下宿しているあの家だよ、下宿といっても家の中には住めないのよ、毛嫌いされててな。若造はボスの財産をすっかり巻き上げたよ、 それで野郎は安いタヒチ行きの切符を手に入れて、ボスには材木詐欺の罪を背負い込ませた。ばれればボスは一巻の終わりだ。だってよ、遅くても五ヵ月後には、材木の二重売りで裁判にかけられるものな。スキニー それなのにお前らは、あんなポンコツ野郎をやしなっているのか。ヒヒ ボスもたまにはお楽しみが必要だったのさ。ああいう人はいつだって信用で融資してもらえるよ。若造が消えたままだったら、ボスは三ヶ月もすればまた材木業界の第一人者になれるさ。ジェーン (服を引っ掛けて化粧しながら)私はいつも自分の末路はきっとこんなだろうと思っていたわ、中国人の淫売窟でくたばるだろうって。ヒヒ まだこれからどんな面白い目にあうかご存じないのさ。(背景の後で二人の声が聞こえる)2026/04/03 20:38:2730.夢見る名無しさんマリー どうしてあなたは私に全然触らないの? どうしていつもこんな薄汚れたずた袋を着ているの? 私、あなたの着られるような服を持っているわ。普通の男の人がみんな着るような背広を。私はよく眠れないの、あなたを愛しているわ。ジェーン しーっ! 聞いてごらん! また二人の声が聞こえるわ。シュリンク しかしそれには値しない。私は生娘のことは全然分からない。それに何年も前から、私の種族の臭いを意識してきました。マリー そう、酷い臭いよ、酷いわ、その臭いは。シュリンク そんな風に自分を責め苛んではいけない、いいですか、私の体は聞こえない耳と同じ。これは私の皮膚にも言えるのです。人間の皮膚は、自然の状態では、この世界に触れていくには薄すぎる。 だからこそ人間は、皮膚を厚くしようとするのです。人間の生長を止めてしまえばこれこそ完璧な方法ですがね。たとえばなめした皮はもう変わらない。ところが皮膚は生長します。次第次第に厚くなっていくのです。マリー そうなってしまうのは、あなたが、敵を見つけられないからなの?シュリンク 若い頃、揚子江のジャンクを漕いでいた時から。揚子江がジャンクを痛めつけた、そこでジャンクが私たちを痛めつけた、ある男がいてね、 そいつは漕ぎ手の席を通るたびに、我々漕ぎ手の顔をぺしゃんこになるまで踏みつけていったものだ。夜などは、我々は面倒臭くなって、顔を避けることさえしなくなった。その男のほうは不思議と疲れないのだ。 我々が苛めるものと言ったら、猫くらいしかいなかった。その猫も泳ぎを習わせようとしたら溺れ死んでしまってね。俺たちを悩ますネズミを取ってくれる猫だったのに。こういう仲間はみんなこの病気にかかってしまってね。マリー 揚子江で働いていたのはいつ頃?シュリンク 俺たちは朝早く葦の葉陰で横になっている時、この病気が進んでいくのを感じたのだ。毛虫 (登場)若造は風をくらって逃げましたぜ、シカゴ中に奴の影も形もありません。シュリンク 少し眠った方がいい。(外に出る)また消息なしか? (シュリンク、退場する)(開け放した戸から、目覚めたシカゴの騒音が聞こえる。ミルク売りの叫び声や、肉運搬車のごろごろと通りを通る音)2026/04/03 20:41:3131.夢見る名無しさんマリー 今、シカゴは、ミルク売りの叫び声や、肉を運搬する荷車の立てるごろごろいう音で目を覚ましたわ、 新聞、新鮮な朝の大気、出て行ければ素敵でしょうね、水で体を洗うのも素敵よ、草原だって都会のアスファルトだって何かを与えてくれるものよ。 たとえば昔暮らした草原なら、今頃は涼しい風が吹いているところよ、きっとそう。ヒヒ お前さん、まだ宗教問答の簡単な方くらいは覚えているかい、ジェーン?ジェーン (お経を読むように)全て悪くなっていく、悪くなっていく、悪くなっていく。(みんなは片付け始める。ブラインドを上げ、蒲団を重ねる)マリー なのに私は、なんか息が詰まりそう。私はある男と寝たい。でもどうやったらいいのか分からない。 犬のような女たちもいるわ、黄色い女や黒人女や。でも私には出来ない。私はのこぎりで切り刻まれたよう。 この壁は紙みたい。息ができないわ。何もかも燃やしてしまわないと。マッチはどこかしら。黒い箱の。 水が流れ込むようにしたいわ。、そして泳いで逃げる時は、私の体は二つになるわ、そして二つの方向に泳いでいくでしょう。それが末路だわ。ジェーン ボスはどこへ行ったの?ヒヒ シカゴがあんまり冷たいんで逃げ出していく旅行者の面を改めに出かけたよ。ジェーン 東の風が吹いている。タヒチ行きの船は錨を上げているわ。2026/04/03 20:43:0632.夢見る名無しさん同じホテル。一ヵ月後、九月十九日か二十日。汚い寝室、廊下、ガラス張りのウィスキー・バー。(毛虫、ジョージ・ガルガ、マンキー・ボドル、ヒヒ)毛虫 (廊下からバーに声をかける)奴は結局船出しなかったぜ。銛は思ったより深く食い込んでいたな。 俺たちは、大地が奴を飲み込んだと思っていた。ところが奴は今、奥のシュリンクの部屋に横になっていて、手前の傷口を舐めていやがる。ガルガ (寝室で)「あいつを夢に出てきた地獄の夫と呼んでやろう」ってとこだな、犬畜生のシュリンクめ。 「私たちは夫婦とは名ばかりの生活。あの人にはもう部屋もない。あの人の花嫁はヴァージニア煙草をふかし、身を売ったお金を靴下に貯め込んでいる」これが俺ってわけさ! (笑う)マンキー (ガラス張りの後のバーで)人生ってやつはおかしなものだね。たとえば俺の体験を言うが、ある知り合いの男がいた、 こいつは一流の人物だったが、ある女に惚れちまった。その女の一家は爪に火をともすような暮らしだった。奴は二千ドルもの金を懐にしていたんだが、女の家族は平気で見殺しにしたのよ。 その男は二千ドルでその女だけを買ったからだ。それだけ使わなきゃその女をものに出来なかったのよ。これは酷い話さ、でもその男は、前後の見境がなくなってしまったのさ。ガルガ 「見ろ、俺は罪人だ、俺は砂漠を愛した、陽に灼かれた果樹園を愛した。しょぼくれた店々を、生温い飲み物を愛した。お前たちは間違っているぞ、俺はけちな人間さ」 俺はもう横浜出身のシュリンクさんとは何のかかわりもないぞ!ヒヒ そうよ、たとえば材木商のシュリンクがそうだぜ。奴は昔はハートのかけらもない男だった。 ところがある日突然情熱の虜になったせいで材木屋はパーになっちまった。今は港で石炭運びをやっている、昔はこの地区を牛耳っていた男だぜ。毛虫 俺たちは、今あいつを、弱りきった純血種の犬のように、ここで養ってやっているのさ。でもやつが、また姿を現したあの馬の骨と手を切らなければ、こっちの忍耐にも限度があるぜ。2026/04/03 20:46:2633.夢見る名無しさんガルガ 「私はいつかあの人のやもめになるでしょう。それは確かです。その日はカレンダーに印がついているわ、そうなったら私は、綺麗な下着を着て、あの人の亡骸についていくわ、日の光を浴びて、大股を広げて」マリー (食べ物の入った籠を下げて入ってくる)ジョージ!ガルガ 誰だ? (マリーと気付いて)お前、何てなりだ! まるで汚らしい乞食みたいじゃないか!マリー そうよ。毛虫 (バーに入って来る)奴はへべれけに酔ってるぜ。今は妹さんのご訪問を受けたところよ。妹に向かってお前は薄汚いと言っているよ、ボスはどうした?ヒヒ 今日は来るぜ。ここにジェーンを呼んでおいたからな。若造の餌にな。この戦いにはどんな手でも使わなきゃな。ジェーン (頭を振る)あんたたちって分からないわ。飲むものをちょうだい、焼酎を。マリー 前には私のことをもっと清らかだと思ってくれたわけ、ありがたいわね、そこで今ここに私がいるのを見てびっくりしているのね、私だってまだ兄さんが女たちの憧れの的だった頃のことを思い出すわ。 あの頃はシミーを踊ってもラグタイムを踊っても、相手を有頂天にしてやった兄さん。 土曜の夜っていうと、ズボンにはきちんと折り目をつけて浴びるように煙草やウィスキーを飲み、女に打ち込んでいたわね。これは男に許された悪徳だもの。私はあの頃のことを思い出してもらいたいわ、ジョージ。 (間)どんな生活をしているの?ガルガ (軽く)ここは夜、冷えるだろう? 何か必要なものはあるか? 腹は減ってないか?マリー (軽く首を振り、彼を見つめる)ああ、ジョージ、しばらく前から、私たちの上で禿鷹が舞っているわよ。ガルガ (軽く)お前はいつから家へ帰ってないんだ?(マリー、黙る)ガルガ お前がここに出入りしているって話は聞いているぜ。マリー そう。家族の世話は誰がやっているのかしら?2026/04/03 20:48:4834.夢見る名無しさんガルガ (冷血に)安心しろよ、どっかの誰かさんが面倒をみてくれるって話だぜ。それにお前が何をやってるかも知ってるぞ、チャイナホテルがどういうところかも少しは知っているからな。マリー そんなに冷酷になっていい気持ちなの?(ガルガ、じっと彼女を見つめる)マリー そんなに顔をじっと見ないで、分かってるわ、あんたは敬虔なカトリックだから告解させたいのね。ガルガ さあ、やりな!マリー あの人を愛しているわ、何故何も言わないの?ガルガ 愛すればいいじゃないか、それがあいつの弱みになる。マリー お願い、そんなに天上ばかり見てないで。私、あの人に愛してもらえないの。ガルガ こいつは恥だぜ!マリー 分かっているわ---ああ、ジョージ、私は二つに裂けてしまったわ、あの人に愛してもらえないからなのよ、あの人の姿を見ただけで体が震えてくるの、でも面と向っては逆のことばかり言ってしまうの。ガルガ お前にまともなことは言ってやれない、振られている女にはね。昔俺にも友がいた。ラム酒一本の値打ちもない女だったが、男の気を引くことだけは心得ていやがったよ! ただで身を売りはしなかったからね。自分の値打ちは知っていたんだ。マリー ずいぶん厳しいことを言うのね、兄さんの言葉はアルコールみたいに私の頭の中に沁み込んでいくわ。 でもそれはいいこと? きっと兄さんにはいいことだって分かっているのね。でも、私は今兄さんという人がよく分かったわ。(廊下からシュリンクが入って来る)毛虫 俺もあんたに人生経験からいっておくぜ、人間って奴は、どんな非常な奴だって絵空事の夢にころりと参ってしまうものさ、それに現実の人生ってやつほど空々しいものはないんだぜ!(マリー・ガルガが戻ろうとしてシュリンクにぶつかる)シュリンク ここにおいででしたか、ミス・ガルガ?2026/04/03 20:50:3335.夢見る名無しさんマリー 女が男の人に愛を打ち明けるなんて、非常識なことです。私は言っておきたいの。私のあなたへの愛はそれだけのものだって。あなたから何も求めはしません。 あなたにこんなことを言うのは生易しいことじゃなかったんです。多分よくお分かりでしょうけど。ガルガ (寝室から入って来る)ここにいろ、マー。俺たちは草原の住人の面魂で、大都会に流れ込んで来たんだ。堂々と振舞うんだ。お前のしたいことを、しなければいけないぞ。マリー そうね、ジョージ。ガルガ 今は、こいつが大馬力で働いているのに、俺はのらくらとアブサンの池に転がって寝ているのさ。シュリンク 世界の征服者と言われるような人は、仰向けに寝転がるのが好きなものさ。ガルガ 物持ちはあくせく働くものさ。シュリンク 心配事でもあるのかね?ガルガ (シュリンクに)俺があんたの顔を見つめると、あんたはいつもいろいろ気をまわしてくれるんだな。あんた、競馬で大損しそうな気がしたのか。顔が嫌に老けたね。シュリンク 私のことを忘れないでいてくれてありがとう。君は南方に行ってしまったんだと思いかけていたよ。失礼をお詫びしたい。僭越だったけれども、私は君の不幸なご家族を、この手で働いて養っていたよ。ガルガ 本当か、マー? 僕は全然知りませんでしたよ。潜り込んだんですか? 僕の家族を養っているという卑劣なお楽しみを満喫しているのか? おかしくてへそが茶を沸かすぜ。(彼は下手の寝室に行って横になって笑う)シュリンク (彼の後について行く)笑いため、君の笑いが好きだ、君の笑い、それ、私の太陽だ。 ここは全く惨めだからな、君の姿を見られないのは本当に辛かったよ、もう三週間になるな、ガルガ。2026/04/03 20:52:3236.夢見る名無しさんガルガ その間、僕は満足していたぜ、ともかくね。シュリンク ぬるま湯につかったような生活をしていたものな。ガルガ ただあんまり寝転がりすぎていたので、背骨が魚の骨のように平らになっちまったよ。シュリンク 生きるというのは何と惨めなことだ、ましてやぬるま湯に浸かって生きるなんて、おまけにそのぬるま湯というのが酷すぎる代物さ。ガルガ 俺は人生に用事がたくさんあるから、あんたを思い切り靴で蹴飛ばしたりしてはいられない。シュリンク 私のようなつまらない人間のことや私の目論見は気にしなくていい。でも私は敵としてここにいるのだ。君がこれで戦いを放棄するというなら、君は戦いの場を捨てた責任を負わざるを得ないよ。ガルガ でも俺は放棄するぜ。ストライキだ。タオルを投げるぜ。大体俺はそんなに深く、あんたに食いついたかね? あんたはちっぽけな固い檳榔樹の実だよ、こんな実は吐き出すに限る。歯より固くて、しかも殻ばかりってことが分かっているんだから。シュリンク (満足そうに)君に分かってもらうためなら、どんな明かりでも使ってはっきりさせようとしているんだ。私の姿をこの明かりの下に晒そう。(明かりの下に行く)ガルガ 自分のあばただらけの魂を、ここで競売にでもする気か? あんたはどんな苦しみにも耐えられるほど、強靭なのか? 皮が厚いのか?シュリンク さあ、この殻を噛み砕くんだ。ガルガ あんたは後退りして俺のコーナーに飛び込んできた。形而上学的な戦いをやるといいながら、俺の身内を拷問にかけた。シュリンク 妹さんにしたことを言っているのかね。君が庇っていたものを、私は拷問台にかけたりはしなかったよ。ガルガ 俺の使えるのはこの二本の手だけだ。俺にとって人間的だったものを、あんたは一山の肉のように、片っ端から飲み込んでしまった。 あんたに俺の生きる糧をすっかり塞がれたおかげで、初めて俺は、これが俺の兵糧だったのかと気付いたわけだ。 あんたは俺の家族まで手段にした。俺の手持ちの兵糧を食い潰していった。俺は日ごとに痩せていった。 ついに俺は形而上的なものになってしまった! その今になって、自分の飲み込んだものを、この俺の面に吐き出す気なのか?2026/04/03 20:55:1637.夢見る名無しさんマリー ジョージ、お願い、もう出て行ってもいいでしょう? (彼女は後ろに下がる)ガルガ (彼女を前に引っ張り出して)とんでもない! たった今お前のことを話し始めたところじゃないか! 俺の目はお前に注がれたばかりだ。シュリンク 私は運悪く君のウィーク・ポイントを蹴飛ばしてしまった。後退しよう、君は自分が愛している対象の価値を、それが死体置き場に並ぶようになって始めて悟るようだね。 そこで私には、君の愛の対象が何か君に教えてあげたいという欲求が起こってくるのだ。ガルガ でも犠牲はもちろん払うつもりさ。僕は拒んでいない。マリー 兄さん、私を行かせてちょうだい。ここにいるのが恐いの。シュリンク こっちへいらっしゃい! (廊下へ駆け出す)新しい家庭を築こうじゃないか!マリー ジョージ!ガルガ ここにいろ! (入って来る)人間的にやってください、あんた!シュリンク 私は一瞬たりとも拒みませんよ。ガルガ お前はこの男を愛しているのか? でも相手が乗らないのか?(マリー、泣く)シュリンク あまり無理をしない方がいいんじゃないですか。(寝室に引っ込む)ガルガ 心配ご無用さ。この方が話がはかどる。今日は木曜の晩ですね? ここはチャイナホテルだ。ほら、これが僕の妹のマリー・ガルガですよ、そうでしょう? (外へ飛び出す)来いよ、マー! 俺の妹! これが横浜生まれのみスター・シュリンクだ。お前に何か話があるってよ。マリー ジョージ!2026/04/03 20:56:5338.夢見る名無しさんガルガ (出て行って飲むものを取って来る)「俺は街中に逃れた。そこに燃える茨の茂みの中に、オレンジ色の口を歪めて、純白な夜の女たちがうずくまっていた」マリー 窓の外は真夜中よ、今日は家に帰りたいの。シュリンク お付き合いしましょうか、よろしかったら。ガルガ 「彼女たちの髪は黒漆の林のよう。細い毛だった。彼女たちの涙は、酔いしれた夜の逸楽と、戸外に転がった生贄どもの上を渡る風によって拭われる」マリー (小声で)どうか私にそんなことを頼まないで下さい。ガルガ 「玉虫色の蛇の皮のような薄物が、絶えず苛立つ体に触れて、ひたひたと音を立てる」シュリンク 私はあなたに本気でお願いしたのですよ。私は誰に対しても隠し事をしません。ガルガ 「この薄物が彼女たちの体を、足の爪先まで覆っている。天国にいるマドンナでさえ、自分の妹たちのこんな姿を見たら青ざめるだろう」 (戻って来る。シュリンクにコップを渡す)のみませんか? 飲む必要がありそうだ。シュリンク 何故あなたは飲むんです? 酒飲みは嘘吐きだ。ガルガ あんたとお話するのは、実に愉快です。僕は酒を飲むと、手前の思想ってやつが半分くらい流れ出ていっちまうんだ。それを僕は地面に注いでやる。すると思想はすっかり軽くなるんだ。さあ飲みたまえ!シュリンク 飲みたくない気分です、お許しいただければ。ガルガ 僕がすすめているのに、あんたは拒むんだ。シュリンク 拒みはしない、ただ私には脳髄しかないものだから。ガルガ (しばらく間をおいて)失礼したな、じゃあ半分ずつ飲もうじゃありませんか。あなたも脳髄を減らせばいい。飲んでしまえば愛するようになりますよ。シュリンク (まるで儀式のように飲む)飲んでしまえば愛するようになるだろう。ガルガ (寝室から呼ぶ)一杯飲まないか、マー? 嫌か? 何故座らないんだ?ヒヒ 黙れ! 奴らの喋るのを、今まで我慢して聞いていた。もういい加減に黙ってもらいたい。ガルガ (マリーに)こいつは黒い穴だ。今、四十年が過ぎた。俺は嫌とは言わない。台地が裂ける、下水が高まってくる。でもその欲望は弱すぎるのだ。 四百年間、俺は海に訪れる朝を夢見てきた。目には汐風を感じた。何という柔らかい風だったのだろう! (彼は飲む)2026/04/03 20:59:3239.夢見る名無しさんシュリンク (へりくだって)私はあなたに求婚します、ミス・ガルガ。あなたの前に平伏しましょうか? どうか私とお付き合いください。私はあなたを愛しています。マリー (バーに駆け込む)助けて! 私を売ろうとしているのよ!マンキー 俺がついているさ。マリー 分かっていたわ、あなたが私のいる所に、必ず来ているだろうって。ガルガ 「オペラのように一陣の風が仕切り壁に隙間を作った」シュリンク (怒鳴る)バーから出ていらっしゃい、ミス・ガルガ、よろしかったら。(マリー、サロンから出てくる)シュリンク どうか体を投げ与えるようなことはしないで下さい、ミス・ガルガ。マリー 私は何もない小さな部屋に行きたい。私はもうたくさんのことを求めることはしないわ。パット、約束するわよ、私はもう何かを望んだりしないわ。ガルガ あんたのチャンスを守りなさいよ、シュリンク。シュリンク まだ過ぎ去っていない長い年月の事を、お考えなさい、マリー・ガルガ。そしてもうお休みなさい。マンキー 一緒になろう。俺は四百ポンド持っている。これだけあれば、冬にもねぐらが見つかるし、幽霊は死体置き場にしか出なくなる。シュリンク お願いです、マリー・ガルガ、よろしかったら私と一緒になりましょう。あなたを私の妻のように扱い、あなたにかしずきます。 もしあなたを一度でも傷つけたら、人目につかぬように首を吊りますよ。ガルガ こいつは嘘は吐かない。絶対に嘘は吐かないぜ、お前、こいつと暮らせば、今奴の約束したものだけ果てに入れられるぜ、掛け値なしに。(バーに行く)マリー あなたに聞きたいわ、パット、私があなたを愛していなくても、あなたは愛してくれるの?マンキー そうとも、それに君が俺を愛さないなんて、この天と地のどこを探しても書いてないぜ、君。ガルガ 君かい、ジェーン。君、カクテルをすっかり平らげちまったのか? 君はどうも君とは似ても似つかない姿になっていくな。何もかもすっかり売り渡したのか?ジェーン この男を片付けてよ、ヒヒ。こいつの顔が嫌なのよ、うるさいったらありゃしない。私がもうミルクと蜂蜜の中で暮らしている女じゃなくなったからって、からかわれるいわれはないわ、パブ。2026/04/03 21:01:4840.夢見る名無しさんヒヒ お前のことをガバガバの使い古しまんこだなんて言う奴がいたら、鼻の骨をへし折ってやる。ガルガ 奴らは君まで養ってくれたのか? 君の顔ときたら、中身を吸われたアイスレモンみたいに萎びちゃったな。 昔は君は、オペラの中の女のように、ぼろを着ていても上品に歩いていたのに、今は黒の白粉塗りだ。 でも君が自分から進んでここにやって来たんじゃないことは、大いに買ってやるぜ。蝿どもにたかられて酷く汚れたからだろ、酔っ払いの牝鶏ちゃん。マリー さあ行きましょう。出来れば、あなたのお世話をしたかったんです、シュリンクさん、でもできません。これは傲慢じゃないんです。シュリンク よかったらここにいらっしゃい! お気に召さないなら、二度と求婚しません、 しかし穴に飲み込まれてはいけませんよ。男から離れても、いられる場所はたくさんある。ガルガ 女にはそういう場所はないぜ、放っておきなよ、シュリンク、こいつが行こうとしている先が分からないのか? お前だって、ジェーン、冬のねぐらの方を選んでいたら、今頃はまだワイシャツの山に囲まれていただろうぜ。シュリンク 愛する前に、お飲みなさい、マリー・ガルガ!マリー 行きましょう、パット、ここはいい場所じゃないわ、これがあんたの奥さん、ジョージ? この人が? ともかくお目にかかれて嬉しいわ。(マンキーと退場)シュリンク (後から声をかける)私はあなたを見捨てませんよ、それが分かったらまた来て下さい。ヒヒ 使い古しのまんこだぜ、諸君、ガバガバのな。(彼は笑う)ガルガ (蝋燭でシュリンクの顔を照らしてみて)あなたの顔は全く平静だ。そのあなたの善意ってやつで僕を丸め込むつもりですか?2026/04/03 21:03:3541.夢見る名無しさんガルガ 僕は今、家族の奴らなんか、みんな叩き殺してやりたいくらいだ。分かっているさ---これからあんたの先手をうつつもりだからね、 あんたが石炭運びを屋って稼いだ金で、何故俺の家族をたっぷりやしなってくれたか、その理由もわかりましたよ。 僕から楽しみを奪おうったって駄目だぜ。あんたが僕のために保管しておいてくれた、この小さな動物も、ありがたくいただいて参りますよ。ジェーン 私を侮辱するのはよして。私はちゃんと独り立ちして、自分で食べている女よ。ガルガ それからお願いだが、あの二重売りの材木の代金を貰いたい。多分これも僕のために保管してくれているでしょうね。いよいよ貰う時になりましたからね。 (シュリンクはその金を取り出して彼に渡す)僕は全く酔っ払っている。 しかしどんなに酔っていても、結構いい考えが浮かんで来るんだ、シュリンク、素晴らしい計画がさ。(ジェーンをつれて去る)ヒヒ あれはあんたの最後の金だったんですね、ボス。その金の出所はどこです? そのうち問い合わせが来ますよ、ブラスト商会はもう支払いを済ませた材木を早く寄越せと言ってきてるんだから。シュリンク (彼の言うことには耳を貸さないで)椅子だ。(彼らは椅子に座ったままで誰も立ち上がらない)米と水をくれ。毛虫 ここではあんたにやる飯はない。あんたの預金はマイナスだぜ。2026/04/03 21:05:2042.夢見る名無しさんミシガン湖。九月末。(シュリンク、マリー)マリー 木々からは人間の糞みたいなものが垂れ下がっているわ、天は手が届きそうに近い、私を相手にもしないくせに。寒いわ、私は凍死しかけたつぐみのよう。どうしようもないの。シュリンク それで役に立つなら言いましょう。私はあなたを愛しています。マリー 私は体を投げ与えてしまったの、一体どうして私の愛は、こんなに苦い実を結んでしまったのかしら。 他の人たちなら、愛する時が生涯で一番素晴らしい時だというのに、私は枯れしぼんでしまう。自分の身を責め苛んでいる。私の体は汚れてしまったの。シュリンク どんなにどん底かすっかり話しておしまいなさい。そうすれば気が軽くなるでしょう。マリー 私は動物のような男とベッドで寝たわ。全身がつんぼのように無感覚だったけど、その男に体を投げ与えたわ、何回も。 それでも体はちっとも暖まらなかった。彼はその合間にヴァージニア煙草をふかしていたわ、船員だったわ、私はこんな壁紙に囲まれながらあなたをずっと愛しつづけていたわ、 あまり熱烈だったので、相手が自分への愛と勘違いして、私を貶めたほどだったわ。私は深い深い闇の眠りの中に落ちていったの。あなたに対しては何の負い目もないのに、私の良心は私を責めるのよ。 本当はあなたのものであるはずの私の体を、汚してしまったといって。あなたはその体を拒んだのにね。シュリンク 可哀想だね、寒いのですか、私は、空気は生温くて暗いと思っていたんだが、私は、この国の男たちが恋人に向って何と言うのか知らない。でもそれで役に立つなら言いましょう。あなたを愛していると。マリー 私はとても臆病になったわ、純潔と一緒に勇気まで失ってしまったのね。シュリンク 汚れはまた洗い流せますよ。2026/04/03 21:51:0743.夢見る名無しさんマリー 私は川に身を投げなければいけないところね、でもできないの、まだ覚悟が出来ないのよ、ああ、この絶望! どうしても満たされないこの心、私は何でも中途半端なの、愛してもいない、ただの見栄なのよ、 あなたの仰っていることは聞こえているわ、耳は聞こえるの。でもこれはどういうこと? 多分私は眠るでしょう、それからまた起こされる。多分私は、汚らわしいことをしていくでしょう。 住む屋根を手に入れるために。そして自分を欺き、そして目を閉じるんだわ。シュリンク いらっしゃい、ここは冷えてきましたよ。マリー でもあまり近すぎる天に比べれば、木の葉陰のほうが暖かくて優しいわ。(退場)2026/04/03 21:53:0144.夢見る名無しさんマンキー あの女の跡がここまでついている。九月という月には、たっぷりユーモアをもつ必要があるな。 交尾期の今頃は、カニの雄雌もつがい合うし、茂みでは鹿の雄が牝を求めて鳴いている。穴熊の禁猟期も開けた。 でも俺様の後ろ足は冷たいな。黒い靴下に新聞紙を巻きつけてやろう。あの女、どこにねぐらを構えやがったのかな。 こいつはまさに酷い話だ。あいつが今頃、薄汚れたバーで魚の骨みたいに、ごろごろしているとしたら、 もう二度と清潔な肌着は身につけられない身になってしまう。染み付いた汚れはもう取れない! よし、パット・マンキー・ボドル、俺は手前自身を即決裁判にかけてやるぞ。 俺は手前の身を防御するには弱すぎるから、そこで攻撃に転じてやるってわけだ。 あのあばずれなんか、厚い皮ごとひとのみに飲み込んで、消化を早くするためにお祈りをしてやるぞ、畜生。 禿鷹は軍法会議で即決銃殺して、マンキー・ボドル博物館に吊るしてやる。ブルブル! ただの台詞だ! 歯の抜けたような台詞だ! (ピストルをポケットから出す) これこそもっとも冷酷な解答ってやつだ。茂みの中を、女の尻の後を追いかけて這いずり回るなんて、何 ことだ! この老いぼれ助平! くたばってしまえばいいんだ、俺なんか。おっと畜生、ここは自殺の森じゃないか! いいか、しっかりしろ、パッディ! もしあの女がすっかりお終いになっているとしたら、その末路はどうなるだろう。 やめたやめた、パッディ。煙草を一服してちょっくら腹をこしらえよう。こんなものはしまって、さあ、前進だ!マリー (シュリンクと戻って来る)そんなことは神様にも人間にも背いた行為です。あなたと一緒にはなりたくないわ。2026/04/03 21:54:4145.夢見る名無しさんシュリンク そんなのはもろい感傷にすぎませんよ。あなたの心の風通しをよくしておやりなさい。マリー できません。あなたは私を生贄になさるおつもりね。シュリンク あなたはいつだって、頭を男の腋の下に入れていなければならないんだ。相手は誰にしろね。マリー 私はあなたにとっては何者でもないのにね。シュリンク あなたは一人で生きることは出来ない。マリー あなたは何て素早く私を捕まえてしまったの。まるで私があなたから逃げて行こうとしたみたいに。生贄のように虜にしたわ。シュリンク あなたは狂った牝犬のように茂みに駆け込んだが、今度は狂った牝犬のように飛び出すんだね。マリー 私はあなたが今仰ったような、そんな女かしら? 仰る通り、いつもそうだったのね。 私、あなたを愛しています。あなたを愛していることだけは忘れないで下さい。狂った牝犬のように愛しています。 あなたがそう言ったのよ。さあ、ではお金を払ってちょうだい、そうよ、私は払ってもらいたいのよ。 お札をちょうだい、それで暮らしていくわ、私は淫売だもの。シュリンク あなたの顔に雫が流れているよ、あなたが淫売だなんて!マリー 私をからかわないでお金をちょうだい。顔を見ないで。私の顔が濡れているとしたら、涙なんかじゃないわ、霧のせいよ。(シュリンク、彼女に札を渡す)マリー お礼なんか言わないわよ、横浜生まれのシュリンクさん。これは全くのビジネスなんですもの。お礼はなしよ。シュリンク 帰った方がいい、ここでは稼ぎにならないよ。(退場)2026/04/03 21:56:3146.夢見る名無しさんガルガ家の居間。一九一二年九月二十九日。(部屋は新しい家具でいっぱいである。ジョン・ガルガ、マエ、ジョージ、ジェーン、マンキー、みんな仕立て下ろしの服を着て、結婚式の食卓につく)ジョン ここで名前は言いたくない、違う肌の色をしたある男が、知り合いのある家族のために、石炭運びに波止場へ出かけて行って、その家族のために夜を日についで働いて、 俺の家の家族を保護してくれるようになってからというもの、ここの暮し向きはあらゆる点でよくなってきた。 今日うちの息子のジョージが大会社の重役並みの結婚式を上げられるようになったのもあの男のおかげだ。 でもあの男はそれを知らない。新調のネクタイ、黒いスーツ、口から漏れるウィスキーの香り、しかも新しい家具に囲まれて!マエ あの男が波止場の石炭運びをやってそんなに稼ぐなんて、おかしなことじゃないかい?ガルガ 稼ぎ手は俺だよ。マエ お前たちはそそくさと結婚しちゃったね。少し早すぎたんじゃないかね、ジェーン?ジェーン 雪だってとけてしまえば跡形もなくなるわ。間違った男を選んでしまうことだってよくありますよ。マエ 選んだ男の良し悪しを言っているんじゃないよ。問題は長続きするかどうかだよ。ジョン お喋りはよせ! ステーキを食って嫁さんと握手しなさい。ガルガ (彼女の手首をつかんで)素晴らしい手だ。ここは全く素敵な居心地だよ。壁紙が剥がれていたって平気だ。 新調の服を着て、ステーキを食う。ここの石炭だっていい味だ。僕は指先くらいの厚さの漆喰を全身にかぶっていたんだから。 ピアノがあるな。愛する妹のマリー・ガルガの、写真の周りに花環を飾ってくれよ、 二十年前に大平原で生まれた彼女の写真の、ガラスの下に色褪せない押し花を入れておくんだ。 ここは座り心地も寝心地も実にいいじゃないか、黒い風もここまでは吹いてこないさ。2026/04/03 21:58:1347.夢見る名無しさんジェーン (立ち上がる)どうしたの、ジョージ。熱でもあるの?ガルガ 熱があるといい気分だぜ、ジェーン。(他の人たちも立ち上がる)ジェーン 私はずっと考えていたのよ、あなたは私に何を企んでいるんだろうって。ジョージ?ガルガ 何故そんなに青い顔をしているんだ、母さん、放蕩息子がまた帰ってきて、同じ屋根の下に座っているのにさあ、どうしてみんな石膏で固めた立像みたいに壁際に突っ立っているんだ?マエ お前がそうやってべらべら喋っているのも、例の戦いの話なんだろ。ガルガ 僕の頭に変な考えがちらちらしているっていうのか? そんな考えは追い払えるさ。(シュリンク、登場)ガルガ ああ母さん、ステーキとウィスキーをこのお客様に出してくれ。歓迎しなきゃいけない人だ! 何故って僕は今日結婚したんだからね、さあ、女房の君が話せよ!ジェーン 私と私の夫は、今朝ベッドから起きるとそのまま真っ直ぐ保安官の所に出かけて行ってこう言ってやったわ。 「ここで結婚できますか?」すると保安官は言ったわ。「俺はお前という女をよく知っているぞ、ジェーン---お前はこの亭主一人で通せるのか?」って。 でもこの髭面の男は気がよさそうで、私に悪意はもっていなかったと分かったので、こう言ったの。 「人生ってのはあなたの考えているようなものじゃないのよ」って。シュリンク おめでとう、ガルガ、君は復讐の念にとりつかれているようだね。ガルガ あんたは微笑んでいるけど、酷く恐いんだろう。それはそうさ、そう慌てて食わなくてもいいじゃないか! 時間はたっぷりあるんだぜ、マリーはどこだ? あの娘はちゃんと世話してもらっているだろうね。 きっと満足しきっているだろう。悪いけど今の所、あんたにおすすめできる椅子が空いていないんだ。ちょうど一つ椅子が足りない。これさえあれば家具は新調で完全なんだけどね。 まあこのピアノを見てくださいよ! 全く居心地がいい。僕はこの一家団欒の雰囲気の中で幾晩も送りたい。僕も新しい人生を始めることになったのでね、明日はまたC・メインズの貸本屋に行きますよ。マエ ああ、ジョージ、そんなにお喋りをしないでおくれ。2026/04/03 22:00:3148.夢見る名無しさんガルガ お分かりになったでしょう、僕の家族は僕がこれ以上あなたと付き合うことを、望んでいないんです。 僕たちの付き合いは終わりですよ、ミスター・シュリンク、この付き合いのおかげで大変儲けさせてもらいました。 この家具がそれを雄弁に物語っています。家族みんなの新調の服を見ても明らかだ。現金だってたっぷりありますよ、本当にありがとう。(静寂)シュリンク すまないが、個人的なことでお願いがあります。私は、ここにブラスト商会からの手紙を持っています、 ヴァージニア州の裁判所の判が押してあります。私はこの手紙をまだ開けていなかったことに気がついた、 開けてくださるとありがたいのですがね。どんな悪い報せでも気分が悪くならないならね。(ガルガ、読む)シュリンク この私の個人的な問題で君に指示していただければとても気が楽になるのですが。マエ 何故お前は何も言わないんだい、ジョージ? 何をするつもりなの? また何か企んでいる顔つきだね。 私はそれが一番恐いんだよ、あんたたちのやっていることは私には五里霧中だよ。まあ待っていろよ、と言ってあんたたちは出かけて行く。 そして戻って来た時には、もう見分けられないほど人が変わってしまっているんだ。何をやってきたのか、私たちにはまるで分からない。お前の計画を言っておくれ、 分からないなら分からないと言いなさい、だったら私たちもそれに合わせて考えるから。この鉄筋と塵垢の町で過ごした四年間ときたら! ああ、ジョージ!ガルガ いいかい、その酷い四年間というのが、それでも一番ましな月日だったんだよ、それももうこれで終わりだ。 もう何も言わないでくれよ。両親であるあんたたちと、女房のジェーンに言っておく。俺は刑務所に行く決心をしたよ。2026/04/03 22:02:3449.夢見る名無しさんジョン 何だって? お前たちの金の出所はそんなことだったのか。お前の末路は監獄だってことは、お前の顔に書いてあったよ、五つぐらいの時からな。 お前たち二人の間に、どんなことがあったのか聞きはしなかった。どうせ汚らしいことだと言うことはいつも分かっていたさ。ピアノを買うのも牢屋に入るのも、山のようにステーキを買って家に運び込むことも、 家族から生活を奪うことも、お前たちにはみんな同じことなんだろう。マリーはどこにいるんだ、お前の妹は? (彼は上着をむしりとって彼に投げつける) 俺に上着は返すぞ、こんなものは着たくはなかったんだ。でもこの先この町が俺をどんなに貶めても、耐えることには慣れているさ。ジェーン ジョージ、どのくらい入れられるの?シュリンク (ジョンに)材木の二重売りなんですよ、もちろん懲役にはなります、保安官には情状酌量などありませんからね、 彼の友人である私は保安官にいろんなことを明快に説明できますよ、スタンダード石油の税金申告みたいにね。息子さんの相談にはいつでも乗りましょう。ジェーン 口車に乗せられ茶駄目よ、ジョージ、人のことは心配しないであんたが必要だと思うことをしなさい。あなたのいない間は、妻の私がこの家をやっていくから。ジョン (からからと笑う)こいつがこの家の面倒を見てくれるとよ! 昨日お前が往来から拾ってきた淫売がかい。罪に穢れた金で養っていただくんだとよ!シュリンク (ガルガに)あなたを見ていて家族思いだということが分かったよ。あなたはこの家の家具に囲まれて毎晩を過ごしたいと思っている。 あなたの考えも幾らかは友人である私に伝わってくるでしょう。何しろ私はあなたたちみんなの障害を取り除くために、骨折っているんだからね。 ご家族があなたを失わないように努力するつもりですよ。マエ 監獄なんかに行っちゃ駄目だよ、ジョージ!2026/04/03 22:05:0950.夢見る名無しさんガルガ そうだろう、母さんには分からないさ、一人の人間にダメージを与え、そいつをくたばらせるのがどんなに難しいか、これこそ不可能だよ。 世界は貧しい、俺たちは戦いの相手を世界に投げつける仕事で身を粉にするんだ。ジェーン (ガルガに)また哲学を始めたわね、頭の上の屋根が腐って崩れ落ちようって時に。ガルガ (シュリンクに)世界中を探し回ってみるといい、悪党なら十人くらいは見つかるでしょうが、 悪い行為ってものは一つだって見つかりませんよ。人間ってものは、ほんのちょっとした原因で破滅するものだ。もうごめんだぜ、僕は清算するよ。これで勘定にけりをつけて、それからおさらばするぜ。シュリンク 君の家族は、君に見放されるかどうかを知りたがっている。君が支えなければ破滅するものな。何か一言言いたまえ、ガルガ。ガルガ みんなのしたいように、勝手にするがいいよ。シュリンク 家族は野垂れ死にしていくだろう。君の責任だよ。そうたくさんはいないと思うが、君みたいに綺麗さっぱりと片をつけたくなる気を起こす連中も、出てくるかもしれないな。 そいつらは汚いテーブルクロスをちぎったり、服のポケットの吸殻を叩き出したりする。君のすることなすことを真似して、自由でいたい、染みだらけの下着を着た酷い格好でいたいなんて言い出すかもしれないよ。マエ お黙り、ジョージ、この人の言うことは本当だよ。ガルガ こうやって目を細めてみると、冷たい光の中に、やっと何かが見えてきたぞ。でもあんたの顔は見えない、ミスター・シュリンク。多分あんたには顔がないんだろう。シュリンク 四十年の歳月は汚らしいものだったと分かった。そして今こそ大いなる自由ってやつが訪れるのさ。ガルガ そういうわけだ、雪が降りそうだった、だが寒すぎて降らなかったぜ。家族の奴らはまだ残飯を食い、ひもじい腹を抱えながら生き続ける。それをよそに僕は、僕は敵を打ち倒すのだ。ジョン わしには弱点ばかりしか見えないぞ、弱点だらけだ。生まれてこの方お前を知っているが、お前はまるで駄目だ。さあとっとと出て行け、俺たちを捨ててな。なぜ家具を運び出しに来ないんだ?2026/04/03 22:08:0551.夢見る名無しさんガルガ 本で読んだが、弱い水が大きな山を相手にも出来るそうだ。そこで僕はあんたの面付きをよくよく眺めさせてもらうぜ、シュリンク、曇りガラスのように曖昧な君の悪いその面をね。シュリンク これ以上君と話す気はないよ。三年か! 若い男にとってはドアが開くくらいの時間だ。でもこの私にとってはどうだ! 私は君から何の利益も得られなかったよ、こう言えば慰めになるかな。 でも今考えてみると、君は僕の中に、ほんの少しの悲しみの傷痕も残していかなかったよ。今私はまた喧騒の町に入り込んで、君と知り合う前のようにビジネスに勤しむつもりだがね。(退場)ガルガ 僕は警察に電話さえすればいいわけだ。(退場)ジェーン 私はチャイナバーへ行こう。警察なんかに会いたくないわ。(退場)マエ 時々思うんだよ、マリーはもう二度と帰って来ないだろうって。ジョン それも自業自得さ。罰当たりな仕事をしている連中は誰にも救ってもらえないのさ。マエ まともだったら、いつ助けてもらえるのかね?ジョン いちいち口を出すな!マエ (彼の脇に座る)あんた、これからどうするつもりか聞きたかったんだよ。ジョン 俺か? 何もしない、これで一巻の終わりよ。マエ ジョージの企んでいることが分かってたんだろう。ジョン ああ、おおよそはな。みすみすこうなったからなお辛いんだ。マエ これから何で暮らしていく気?ジョン まだ残っている金でよ。それにこのピアノも売れるだろう。2026/04/03 22:10:2452.夢見る名無しさんマエ そんなものは持って行かれちまうよ、どうせ真っ当に手に入れたものじゃないんだから。ジョン ひょっとしたらオハイオに帰ることになるかな、何か手を打たなきゃ。マエ (立ち上がる)あんたにまだ言いたいことがあったよ、ジョン、でも言えないよ。私は人間には突然破滅することなんかないと思っていたんだよ。 でも天ではいつもと変わらないごく当たり前の日に、神様がお決めになる、するともうその日から、破滅が始まるのさ。ジョン お前は一体何を考えているんだ?マエ これから、はっきり決めたことをするつもりだよ、ジョン。私はとてもやりたいんだよ。何か理由があるだろうなんて思わないでおくれ、石炭はつけておくよ。晩御飯は台所に置いておくからね。(退場)ジョン 階段の所で鮫の幽霊に食われないように気をつけろよ。ウェイター (入って来る)ミセス・ガルガが下でグローク酒をご注文になりました。暗がりでお飲みになりますか、それとも明かりをつけましょうか?ジョン もちろん明るい所で飲むぞ。(ウェイター退場)マリー (入って来る)何も言わないで! お金を持って来たわ!ジョン よくもいけ図々しくここに入って来られるな? 全く大した一家だよ! お前、なんてなりだ?マリー なかなかいいと思わない。ところでこの新しい家具は一体どうしたの? お金が入ったの? 私もお金が入ったのよ。ジョン どこから手に入れた?マリー 知りたいの?ジョン 寄越せ! 俺を飢えさせて、こんなざまにしちまったんだからな。マリー ほらお金、取りなさいよ、新しい家具でいっぱいだけど。お母さんは?ジョン 脱走兵は銃殺されるものだ。マリー 家から追い出したの?ジョン お前たちみんなせいぜい毒づいてどん底に落ち転げまわってグローク酒でも飲むといい。でも俺は父親だぞ、俺を飢え死にさせていいのかよ。2026/04/03 22:11:3653.夢見る名無しさんマリー どこへ行っちゃったの、母さんは?ジョン お前も出て行っていいんだぞ、俺は見捨てられることに慣れているからな。マリー いつここから出て行ったの?ジョン 人生もお終いって時に、貧乏になって手前の子供のお情けに縋る運命に見舞われたとはいえ、俺は道ならぬことにかかわりはもちたくない、躊躇ったりせずにお前を追い払えるぞ。マリー お金は返してよ、父さんにあげるつもりじゃなかったんだから。ジョン そうは問屋が卸さない。俺は棺桶に入れられても煙草を一ポンドくれ、と喚けるんだぞ。マリー さようなら。(退場)ジョン 奴らときたらせいぜい五分くらいしか喋る種を持ち合わせていない。それ以上は嘘が種切れになるからな。(間)そうだな、言いたいことがある時は何だって、二分間黙っていれば済むんだ。ガルガ (帰ってくる)母さんはどうしたの? 出て行っちゃったのかい? もう僕があらわれないと思ったのかな? (彼は走り出て行くがまた戻って来る)別の服も持って行ってしまった。もう帰ってこないつもりだな。(彼はテーブルに座って手紙を書く) 「エグザミナ新聞局長殿。何とぞマレー人の材木商C・シュリンクを注意人物として扱うようにお願い申し上げます。 この男は、私の妻ジェーン・ガルガにつきまとい、彼の所に勤めていた私の妹マリー・ガルガをレイプしたのであります。ジョージ・ガルガ」 おふくろのことは何も書くまい。ジョン これで一家は離散だ。ガルガ この手紙を書いて、ポケットにしまっておく。大事な書類だ、三年経ったら、そのくらい豚箱を食らうだろうからな---釈放される一週間前に、この書類を新聞に売り込むことにしよう。 そうすれば俺が町に戻る時には、この男は俺の町から抹殺され、俺の目の前から消えているぜ。俺が釈放される日を、あいつはリンチを求める連中の怒号によって知らされるのだ。2026/04/03 22:14:3554.夢見る名無しさんC・シュリンクの事務所。一九一五年十月二十日、午後一時。(シュリンク、若い秘書)シュリンク (口述している)事務所の秘書に求職してきたミス・マリー・ガルガに返事してくれたまえ。 あの女ともあの女の家族の誰とも、もう二度と係わりたくないとね。スタンダード不動産宛だ。 「拝啓、当社の株券はもはや他社の手にあるものは一株もなく、また我が社の経営状態は安定していますので、貴社の五ヵ年契約のお申し出にとって支障になるものは一切ございません」勤め人 (一人の男を連れてくる)これがシュリンクさんだよ。男 あなたにある情報をお伝えする持ち時間が三分あります、あなたがその事情を飲み込む時間は二分。三十分前に編集局に刑務所からある手紙がきました。ガルガとかいう奴の署名がありましたがね、 この男はあんたにいろんな罪状を負わせていますよ。五分すると記者がここにやって来ます。これでお代は千ドル。(シュリンクはその金を渡す。男は退場)シュリンク (念入りにトランクに物を詰めながら)営業をそのまま続けてくれ。この手紙は送っておくんだ。私は戻って来るからね。(急いで退場)2026/04/03 22:16:4855.夢見る名無しさん刑務所の向かいのバー。一九一五年十月二十八日。(毛虫、ヒヒ、獅子鼻の男、救世軍の聖職者、ジェーン、マリー・ガルガ。外では喧騒)ヒヒ リンチしろと喚いている奴の声が聞こえるだろう? ここの所チャイナタウンには穏やかではない毎日が続いているよ。一週間前に、マレージンの材木商の犯罪が明るみに出た。三年前奴はある男を刑務所に送り込んだ。 その男は三年の間、じっと黙っていたんだが、釈放される一週間前になって、エグザミナー新聞に手紙を送って、一切をばらしてしまったんだ。獅子鼻の男 とても優しい心の持ち主だな?ヒヒ マレー野郎はもちろん高飛びしたぜ、でも奴はもうお終いよ。毛虫 誰のこともあっさりお終いだなんて言えないぜ。この地球上の生存状況という奴をよく考えてみろ! ここじゃ一回でお終いになる奴なんかいないぞ、少なくとも百回はかかる! どんな奴だって有り余るほどの可能性を備えているからね。たとえば、ブルドッグ野郎、G・ウィッシューの物語を聞かせてやろう。 だけどこれには自動音楽機の伴奏がなきゃいけないな。ジョージ・ウィッシューは緑の島アイルランドで生まれた。 生後一週半にしてデブの男に連れられて、花の都はロンドンにやって来た。故郷は彼を他人のようにおっ放り出したというわけだ。 都で彼はやがて残酷極まりない女の手に落ちることになった。この女は奴を酷く責め苛んだのである。あまたの悩みと苦しみに耐えぬいた後、ついに奴は脱走を試みたが、そこは緑の生垣の中、奴はハンターの追跡を受けた。 大きく危険な鉄砲が彼を目掛けて発射され、見ず知らずの猟犬どもが、幾度も彼を追いかけた。この折に彼は足を一本失い、以後は三本足で歩くことになった。以後奴は様々な試みを行ったがいずれも失敗し、 人生に疲れ、飢えで半死半生の有様となったが、ある老人のもとでようやく隠れ家を見つけた。この老人は奴と食べ物を分け合って食べた。かくて、失望と冒険を重ねた波乱万丈の生涯を送った彼は、 この老人のもとで、穏やかにも安らかに、七年半の生涯を閉じた。奴のお墓はウェールズにあるって次第。どうかね、これを聞いてもあんたはいろんなことをあっさり一つに纏めてしまうかね、え?2026/04/03 22:19:2256.夢見る名無しさん獅子鼻の男 この人相書きの男は一体誰だね?毛虫 こいつがお尋ね者のマレー人よ。奴は前にも破産したことがある。ところが三年の間に、ありとあらゆる手練手管を使って材木業をまた元通りに建て直した。 そのためにこの地区では酷く憎まれることになったよ。もし刑務所にいる例の男が、奴の性的犯罪を暴露しなかったら、法的には後ろ指一つ指されないところだったんだ。 (ジェーンに)あんたの夫は一体いつ刑務所から出て来るんだ?ジェーン そう、それなのよ、さっきまでは覚えていたんだけど、ねえ、皆さん、私が知らないなんて思わないでね、二十八日だから、昨日か今日ね。ヒヒ くだらないお喋りは止めな、ジェーン。獅子鼻の男 それで、あの趣味の悪い服を着ている女は何者だ?ヒヒ あれは犠牲者よ、刑務所にいる男の妹さ。ジェーン そうよ、私の義理の妹なのよ、私のことを知らないようなふりをしているけど、私が結婚した頃は一晩も家に帰ってこなかったのよ。ヒヒ マレー人があの女を破滅させたのさ。獅子鼻の男 あのガラス鉢で何をやっているんだ?毛虫 俺には見えない、何か言っているぞ、静かにしろ、ジェーン。マリー (お札を一枚鉢の水に入れてひらひらさせる)あの時、このお札を受け取ると、私は神の目が私に注がれているような気がしていたわ。それで私は、何もかもあの人のためにしたのです、と答えた。すると神様はくるりと背を向けて行ってしまったわ。 煙草畑を風がざわめいていくような音をたてて。でも私はお札をとっておいたわ。一枚! 二枚! 私も崩れていく! 純潔を投げ与えてしまった私! 今はお金も消えていく! 楽じゃないわ!2026/04/03 22:21:0657.夢見る名無しさんガルガ (C・メインズや他の三人の男と登場)僕と一緒に来るようにとお願いしたのは、僕に加えられた酷い行為を自分の目で見てもらいたかったからです。 メインズさん、あなたにも証人になってもらうために来ていただきました。三年経って戻って来てみると、女房はこんないかがわしい所にいたんですよ。 (彼は男たちをジェーンのいるテーブルに連れて行く)こんにちは、ジェーン、元気かい?ジェーン ジョージ! 今日は二十八日だった? 知らなかったわ。知ってたら家にいたのに。家の中はとても寒かったでしょう、私がここに暖まりに行ったのだろうと思った?ガルガ これがメインズさんだ、知っているね。またこの方の所に勤めることになった。それからこれが隣近所の方たちだ。僕の身の上を心配してくださっているんだ。ジェーン こんにちは、皆さん、ああジョージ、あなたの出てくる日をすっぽかしたなんて、私は何と酷い女でしょう。皆さんは私のことをどんな女だとお思いになるかしら。ケン・シー、皆さんのご注文を聞いて!亭主 (獅子鼻の男に)これが例の奴を告発した刑務所帰りの男だよ。ガルガ こんにちは、マー、僕を待っててくれたのかい? 妹もここにいますよ、ごらんのように。マリー こんにちは、ジョージ、元気?ガルガ さあ家へ帰ろう、ジェーン。ジェーン あらジョージ、あんたはそう言うけど、一緒に家に帰った途端に怒鳴りつけるんでしょう。今から先に言っておくけど、家はまるで掃除していないのよ。ガルガ 分かっているさ。ジェーン 知っているくせに意地悪ね。ガルガ 叱りやしないよ。ジェーン、俺たちはこれから新しくスタートしようぜ。俺の戦いは終わった。そりゃ当然分かるはずだ、僕は相手をこの町から追い出してしまったんだから。ジェーン 駄目よ、ジョージ、何もかも悪くなっていくだけよ。よくなるばかりだと言っていても、実は悪くなっていくばかり。 悪くしかならないもの。皆さん、これが気に入りました? もちろんお気に入らなければどこか他へ行ってしまってもいいのよ……2026/04/03 22:23:2258.夢見る名無しさんガルガ だって一体どうしたんだ、ジェーン。おれが迎えに来たのがいけないのか。ジェーン 分かるでしょう、ジョージ。人間ってものはあんたの考えているようにはならないのよ、破滅した人間でもね。 いったいなぜあんた、このお方たちを連れて来たの。あたしは自分の末路がこうなるだろうってことは、昔からずっと分かっていたわ。 日曜学校の授業で弱きものの末路という話を教わった時、すぐに自分がそうなるだろうと考えたわ。それをあんたがわざわざ証明してくれなくてもいいのよ。ガルガ じゃ、俺と一緒に家へ帰らないのか?ジェーン 聞かないでよ、ジョージ!ガルガ やっぱり俺は聞くよ。ジェーン じゃあ、私も言い方を変えなくちゃならないわね。いい。私はこの人と同棲していたのよ。 (彼女はヒヒを指差す)皆さん、私は告白するわ、どうしようもないのよ、これからよくなっていくわけがないわ。ヒヒ この女は凄い魔女だぜ。メインズ ぞっとするな。ガルガ いいか、ジェーン。これがこの町で君の最後のチャンスだぞ。僕は全て水に流すつもりだと言っているんだ。この方たちみんなが証人だ、さあ家に帰ろう。ジェーン あんたはとっても親切ね、ジョージ。確かにわたしにとってこれが最後のチャンスだわ。 でもわたしは欲しくないの、私たちの間は真っ当ではないのよ、分かるでしょう、私はもう行くわ、ジョージ。(ヒヒに)さあ!ヒヒ そういうことよ。(二人退場)男たちの一人 この人は辛いだろうな。ガルガ 家の戸は開けておくぞ、夜中にベルを鳴らしてもいいよ。2026/04/03 22:25:2059.夢見る名無しさん毛虫 (テーブルに寄って来る)多分あんたも気付いたと思うが、ここの俺たちの中に、ある家族の連中が混じっている。家族と言うよりは、家族の生き残りと言った方がいい。それでもな、もう虫食いだらけになったその家族の連中でも、 もし、その一家の大黒柱だったおふくろさんが、今どこにいるか教えてくれる奴がいたら、喜んで最後の有り金まですっかりはたくだろう。ところがこの俺は、ある朝の七時頃、歳は四十くらいのそのおふくろが、果物屋で掃除をしているところを見かけたんだよ、本当だ。 新しい仕事を始めたんだな、老けてはいるが、穏やかな顔をしていたよ。ガルガ ところであんたは、例の男の材木屋に勤めていたでしょう。今シカゴ中が血眼で捜しているあの男の店に?毛虫 俺が? 俺はそんな男に会ったこともないよ。(退場。毛虫は退場する時、自動音楽機に小銭を投げ込んでいく。音楽機はグノーの「アヴェ・マリア」を流す)救世軍の聖職者 (隅のテーブルに座っている。アルコールドリンクのメニューを言葉を味わうように一つ一つ硬い声で読み上げる)チェリーフリップ、チェリーブランデー、ジンフィズ、ウィスキーサワー、 ゴールデン・スリッパー、マンハッタン・カクテル、それに当店の特性のドリンク、エッグ・ノッグ。この飲み物はこれだけたくさんの材料で調達いたしました。卵、生卵、砂糖、コニャック、ジャマイカ・ラム・ミルク。獅子鼻の男 あんたはこういうメニューの品を全部ご存知かね?救世軍の聖職者 とんでもない! (笑い声)ガルガ (つれてきた男たちに)分かってください、目茶目茶にされた僕の家族の有様を、皆さんにこうやってお目にかけるのは、必要とはいえ、全く恥ずかしいことです。 しかし、あの黄色い野郎に二度とこの町の土地を踏ませてはならないってこともお分かりでしょう。僕の妹のマリーはご存知のようにかなり長いことシュリンクの所に勤めていました。 今妹とちょっと話してみますがもちろん、出来るだけ気を遣って話さなければなりません。妹はこんなに落ちぶれていても、まだ幾らかの感受性ってものを持ち合わせているでしょうからね。 (マリーの隣に座る)さて君の顔を拝ませてもらっていいかい?2026/04/03 22:28:3260.夢見る名無しさんマリー 私には顔なんてないわ、これは私の顔じゃないもの。ガルガ それでも僕はまだ覚えているよ。君はある時、まだ九つの時だったが、教会で明日からあの方に私の所に来てもらうわって。僕らはあの方って神様のことを言っているんだと思ったんだぜ。マリー 私、そんなことを言ったかしら?ガルガ お前がどんなに見放され、汚されても、俺はまだお前を愛しているんだよ。まだ愛しているなんて言うと、お前は何でも自分の勝手をやっていいんだと思ってしまうことは分かっているけど、でもそう言いたいんだよ。マリー この顔をじっと見ながらでもそう言えるの? この顔をよ。ガルガ この顔さ、人間って奴は、たとえ顔が崩れても人は変わりやしないさ。マリー (立ち上がる)でも私はそんなの嫌。兄さんにそんな風に愛してもらいたくない。私は昔の私が好きなの。ちっとも今と変わっていなかったなんて言わないで。ガルガ (大声で)金を稼いでいるのか? お前はお前を買う男たちの鐘で暮らしているのか?マリー 兄さんはそれを知らせるために、この人たちを連れて来たの? 私に大っぴらに話せって言うのね、いいわ、私は自分の体を投げ与えたわ。でもそれからすぐお金を寄越せって言ってやったわ。 これは全くのビジネスなんだから。私は素晴らしい体をしているでしょ。ただ、相手の男が煙草を吸っているのだけは我慢できないわ。セックスは私のお仕事。お金もこんなに持っているわ。 でももっと稼げるわよ。それをみんな使ってしまいたい。そうしたいのよ、自分で稼いだんだから貯める必要なんか認めないわ、ほら、これ、これを鉢に投げ込むわよ、私の姿と同じ。メインズ 酷いもんだ。別の男 笑い事じゃすまないぜ。救世軍の聖職者 人間というものはもちこたえすぎるのです。これが根本的な間違いですよ。とてつもないことをやりだす可能性を持っている。そう簡単にはくたばらない。(退場)メインズと三人の男 よく分かったよ、ガルガ、あんたがどんな酷い目にあったか。2026/04/03 22:31:3161.夢見る名無しさん獅子鼻の男 (マリーに近づく)淫売さんよう! (彼は高笑いする)悪徳とは女性の香水のことなり。マリー 私たちは淫売よ! 顔は厚化粧、だから目も見られないですむ、昔は青く澄んだ目も。(銃声一発)亭主 あいつ、自分の咽喉を撃ったぞ。(男たちが救世軍の聖職者を引きずってくる。彼をグラスののったままのテーブルに寝かせる)第一の男 触っちゃいけない、手を引っ込めろ!第二の男 何か言ってるぜ。第一の男 (彼に屈み込んで、大声で)何かしてもらいたいことはあるか? 家族はいるのか? どこに運んだらいいんだ?救世軍の聖職者 (呟く)もう峠は越えた。事態は好転するだろう。ガルガ (彼に屈み込んで笑いながら)こいつはやり損なったよ、失敗の上塗りまでしてる。自分の辞世の句を言ったつもりだったが、それは他人の辞世の句だ。しかも臨終の言葉にもならない。当て損なって、ほんの掠り傷さ。第一の男 本当だ! ついてないな! 暗闇で撃ったからだぜ、明るい所でやればよかったのに。マリー 頭が下がっちゃってるわ、何かをあてがってあげなさいよ! なんて痩せてるんでしょう。この人が誰か今分かったわ、彼に唾を吐きかけられた男よ、あの時。(マリーとガルガ以外の全ての連中が、負傷者を連れて退場)2026/04/03 22:33:1562.夢見る名無しさんガルガ その彼の皮膚は厚すぎるんだ、何で突き刺しても曲がってしまうぜ、槍が何本あっても足りやしない。マリー 相変わらず彼のことばかり頭にあるの?ガルガ ああ、お前には本当のことを言おう。マリー 愛と憎しみ、そのおかげでここまで落ちたわ!ガルガ 愛憎ってものはそうしたものさ、まだ奴を愛しているのか?マリー ええ、そうよ。ガルガ 風向きがよくなる望みはないのか?マリー あるわよ、時にはね。ガルガ お前を助けてやりたいのは山々だ。(間)おれの戦いは、とんでもない所まで広がっちまったんで今じゃこいつを止めるとなったら、シカゴ全市を動かさなけりゃ駄目なんだ。 そりゃ奴自身も続ける気がしなくなっているかもしれないさ。いつか自分にとっては三年とは三十年くらいに当たると、 ぽろっと洩らしたことがあるからな。こういうことまで計算に入れて僕は自分の姿は出さずに全く残酷な手段で奴にとどめを刺したんだ。 このとどめの一撃のやり方についてあいつと議論することはもうないだろう。あいつが会いたくたって俺にはもう会えないようにしておいたからね。 今日、この町では、あらゆる街角でタクシーの運転手が、奴を二度とリングに上がらせないように見張っている。もう今は奴は戦う前からノックアウトをとられてしまうことになっているんだから。 シカゴが奴の代わりに敗北のタオルを投げてくれたのさ。俺は奴の立ち回り先がどこか知らないが、奴もそのくらいのことは心得ているさ。亭主 マルベリー通りで、材木倉庫が燃えているぞ。マリー 兄さん、あの人を厄介払いできてよかったわね。私はもう行かなくちゃ。2026/04/03 22:35:3963.夢見る名無しさんガルガ 俺はここに残るよ。リンチ行為の中心にいなくちゃな。でも夜には家に帰るぜ。これから一緒に暮らそうな。 (マリー退場)朝起きると熱いブラックコーヒーを飲み、顔を冷たい水で洗い、ぱりっとした服、いやまず綺麗なシャツに着替える生活がまた始まるんだ。 毎朝脳に櫛を入れて、頭の考えを整理しよう。俺の周りでも、町の新鮮な朝の喧騒の中で、いろんな営みが行われていく。 俺はもう、俺を破滅の淵に突き落としそうだったあの情熱なんか感じなくなっているからな。でも今はまだやっておかなければならない仕事がある。 (ドアを完全に開いて、笑いながらリンチを求める群衆の叫びに耳を傾ける。その声はますます大きくなってくる)シュリンク (入ってくる。彼はアメリカンスタイルの背広を着ている)一人だけかね? ここまでやってくるのは大変だった。あなたが今日釈放されることは知っていましたよ。君の家にも探しに行って来た。私は追われているんだ。さあ早く、ガルガ。行きましょう!ガルガ 気でも狂ったのかい? 俺は厄介払いするためにあんたを訴えたんだぜ。シュリンク 私は勇気のある男ではない。ここへ来る途中、私は三度も死んだよ。ガルガ そうとも、ミルウォーキー・ブリッジじゃ、連中は今、黄色人種なら黄色のシャツみたいに橋梁にぶら下げてるって話だぜ。シュリンク だからこそますます急ぐ必要がある。承知しているはずだ、一緒に来なければいけないことは。まだ片はついていない。2026/04/03 22:37:0564.夢見る名無しさんガルガ (シュリンクが時間の余裕がないのに気付き、殊更ゆっくりとする)残念ながらあんたは、その希望を一番都合の悪い時に持ち出したね。俺はここではいろんな仲間と一緒だぜ。 三年前の九月に不意に堕落した妹のマリー・ガルガ、同じ頃、泥沼に落ちた妻のジェーン・ガルガ、それにまだ救世軍の聖職者もいるぜ。 こいつは名前は分からないが、あんたに唾を引っ掛けられて片付けられた男だ。こりゃ大した奴じゃない。 しかし他の誰よりも、俺のおふくろのマエ・ガルガ、一八七三年に南部で生まれ、三年前の十月に蒸発してしまった。 彼女は記憶から消え去ったのだ。もう顔もないんだよ、顔は黄色くなった枯葉のように落ちていった。(耳を傾ける)何という叫びだ!シュリンク (同じように聞くことに没頭する)全くね。でもまだ本物の叫びではない、純粋な叫びではない、その叫びになったら連中はここに現れる。 とするとまだあと一分はあるな。待て、聞いてみろ! あれこそ本物だ! 混じり気なしの叫びだ! さあ、来たまえ!(ガルガはシュリンクと急いで去る)2026/04/03 22:38:4565.夢見る名無しさんミシガン湖畔の石切り場の線路工夫が移動した後のテント。一九一五年十一月十九日。午前二時頃。(シュリンク、ガルガ)シュリンク 絶え間なく続くシカゴの騒音はやんだ。三七二一日間、空は蒼ざめ、空気はグローク酒のように青く澱んだ。何という静けさだ。何も隠しておけない。ガルガ (煙草をすっている)あんたはあっさり戦えるんだな。凄い消化力だ。俺は子供の頃のことを思い出した。青いアブラナの波打つ草原、峡谷に巣食うイタチ、軽やかに流れる渓流。シュリンク そうだ、そういったものはみんなかつては君の顔に浮かんでいた! だが、今の君の顔は琥珀のように硬くなった。透明な琥珀の中には、時々昆虫の死体なんかが閉じ込められている。ガルガ あんたはずっと、孤独だったのか?シュリンク 四十年間。ガルガ 死に際の近付いた今になって、あんたは人と触れ合いたいという、この地球の命取りの病気にとりつかれたってわけか。シュリンク (笑いながら)敵同士になることで?ガルガ 敵同士になることでだ。シュリンク 俺たちが、ライバルであることに君は気付いたのだ、観念的な戦いの相手であることにな! 俺たちの付き合いは短かったが、一時期は戦いに打ち込んでいた。だがその時期もあっという間に終わった。 人生の段階は記憶の段階とは違うものだ。到達したことが次の目的にはならない。最後のエピソードだからといって、以前のエピソードより重要だということにはならない。 かつて私は、二度にわたって材木業を経営した。二週間前から、その店は君名義になっている。ガルガ 死の予感がするのか?シュリンク これが君の材木業の元帳だ。いつか、数字にインクをかけた所から後がそうだよ。2026/04/04 12:58:1066.夢見る名無しさんガルガ それを肌身離さず、持ち歩いていたのかい? 自分で開けたらどうだ。きっと汚いんだろう。(読む)きちんと決算してある。貸し方ばかりだな。十七日材木取引、ガルガに二万五千ドル。 そのちょっと前、洋服のため二十ドルか。その後に一度、二十二ドルをマリー・ガルガ、つまり、「俺たち」の妹に渡しているな。結局またもや、店はみんな焼き打ちにあって灰になったわけだ。 あんたの死体に石炭がかけられる時になったら、俺は嬉しくて夜も眠れないだろう。シュリンク 過去を否定するな、ガルガ! 帳簿なんか見るんじゃない。俺たちが考えた問題のことを思い出してくれ。いいか、しっかり聞くんだぜ。俺は君を愛しているんだ。ガルガ (彼をじっと見据える)なんて胸糞悪いことを! あんたみたいな老いぼれには吐き気がするよ!シュリンク 答えはもらえないかもしれないな。しかし君に答えが出た時には、私のことを思い出してくれよ。腐った死体になって泥で口も開けぬ私のことを。何に聞き耳を立てているんだ?ガルガ (面倒臭そうに)あんたに感情のかけらがあることが分かった、老いぼれたもんだな!シュリンク 歯を剥き出すことが、そんなに素敵なことかね?ガルガ 歯が綺麗ならな!シュリンク 人間の果てしない孤独化は、敵を持つことさえ不可能にしてしまう。でも、動物たちとでさえ、理解し合うことは出来ないんだから。ガルガ 理解し合うには、言葉なんて不十分なものさ。2026/04/04 13:01:0067.夢見る名無しさんシュリンク 私は動物たちを愛した。愛、体と体の触れ合う温もり、それはこの暗闇の世界の中でただ一つの恩寵だ。 だが、セックスの結合というものも、ただ一つの結びつきではあっても、言葉による亀裂を埋めることは出来ない。 そのくせ、どんな奴でも抱き合うのだ。絶望的な孤独化の中で、自分たちの絶望的な孤独化の味方をしてもらえる存在を生み出そうとしてな。 だが、親と子の世代なんて冷たく睨み合うだけだ。船にはちきれるほどの人間どもを詰め込んだとしても、 みんな凍えつくような孤独しか生まれてこない。一体聞いているのかね、ガルガ? そうさ、孤独化はそれほどに果てしなく、闘争すら起こりえない。森だ! 森から人類は生まれたのだ。 毛むくじゃらで、猿の歯を持った立派な動物。生きる術を心得た動物。何もかも酷く簡単だった。 互いに肉を引き裂き合うだけのことだった。私ははっきり見える。 脇腹を震わせ、目と目で睨み合い、首に噛み付き、木から転げ落ちる。木の根元で血まみれになって、くたばっている奴、 そいつが敗北者だ、木から一番沢山相手を蹴落とした奴、そいつが勝利者だった! 何を聞いているんだ、ガルガ?2026/04/04 13:03:4468.夢見る名無しさんガルガ シュリンク! 俺はこれで、三週間ってもの、あんたのお喋りを聞いてきた。ずっと、俺は待っていたんだ。 たとえどんなつまらない口実でもいいから、何かのきっかけで、怒りが俺の全身にこみ上げてくる瞬間をな。 だが、今、あんたを見ていて分かったぜ。あんたの無駄口を聞いていると腹が立つ。あんたの声には吐き気がするだけだ。 今日は木曜の晩だろう。ニューヨークまで、どのくらいある? 俺はどうしてここに座り込んで、時間を無断にしているんだろう? 俺たちは地球が軌道から外れたんだと思っていた! でも何も起こりはしなかった。雨が三回降った。夜中の強風が一回だけ。 (立ち上がる)シュリンク、もう、あんたも靴を脱いで休息する時だと思うぜ。その靴を脱いで、俺に渡すんだ! もうあんたの持ち金だって、いくらも続かないだろう。シュリンク、俺はこの戦いをこれで終わりにするぞ。 戦いをはじめて三年目、ミシガン湖のほとり、この森の中で。だって、戦いの材料がすっかり尽きてしまったんだからな。 今この瞬間に戦いは中止だ。俺はナイフで片をつけるわけにはいかない。それを告げるご立派な言葉の持ち合わせもない。 俺の靴は穴だらけだ。あんたのお喋りじゃ、俺の足は暖まらない。月並じゃないか、シュリンク、若い方がゲームに勝つんじゃあな。シュリンク 今日は、時々線路工夫のシャベルの音が、ここまで聞こえてきた。君がそれに耳を澄ましていることは、気がついていたんだ。立ち上がるのか、ガルガ? 行ってしまうんだな、ガルガ? 私を裏切るのだな、ガルガ?ガルガ (だらしなく横に座る)そうさ、シュリンク、そうするつもりですよ。シュリンク ジョージ・ガルガ、この戦いには、決して結末はないのだろうか? 理解しあうということは、決してありえないのだろうか?ガルガ ないとも。シュリンク だが、君は裸一貫の人生だけを元手に出て行こうというのか?ガルガ 裸一貫の人生でも、他のどんな人生よりもましなんだ。シュリンク タヒチへ行くのか?2026/04/04 13:05:4269.夢見る名無しさんガルガ ニューヨークさ。(皮肉に笑いながら)≪俺はそこへ行き、そして、帰ってくるだろう。鉄の手足と、黒い肌と、憤怒に燃える目をもって。 俺の顔つきを見て、人々は俺を不屈な種族の輩だと思うだろう。俺は黄金を手に入れ、怠惰で、残虐な人間になるだろう。 女どもは、灼熱の国から帰ってきた、これら凶暴な病人を嬉々として看取るのだ。俺は泳ぎまわり、草を踏みにじり、狩をする。とりわけ煙草をふかすだろう。 煮えたぎった金属のような酒を飲もう。俺は生活って奴に手を染め、そして、救われるだろう≫ ふん、なんて馬鹿げたことだ! ただの台詞さ。太陽系の中心にあるわけでもない地球での戯言だ! 老いぼれた奴は消してくれる自然の摂理のおかげで、あんたがとっくに石灰詰めの死体になっている頃に、俺は自分の楽しみを自分で選べる人間になっているさ。シュリンク 何だ、その態度は? くわえパイプくらい離してもらいたいな。インポになりましたという告白なら、もう少し殊勝な声で言ったらどうだ。ガルガ あんたには退屈した、と文句をつけているだけなんだよ。シュリンク 文句だって! 君が文句をつけるだと! 雇われボクサーのくせに! 酔っ払いの店員め! 十ドルで、私が買い取ってやったんだぞ。人と自分の足の見分けもつかない観念論者め! あんたは虫けらだ。ガルガ (笑う)若者だよ! ちゃんとそう言ってくれ。シュリンク じゃあ白人だ。私を片付けるために私が雇った男だ。俺が死の味を舌で味わえるために、口に嫌な味の泥を詰め込んでもらおう。 ここから二百メートル離れた先の森には、俺をリンチしようとしている群衆が来ているぜ。ガルガ そうさ、どうせ俺は爪弾きにされる男だろう差。だが、それが何だってんだ。あんたは自殺するんだろう。まだ何かくれるものがあるのか。俺を雇ったと言ったが支払いはまだ済んでいないぜ。シュリンク 君みたいな奴が欲しがるものを、君にやったではないか。家具も買ってやったぞ。2026/04/04 13:08:0570.夢見る名無しさんガルガ そうだったな。俺があんたからせしめたものは、ピアノが一台、もっともあれはすぐに叩き売る羽目になった。 一回だけステーキを食ったな! それに、服を一着買った。でもあんたの世迷言を聞くために俺は眠りまで犠牲にしたじゃないか。シュリンク 眠りだけではない、君の母親、君の妹、それに君の奥さんまで犠牲にしたじゃないか。そして君のくだらない人生を三年も無駄にした。それなのに腹が立つじゃないか! 今こんな惨めな終わり方をするなんて。結局は君は今までのことを何も理解していなかったのだ。君は私の死を望んだ。しかし、私は闘争を望んだ、しかも、肉体的な戦いではなく、精神的な戦いをね。ガルガ 精神的なものなんて意味ないぜ。分かっているだろう。問題は勝利者になることではなく生きていくことだ。俺は、あんたに勝つことは出来ない。キックでぶっ倒すくらいはできるけどな。 俺は裸一貫で、冷たい雨の中に出て行くぜ。シカゴは寒い。その寒さの中へ俺は行く。間違いかもしれないさ。だが、俺には、まだたっぷり時間がある。(去る。シュリンク、倒れる)シュリンク (立ち上がる)とどめの一突きを交し合い、思いつく限りの最後の言葉を交わしたのだから、 今はもう、私という男に寄せてくれた君の関心に感謝するだけだ。俺たちはいろんなものをなくした。 残ったのは裸の体だけくらいになってしまった。あと四分すると、月が昇る。そうすると君のけしかけたリンチ集団がここに現れるだろう。 (彼はガルガが去ったことに気付き、その後を追う)行かないでくれ、ジョージ・ガルガ! 若いからといって戦いをおりないでくれ。森は開墾されてしまった。禿鷹はもう食い飽きている。 そこで、貴重な答えは謎のまま大地に葬られてしまう! (振り返る。ミルク色の光がジャングルに立ちのぼる) 十一月十九日! シカゴの南三マイル、西風! 月の出る四分前、魚獲りに出かけたのにあべこべにこっちが溺死ってわけだな。2026/04/04 13:10:4871.夢見る名無しさんマリー (登場する)お願い、どうか追い払わないで下さい。私は不幸な女よ。(叢が明るくなる)シュリンク でもうようよと寄ってくるな、沢山の魚が口に中に泳ぎ込んで来る。この狂ったような明るさはなんだろう? 私はとても忙しいのだ。マリー (帽子を脱いで)私の顔は酷くなったでしょう。私を見ないで、ネズミに食い荒らされた顔よ。残骸を引きずってあなたの所へやって来たの。シュリンク このミルク色の光はどうだ! ああそうか! 酷い味だって! そう言うのかね?マリー 私の顔はむくんでいるでしょう。シュリンク いいですか、ここにいてモップにつかまったら、あなたもリンチされてしまうよ。マリー 構わないわ、そんなこと!シュリンク 私の最期の時には、どうか一人にしておいてください。マリー さあ、いらっしゃい、叢の中に隠れるのよ、石切り場には隠れ場があるわ。シュリンク 何てことを! 気でも違ったんですか? 私がもう一目ジャングルの見納めをする必要があるのが分からないのか? そのためにこそ月が登ってくれるのだ。(入り口の方へ行く)マリー 私に分かるのはただ、あなたは破滅したのだということだけ。もっと自分を大事にしなければいけないわ。シュリンク そういう形の最後の愛の奉仕をやってもらえるだろうか?マリー 私はただあなたを見守っていたの。私は、自分の居場所がここだということが分かったのよ。シュリンク そうかもしれない! ここにいなさい! (遠くで時刻を告げる音)二時か、私が絶対安全な所へ逃げる潮時だ。マリー ジョージはどこにいるの?2026/04/04 13:12:3472.夢見る名無しさんシュリンク ジョージだって? 逃げたよ! 何という計算違いだ! 安全な所へ逃げたよ! (彼はマフラーをむしりとる)樽はすでにいやな臭いをたてだした。脂ののった、素晴らしい、自分で獲った魚たち! よく乾かして、箱詰めにした! 塩漬けだ! 前もって池に放し、払いすぎるくらい金を払い、買い取り、 脂のつくまで飼育した魚たち、死にたがってまるで聖餅を食うように向こうから餌に食いついてきた自殺志願の魚たち、何てことだ畜生! さあ急がなければ! (彼は机に行って座る。小瓶の中身を飲む)私、シュリンクと呼ばれたワン・イェンは、北部横浜で生を享けた。 魚座の星のもとに! 材木業を営み、米を食い、いろんな人種と取引した。 私、シュリンクと呼ばれたワン・イェンは、享年五十五歳、シカゴから三マイル南で生涯を終えた、後継ぎもなく。マリー どうかしたの?シュリンク (座ったまま)ここにいるのかい、あなたは? 私の足は冷たくなってきた。顔にタオルをかけてください、私をいたわって! (彼は崩れ落ちる)(叢の中で喘ぐ息、足音、後の方からしゃがれた罵声)マリー 何か聞こえる? 答えて! 眠っているの? 私はこんなにあなたの側にいるわよ! タオルをどうするの?(この瞬間にテントにナイフで入り口が開けられる。音もなく、いくつかの入り口から、リンチ集団の連中が現れる)マリー (彼らに向って行く)お帰りなさいよ! この人は死にました。姿を見られたくないです。2026/04/04 13:14:5773.夢見る名無しさん死亡したC・シュリンクの事務所。一週間後。材木会社は、焼け跡になっている。「この店舗売ります」という何枚か貼り札がしてある)(ジョージ・ガルガ、ジョン・ガルガ、マリー・ガルガ)ジョン この店を焼き打ちさせたのは愚かだったぞ、お前。今は炭になった棟木の中でぽかんと座っているだけじゃないか、こんな店を誰に売る気だ?ガルガ (笑う)安いもんさ。でも持ってたって何も始められないだろう?ジョン 一緒にここに住もうと思ってたんだがね。ガルガ (笑う)俺は出て行くよ、働く気かい?マリー 私は働くわ、でもお母さんみたいに階段拭きなんかしないけど。ジョン わしは軍人だ。土管の中にも寝たんだぞ、顔の上を走って行くネズミの方が太っていた。鉄砲を取り上げられ、軍務が終わった時、これからは誰もがみんな頭にナイトキャップをかぶって寝るんだな、って思ったぞ。ガルガ 要するに、誰だって寝るんだよ。マリー もう出て行きましょうよ、お父さん、日が暮れるし、まだ今晩寝る部屋のあてもないんだもの。ジョン よし、出て行こう! (周りを見回す)行こうぜ! お前には旧軍人がついている。都会のジャングルに向って出発だ!ガルガ 俺はもうそんなことは済ませちまったよ。やあこんにちは!マンキー (ポケットに手を突っ込んだまま、喜色満面で入って来る)俺だよ、新聞で広告を読んだよ、君の材木会社があまり高くないなら俺が買おう。ガルガ いくら出す?マンキー なぜ売るんだ?ガルガ 俺はニューヨークへ行くのさ。マンキー そして俺がここに越して来るわけだ。ガルガ いくら払える?マンキー 材木屋の他にもう一つ手に入れたいものがある。ガルガ この女性まで引き取ってもらって六千ドルでどうだ。マンキー O.K.マリー お父さんも一緒よ。2026/04/04 13:17:5074.夢見る名無しさんマンキー お母さんは?マリー お母さんはもういないのよ。マンキー (しばらく間をおいて)よしきた。マリー 契約をやってしまってよ。(男たち、サインする)マンキー ちょっと食事に行きたいんだが、一緒に来ないか、ジョージ?ガルガ 断るぜ。マンキー 俺たちが戻って来るまでここにいるかい?ガルガ いいや。ジョン 達者でな、ジョージ! ニューヨークをとっくり拝んで来い。やばいことになったら、またシカゴに戻って来ればいい。(三人退場)ガルガ (金を収める)一人ってのはいいもんだ。滅茶苦茶やれるだけやった。人生であれが最良の時だったな。2026/04/04 13:18:55
毛虫 あっしが? 何も用はない! あんたの息子さんにお会いしてもいいよ。ただし、あの人が風呂に入ってくれればの話だがね。
ジョン 何の用だね?
毛虫 (悲しそうに首を振って)なんて酷い客のあしらい方だ! ともかくお尋ねして差し障りなければ聞くがね、ご子息はどこにおいででございますか?
ジョン あいつは出て行っちまったよ、とっとと出て行ってくれ! ここは興信所じゃないよ!
(マエ登場)
毛虫 それは残念だ! 残念だな! 息子さんは我々にとっても欠くべからざる人何でね。それに娘さんの話もあったんだ。ご関心がおありならね。
マエ 娘はどこにいるの?
毛虫 チャイナホテルにいますよ、奥さん、チャイナホテルにね。
ジョン 何だって。
マエ 何てことだ!
マンキー そりゃどういうことだ? そこで何をしているんだ、え、あんた?
毛虫 無為徒食ってとこよ。シュリンクさんが、あんたとあんたの息子さんにあの娘を引き取りに来いと伝えろとよ。
あの娘は高くつきすぎる。金がかかってしょうがない。何しろかの女性は、素晴らしく食欲がおありなんだ。
ここのものをたてにもしない、そのくせに俺たちを追い掛け回して、いやらしいことをさせてくれってせがむんだよ。
全く、あれじゃホテルの品が下がる、わざわざ警察につかまえてくれと頼んでいるようなものだ。
マエ ジョン!
毛虫 (喚く)要するに、あの女は俺たちの厄介者なのさ!
マエ 何てことだ!
毛虫 へーえ、連れて来る、あんたは猟犬か? ホテルがどこにあるのかどうして知っているんだ? お若いの! こりゃそう簡単にはいかないよ、あのご婦人を絶えず監視していなければならなかったんだぞ。
何もかもあんたの息子さんのせいさ、息子さんにあの牝犬を引き取りに来てその心配をしていただきたいな、明日の晩になったら警察の手を借りるぜ。
マエ ああ、神様! あんた、どうか娘の居所を教えてください。息子がどこにいるかも、あたしは知らないんです。あの子は出て行ってしまいました。どうかそんなに冷酷なことを仰らないで、ああ、可哀想なマー、ねえジョン、この人にお願いして!
マーはどうしちゃったんでしょう、どんな目にあっているのかしら? ジョージ! ジョン! ああ、何という町だろう、何という人間たちだろう! (退場)
(シュリンクが戸口に現れる)
毛虫 (びっくりしてもごもごと呟く)ええと、あっしはその……この家の出入り口が二つあったな!
(こそこそ出て行く)
シュリンク (実直そうに)シュリンクと申します。前は材木屋でしたが、今は蝿をとる他は仕事がなくなった。誰の面倒をみる必要もありません。お宅にねぐらをお借りできますか?
お代は払いますよ、下の表札に私が知っている男の名前を見かけました。
マンキー あんたがシュリンクさんかい? ここの娘を預かっているのかい?
シュリンク 誰のことですか?
ジョン マリア・ガルガだよ、あんた、わしの娘のマリア・ガルガさ。
シュリンク 知りませんね。あなたの娘さんなんて知りませんよ。
ジョン でもたった今ここに来ていた方が……
マンキー どうもあなたに頼まれて来たようですよ!
ジョン あなたが入っていらっしゃると、こそこそと逃げ出した男ですよ。
シュリンク あの人なんか知りませんよ。
ジョン だって息子はあんたと……
シュリンク この憐れな男相手に冗談を仰ってはいけません。今は私はとるに足りぬ男です。私は財産をすっかり無くしてしまったのです。どうしてこうなったか自分でも筋道がよく分からないことがあるもんですよ。
ジョン こいつに用心しなよ。
シュリンク 年をとって柔軟に状況に対応できなくなり、孤独に陥った私には、一家の稼ぎ手である息子さんに去られてしまったあなたを見ていると、同情の念が沸いてきます。
これで私の仕事にも目的ができたと言えるのではないでしょうか。
ジョン 理由を言ってもらっても、腹は膨れないさ。俺たちは乞食じゃないぞ、イワシの頭は食えないしさ。しかし孤独なあなたを石のような心で迎える気はない、あんたは、どっかの家族と一緒に食卓につく身分になりたいと思っているんだね。俺たちは貧乏人だぜ。
シュリンク 私は何を食っても生きていける男です。私の胃袋は砂利でも消化する。
ジョン 部屋は寒いぜ。俺たちはヒラメのように重なって寝ているんだ。
シュリンク 私は床にでも寝られる。時分の背丈の半分の場所があればいい。自分の背中を直接風に晒さないですめば、子供のように嬉しくなるのです。今家賃の半額を払っておきますよ。
ジョン よしきた、分かったよ。あんたは、戸口の外で風に晒されたくないというんだね。さあ、屋根の下に入んなさい。
マエ (入ってくる)夜にならないうちに、一っ走り町に行って来るよ。
ジョン おまえはお前が必要になるといつも出かけるんだな、俺はこの人に棲家を提供してやった。孤独な人なんだぞ、お前の息子が家出したから、一人分空きが出来たじゃないか。この人に握手してあげろ。
マエ あたしたちの故郷は草原だったからね。
シュリンク 知っています。
ジョン お前、隅っこで何をごそごそやっているんだ?
マエ 自分のベッドを階段の下に運ぶんだよ。
ジョン 荷物はどこにあるのかい?
シュリンク 私は無一物です。私が階段に寝ますよ、奥さん、私は入り込んだりはしません。私の手には触れないですみますよ、分かっています、私の肌は黄色いですからね。
マエ (冷ややかに)私の手なら出しますよ。
シュリンク 私は握手していただくに値しません。私が今申し上げた意味でね。あなたは肌の色のことを仰ったんじゃないんですか、失礼しました。
ジョン あれで気はいいんですよ。
シュリンク 主があの女にお恵みを与えますように。私はつまらない男です。
私の口を開けて何かをいわせようだなんて考えないで下さい。歯が見えるだけですよ。
(スキニー、ヒヒ、ジェーン)
スキニー (入り口で)お前たち、新しい商売をやりだすことは全然考えないのか?
ヒヒ (ハンモックに乗っている、頭を振って)ボスは波止場をぶらついているよ。タヒチ行きの船客の面をいちいちチェックする仕事しかしていない、あの若造がボスの魂と財産をすっかりさらって、
行方が知れなくなったからよ、タヒチに消えたんだろうさ。ボスは奴を探しているのさ、ボスは奴の残った僅かな持ち物を一切合財ここに運び込んで保管しているよ。煙草の吸殻までさ、
(ジェーンのことを言う)ここに飼っている女はもう三週間もボスにロハで食わしてもらっている。若造の妹までここにおいてやっている。こっちは堅気な娘よ。
ボスがあの女をどうするつもりなのか皆目見当もつかない、ボスはあの女とよく一晩中語り明かしているぜ。
スキニー なのにお前らの方はボスに放り出されて黙っているのか、それでもお前らはボスを養ってやるのか、おまけにボスの女までな。
ヒヒ 石炭運びで稼ぐ二、三ドルの金を、ボスは若造の家族に渡してしまう。ボスが今下宿しているあの家だよ、下宿といっても家の中には住めないのよ、毛嫌いされててな。若造はボスの財産をすっかり巻き上げたよ、
それで野郎は安いタヒチ行きの切符を手に入れて、ボスには材木詐欺の罪を背負い込ませた。ばれればボスは一巻の終わりだ。だってよ、遅くても五ヵ月後には、材木の二重売りで裁判にかけられるものな。
スキニー それなのにお前らは、あんなポンコツ野郎をやしなっているのか。
ヒヒ ボスもたまにはお楽しみが必要だったのさ。ああいう人はいつだって信用で融資してもらえるよ。若造が消えたままだったら、ボスは三ヶ月もすればまた材木業界の第一人者になれるさ。
ジェーン (服を引っ掛けて化粧しながら)私はいつも自分の末路はきっとこんなだろうと思っていたわ、中国人の淫売窟でくたばるだろうって。
ヒヒ まだこれからどんな面白い目にあうかご存じないのさ。(背景の後で二人の声が聞こえる)
私、あなたの着られるような服を持っているわ。普通の男の人がみんな着るような背広を。私はよく眠れないの、あなたを愛しているわ。
ジェーン しーっ! 聞いてごらん! また二人の声が聞こえるわ。
シュリンク しかしそれには値しない。私は生娘のことは全然分からない。それに何年も前から、私の種族の臭いを意識してきました。
マリー そう、酷い臭いよ、酷いわ、その臭いは。
シュリンク そんな風に自分を責め苛んではいけない、いいですか、私の体は聞こえない耳と同じ。これは私の皮膚にも言えるのです。人間の皮膚は、自然の状態では、この世界に触れていくには薄すぎる。
だからこそ人間は、皮膚を厚くしようとするのです。人間の生長を止めてしまえばこれこそ完璧な方法ですがね。たとえばなめした皮はもう変わらない。ところが皮膚は生長します。次第次第に厚くなっていくのです。
マリー そうなってしまうのは、あなたが、敵を見つけられないからなの?
シュリンク 若い頃、揚子江のジャンクを漕いでいた時から。揚子江がジャンクを痛めつけた、そこでジャンクが私たちを痛めつけた、ある男がいてね、
そいつは漕ぎ手の席を通るたびに、我々漕ぎ手の顔をぺしゃんこになるまで踏みつけていったものだ。夜などは、我々は面倒臭くなって、顔を避けることさえしなくなった。その男のほうは不思議と疲れないのだ。
我々が苛めるものと言ったら、猫くらいしかいなかった。その猫も泳ぎを習わせようとしたら溺れ死んでしまってね。俺たちを悩ますネズミを取ってくれる猫だったのに。こういう仲間はみんなこの病気にかかってしまってね。
マリー 揚子江で働いていたのはいつ頃?
シュリンク 俺たちは朝早く葦の葉陰で横になっている時、この病気が進んでいくのを感じたのだ。
毛虫 (登場)若造は風をくらって逃げましたぜ、シカゴ中に奴の影も形もありません。
シュリンク 少し眠った方がいい。(外に出る)また消息なしか? (シュリンク、退場する)
(開け放した戸から、目覚めたシカゴの騒音が聞こえる。ミルク売りの叫び声や、肉運搬車のごろごろと通りを通る音)
新聞、新鮮な朝の大気、出て行ければ素敵でしょうね、水で体を洗うのも素敵よ、草原だって都会のアスファルトだって何かを与えてくれるものよ。
たとえば昔暮らした草原なら、今頃は涼しい風が吹いているところよ、きっとそう。
ヒヒ お前さん、まだ宗教問答の簡単な方くらいは覚えているかい、ジェーン?
ジェーン (お経を読むように)全て悪くなっていく、悪くなっていく、悪くなっていく。(みんなは片付け始める。ブラインドを上げ、蒲団を重ねる)
マリー なのに私は、なんか息が詰まりそう。私はある男と寝たい。でもどうやったらいいのか分からない。
犬のような女たちもいるわ、黄色い女や黒人女や。でも私には出来ない。私はのこぎりで切り刻まれたよう。
この壁は紙みたい。息ができないわ。何もかも燃やしてしまわないと。マッチはどこかしら。黒い箱の。
水が流れ込むようにしたいわ。、そして泳いで逃げる時は、私の体は二つになるわ、そして二つの方向に泳いでいくでしょう。それが末路だわ。
ジェーン ボスはどこへ行ったの?
ヒヒ シカゴがあんまり冷たいんで逃げ出していく旅行者の面を改めに出かけたよ。
ジェーン 東の風が吹いている。タヒチ行きの船は錨を上げているわ。
(毛虫、ジョージ・ガルガ、マンキー・ボドル、ヒヒ)
毛虫 (廊下からバーに声をかける)奴は結局船出しなかったぜ。銛は思ったより深く食い込んでいたな。
俺たちは、大地が奴を飲み込んだと思っていた。ところが奴は今、奥のシュリンクの部屋に横になっていて、手前の傷口を舐めていやがる。
ガルガ (寝室で)「あいつを夢に出てきた地獄の夫と呼んでやろう」ってとこだな、犬畜生のシュリンクめ。
「私たちは夫婦とは名ばかりの生活。あの人にはもう部屋もない。あの人の花嫁はヴァージニア煙草をふかし、身を売ったお金を靴下に貯め込んでいる」これが俺ってわけさ! (笑う)
マンキー (ガラス張りの後のバーで)人生ってやつはおかしなものだね。たとえば俺の体験を言うが、ある知り合いの男がいた、
こいつは一流の人物だったが、ある女に惚れちまった。その女の一家は爪に火をともすような暮らしだった。奴は二千ドルもの金を懐にしていたんだが、女の家族は平気で見殺しにしたのよ。
その男は二千ドルでその女だけを買ったからだ。それだけ使わなきゃその女をものに出来なかったのよ。これは酷い話さ、でもその男は、前後の見境がなくなってしまったのさ。
ガルガ 「見ろ、俺は罪人だ、俺は砂漠を愛した、陽に灼かれた果樹園を愛した。しょぼくれた店々を、生温い飲み物を愛した。お前たちは間違っているぞ、俺はけちな人間さ」
俺はもう横浜出身のシュリンクさんとは何のかかわりもないぞ!
ヒヒ そうよ、たとえば材木商のシュリンクがそうだぜ。奴は昔はハートのかけらもない男だった。
ところがある日突然情熱の虜になったせいで材木屋はパーになっちまった。今は港で石炭運びをやっている、昔はこの地区を牛耳っていた男だぜ。
毛虫 俺たちは、今あいつを、弱りきった純血種の犬のように、ここで養ってやっているのさ。でもやつが、また姿を現したあの馬の骨と手を切らなければ、こっちの忍耐にも限度があるぜ。
マリー (食べ物の入った籠を下げて入ってくる)ジョージ!
ガルガ 誰だ? (マリーと気付いて)お前、何てなりだ! まるで汚らしい乞食みたいじゃないか!
マリー そうよ。
毛虫 (バーに入って来る)奴はへべれけに酔ってるぜ。今は妹さんのご訪問を受けたところよ。妹に向かってお前は薄汚いと言っているよ、ボスはどうした?
ヒヒ 今日は来るぜ。ここにジェーンを呼んでおいたからな。若造の餌にな。この戦いにはどんな手でも使わなきゃな。
ジェーン (頭を振る)あんたたちって分からないわ。飲むものをちょうだい、焼酎を。
マリー 前には私のことをもっと清らかだと思ってくれたわけ、ありがたいわね、そこで今ここに私がいるのを見てびっくりしているのね、私だってまだ兄さんが女たちの憧れの的だった頃のことを思い出すわ。
あの頃はシミーを踊ってもラグタイムを踊っても、相手を有頂天にしてやった兄さん。
土曜の夜っていうと、ズボンにはきちんと折り目をつけて浴びるように煙草やウィスキーを飲み、女に打ち込んでいたわね。これは男に許された悪徳だもの。私はあの頃のことを思い出してもらいたいわ、ジョージ。
(間)どんな生活をしているの?
ガルガ (軽く)ここは夜、冷えるだろう? 何か必要なものはあるか? 腹は減ってないか?
マリー (軽く首を振り、彼を見つめる)ああ、ジョージ、しばらく前から、私たちの上で禿鷹が舞っているわよ。
ガルガ (軽く)お前はいつから家へ帰ってないんだ?
(マリー、黙る)
ガルガ お前がここに出入りしているって話は聞いているぜ。
マリー そう。家族の世話は誰がやっているのかしら?
マリー そんなに冷酷になっていい気持ちなの?
(ガルガ、じっと彼女を見つめる)
マリー そんなに顔をじっと見ないで、分かってるわ、あんたは敬虔なカトリックだから告解させたいのね。
ガルガ さあ、やりな!
マリー あの人を愛しているわ、何故何も言わないの?
ガルガ 愛すればいいじゃないか、それがあいつの弱みになる。
マリー お願い、そんなに天上ばかり見てないで。私、あの人に愛してもらえないの。
ガルガ こいつは恥だぜ!
マリー 分かっているわ---ああ、ジョージ、私は二つに裂けてしまったわ、あの人に愛してもらえないからなのよ、あの人の姿を見ただけで体が震えてくるの、でも面と向っては逆のことばかり言ってしまうの。
ガルガ お前にまともなことは言ってやれない、振られている女にはね。昔俺にも友がいた。ラム酒一本の値打ちもない女だったが、男の気を引くことだけは心得ていやがったよ!
ただで身を売りはしなかったからね。自分の値打ちは知っていたんだ。
マリー ずいぶん厳しいことを言うのね、兄さんの言葉はアルコールみたいに私の頭の中に沁み込んでいくわ。
でもそれはいいこと? きっと兄さんにはいいことだって分かっているのね。でも、私は今兄さんという人がよく分かったわ。(廊下からシュリンクが入って来る)
毛虫 俺もあんたに人生経験からいっておくぜ、人間って奴は、どんな非常な奴だって絵空事の夢にころりと参ってしまうものさ、それに現実の人生ってやつほど空々しいものはないんだぜ!
(マリー・ガルガが戻ろうとしてシュリンクにぶつかる)
シュリンク ここにおいででしたか、ミス・ガルガ?
あなたにこんなことを言うのは生易しいことじゃなかったんです。多分よくお分かりでしょうけど。
ガルガ (寝室から入って来る)ここにいろ、マー。俺たちは草原の住人の面魂で、大都会に流れ込んで来たんだ。堂々と振舞うんだ。お前のしたいことを、しなければいけないぞ。
マリー そうね、ジョージ。
ガルガ 今は、こいつが大馬力で働いているのに、俺はのらくらとアブサンの池に転がって寝ているのさ。
シュリンク 世界の征服者と言われるような人は、仰向けに寝転がるのが好きなものさ。
ガルガ 物持ちはあくせく働くものさ。
シュリンク 心配事でもあるのかね?
ガルガ (シュリンクに)俺があんたの顔を見つめると、あんたはいつもいろいろ気をまわしてくれるんだな。あんた、競馬で大損しそうな気がしたのか。顔が嫌に老けたね。
シュリンク 私のことを忘れないでいてくれてありがとう。君は南方に行ってしまったんだと思いかけていたよ。失礼をお詫びしたい。僭越だったけれども、私は君の不幸なご家族を、この手で働いて養っていたよ。
ガルガ 本当か、マー? 僕は全然知りませんでしたよ。潜り込んだんですか? 僕の家族を養っているという卑劣なお楽しみを満喫しているのか? おかしくてへそが茶を沸かすぜ。
(彼は下手の寝室に行って横になって笑う)
シュリンク (彼の後について行く)笑いため、君の笑いが好きだ、君の笑い、それ、私の太陽だ。
ここは全く惨めだからな、君の姿を見られないのは本当に辛かったよ、もう三週間になるな、ガルガ。
シュリンク ぬるま湯につかったような生活をしていたものな。
ガルガ ただあんまり寝転がりすぎていたので、背骨が魚の骨のように平らになっちまったよ。
シュリンク 生きるというのは何と惨めなことだ、ましてやぬるま湯に浸かって生きるなんて、おまけにそのぬるま湯というのが酷すぎる代物さ。
ガルガ 俺は人生に用事がたくさんあるから、あんたを思い切り靴で蹴飛ばしたりしてはいられない。
シュリンク 私のようなつまらない人間のことや私の目論見は気にしなくていい。でも私は敵としてここにいるのだ。君がこれで戦いを放棄するというなら、君は戦いの場を捨てた責任を負わざるを得ないよ。
ガルガ でも俺は放棄するぜ。ストライキだ。タオルを投げるぜ。大体俺はそんなに深く、あんたに食いついたかね? あんたはちっぽけな固い檳榔樹の実だよ、こんな実は吐き出すに限る。歯より固くて、しかも殻ばかりってことが分かっているんだから。
シュリンク (満足そうに)君に分かってもらうためなら、どんな明かりでも使ってはっきりさせようとしているんだ。私の姿をこの明かりの下に晒そう。(明かりの下に行く)
ガルガ 自分のあばただらけの魂を、ここで競売にでもする気か? あんたはどんな苦しみにも耐えられるほど、強靭なのか? 皮が厚いのか?
シュリンク さあ、この殻を噛み砕くんだ。
ガルガ あんたは後退りして俺のコーナーに飛び込んできた。形而上学的な戦いをやるといいながら、俺の身内を拷問にかけた。
シュリンク 妹さんにしたことを言っているのかね。君が庇っていたものを、私は拷問台にかけたりはしなかったよ。
ガルガ 俺の使えるのはこの二本の手だけだ。俺にとって人間的だったものを、あんたは一山の肉のように、片っ端から飲み込んでしまった。
あんたに俺の生きる糧をすっかり塞がれたおかげで、初めて俺は、これが俺の兵糧だったのかと気付いたわけだ。
あんたは俺の家族まで手段にした。俺の手持ちの兵糧を食い潰していった。俺は日ごとに痩せていった。
ついに俺は形而上的なものになってしまった! その今になって、自分の飲み込んだものを、この俺の面に吐き出す気なのか?
ガルガ (彼女を前に引っ張り出して)とんでもない! たった今お前のことを話し始めたところじゃないか! 俺の目はお前に注がれたばかりだ。
シュリンク 私は運悪く君のウィーク・ポイントを蹴飛ばしてしまった。後退しよう、君は自分が愛している対象の価値を、それが死体置き場に並ぶようになって始めて悟るようだね。
そこで私には、君の愛の対象が何か君に教えてあげたいという欲求が起こってくるのだ。
ガルガ でも犠牲はもちろん払うつもりさ。僕は拒んでいない。
マリー 兄さん、私を行かせてちょうだい。ここにいるのが恐いの。
シュリンク こっちへいらっしゃい! (廊下へ駆け出す)新しい家庭を築こうじゃないか!
マリー ジョージ!
ガルガ ここにいろ! (入って来る)人間的にやってください、あんた!
シュリンク 私は一瞬たりとも拒みませんよ。
ガルガ お前はこの男を愛しているのか? でも相手が乗らないのか?
(マリー、泣く)
シュリンク あまり無理をしない方がいいんじゃないですか。(寝室に引っ込む)
ガルガ 心配ご無用さ。この方が話がはかどる。今日は木曜の晩ですね? ここはチャイナホテルだ。ほら、これが僕の妹のマリー・ガルガですよ、そうでしょう?
(外へ飛び出す)来いよ、マー! 俺の妹! これが横浜生まれのみスター・シュリンクだ。お前に何か話があるってよ。
マリー ジョージ!
マリー 窓の外は真夜中よ、今日は家に帰りたいの。
シュリンク お付き合いしましょうか、よろしかったら。
ガルガ 「彼女たちの髪は黒漆の林のよう。細い毛だった。彼女たちの涙は、酔いしれた夜の逸楽と、戸外に転がった生贄どもの上を渡る風によって拭われる」
マリー (小声で)どうか私にそんなことを頼まないで下さい。
ガルガ 「玉虫色の蛇の皮のような薄物が、絶えず苛立つ体に触れて、ひたひたと音を立てる」
シュリンク 私はあなたに本気でお願いしたのですよ。私は誰に対しても隠し事をしません。
ガルガ 「この薄物が彼女たちの体を、足の爪先まで覆っている。天国にいるマドンナでさえ、自分の妹たちのこんな姿を見たら青ざめるだろう」
(戻って来る。シュリンクにコップを渡す)のみませんか? 飲む必要がありそうだ。
シュリンク 何故あなたは飲むんです? 酒飲みは嘘吐きだ。
ガルガ あんたとお話するのは、実に愉快です。僕は酒を飲むと、手前の思想ってやつが半分くらい流れ出ていっちまうんだ。それを僕は地面に注いでやる。すると思想はすっかり軽くなるんだ。さあ飲みたまえ!
シュリンク 飲みたくない気分です、お許しいただければ。
ガルガ 僕がすすめているのに、あんたは拒むんだ。
シュリンク 拒みはしない、ただ私には脳髄しかないものだから。
ガルガ (しばらく間をおいて)失礼したな、じゃあ半分ずつ飲もうじゃありませんか。あなたも脳髄を減らせばいい。飲んでしまえば愛するようになりますよ。
シュリンク (まるで儀式のように飲む)飲んでしまえば愛するようになるだろう。
ガルガ (寝室から呼ぶ)一杯飲まないか、マー? 嫌か? 何故座らないんだ?
ヒヒ 黙れ! 奴らの喋るのを、今まで我慢して聞いていた。もういい加減に黙ってもらいたい。
ガルガ (マリーに)こいつは黒い穴だ。今、四十年が過ぎた。俺は嫌とは言わない。台地が裂ける、下水が高まってくる。でもその欲望は弱すぎるのだ。
四百年間、俺は海に訪れる朝を夢見てきた。目には汐風を感じた。何という柔らかい風だったのだろう! (彼は飲む)
マリー (バーに駆け込む)助けて! 私を売ろうとしているのよ!
マンキー 俺がついているさ。
マリー 分かっていたわ、あなたが私のいる所に、必ず来ているだろうって。
ガルガ 「オペラのように一陣の風が仕切り壁に隙間を作った」
シュリンク (怒鳴る)バーから出ていらっしゃい、ミス・ガルガ、よろしかったら。
(マリー、サロンから出てくる)
シュリンク どうか体を投げ与えるようなことはしないで下さい、ミス・ガルガ。
マリー 私は何もない小さな部屋に行きたい。私はもうたくさんのことを求めることはしないわ。パット、約束するわよ、私はもう何かを望んだりしないわ。
ガルガ あんたのチャンスを守りなさいよ、シュリンク。
シュリンク まだ過ぎ去っていない長い年月の事を、お考えなさい、マリー・ガルガ。そしてもうお休みなさい。
マンキー 一緒になろう。俺は四百ポンド持っている。これだけあれば、冬にもねぐらが見つかるし、幽霊は死体置き場にしか出なくなる。
シュリンク お願いです、マリー・ガルガ、よろしかったら私と一緒になりましょう。あなたを私の妻のように扱い、あなたにかしずきます。
もしあなたを一度でも傷つけたら、人目につかぬように首を吊りますよ。
ガルガ こいつは嘘は吐かない。絶対に嘘は吐かないぜ、お前、こいつと暮らせば、今奴の約束したものだけ果てに入れられるぜ、掛け値なしに。(バーに行く)
マリー あなたに聞きたいわ、パット、私があなたを愛していなくても、あなたは愛してくれるの?
マンキー そうとも、それに君が俺を愛さないなんて、この天と地のどこを探しても書いてないぜ、君。
ガルガ 君かい、ジェーン。君、カクテルをすっかり平らげちまったのか? 君はどうも君とは似ても似つかない姿になっていくな。何もかもすっかり売り渡したのか?
ジェーン この男を片付けてよ、ヒヒ。こいつの顔が嫌なのよ、うるさいったらありゃしない。私がもうミルクと蜂蜜の中で暮らしている女じゃなくなったからって、からかわれるいわれはないわ、パブ。
ガルガ 奴らは君まで養ってくれたのか? 君の顔ときたら、中身を吸われたアイスレモンみたいに萎びちゃったな。
昔は君は、オペラの中の女のように、ぼろを着ていても上品に歩いていたのに、今は黒の白粉塗りだ。
でも君が自分から進んでここにやって来たんじゃないことは、大いに買ってやるぜ。蝿どもにたかられて酷く汚れたからだろ、酔っ払いの牝鶏ちゃん。
マリー さあ行きましょう。出来れば、あなたのお世話をしたかったんです、シュリンクさん、でもできません。これは傲慢じゃないんです。
シュリンク よかったらここにいらっしゃい! お気に召さないなら、二度と求婚しません、
しかし穴に飲み込まれてはいけませんよ。男から離れても、いられる場所はたくさんある。
ガルガ 女にはそういう場所はないぜ、放っておきなよ、シュリンク、こいつが行こうとしている先が分からないのか?
お前だって、ジェーン、冬のねぐらの方を選んでいたら、今頃はまだワイシャツの山に囲まれていただろうぜ。
シュリンク 愛する前に、お飲みなさい、マリー・ガルガ!
マリー 行きましょう、パット、ここはいい場所じゃないわ、これがあんたの奥さん、ジョージ? この人が? ともかくお目にかかれて嬉しいわ。(マンキーと退場)
シュリンク (後から声をかける)私はあなたを見捨てませんよ、それが分かったらまた来て下さい。
ヒヒ 使い古しのまんこだぜ、諸君、ガバガバのな。(彼は笑う)
ガルガ (蝋燭でシュリンクの顔を照らしてみて)あなたの顔は全く平静だ。そのあなたの善意ってやつで僕を丸め込むつもりですか?
あんたが石炭運びを屋って稼いだ金で、何故俺の家族をたっぷりやしなってくれたか、その理由もわかりましたよ。
僕から楽しみを奪おうったって駄目だぜ。あんたが僕のために保管しておいてくれた、この小さな動物も、ありがたくいただいて参りますよ。
ジェーン 私を侮辱するのはよして。私はちゃんと独り立ちして、自分で食べている女よ。
ガルガ それからお願いだが、あの二重売りの材木の代金を貰いたい。多分これも僕のために保管してくれているでしょうね。いよいよ貰う時になりましたからね。
(シュリンクはその金を取り出して彼に渡す)僕は全く酔っ払っている。
しかしどんなに酔っていても、結構いい考えが浮かんで来るんだ、シュリンク、素晴らしい計画がさ。(ジェーンをつれて去る)
ヒヒ あれはあんたの最後の金だったんですね、ボス。その金の出所はどこです?
そのうち問い合わせが来ますよ、ブラスト商会はもう支払いを済ませた材木を早く寄越せと言ってきてるんだから。
シュリンク (彼の言うことには耳を貸さないで)椅子だ。(彼らは椅子に座ったままで誰も立ち上がらない)米と水をくれ。
毛虫 ここではあんたにやる飯はない。あんたの預金はマイナスだぜ。
(シュリンク、マリー)
マリー 木々からは人間の糞みたいなものが垂れ下がっているわ、天は手が届きそうに近い、私を相手にもしないくせに。寒いわ、私は凍死しかけたつぐみのよう。どうしようもないの。
シュリンク それで役に立つなら言いましょう。私はあなたを愛しています。
マリー 私は体を投げ与えてしまったの、一体どうして私の愛は、こんなに苦い実を結んでしまったのかしら。
他の人たちなら、愛する時が生涯で一番素晴らしい時だというのに、私は枯れしぼんでしまう。自分の身を責め苛んでいる。私の体は汚れてしまったの。
シュリンク どんなにどん底かすっかり話しておしまいなさい。そうすれば気が軽くなるでしょう。
マリー 私は動物のような男とベッドで寝たわ。全身がつんぼのように無感覚だったけど、その男に体を投げ与えたわ、何回も。
それでも体はちっとも暖まらなかった。彼はその合間にヴァージニア煙草をふかしていたわ、船員だったわ、私はこんな壁紙に囲まれながらあなたをずっと愛しつづけていたわ、
あまり熱烈だったので、相手が自分への愛と勘違いして、私を貶めたほどだったわ。私は深い深い闇の眠りの中に落ちていったの。あなたに対しては何の負い目もないのに、私の良心は私を責めるのよ。
本当はあなたのものであるはずの私の体を、汚してしまったといって。あなたはその体を拒んだのにね。
シュリンク 可哀想だね、寒いのですか、私は、空気は生温くて暗いと思っていたんだが、私は、この国の男たちが恋人に向って何と言うのか知らない。でもそれで役に立つなら言いましょう。あなたを愛していると。
マリー 私はとても臆病になったわ、純潔と一緒に勇気まで失ってしまったのね。
シュリンク 汚れはまた洗い流せますよ。
どうしても満たされないこの心、私は何でも中途半端なの、愛してもいない、ただの見栄なのよ、
あなたの仰っていることは聞こえているわ、耳は聞こえるの。でもこれはどういうこと?
多分私は眠るでしょう、それからまた起こされる。多分私は、汚らわしいことをしていくでしょう。
住む屋根を手に入れるために。そして自分を欺き、そして目を閉じるんだわ。
シュリンク いらっしゃい、ここは冷えてきましたよ。
マリー でもあまり近すぎる天に比べれば、木の葉陰のほうが暖かくて優しいわ。(退場)
交尾期の今頃は、カニの雄雌もつがい合うし、茂みでは鹿の雄が牝を求めて鳴いている。穴熊の禁猟期も開けた。
でも俺様の後ろ足は冷たいな。黒い靴下に新聞紙を巻きつけてやろう。あの女、どこにねぐらを構えやがったのかな。
こいつはまさに酷い話だ。あいつが今頃、薄汚れたバーで魚の骨みたいに、ごろごろしているとしたら、
もう二度と清潔な肌着は身につけられない身になってしまう。染み付いた汚れはもう取れない!
よし、パット・マンキー・ボドル、俺は手前自身を即決裁判にかけてやるぞ。
俺は手前の身を防御するには弱すぎるから、そこで攻撃に転じてやるってわけだ。
あのあばずれなんか、厚い皮ごとひとのみに飲み込んで、消化を早くするためにお祈りをしてやるぞ、畜生。
禿鷹は軍法会議で即決銃殺して、マンキー・ボドル博物館に吊るしてやる。ブルブル! ただの台詞だ! 歯の抜けたような台詞だ! (ピストルをポケットから出す)
これこそもっとも冷酷な解答ってやつだ。茂みの中を、女の尻の後を追いかけて這いずり回るなんて、何 ことだ!
この老いぼれ助平! くたばってしまえばいいんだ、俺なんか。おっと畜生、ここは自殺の森じゃないか!
いいか、しっかりしろ、パッディ! もしあの女がすっかりお終いになっているとしたら、その末路はどうなるだろう。
やめたやめた、パッディ。煙草を一服してちょっくら腹をこしらえよう。こんなものはしまって、さあ、前進だ!
マリー (シュリンクと戻って来る)そんなことは神様にも人間にも背いた行為です。あなたと一緒にはなりたくないわ。
マリー できません。あなたは私を生贄になさるおつもりね。
シュリンク あなたはいつだって、頭を男の腋の下に入れていなければならないんだ。相手は誰にしろね。
マリー 私はあなたにとっては何者でもないのにね。
シュリンク あなたは一人で生きることは出来ない。
マリー あなたは何て素早く私を捕まえてしまったの。まるで私があなたから逃げて行こうとしたみたいに。生贄のように虜にしたわ。
シュリンク あなたは狂った牝犬のように茂みに駆け込んだが、今度は狂った牝犬のように飛び出すんだね。
マリー 私はあなたが今仰ったような、そんな女かしら? 仰る通り、いつもそうだったのね。
私、あなたを愛しています。あなたを愛していることだけは忘れないで下さい。狂った牝犬のように愛しています。
あなたがそう言ったのよ。さあ、ではお金を払ってちょうだい、そうよ、私は払ってもらいたいのよ。
お札をちょうだい、それで暮らしていくわ、私は淫売だもの。
シュリンク あなたの顔に雫が流れているよ、あなたが淫売だなんて!
マリー 私をからかわないでお金をちょうだい。顔を見ないで。私の顔が濡れているとしたら、涙なんかじゃないわ、霧のせいよ。
(シュリンク、彼女に札を渡す)
マリー お礼なんか言わないわよ、横浜生まれのシュリンクさん。これは全くのビジネスなんですもの。お礼はなしよ。
シュリンク 帰った方がいい、ここでは稼ぎにならないよ。(退場)
(部屋は新しい家具でいっぱいである。ジョン・ガルガ、マエ、ジョージ、ジェーン、マンキー、みんな仕立て下ろしの服を着て、結婚式の食卓につく)
ジョン ここで名前は言いたくない、違う肌の色をしたある男が、知り合いのある家族のために、石炭運びに波止場へ出かけて行って、その家族のために夜を日についで働いて、
俺の家の家族を保護してくれるようになってからというもの、ここの暮し向きはあらゆる点でよくなってきた。
今日うちの息子のジョージが大会社の重役並みの結婚式を上げられるようになったのもあの男のおかげだ。
でもあの男はそれを知らない。新調のネクタイ、黒いスーツ、口から漏れるウィスキーの香り、しかも新しい家具に囲まれて!
マエ あの男が波止場の石炭運びをやってそんなに稼ぐなんて、おかしなことじゃないかい?
ガルガ 稼ぎ手は俺だよ。
マエ お前たちはそそくさと結婚しちゃったね。少し早すぎたんじゃないかね、ジェーン?
ジェーン 雪だってとけてしまえば跡形もなくなるわ。間違った男を選んでしまうことだってよくありますよ。
マエ 選んだ男の良し悪しを言っているんじゃないよ。問題は長続きするかどうかだよ。
ジョン お喋りはよせ! ステーキを食って嫁さんと握手しなさい。
ガルガ (彼女の手首をつかんで)素晴らしい手だ。ここは全く素敵な居心地だよ。壁紙が剥がれていたって平気だ。
新調の服を着て、ステーキを食う。ここの石炭だっていい味だ。僕は指先くらいの厚さの漆喰を全身にかぶっていたんだから。
ピアノがあるな。愛する妹のマリー・ガルガの、写真の周りに花環を飾ってくれよ、
二十年前に大平原で生まれた彼女の写真の、ガラスの下に色褪せない押し花を入れておくんだ。
ここは座り心地も寝心地も実にいいじゃないか、黒い風もここまでは吹いてこないさ。
ガルガ 熱があるといい気分だぜ、ジェーン。(他の人たちも立ち上がる)
ジェーン 私はずっと考えていたのよ、あなたは私に何を企んでいるんだろうって。ジョージ?
ガルガ 何故そんなに青い顔をしているんだ、母さん、放蕩息子がまた帰ってきて、同じ屋根の下に座っているのにさあ、どうしてみんな石膏で固めた立像みたいに壁際に突っ立っているんだ?
マエ お前がそうやってべらべら喋っているのも、例の戦いの話なんだろ。
ガルガ 僕の頭に変な考えがちらちらしているっていうのか? そんな考えは追い払えるさ。
(シュリンク、登場)
ガルガ ああ母さん、ステーキとウィスキーをこのお客様に出してくれ。歓迎しなきゃいけない人だ! 何故って僕は今日結婚したんだからね、さあ、女房の君が話せよ!
ジェーン 私と私の夫は、今朝ベッドから起きるとそのまま真っ直ぐ保安官の所に出かけて行ってこう言ってやったわ。
「ここで結婚できますか?」すると保安官は言ったわ。「俺はお前という女をよく知っているぞ、ジェーン---お前はこの亭主一人で通せるのか?」って。
でもこの髭面の男は気がよさそうで、私に悪意はもっていなかったと分かったので、こう言ったの。
「人生ってのはあなたの考えているようなものじゃないのよ」って。
シュリンク おめでとう、ガルガ、君は復讐の念にとりつかれているようだね。
ガルガ あんたは微笑んでいるけど、酷く恐いんだろう。それはそうさ、そう慌てて食わなくてもいいじゃないか! 時間はたっぷりあるんだぜ、マリーはどこだ? あの娘はちゃんと世話してもらっているだろうね。
きっと満足しきっているだろう。悪いけど今の所、あんたにおすすめできる椅子が空いていないんだ。ちょうど一つ椅子が足りない。これさえあれば家具は新調で完全なんだけどね。
まあこのピアノを見てくださいよ! 全く居心地がいい。僕はこの一家団欒の雰囲気の中で幾晩も送りたい。僕も新しい人生を始めることになったのでね、明日はまたC・メインズの貸本屋に行きますよ。
マエ ああ、ジョージ、そんなにお喋りをしないでおくれ。
僕たちの付き合いは終わりですよ、ミスター・シュリンク、この付き合いのおかげで大変儲けさせてもらいました。
この家具がそれを雄弁に物語っています。家族みんなの新調の服を見ても明らかだ。現金だってたっぷりありますよ、本当にありがとう。
(静寂)
シュリンク すまないが、個人的なことでお願いがあります。私は、ここにブラスト商会からの手紙を持っています、
ヴァージニア州の裁判所の判が押してあります。私はこの手紙をまだ開けていなかったことに気がついた、
開けてくださるとありがたいのですがね。どんな悪い報せでも気分が悪くならないならね。
(ガルガ、読む)
シュリンク この私の個人的な問題で君に指示していただければとても気が楽になるのですが。
マエ 何故お前は何も言わないんだい、ジョージ? 何をするつもりなの? また何か企んでいる顔つきだね。
私はそれが一番恐いんだよ、あんたたちのやっていることは私には五里霧中だよ。まあ待っていろよ、と言ってあんたたちは出かけて行く。
そして戻って来た時には、もう見分けられないほど人が変わってしまっているんだ。何をやってきたのか、私たちにはまるで分からない。お前の計画を言っておくれ、
分からないなら分からないと言いなさい、だったら私たちもそれに合わせて考えるから。この鉄筋と塵垢の町で過ごした四年間ときたら! ああ、ジョージ!
ガルガ いいかい、その酷い四年間というのが、それでも一番ましな月日だったんだよ、それももうこれで終わりだ。
もう何も言わないでくれよ。両親であるあんたたちと、女房のジェーンに言っておく。俺は刑務所に行く決心をしたよ。
お前たち二人の間に、どんなことがあったのか聞きはしなかった。どうせ汚らしいことだと言うことはいつも分かっていたさ。ピアノを買うのも牢屋に入るのも、山のようにステーキを買って家に運び込むことも、
家族から生活を奪うことも、お前たちにはみんな同じことなんだろう。マリーはどこにいるんだ、お前の妹は? (彼は上着をむしりとって彼に投げつける)
俺に上着は返すぞ、こんなものは着たくはなかったんだ。でもこの先この町が俺をどんなに貶めても、耐えることには慣れているさ。
ジェーン ジョージ、どのくらい入れられるの?
シュリンク (ジョンに)材木の二重売りなんですよ、もちろん懲役にはなります、保安官には情状酌量などありませんからね、
彼の友人である私は保安官にいろんなことを明快に説明できますよ、スタンダード石油の税金申告みたいにね。息子さんの相談にはいつでも乗りましょう。
ジェーン 口車に乗せられ茶駄目よ、ジョージ、人のことは心配しないであんたが必要だと思うことをしなさい。あなたのいない間は、妻の私がこの家をやっていくから。
ジョン (からからと笑う)こいつがこの家の面倒を見てくれるとよ! 昨日お前が往来から拾ってきた淫売がかい。罪に穢れた金で養っていただくんだとよ!
シュリンク (ガルガに)あなたを見ていて家族思いだということが分かったよ。あなたはこの家の家具に囲まれて毎晩を過ごしたいと思っている。
あなたの考えも幾らかは友人である私に伝わってくるでしょう。何しろ私はあなたたちみんなの障害を取り除くために、骨折っているんだからね。
ご家族があなたを失わないように努力するつもりですよ。
マエ 監獄なんかに行っちゃ駄目だよ、ジョージ!
世界は貧しい、俺たちは戦いの相手を世界に投げつける仕事で身を粉にするんだ。
ジェーン (ガルガに)また哲学を始めたわね、頭の上の屋根が腐って崩れ落ちようって時に。
ガルガ (シュリンクに)世界中を探し回ってみるといい、悪党なら十人くらいは見つかるでしょうが、
悪い行為ってものは一つだって見つかりませんよ。人間ってものは、ほんのちょっとした原因で破滅するものだ。もうごめんだぜ、僕は清算するよ。これで勘定にけりをつけて、それからおさらばするぜ。
シュリンク 君の家族は、君に見放されるかどうかを知りたがっている。君が支えなければ破滅するものな。何か一言言いたまえ、ガルガ。
ガルガ みんなのしたいように、勝手にするがいいよ。
シュリンク 家族は野垂れ死にしていくだろう。君の責任だよ。そうたくさんはいないと思うが、君みたいに綺麗さっぱりと片をつけたくなる気を起こす連中も、出てくるかもしれないな。
そいつらは汚いテーブルクロスをちぎったり、服のポケットの吸殻を叩き出したりする。君のすることなすことを真似して、自由でいたい、染みだらけの下着を着た酷い格好でいたいなんて言い出すかもしれないよ。
マエ お黙り、ジョージ、この人の言うことは本当だよ。
ガルガ こうやって目を細めてみると、冷たい光の中に、やっと何かが見えてきたぞ。でもあんたの顔は見えない、ミスター・シュリンク。多分あんたには顔がないんだろう。
シュリンク 四十年の歳月は汚らしいものだったと分かった。そして今こそ大いなる自由ってやつが訪れるのさ。
ガルガ そういうわけだ、雪が降りそうだった、だが寒すぎて降らなかったぜ。家族の奴らはまだ残飯を食い、ひもじい腹を抱えながら生き続ける。それをよそに僕は、僕は敵を打ち倒すのだ。
ジョン わしには弱点ばかりしか見えないぞ、弱点だらけだ。生まれてこの方お前を知っているが、お前はまるで駄目だ。さあとっとと出て行け、俺たちを捨ててな。なぜ家具を運び出しに来ないんだ?
シュリンク これ以上君と話す気はないよ。三年か! 若い男にとってはドアが開くくらいの時間だ。でもこの私にとってはどうだ! 私は君から何の利益も得られなかったよ、こう言えば慰めになるかな。
でも今考えてみると、君は僕の中に、ほんの少しの悲しみの傷痕も残していかなかったよ。今私はまた喧騒の町に入り込んで、君と知り合う前のようにビジネスに勤しむつもりだがね。(退場)
ガルガ 僕は警察に電話さえすればいいわけだ。(退場)
ジェーン 私はチャイナバーへ行こう。警察なんかに会いたくないわ。(退場)
マエ 時々思うんだよ、マリーはもう二度と帰って来ないだろうって。
ジョン それも自業自得さ。罰当たりな仕事をしている連中は誰にも救ってもらえないのさ。
マエ まともだったら、いつ助けてもらえるのかね?
ジョン いちいち口を出すな!
マエ (彼の脇に座る)あんた、これからどうするつもりか聞きたかったんだよ。
ジョン 俺か? 何もしない、これで一巻の終わりよ。
マエ ジョージの企んでいることが分かってたんだろう。
ジョン ああ、おおよそはな。みすみすこうなったからなお辛いんだ。
マエ これから何で暮らしていく気?
ジョン まだ残っている金でよ。それにこのピアノも売れるだろう。
ジョン ひょっとしたらオハイオに帰ることになるかな、何か手を打たなきゃ。
マエ (立ち上がる)あんたにまだ言いたいことがあったよ、ジョン、でも言えないよ。私は人間には突然破滅することなんかないと思っていたんだよ。
でも天ではいつもと変わらないごく当たり前の日に、神様がお決めになる、するともうその日から、破滅が始まるのさ。
ジョン お前は一体何を考えているんだ?
マエ これから、はっきり決めたことをするつもりだよ、ジョン。私はとてもやりたいんだよ。何か理由があるだろうなんて思わないでおくれ、石炭はつけておくよ。晩御飯は台所に置いておくからね。(退場)
ジョン 階段の所で鮫の幽霊に食われないように気をつけろよ。
ウェイター (入って来る)ミセス・ガルガが下でグローク酒をご注文になりました。暗がりでお飲みになりますか、それとも明かりをつけましょうか?
ジョン もちろん明るい所で飲むぞ。(ウェイター退場)
マリー (入って来る)何も言わないで! お金を持って来たわ!
ジョン よくもいけ図々しくここに入って来られるな? 全く大した一家だよ! お前、なんてなりだ?
マリー なかなかいいと思わない。ところでこの新しい家具は一体どうしたの? お金が入ったの? 私もお金が入ったのよ。
ジョン どこから手に入れた?
マリー 知りたいの?
ジョン 寄越せ! 俺を飢えさせて、こんなざまにしちまったんだからな。
マリー ほらお金、取りなさいよ、新しい家具でいっぱいだけど。お母さんは?
ジョン 脱走兵は銃殺されるものだ。
マリー 家から追い出したの?
ジョン お前たちみんなせいぜい毒づいてどん底に落ち転げまわってグローク酒でも飲むといい。でも俺は父親だぞ、俺を飢え死にさせていいのかよ。
ジョン お前も出て行っていいんだぞ、俺は見捨てられることに慣れているからな。
マリー いつここから出て行ったの?
ジョン 人生もお終いって時に、貧乏になって手前の子供のお情けに縋る運命に見舞われたとはいえ、俺は道ならぬことにかかわりはもちたくない、躊躇ったりせずにお前を追い払えるぞ。
マリー お金は返してよ、父さんにあげるつもりじゃなかったんだから。
ジョン そうは問屋が卸さない。俺は棺桶に入れられても煙草を一ポンドくれ、と喚けるんだぞ。
マリー さようなら。(退場)
ジョン 奴らときたらせいぜい五分くらいしか喋る種を持ち合わせていない。それ以上は嘘が種切れになるからな。(間)そうだな、言いたいことがある時は何だって、二分間黙っていれば済むんだ。
ガルガ (帰ってくる)母さんはどうしたの? 出て行っちゃったのかい? もう僕があらわれないと思ったのかな?
(彼は走り出て行くがまた戻って来る)別の服も持って行ってしまった。もう帰ってこないつもりだな。(彼はテーブルに座って手紙を書く)
「エグザミナ新聞局長殿。何とぞマレー人の材木商C・シュリンクを注意人物として扱うようにお願い申し上げます。
この男は、私の妻ジェーン・ガルガにつきまとい、彼の所に勤めていた私の妹マリー・ガルガをレイプしたのであります。ジョージ・ガルガ」
おふくろのことは何も書くまい。
ジョン これで一家は離散だ。
ガルガ この手紙を書いて、ポケットにしまっておく。大事な書類だ、三年経ったら、そのくらい豚箱を食らうだろうからな---釈放される一週間前に、この書類を新聞に売り込むことにしよう。
そうすれば俺が町に戻る時には、この男は俺の町から抹殺され、俺の目の前から消えているぜ。俺が釈放される日を、あいつはリンチを求める連中の怒号によって知らされるのだ。
(シュリンク、若い秘書)
シュリンク (口述している)事務所の秘書に求職してきたミス・マリー・ガルガに返事してくれたまえ。
あの女ともあの女の家族の誰とも、もう二度と係わりたくないとね。スタンダード不動産宛だ。
「拝啓、当社の株券はもはや他社の手にあるものは一株もなく、また我が社の経営状態は安定していますので、貴社の五ヵ年契約のお申し出にとって支障になるものは一切ございません」
勤め人 (一人の男を連れてくる)これがシュリンクさんだよ。
男 あなたにある情報をお伝えする持ち時間が三分あります、あなたがその事情を飲み込む時間は二分。三十分前に編集局に刑務所からある手紙がきました。ガルガとかいう奴の署名がありましたがね、
この男はあんたにいろんな罪状を負わせていますよ。五分すると記者がここにやって来ます。これでお代は千ドル。
(シュリンクはその金を渡す。男は退場)
シュリンク (念入りにトランクに物を詰めながら)営業をそのまま続けてくれ。この手紙は送っておくんだ。私は戻って来るからね。(急いで退場)
(毛虫、ヒヒ、獅子鼻の男、救世軍の聖職者、ジェーン、マリー・ガルガ。外では喧騒)
ヒヒ リンチしろと喚いている奴の声が聞こえるだろう? ここの所チャイナタウンには穏やかではない毎日が続いているよ。一週間前に、マレージンの材木商の犯罪が明るみに出た。三年前奴はある男を刑務所に送り込んだ。
その男は三年の間、じっと黙っていたんだが、釈放される一週間前になって、エグザミナー新聞に手紙を送って、一切をばらしてしまったんだ。
獅子鼻の男 とても優しい心の持ち主だな?
ヒヒ マレー野郎はもちろん高飛びしたぜ、でも奴はもうお終いよ。
毛虫 誰のこともあっさりお終いだなんて言えないぜ。この地球上の生存状況という奴をよく考えてみろ! ここじゃ一回でお終いになる奴なんかいないぞ、少なくとも百回はかかる!
どんな奴だって有り余るほどの可能性を備えているからね。たとえば、ブルドッグ野郎、G・ウィッシューの物語を聞かせてやろう。
だけどこれには自動音楽機の伴奏がなきゃいけないな。ジョージ・ウィッシューは緑の島アイルランドで生まれた。
生後一週半にしてデブの男に連れられて、花の都はロンドンにやって来た。故郷は彼を他人のようにおっ放り出したというわけだ。
都で彼はやがて残酷極まりない女の手に落ちることになった。この女は奴を酷く責め苛んだのである。あまたの悩みと苦しみに耐えぬいた後、ついに奴は脱走を試みたが、そこは緑の生垣の中、奴はハンターの追跡を受けた。
大きく危険な鉄砲が彼を目掛けて発射され、見ず知らずの猟犬どもが、幾度も彼を追いかけた。この折に彼は足を一本失い、以後は三本足で歩くことになった。以後奴は様々な試みを行ったがいずれも失敗し、
人生に疲れ、飢えで半死半生の有様となったが、ある老人のもとでようやく隠れ家を見つけた。この老人は奴と食べ物を分け合って食べた。かくて、失望と冒険を重ねた波乱万丈の生涯を送った彼は、
この老人のもとで、穏やかにも安らかに、七年半の生涯を閉じた。奴のお墓はウェールズにあるって次第。どうかね、これを聞いてもあんたはいろんなことをあっさり一つに纏めてしまうかね、え?
毛虫 こいつがお尋ね者のマレー人よ。奴は前にも破産したことがある。ところが三年の間に、ありとあらゆる手練手管を使って材木業をまた元通りに建て直した。
そのためにこの地区では酷く憎まれることになったよ。もし刑務所にいる例の男が、奴の性的犯罪を暴露しなかったら、法的には後ろ指一つ指されないところだったんだ。
(ジェーンに)あんたの夫は一体いつ刑務所から出て来るんだ?
ジェーン そう、それなのよ、さっきまでは覚えていたんだけど、ねえ、皆さん、私が知らないなんて思わないでね、二十八日だから、昨日か今日ね。
ヒヒ くだらないお喋りは止めな、ジェーン。
獅子鼻の男 それで、あの趣味の悪い服を着ている女は何者だ?
ヒヒ あれは犠牲者よ、刑務所にいる男の妹さ。
ジェーン そうよ、私の義理の妹なのよ、私のことを知らないようなふりをしているけど、私が結婚した頃は一晩も家に帰ってこなかったのよ。
ヒヒ マレー人があの女を破滅させたのさ。
獅子鼻の男 あのガラス鉢で何をやっているんだ?
毛虫 俺には見えない、何か言っているぞ、静かにしろ、ジェーン。
マリー (お札を一枚鉢の水に入れてひらひらさせる)あの時、このお札を受け取ると、私は神の目が私に注がれているような気がしていたわ。それで私は、何もかもあの人のためにしたのです、と答えた。すると神様はくるりと背を向けて行ってしまったわ。
煙草畑を風がざわめいていくような音をたてて。でも私はお札をとっておいたわ。一枚! 二枚! 私も崩れていく! 純潔を投げ与えてしまった私! 今はお金も消えていく! 楽じゃないわ!
メインズさん、あなたにも証人になってもらうために来ていただきました。三年経って戻って来てみると、女房はこんないかがわしい所にいたんですよ。
(彼は男たちをジェーンのいるテーブルに連れて行く)こんにちは、ジェーン、元気かい?
ジェーン ジョージ! 今日は二十八日だった? 知らなかったわ。知ってたら家にいたのに。家の中はとても寒かったでしょう、私がここに暖まりに行ったのだろうと思った?
ガルガ これがメインズさんだ、知っているね。またこの方の所に勤めることになった。それからこれが隣近所の方たちだ。僕の身の上を心配してくださっているんだ。
ジェーン こんにちは、皆さん、ああジョージ、あなたの出てくる日をすっぽかしたなんて、私は何と酷い女でしょう。皆さんは私のことをどんな女だとお思いになるかしら。ケン・シー、皆さんのご注文を聞いて!
亭主 (獅子鼻の男に)これが例の奴を告発した刑務所帰りの男だよ。
ガルガ こんにちは、マー、僕を待っててくれたのかい? 妹もここにいますよ、ごらんのように。
マリー こんにちは、ジョージ、元気?
ガルガ さあ家へ帰ろう、ジェーン。
ジェーン あらジョージ、あんたはそう言うけど、一緒に家に帰った途端に怒鳴りつけるんでしょう。今から先に言っておくけど、家はまるで掃除していないのよ。
ガルガ 分かっているさ。
ジェーン 知っているくせに意地悪ね。
ガルガ 叱りやしないよ。ジェーン、俺たちはこれから新しくスタートしようぜ。俺の戦いは終わった。そりゃ当然分かるはずだ、僕は相手をこの町から追い出してしまったんだから。
ジェーン 駄目よ、ジョージ、何もかも悪くなっていくだけよ。よくなるばかりだと言っていても、実は悪くなっていくばかり。
悪くしかならないもの。皆さん、これが気に入りました? もちろんお気に入らなければどこか他へ行ってしまってもいいのよ……
ジェーン 分かるでしょう、ジョージ。人間ってものはあんたの考えているようにはならないのよ、破滅した人間でもね。
いったいなぜあんた、このお方たちを連れて来たの。あたしは自分の末路がこうなるだろうってことは、昔からずっと分かっていたわ。
日曜学校の授業で弱きものの末路という話を教わった時、すぐに自分がそうなるだろうと考えたわ。それをあんたがわざわざ証明してくれなくてもいいのよ。
ガルガ じゃ、俺と一緒に家へ帰らないのか?
ジェーン 聞かないでよ、ジョージ!
ガルガ やっぱり俺は聞くよ。
ジェーン じゃあ、私も言い方を変えなくちゃならないわね。いい。私はこの人と同棲していたのよ。
(彼女はヒヒを指差す)皆さん、私は告白するわ、どうしようもないのよ、これからよくなっていくわけがないわ。
ヒヒ この女は凄い魔女だぜ。
メインズ ぞっとするな。
ガルガ いいか、ジェーン。これがこの町で君の最後のチャンスだぞ。僕は全て水に流すつもりだと言っているんだ。この方たちみんなが証人だ、さあ家に帰ろう。
ジェーン あんたはとっても親切ね、ジョージ。確かにわたしにとってこれが最後のチャンスだわ。
でもわたしは欲しくないの、私たちの間は真っ当ではないのよ、分かるでしょう、私はもう行くわ、ジョージ。(ヒヒに)さあ!
ヒヒ そういうことよ。(二人退場)
男たちの一人 この人は辛いだろうな。
ガルガ 家の戸は開けておくぞ、夜中にベルを鳴らしてもいいよ。
もし、その一家の大黒柱だったおふくろさんが、今どこにいるか教えてくれる奴がいたら、喜んで最後の有り金まですっかりはたくだろう。ところがこの俺は、ある朝の七時頃、歳は四十くらいのそのおふくろが、果物屋で掃除をしているところを見かけたんだよ、本当だ。
新しい仕事を始めたんだな、老けてはいるが、穏やかな顔をしていたよ。
ガルガ ところであんたは、例の男の材木屋に勤めていたでしょう。今シカゴ中が血眼で捜しているあの男の店に?
毛虫 俺が? 俺はそんな男に会ったこともないよ。
(退場。毛虫は退場する時、自動音楽機に小銭を投げ込んでいく。音楽機はグノーの「アヴェ・マリア」を流す)
救世軍の聖職者 (隅のテーブルに座っている。アルコールドリンクのメニューを言葉を味わうように一つ一つ硬い声で読み上げる)チェリーフリップ、チェリーブランデー、ジンフィズ、ウィスキーサワー、
ゴールデン・スリッパー、マンハッタン・カクテル、それに当店の特性のドリンク、エッグ・ノッグ。この飲み物はこれだけたくさんの材料で調達いたしました。卵、生卵、砂糖、コニャック、ジャマイカ・ラム・ミルク。
獅子鼻の男 あんたはこういうメニューの品を全部ご存知かね?
救世軍の聖職者 とんでもない! (笑い声)
ガルガ (つれてきた男たちに)分かってください、目茶目茶にされた僕の家族の有様を、皆さんにこうやってお目にかけるのは、必要とはいえ、全く恥ずかしいことです。
しかし、あの黄色い野郎に二度とこの町の土地を踏ませてはならないってこともお分かりでしょう。僕の妹のマリーはご存知のようにかなり長いことシュリンクの所に勤めていました。
今妹とちょっと話してみますがもちろん、出来るだけ気を遣って話さなければなりません。妹はこんなに落ちぶれていても、まだ幾らかの感受性ってものを持ち合わせているでしょうからね。
(マリーの隣に座る)さて君の顔を拝ませてもらっていいかい?
ガルガ それでも僕はまだ覚えているよ。君はある時、まだ九つの時だったが、教会で明日からあの方に私の所に来てもらうわって。僕らはあの方って神様のことを言っているんだと思ったんだぜ。
マリー 私、そんなことを言ったかしら?
ガルガ お前がどんなに見放され、汚されても、俺はまだお前を愛しているんだよ。まだ愛しているなんて言うと、お前は何でも自分の勝手をやっていいんだと思ってしまうことは分かっているけど、でもそう言いたいんだよ。
マリー この顔をじっと見ながらでもそう言えるの? この顔をよ。
ガルガ この顔さ、人間って奴は、たとえ顔が崩れても人は変わりやしないさ。
マリー (立ち上がる)でも私はそんなの嫌。兄さんにそんな風に愛してもらいたくない。私は昔の私が好きなの。ちっとも今と変わっていなかったなんて言わないで。
ガルガ (大声で)金を稼いでいるのか? お前はお前を買う男たちの鐘で暮らしているのか?
マリー 兄さんはそれを知らせるために、この人たちを連れて来たの? 私に大っぴらに話せって言うのね、いいわ、私は自分の体を投げ与えたわ。でもそれからすぐお金を寄越せって言ってやったわ。
これは全くのビジネスなんだから。私は素晴らしい体をしているでしょ。ただ、相手の男が煙草を吸っているのだけは我慢できないわ。セックスは私のお仕事。お金もこんなに持っているわ。
でももっと稼げるわよ。それをみんな使ってしまいたい。そうしたいのよ、自分で稼いだんだから貯める必要なんか認めないわ、ほら、これ、これを鉢に投げ込むわよ、私の姿と同じ。
メインズ 酷いもんだ。
別の男 笑い事じゃすまないぜ。
救世軍の聖職者 人間というものはもちこたえすぎるのです。これが根本的な間違いですよ。とてつもないことをやりだす可能性を持っている。そう簡単にはくたばらない。(退場)
メインズと三人の男 よく分かったよ、ガルガ、あんたがどんな酷い目にあったか。
マリー 私たちは淫売よ! 顔は厚化粧、だから目も見られないですむ、昔は青く澄んだ目も。
(銃声一発)
亭主 あいつ、自分の咽喉を撃ったぞ。
(男たちが救世軍の聖職者を引きずってくる。彼をグラスののったままのテーブルに寝かせる)
第一の男 触っちゃいけない、手を引っ込めろ!
第二の男 何か言ってるぜ。
第一の男 (彼に屈み込んで、大声で)何かしてもらいたいことはあるか? 家族はいるのか? どこに運んだらいいんだ?
救世軍の聖職者 (呟く)もう峠は越えた。事態は好転するだろう。
ガルガ (彼に屈み込んで笑いながら)こいつはやり損なったよ、失敗の上塗りまでしてる。自分の辞世の句を言ったつもりだったが、それは他人の辞世の句だ。しかも臨終の言葉にもならない。当て損なって、ほんの掠り傷さ。
第一の男 本当だ! ついてないな! 暗闇で撃ったからだぜ、明るい所でやればよかったのに。
マリー 頭が下がっちゃってるわ、何かをあてがってあげなさいよ! なんて痩せてるんでしょう。この人が誰か今分かったわ、彼に唾を吐きかけられた男よ、あの時。
(マリーとガルガ以外の全ての連中が、負傷者を連れて退場)
マリー 相変わらず彼のことばかり頭にあるの?
ガルガ ああ、お前には本当のことを言おう。
マリー 愛と憎しみ、そのおかげでここまで落ちたわ!
ガルガ 愛憎ってものはそうしたものさ、まだ奴を愛しているのか?
マリー ええ、そうよ。
ガルガ 風向きがよくなる望みはないのか?
マリー あるわよ、時にはね。
ガルガ お前を助けてやりたいのは山々だ。(間)おれの戦いは、とんでもない所まで広がっちまったんで今じゃこいつを止めるとなったら、シカゴ全市を動かさなけりゃ駄目なんだ。
そりゃ奴自身も続ける気がしなくなっているかもしれないさ。いつか自分にとっては三年とは三十年くらいに当たると、
ぽろっと洩らしたことがあるからな。こういうことまで計算に入れて僕は自分の姿は出さずに全く残酷な手段で奴にとどめを刺したんだ。
このとどめの一撃のやり方についてあいつと議論することはもうないだろう。あいつが会いたくたって俺にはもう会えないようにしておいたからね。
今日、この町では、あらゆる街角でタクシーの運転手が、奴を二度とリングに上がらせないように見張っている。もう今は奴は戦う前からノックアウトをとられてしまうことになっているんだから。
シカゴが奴の代わりに敗北のタオルを投げてくれたのさ。俺は奴の立ち回り先がどこか知らないが、奴もそのくらいのことは心得ているさ。
亭主 マルベリー通りで、材木倉庫が燃えているぞ。
マリー 兄さん、あの人を厄介払いできてよかったわね。私はもう行かなくちゃ。
(マリー退場)朝起きると熱いブラックコーヒーを飲み、顔を冷たい水で洗い、ぱりっとした服、いやまず綺麗なシャツに着替える生活がまた始まるんだ。
毎朝脳に櫛を入れて、頭の考えを整理しよう。俺の周りでも、町の新鮮な朝の喧騒の中で、いろんな営みが行われていく。
俺はもう、俺を破滅の淵に突き落としそうだったあの情熱なんか感じなくなっているからな。でも今はまだやっておかなければならない仕事がある。
(ドアを完全に開いて、笑いながらリンチを求める群衆の叫びに耳を傾ける。その声はますます大きくなってくる)
シュリンク (入ってくる。彼はアメリカンスタイルの背広を着ている)一人だけかね? ここまでやってくるのは大変だった。あなたが今日釈放されることは知っていましたよ。君の家にも探しに行って来た。私は追われているんだ。さあ早く、ガルガ。行きましょう!
ガルガ 気でも狂ったのかい? 俺は厄介払いするためにあんたを訴えたんだぜ。
シュリンク 私は勇気のある男ではない。ここへ来る途中、私は三度も死んだよ。
ガルガ そうとも、ミルウォーキー・ブリッジじゃ、連中は今、黄色人種なら黄色のシャツみたいに橋梁にぶら下げてるって話だぜ。
シュリンク だからこそますます急ぐ必要がある。承知しているはずだ、一緒に来なければいけないことは。まだ片はついていない。
三年前の九月に不意に堕落した妹のマリー・ガルガ、同じ頃、泥沼に落ちた妻のジェーン・ガルガ、それにまだ救世軍の聖職者もいるぜ。
こいつは名前は分からないが、あんたに唾を引っ掛けられて片付けられた男だ。こりゃ大した奴じゃない。
しかし他の誰よりも、俺のおふくろのマエ・ガルガ、一八七三年に南部で生まれ、三年前の十月に蒸発してしまった。
彼女は記憶から消え去ったのだ。もう顔もないんだよ、顔は黄色くなった枯葉のように落ちていった。(耳を傾ける)何という叫びだ!
シュリンク (同じように聞くことに没頭する)全くね。でもまだ本物の叫びではない、純粋な叫びではない、その叫びになったら連中はここに現れる。
とするとまだあと一分はあるな。待て、聞いてみろ! あれこそ本物だ! 混じり気なしの叫びだ! さあ、来たまえ!
(ガルガはシュリンクと急いで去る)
(シュリンク、ガルガ)
シュリンク 絶え間なく続くシカゴの騒音はやんだ。三七二一日間、空は蒼ざめ、空気はグローク酒のように青く澱んだ。何という静けさだ。何も隠しておけない。
ガルガ (煙草をすっている)あんたはあっさり戦えるんだな。凄い消化力だ。俺は子供の頃のことを思い出した。青いアブラナの波打つ草原、峡谷に巣食うイタチ、軽やかに流れる渓流。
シュリンク そうだ、そういったものはみんなかつては君の顔に浮かんでいた! だが、今の君の顔は琥珀のように硬くなった。透明な琥珀の中には、時々昆虫の死体なんかが閉じ込められている。
ガルガ あんたはずっと、孤独だったのか?
シュリンク 四十年間。
ガルガ 死に際の近付いた今になって、あんたは人と触れ合いたいという、この地球の命取りの病気にとりつかれたってわけか。
シュリンク (笑いながら)敵同士になることで?
ガルガ 敵同士になることでだ。
シュリンク 俺たちが、ライバルであることに君は気付いたのだ、観念的な戦いの相手であることにな! 俺たちの付き合いは短かったが、一時期は戦いに打ち込んでいた。だがその時期もあっという間に終わった。
人生の段階は記憶の段階とは違うものだ。到達したことが次の目的にはならない。最後のエピソードだからといって、以前のエピソードより重要だということにはならない。
かつて私は、二度にわたって材木業を経営した。二週間前から、その店は君名義になっている。
ガルガ 死の予感がするのか?
シュリンク これが君の材木業の元帳だ。いつか、数字にインクをかけた所から後がそうだよ。
そのちょっと前、洋服のため二十ドルか。その後に一度、二十二ドルをマリー・ガルガ、つまり、「俺たち」の妹に渡しているな。結局またもや、店はみんな焼き打ちにあって灰になったわけだ。
あんたの死体に石炭がかけられる時になったら、俺は嬉しくて夜も眠れないだろう。
シュリンク 過去を否定するな、ガルガ! 帳簿なんか見るんじゃない。俺たちが考えた問題のことを思い出してくれ。いいか、しっかり聞くんだぜ。俺は君を愛しているんだ。
ガルガ (彼をじっと見据える)なんて胸糞悪いことを! あんたみたいな老いぼれには吐き気がするよ!
シュリンク 答えはもらえないかもしれないな。しかし君に答えが出た時には、私のことを思い出してくれよ。腐った死体になって泥で口も開けぬ私のことを。何に聞き耳を立てているんだ?
ガルガ (面倒臭そうに)あんたに感情のかけらがあることが分かった、老いぼれたもんだな!
シュリンク 歯を剥き出すことが、そんなに素敵なことかね?
ガルガ 歯が綺麗ならな!
シュリンク 人間の果てしない孤独化は、敵を持つことさえ不可能にしてしまう。でも、動物たちとでさえ、理解し合うことは出来ないんだから。
ガルガ 理解し合うには、言葉なんて不十分なものさ。
だが、セックスの結合というものも、ただ一つの結びつきではあっても、言葉による亀裂を埋めることは出来ない。
そのくせ、どんな奴でも抱き合うのだ。絶望的な孤独化の中で、自分たちの絶望的な孤独化の味方をしてもらえる存在を生み出そうとしてな。
だが、親と子の世代なんて冷たく睨み合うだけだ。船にはちきれるほどの人間どもを詰め込んだとしても、
みんな凍えつくような孤独しか生まれてこない。一体聞いているのかね、ガルガ?
そうさ、孤独化はそれほどに果てしなく、闘争すら起こりえない。森だ! 森から人類は生まれたのだ。
毛むくじゃらで、猿の歯を持った立派な動物。生きる術を心得た動物。何もかも酷く簡単だった。
互いに肉を引き裂き合うだけのことだった。私ははっきり見える。
脇腹を震わせ、目と目で睨み合い、首に噛み付き、木から転げ落ちる。木の根元で血まみれになって、くたばっている奴、
そいつが敗北者だ、木から一番沢山相手を蹴落とした奴、そいつが勝利者だった! 何を聞いているんだ、ガルガ?
たとえどんなつまらない口実でもいいから、何かのきっかけで、怒りが俺の全身にこみ上げてくる瞬間をな。
だが、今、あんたを見ていて分かったぜ。あんたの無駄口を聞いていると腹が立つ。あんたの声には吐き気がするだけだ。
今日は木曜の晩だろう。ニューヨークまで、どのくらいある? 俺はどうしてここに座り込んで、時間を無断にしているんだろう?
俺たちは地球が軌道から外れたんだと思っていた! でも何も起こりはしなかった。雨が三回降った。夜中の強風が一回だけ。
(立ち上がる)シュリンク、もう、あんたも靴を脱いで休息する時だと思うぜ。その靴を脱いで、俺に渡すんだ!
もうあんたの持ち金だって、いくらも続かないだろう。シュリンク、俺はこの戦いをこれで終わりにするぞ。
戦いをはじめて三年目、ミシガン湖のほとり、この森の中で。だって、戦いの材料がすっかり尽きてしまったんだからな。
今この瞬間に戦いは中止だ。俺はナイフで片をつけるわけにはいかない。それを告げるご立派な言葉の持ち合わせもない。
俺の靴は穴だらけだ。あんたのお喋りじゃ、俺の足は暖まらない。月並じゃないか、シュリンク、若い方がゲームに勝つんじゃあな。
シュリンク 今日は、時々線路工夫のシャベルの音が、ここまで聞こえてきた。君がそれに耳を澄ましていることは、気がついていたんだ。立ち上がるのか、ガルガ? 行ってしまうんだな、ガルガ? 私を裏切るのだな、ガルガ?
ガルガ (だらしなく横に座る)そうさ、シュリンク、そうするつもりですよ。
シュリンク ジョージ・ガルガ、この戦いには、決して結末はないのだろうか? 理解しあうということは、決してありえないのだろうか?
ガルガ ないとも。
シュリンク だが、君は裸一貫の人生だけを元手に出て行こうというのか?
ガルガ 裸一貫の人生でも、他のどんな人生よりもましなんだ。
シュリンク タヒチへ行くのか?
俺の顔つきを見て、人々は俺を不屈な種族の輩だと思うだろう。俺は黄金を手に入れ、怠惰で、残虐な人間になるだろう。
女どもは、灼熱の国から帰ってきた、これら凶暴な病人を嬉々として看取るのだ。俺は泳ぎまわり、草を踏みにじり、狩をする。とりわけ煙草をふかすだろう。
煮えたぎった金属のような酒を飲もう。俺は生活って奴に手を染め、そして、救われるだろう≫
ふん、なんて馬鹿げたことだ! ただの台詞さ。太陽系の中心にあるわけでもない地球での戯言だ!
老いぼれた奴は消してくれる自然の摂理のおかげで、あんたがとっくに石灰詰めの死体になっている頃に、俺は自分の楽しみを自分で選べる人間になっているさ。
シュリンク 何だ、その態度は? くわえパイプくらい離してもらいたいな。インポになりましたという告白なら、もう少し殊勝な声で言ったらどうだ。
ガルガ あんたには退屈した、と文句をつけているだけなんだよ。
シュリンク 文句だって! 君が文句をつけるだと! 雇われボクサーのくせに! 酔っ払いの店員め! 十ドルで、私が買い取ってやったんだぞ。人と自分の足の見分けもつかない観念論者め! あんたは虫けらだ。
ガルガ (笑う)若者だよ! ちゃんとそう言ってくれ。
シュリンク じゃあ白人だ。私を片付けるために私が雇った男だ。俺が死の味を舌で味わえるために、口に嫌な味の泥を詰め込んでもらおう。
ここから二百メートル離れた先の森には、俺をリンチしようとしている群衆が来ているぜ。
ガルガ そうさ、どうせ俺は爪弾きにされる男だろう差。だが、それが何だってんだ。あんたは自殺するんだろう。まだ何かくれるものがあるのか。俺を雇ったと言ったが支払いはまだ済んでいないぜ。
シュリンク 君みたいな奴が欲しがるものを、君にやったではないか。家具も買ってやったぞ。
一回だけステーキを食ったな! それに、服を一着買った。でもあんたの世迷言を聞くために俺は眠りまで犠牲にしたじゃないか。
シュリンク 眠りだけではない、君の母親、君の妹、それに君の奥さんまで犠牲にしたじゃないか。そして君のくだらない人生を三年も無駄にした。それなのに腹が立つじゃないか!
今こんな惨めな終わり方をするなんて。結局は君は今までのことを何も理解していなかったのだ。君は私の死を望んだ。しかし、私は闘争を望んだ、しかも、肉体的な戦いではなく、精神的な戦いをね。
ガルガ 精神的なものなんて意味ないぜ。分かっているだろう。問題は勝利者になることではなく生きていくことだ。俺は、あんたに勝つことは出来ない。キックでぶっ倒すくらいはできるけどな。
俺は裸一貫で、冷たい雨の中に出て行くぜ。シカゴは寒い。その寒さの中へ俺は行く。間違いかもしれないさ。だが、俺には、まだたっぷり時間がある。(去る。シュリンク、倒れる)
シュリンク (立ち上がる)とどめの一突きを交し合い、思いつく限りの最後の言葉を交わしたのだから、
今はもう、私という男に寄せてくれた君の関心に感謝するだけだ。俺たちはいろんなものをなくした。
残ったのは裸の体だけくらいになってしまった。あと四分すると、月が昇る。そうすると君のけしかけたリンチ集団がここに現れるだろう。
(彼はガルガが去ったことに気付き、その後を追う)行かないでくれ、ジョージ・ガルガ!
若いからといって戦いをおりないでくれ。森は開墾されてしまった。禿鷹はもう食い飽きている。
そこで、貴重な答えは謎のまま大地に葬られてしまう! (振り返る。ミルク色の光がジャングルに立ちのぼる)
十一月十九日! シカゴの南三マイル、西風! 月の出る四分前、魚獲りに出かけたのにあべこべにこっちが溺死ってわけだな。
シュリンク でもうようよと寄ってくるな、沢山の魚が口に中に泳ぎ込んで来る。この狂ったような明るさはなんだろう? 私はとても忙しいのだ。
マリー (帽子を脱いで)私の顔は酷くなったでしょう。私を見ないで、ネズミに食い荒らされた顔よ。残骸を引きずってあなたの所へやって来たの。
シュリンク このミルク色の光はどうだ! ああそうか! 酷い味だって! そう言うのかね?
マリー 私の顔はむくんでいるでしょう。
シュリンク いいですか、ここにいてモップにつかまったら、あなたもリンチされてしまうよ。
マリー 構わないわ、そんなこと!
シュリンク 私の最期の時には、どうか一人にしておいてください。
マリー さあ、いらっしゃい、叢の中に隠れるのよ、石切り場には隠れ場があるわ。
シュリンク 何てことを! 気でも違ったんですか? 私がもう一目ジャングルの見納めをする必要があるのが分からないのか?
そのためにこそ月が登ってくれるのだ。(入り口の方へ行く)
マリー 私に分かるのはただ、あなたは破滅したのだということだけ。もっと自分を大事にしなければいけないわ。
シュリンク そういう形の最後の愛の奉仕をやってもらえるだろうか?
マリー 私はただあなたを見守っていたの。私は、自分の居場所がここだということが分かったのよ。
シュリンク そうかもしれない! ここにいなさい! (遠くで時刻を告げる音)二時か、私が絶対安全な所へ逃げる潮時だ。
マリー ジョージはどこにいるの?
(彼はマフラーをむしりとる)樽はすでにいやな臭いをたてだした。脂ののった、素晴らしい、自分で獲った魚たち!
よく乾かして、箱詰めにした! 塩漬けだ! 前もって池に放し、払いすぎるくらい金を払い、買い取り、
脂のつくまで飼育した魚たち、死にたがってまるで聖餅を食うように向こうから餌に食いついてきた自殺志願の魚たち、何てことだ畜生!
さあ急がなければ! (彼は机に行って座る。小瓶の中身を飲む)私、シュリンクと呼ばれたワン・イェンは、北部横浜で生を享けた。
魚座の星のもとに! 材木業を営み、米を食い、いろんな人種と取引した。
私、シュリンクと呼ばれたワン・イェンは、享年五十五歳、シカゴから三マイル南で生涯を終えた、後継ぎもなく。
マリー どうかしたの?
シュリンク (座ったまま)ここにいるのかい、あなたは? 私の足は冷たくなってきた。顔にタオルをかけてください、私をいたわって! (彼は崩れ落ちる)
(叢の中で喘ぐ息、足音、後の方からしゃがれた罵声)
マリー 何か聞こえる? 答えて! 眠っているの? 私はこんなにあなたの側にいるわよ! タオルをどうするの?
(この瞬間にテントにナイフで入り口が開けられる。音もなく、いくつかの入り口から、リンチ集団の連中が現れる)
マリー (彼らに向って行く)お帰りなさいよ! この人は死にました。姿を見られたくないです。
(ジョージ・ガルガ、ジョン・ガルガ、マリー・ガルガ)
ジョン この店を焼き打ちさせたのは愚かだったぞ、お前。今は炭になった棟木の中でぽかんと座っているだけじゃないか、こんな店を誰に売る気だ?
ガルガ (笑う)安いもんさ。でも持ってたって何も始められないだろう?
ジョン 一緒にここに住もうと思ってたんだがね。
ガルガ (笑う)俺は出て行くよ、働く気かい?
マリー 私は働くわ、でもお母さんみたいに階段拭きなんかしないけど。
ジョン わしは軍人だ。土管の中にも寝たんだぞ、顔の上を走って行くネズミの方が太っていた。鉄砲を取り上げられ、軍務が終わった時、これからは誰もがみんな頭にナイトキャップをかぶって寝るんだな、って思ったぞ。
ガルガ 要するに、誰だって寝るんだよ。
マリー もう出て行きましょうよ、お父さん、日が暮れるし、まだ今晩寝る部屋のあてもないんだもの。
ジョン よし、出て行こう! (周りを見回す)行こうぜ! お前には旧軍人がついている。都会のジャングルに向って出発だ!
ガルガ 俺はもうそんなことは済ませちまったよ。やあこんにちは!
マンキー (ポケットに手を突っ込んだまま、喜色満面で入って来る)俺だよ、新聞で広告を読んだよ、君の材木会社があまり高くないなら俺が買おう。
ガルガ いくら出す?
マンキー なぜ売るんだ?
ガルガ 俺はニューヨークへ行くのさ。
マンキー そして俺がここに越して来るわけだ。
ガルガ いくら払える?
マンキー 材木屋の他にもう一つ手に入れたいものがある。
ガルガ この女性まで引き取ってもらって六千ドルでどうだ。
マンキー O.K.
マリー お父さんも一緒よ。
マリー お母さんはもういないのよ。
マンキー (しばらく間をおいて)よしきた。
マリー 契約をやってしまってよ。
(男たち、サインする)
マンキー ちょっと食事に行きたいんだが、一緒に来ないか、ジョージ?
ガルガ 断るぜ。
マンキー 俺たちが戻って来るまでここにいるかい?
ガルガ いいや。
ジョン 達者でな、ジョージ! ニューヨークをとっくり拝んで来い。やばいことになったら、またシカゴに戻って来ればいい。(三人退場)
ガルガ (金を収める)一人ってのはいいもんだ。滅茶苦茶やれるだけやった。人生であれが最良の時だったな。