生まれ変わりたいです。IDなし最終更新 2026/06/11 23:411.ウサギ初めまして。私は、今年21になる男です。高校卒業後実家を飛び出し上京し介護士になりました。介護士の仕事はつらかったですが楽しくとても面白い仕事ではありました。ですがその仕事も、4か月で辞め、親せきの家に居候しながら、カフェの店員とキャバクラのボーイを掛け持ちし、ぎりぎりの生活…のちにそこも半年で辞めました。その後現場監督兼営業職に就き、自分の仕事のできなさを実感しました。そこの仕事も9か月で辞め、何も続きません。まともな人生を歩みたいです。みんなのようにきちんと同じ仕事を続けたいです。私のようなものが社会のお荷物になっているのでしょうか?もうこんな掲示板に書き込むくらいしか相談できるとこもありません。恥ずかしい人生をやり直すにはどうしたらよいのか、皆さんの知恵をお貸しください。どうかよろしくお願いいたします。2025/08/30 21:46:1158コメント欄へ移動すべて|最新の50件9.夢見る名無しさんムルク (汗を拭って)ブラヴォー! 一個の男児たるものは乗り切っていきます。肘を張り、鋲を打った靴を履き、不敵な面構えでね、目なんか伏せるものか。 やるとも、アンナ! 僕は下から叩き上げた男だ。給仕をやり、機械工になり、あちこちでいろんな手習いを覚えた。 我が祖国だってこうしてなり上がってきたんだ。いつも手袋をはめていたわけじゃない、 でもいつだって厳しい仕事はやり遂げてきた、そうだとも、そして今ではトップだ! 乾杯、アンナ! (蓄音機が、讃美歌「愛の力に祈る」を奏でる)バーリケ ブラヴォー! おや、どうしたんだ、アンナ?アンナ (その間に立ち上がっている、体を半ば後によじって)分からないわ。早すぎるのよ。こんなのはよくないんじゃないかしら、ママ、どう思う?バーリケ夫人 何だって、お前? 何て馬鹿な娘だろう! 嬉しくないの! 何がよくないんだよ!バーリケ 座りな! いや、せっかく立っているんだから、蓄音機をまいてくれ!(アンナ、座る。間)ムルク そら乾杯だ! (アンナと杯を合わせる)どうしたのさ、一体?バーリケ で、ビジネスのことだがね、フリッツ、砲弾輸送用バスケット、これはそのうち商売にならなくなるぜ。内乱の続くのはせいぜい二、三週間、それで製造中止だ。今計画しているのは、冗談じゃなく、乳母車なんだ、これがベストだよ。 工場はどの点からいっても好調だよ。(ムルクの腕をとって奥の方へ連れて行き、カーテンを引く)新築の二号棟と三号棟だ。どれも耐久性のあるモダンな建物だ。アンナ、蓄音機をまいてくれ! いつも胸にぐっと来るやつを頼む。(蓄音機は「祖国、世界に冠たる祖国」を奏でる)ムルク 向上の中庭に男が一人立っていますよ、ねえ! 何者でしょう?アンナ ぞっとするわ。こっちを見上げているみたい!バーリケ 多分守衛だろう! 何がおかしいんだ、フリッツ? 咽喉がつかえたのかね? ご婦人方は真っ青じゃないか!ムルク 変なことを考えたんです、まさか赤の奴じゃ……2026/06/11 21:41:4910.夢見る名無しさんバーリケ 馬鹿を言うな、うちにそんな奴がいるわけがない! (と言いながらも、嫌な気分になって、脇を向く)そうさ、これが工場さ! (テーブルの方に行く、アンナはカーテンを閉める)戦争が私を大した成功者にしてくれた! 道端に転がっているものを拾い上げない法律はない、拾わない奴は間抜けだよ。 放っておけば他の奴らに拾われてしまうからな。豚を殺さなければソーセージは出来ないんだ! つらつら思うに戦争は俺たちの好運だったよ! 財産はしっかり確保した、丸丸たっぷり、いい気分でな。 これからゆっくりと乳母車の製造に取り掛かれる。急ぐことはない! 分かったか?ムルク 文句なしですよ、パパ! 乾杯!バーリケ 君たちもゆっくりと子供の製造に取り掛かれるぞ、あはははは。女中 バーブッシュさんがお見えで、旦那様!バーブッシュ (よろけて入ってくる)やあ、ここのみんなは赤の暴動にあってもびくともしない我が家の守りを固めていますね! 連中が動因をかけましたよ。交渉は決裂だ。二十四時間後には都市に砲兵隊が放火を浴びせるでしょう!バーリケ (首にナプキンをしたまま)全く何てこった、奴らは満足してはいないのか?バーリケ夫人 砲兵隊? ああ神様、神様! 何て晩なの! 恐ろしい晩だ! 私は地下室に入るからね、バーリケ!バーブッシュ 町の中心部はまだ平穏です。でも噂によると、奴らは新聞社を占拠する気らしいですよ!バーリケ 何だと! うちは婚約式をするんだぞ! よりによってその日にか! とち狂いやがって!ムルク 奴らは全員銃殺だ!バーリケ 不平不満分子は銃殺だ!バーブッシュ 君が婚約するのかい、バーリケ?ムルク バーブッシュ、僕の許婚です!バーリケ夫人 突然降って湧いたようにね。でもいつ撃ち合いが始まるのかしら?バーブッシュ (アンナとムルクに握手して)連中は凄く武器を隠匿しているらしい。日陰者の悪党どもは! そうとも、アンナ。邪魔されることはない! ここまでは何もやって来ないよ! ここには穏やかな我が家ありさ! 家庭だ! 我が家は我が城なり!2026/06/11 21:44:5311.夢見る名無しさんバーリケ夫人 何てご時世だろう! お前の記念日だっていうのにね、アンナ!バーブッシュ こいつはぞっとするほど面白いですよ、皆さん!バーリケ 私には全然、全く面白くないね! (ナプキンで口を拭う)ムルク どうです! 僕らとピカデリーバーへ繰り出しませんか! 婚約式なんです!バーブッシュ 連中は大丈夫かい?バーリケ 待ってくれるさ、バーブッシュ。その間は他の奴らを狙って撃ってくれるさ。一緒にピカデリーバーへ行こう! さあ、ご婦人方はおめかしだ!バーリケ夫人 ピカデリーバー? こんな真夜中に? (椅子に腰を下ろす)バーリケ 昔はピカデリーバーと言ったが、今はカフェと言うんだ! フリードリヒの奢りだぜ! 夜中が何だ! 貸切り馬車ってものがあるじゃないか! 行くぞ、おめかしだ、母さん!バーリケ夫人 この家から一歩だって出ませんよ、私は! 何を考えたの、フリッツったら?アンナ 人間の意志は最高のものよ。これはフリードリヒの意思なのよ! (全員がムルクを見る)ムルク ここじゃ駄目だ。絶対にここは駄目。音楽が欲しいし照明も必要だ! 素敵な店ですよ! ここは暗すぎる。そのために正装してきたんだから。それで、どうですお義母さん?バーリケ夫人 まだ飲み込めないけれど。(退場)アンナ 待っててね、フリードリヒ! すぐ支度するから!バーブッシュ 凄い事件が続々起こるぜ。ジュークボックスをすっかり空にぶちまけたみたいな騒ぎだ。万国の赤どもよ、団結せよ! ところで杏ジャム一ポンド、とろりとして、果肉入りで果汁もたっぷりってのが十マルクもする。 怠け者らよ、挑発に乗るな! そこら中に妖しげな黒い集団が、口に二本指を突っ込んで、昼も欺く明るいカフェに向って合図の口笛を鳴らす! 旗印は奴らのルンペン服! ダンスホールにたむろするのは成金ども! さて、結婚に乾杯だ!ムルク ご婦人方の着替えは必要ありません。どうせ何を着ても同じだ。きらびやかなものを着ていたら人目につくだけですよ。バーリケ その通りだ! 深刻な時代だ。赤のごろつきのように見せるなら古着でたくさんだ。すぐ下に行こう、アンナ!ムルク すぐだ、先に行っていよう。着替えないでいい!2026/06/11 21:48:1712.夢見る名無しさんバーブッシュ 凄い事件が続々起こるぜ。ジュークボックスをすっかり空にぶちまけたみたいな騒ぎだ。 万国の赤どもよ、団結せよ! ところで杏ジャム一ポンド、とろりとして、果肉入りで果汁もたっぷりってのが十マルクもする。 怠け者らよ、挑発に乗るな! そこら中に妖しげな黒い集団が、口に二本指を突っ込んで、 昼も欺く明るいカフェに向って合図の口笛を鳴らす! 旗印は奴らのルンペン服! ダンスホールにたむろするのは成金ども! さて、結婚に乾杯だ!ムルク ご婦人方の着替えは必要ありません。どうせ何を着ても同じだ。きらびやかなものを着ていたら人目につくだけですよ。バーリケ その通りだ! 深刻な時代だ。赤のごろつきのように見せるなら古着でたくさんだ。すぐ下に行こう、アンナ!ムルク すぐだ、先に行っていよう。着替えないでいい!アンナ 乱暴ね! (退場)バーリケ 進め……ファンファーレと共に天国へ! シャツは着替えて行かないとな。ムルク お母さんと後から一緒に来てください。バーブッシュは連れて行きますよ、介添え女になってもらおうか? (歌う)バーブッシュ、バーブッシュ、花嫁の裾を持って広間をちょこちょこ。バーブッシュ この頭のおかしい青年のみっともない詩を、やめてもらえんかね? (彼と腕を組んで退場)ムルク (外でまだ歌を歌っている)みんな、指を口から離せ! さあ、乱痴気騒ぎに向って前進、アンナ!バーリケ (一人。煙草に火をつける)やれやれ! これで一切がうまく収まった。骨身をすり減らしたぜ! 二人をベッドに追い込むんだからな! 色気を煽って死骸みたいな男にくっつけた! ワイシャツが汗びっしょりになったぞ。さあもう何が来ても恐くない! モットーは乳母車だ。(出て行く)おーい、シャツを替えるぞ!アンナ (外で)フリードリヒ、フリードリヒ! (急いで入って来る)フリードリヒ!ムルク (戸口で)アンナ! (醒め切って、不安そうに、オランウータンのように腕をだらりと下げて)一緒に来るかい?アンナ 一体どうしたの? 何でそんな顔をするの?2026/06/11 21:50:4013.夢見る名無しさんムルク いいんだ、いいんだ。自信がなかったんだよ。二十年も屋根裏暮らしで、骨の髄まで凍えていた。今はボタン留めの靴を履く身分だ、ほら見ろよ! 暗闇ではいつも汗をかいていた。ライトを浴びるとまぶしいんだ。 今はお抱えの仕立て屋がいるけどね。でもまだぐらつくことがある。下の世界は風が吹く、氷のように冷たい風だ。足が心底冷えるんだ。 (アンナの方に向って行くが、彼女を掴みはしないで、ふらふらしながら前に立つ) 今は贅肉もついた。赤ワインの大盤振る舞いだ。今僕はこれまでになった! 汗にまみれ、両目を閉じ、爪が肉に食い込むほど拳を握り締めて頑張った。もう終わった! 生活は安定した! この温もり! 作業服とはお別れだ! 真っ白なベッド、広々して柔らかい! (窓を通り過ぎながら、ちらりと外を見る)さあおいで。もう拳骨も開いて、白いシャツで日向に座るんだ、君がいるし!アンナ (彼の方に飛んでいって)あんた!ムルク ベッドの上手なうさぎさん!アンナ 私も手に入れたんでしょう。ムルク うさぎさんはまだ来ないのかな?バーブッシュ (外から)おい、まだかい! 私は介添え女なんだよ、いいか!ムルク (蓄音機をまいている。また愛の力を賛える歌が始まる)思い通りにさせてくれれば、僕は最高の男だぜ。(二人は寄り添って退場)バーリケ夫人 (黒服でさっと入って来て鏡の前に立ち、ボンネットを被り直す) 月があんなに大きくて赤い……それに子供たちったら、まあ! そうね……今夜はまた感謝のお祈りができるわ。(この瞬間に泥まみれの濃紺の砲兵の軍服を着て、小さなパイプをくわえた男が戸口に現れる)男 自分はクラーグラーであります。バーリケ夫人 (腰が抜けそうになって鏡台の机に身を支える)まあ何てこと……2026/06/11 21:53:2214.夢見る名無しさんクラーグラー あれ、何で幽霊でも見るようにごらんなんです? もう僕の葬式の花環の金も投げ出したとでも? だったら損しましたね! 申告いたします。私はアルジェリアで幽霊になって頑張ってきました。 この死骸はただいまは殺人的な食欲を感じています。毛虫だって食えそうであります! でもどうなさったんです、バーリケのお母さん? 馬鹿げた歌をやっていますね! (蓄音機を止める)(バーリケ夫人、まだ一言も喋れず、ただ彼をまじまじと見つめる)クラーグラー ぶっ倒れないで下さいよ! そこに椅子が。水を持ってきましょう。(戸棚の方に鼻歌を歌いながら行く) このうちの勝手はまだ結構心得ているんですよ。(グラスにワインを注ぐ)ワイン! ニーレンシュタイン産か! どうやら僕は幽霊にしては元気がよすぎるようですね! (バーリケ夫人の介抱をする)バーリケ (外から)さあおいでよ、母さん! 前進だ! 汝は美しきこと天使の如し! (入って来て心身喪失したように立ち止まる)何てことだ!クラーグラー こんばんは、バーリケさん! 奥さんはお加減が悪いようですよ! (ワインを飲ませようとするが、彼女はぎょっとして顔を背ける)(バーリケ、しばらく不安そうに見守っている)クラーグラー お飲みなさいよ! 駄目ですか? すぐ気分がよくなりますよ! 僕のことをこんなによく覚えていてくださっているなんて思ってませんでした。アフリカから直行で帰ってきました! スペインじゃ旅券を誤魔化したりしてね。 ともかくこうしてここに! アンナは?バーリケ どうか家内を放っておいてくれないか! この上ワインで溺死させる気か?クラーグラー ではやめます!バーリケ夫人 (バーリケの方へ逃げて行く。バーリケは棒を飲んだように直立する)カール!バーリケ (厳しく)クラーグラーさん、あなたが仰る通りクラーグラーなら、ここに何の御用かお教え願いたい。クラーグラー (唖然として)だって、僕はアフリカで捕虜になっていたんです。2026/06/11 21:56:2415.夢見る名無しさんバーリケ 畜生! (壁に作り付けの戸棚に行って、火酒をあおる)結構、いかにも君らしい。罰当たりの振る舞いだ! 一体何の用です? 何だね? 娘は今晩三十分にもならない前に婚約したばかりだよ。クラーグラー (よろめいて、いささか不安そうになって)どういうことですか?バーリケ あなたは四年もいなくなっていた。あの娘は四年待っていました。我々も四年待っていた。もう終わりだ、あなたにはもう見込みはありませんよ。(クラーグラー、座る)バーリケ (きっぱりとでなく、少し自信がなく、でも弱腰にならないように努力して)クラーグラーさん、私は今夜は抜けられない式があってね。クラーグラー (顔を上げて)抜けられない式? (茫然として)そうですか……(また思いに沈む)バーリケ夫人 クラーグラーさん、悪く思わないで下さいね。世の中に女の子はたくさんいますよ。そういうわけ。黙って、耐えることを学ぶのよ!クラーグラー アンナ……バーリケ (乱暴に)そら! (彼女はおずおずと彼の方に行く。彼は突然きっぱりと)なんだよ、センチになるな、前進! (妻を連れて退場。戸口に女中が現れる)クラーグラー うーん……(首を振る)女中 ご夫妻はお出かけになりました。(静寂)皆様ピカデリーバーの婚約式にお出かけになりました。(静寂。風)クラーグラー (女中を下から上まで見上げる)ふーん(ゆっくりと辛そうに立ち上がり、部屋を眺め渡し、背を屈めて無言で歩き回り、窓から外を見、振り返って、ゆっくりと、口笛を吹きながら、帽子をかぶらずにふらふらと出て行く)女中 ほら! あなたの帽子! 帽子を忘れていきましたよ!2026/06/11 21:58:2616.夢見る名無しさん第二幕 胡椒(ピカデリーバー。背後に大きな窓。音楽。窓から赤い月がのぞく。ドアが開くと風が入って来る)バーブッシュ 動物園にお入んなさい。諸君! お月様もたっぷりある。万歳! 下手なまやかしだ! 赤ワイン!ムルク (アンナと腕を組んで入って来る。外套を預ける)小説みたいな夜だぜ。新聞外では勝ち鬨の声があがる、馬車には許婚のカップル!アンナ 今日はどうしても嫌な気分を追い払えないの。手足が他人のみたい。バーブッシュ いいぞフリードリヒ、乾杯だ!ムルク ここはホームグラウンドなんだ。長くいると酷い気分になってくるが、いい店だぜ! 旧世代のお世話はあなたに頼みますよ、バーブッシュ!バーブッシュ よしきた! (飲む)次の世代は君に頼もう! (出て行く)アンナ キスして!ムルク よせよ、馬鹿な! 国の半分がこっちを見ていらあ!アンナ いいじゃないの、私は自分で決めたら、ほかのことは一切気にしない。あんたは違うの?ムルク 大違いだ。それに君だって実はそうじゃない。アンナ あんたは俗物ね。ムルク だとも!アンナ 臆病よ!(ムルク、呼び鈴を鳴らす。ボーイ登場)ムルク 気をつけ!(彼は身をテーブルに屈め、グラスを払い落とし、乱暴にアンナにキスする)2026/06/11 21:59:5317.夢見る名無しさんアンナ あんたってば!ムルク 下がってよし! (ボーイ退場)僕は臆病か? (テーブルの下を見る)もうこの足で僕を突付かなくていいよ。アンナ 何のこと?ムルク おみ足に命令してもらうんだな!バーリケ (バーブッシュ、バーリケ夫人と入って来る)みんな来てるな! おーい、お客だぞ!アンナ 何してたの?バーリケ 赤い月が出ててさ。アンナに赤いので気もそぞろになってしまってね。それに新聞街ではまた絶叫が聞こえたよ!バーブッシュ 狼どもめ!バーリケ夫人 みんな一緒にいるようにしましょう!バーリケ ベッドに飛び込むかね、フリードリヒ、え?アンナ お母さん、具合でも悪いの?バーリケ夫人 結婚式はいつにするつもり?ムルク 三週間後ですよ、ママ!バーリケ夫人 婚約式にもっとたくさんお招きすればよかったかしら? これじゃ誰にも分からないわ。世間に知ってもらわなきゃ。バーリケ 何を馬鹿な。狼が吠えているからそんな下らんことを言うのか? 吠えさせておけばいいんだ! そのうち真っ赤な舌をだらんと足の間に垂らすだろうさ! わしが一発でしとめるぞ。バーブッシュ ムルク、栓抜きを手伝ってくれ! (彼に小声で)奴が戻って来た、月と共にな。月と狼男さ。アフリカから来た。ムルク アンドレ・クラーグラーか?バーブッシュ それが狼さ。まずいだろう?ムルク とっくに墓の中のはずだがな。カーテンを開けてくれないか!バーリケ夫人 お父さんは立て続けに二軒もはしごしたのよ。もうへべれけよ! 本当に男って! こんな亭主じゃ! そのうち子供のせいで飲みすぎて死んでしまうだろうよ、この人!アンナ でもどうしてそんなに?2026/06/11 22:02:1518.夢見る名無しさんバーリケ夫人 聞かないで。私には聞かないでおくれ! 何もかもひっくり返った。世界の破滅だよ。すぐチェリーブランデーを飲まなくちゃ。バーリケ 全ては赤い乾し葡萄みたいな月のせいだよ、母さん。カーテンを閉めてくれんかね! (ボーイ閉める)バーブッシュ 大体飲み込めただろう?ムルク 準備怠りなしだ。うちにはもう現れたのか?バーブッシュ ああ、さっきな。ムルク じゃ、ここへ来るな。バーリケ ワインの瓶の後に隠れて何を企んでいるんだね? ここに来て立ちたまえ! 婚約を祝うんだ! (一同テーブルを囲んで座る)急げ! 疲れている暇なんてないぞ。アンナ あの馬、ひーんといったわ! とても変だったわ! 舗道の真ん中で立ち止まってしまったの。 フリードリヒ、降りてみて、馬が走ろうとしないわ。見ると馬は舗道の真ん中で立ったまま、震えてるの。 すぐりみたいにぎょろっとした目をしているの。フリードリヒがステッキで目を突付くと、馬は跳ね上がったわ。サーカスみたいだった。バーリケ 時は金なりだ。ここは恐ろしく暑いな。また汗をかいちまった。今日はもうワイシャツ一枚汗まみれにしちまっているんだ。バーリケ夫人 そんなに汗をかいていたら、シャツで身代を潰して乞食になるわよ!バーブッシュ (ポケットから乾し杏を取り出して食べる)今は杏一ポンドが十マルクだ。そうだな、物価についての記事を書くかな。それから杏を買えばいいわけだ。 世界が破滅するようなことになっても、僕はその記事を書くね。でも他の連中はどうすればいいのかね? 僕はティーアガルテン地区が吹っ飛んで消えても泰然自若としているが、でも君たちはどうだ?2026/06/11 22:03:4419.夢見る名無しさんムルク シャツに杏にティーアガルテンの三題囃か。結婚式はいつにします?バーリケ 三週間後だ。結婚式は三週間後だ、ふーっ。天地神明に誓ったぞ。賛成だね? 皆賛成だろ? さあそれじゃ始めた始めた、婚約のお二人!(一同グラスを合わせる。ドアがさっと開く。クラーグラーが戸口に立っている。風が蝋燭の火を煽り辺りが暗くなる)バーリケ おや、なぜグラスを持って震えているんだ? お母さんもお前も、アンナ?(アンナ、ドアに向って座っているので、クラーグラーをもう見てしまったのだ。彼女はじっと彼を見つめる)バーリケ夫人 どうしたっていうの、急にがっくりしたりして?ムルク 何て風だ?クラーグラー (しゃがれた声で)アンナ!(アンナ、低い叫びをあげる。そこで一同はそちらに目を向け、激しく立ち上がったり飛び上がったりする。大混乱になる。以下の台詞は同時に)バーリケ 畜生! (ワインを咽喉に流し込む)幽霊だぞ、母さん!バーリケ夫人 神様! クラー……ムルク 放り出せ! 放り出せ!2026/06/11 22:05:4020.夢見る名無しさん(クラーグラー、しばらくの間、体を揺すぶりながら立っている。暗い表情。ちょっとした混乱の間に彼はかなり素早く、しかし辛そうにアンナの方へ向う。アンナだけは、顔の前に震える手でグラスを持ったままただ座っている。彼はアンナの手からグラスを取り、テーブルに寄り掛かり、じっとアンナを見据える)バーリケ こいつ、酔っ払っていやがる。ムルク ボーイさん! 秩序撹乱者だ! 放り出せ! (壁沿いに走りながらカーテンを引き開ける。月が見える)バーブッシュ 気を付けろ! 奴のシャツの下はまだ生身だぞ! 肉体が奴を苛んでいる。触っちゃいけない! (ステッキでテーブルを叩く)スキャンダルを起こさないようにしましょう! みんな静かに出て行きましょう! 整然と出て行きましょう!アンナ (その間にテーブルを逃げ出して母親にしがみつく)ママ、助けて!(クラーグラー、テーブルを回ってよろめきながらアンナの方に向う)バーリケ夫人 (この後の台詞は同時に発せられる)娘を生かしておいてやって! 監獄行きだよ、あんたは! どうしよう、娘を殺してしまうよ!バーリケ (離れた所で、居丈高になって)酔っ払っているのかい? 素寒貧め! アナーキスト! 前線帰りめ! 君は海賊だ! 乾し葡萄の幽霊だ! ベッドのシーツも持っていないだろう!バーブッシュ 卒中にでも見舞われたなら、あの男が娘さんと結婚してしまいますよ。口をつぐんでらっしゃい! ここでは苦しんでいる者は彼なんです! あなた方は出て行った方がいい! 彼は演説をぶってもいいんだ。その権利はある。 (バーリケ夫人に)あんたには情ってものがないんですか? 彼は四年も外地にいた。情があるかないかという問題ですよ。2026/06/11 22:07:0521.夢見る名無しさんバーリケ夫人 この子はほとんど立っていられないくらいよ、顔は血の気もないわ!バーブッシュ (ムルクに)彼の顔を見てみたまえ! アンナはもう見たんだよ。昔は生気溌剌としていた! 今では腐ったなつめみたいだぞ! 恐がることは全くない! (二人は退場)ムルク (出て行きながら)嫉妬しているなんて思わないでください、全然していないさ、へっ!バーリケ (まだテーブルとドアの中間に、相当酩酊し、グラスを手に持ったまま、がに股で立っている。以下の出て行く間に次の台詞を言う) ニグロは車裂きにしろ! くたばった象みたいな面をしやがって! 完全に壊れてるよ! 破廉恥野郎め! (よろけて出て行く。今はドアの上手寄りに盆を両手に持ったボーイが立っているだけ。 グノーの“アヴェ・マリア”が聞こえる。明かりは陰陰滅滅と消えていく)クラーグラー (しばらくして)頭の中が真っ白になったみたいだ、汗しか入っていない、物事がよく理解できない。アンナ (蝋燭を一本手に取って、腰も定まらないが、彼の顔を照らす)お魚の餌食にはならなかったのね?クラーグラー それはどういう意味だ、分からん。アンナ 粉微塵に飛び散りもしなかったのね?クラーグラー 何を言っているのか分からないよ。アンナ 顔をぶち抜かれたりもしなかったのね?クラーグラー なぜそんな顔で見るんだ? 俺の顔がそんなに変か? (静寂。彼は窓から外を見る) 老いさらばえた獣のように君の所に戻って来た。皮は鮫みたいで真っ黒だ。(静寂)昔は紅顔の少年だったのにな。(静寂)それから出血が始まった。とめどなく血が出て行く……アンナ アンドレ!クラーグラー そうなんだ。アンナ (躊躇いながら彼の方に寄る)ああアンドレ、なぜこんなに長いこといなかったの? 大砲とサーベルで見張られていたの? もうあたしはあなたの胸に飛び込めないわ。クラーグラー そんなにすぐに僕の体は消えてしまったのか?2026/06/11 22:09:2822.夢見る名無しさんアンナ 始めのうちはずっと側にいたわ。あんたの声もそこにいるように聞こえてたわ。外に出ればあんたとすれ違ったわ。 草原に行けば楓の木の陰からあなたの呼ぶ声がした。あなたが顔を貫通されて、二日後に埋葬されたという通知が来ても信じなかった。 でもやっぱりいつか変わるのよ。外に出ても、人っ子一人いない。楓からは何も聞こえない。洗濯を終わって立ち上がると、水にあなたの顔が見えたわ。でも原っぱで洗濯物を乾かしていると見えなくなったの。 もうあなたの顔を思い出さなくなってから随分になるわ。でも待っていなくちゃいけなかったのね。クラーグラー 写真があればよかったんだ。アンナ 恐かったのよ。恐くても持っているべきだった。でも悪い私。手を離して、全部私が悪かったの。クラーグラー (窓の方を見て)君の言っていることが分からない。多分赤い月のせいだったんだ。どういうことなのかよく考えてみなくちゃ。僕の手は膨らんでいる。水かきがついてるんだ。 人間らしくなくなって、飲んでいるとグラスを握り潰してしまうんだ。もう君の話し相手にもなれそうもない。野蛮人の言葉しか喋れないんだ。アンナ そう。クラーグラー 手を出してくれよ。僕が幽霊だと思っているのか? こっちへ来て手を差し出してくれよ。アンナ この手でいいの?クラーグラー 出してくれ。さあこれでもう幽霊じゃないぞ。また僕の顔が見えただろ? 鰐みたいな肌だろ? 目もよく見えない。塩水に浸かっていたからな。きっと赤い月のせいだ!アンナ そうね。クラーグラー 手を取ってくれよ。なぜ握り締めてくれないんだ? 顔を見せてくれ、酷いかい?アンナ 駄目、駄目よ!クラーグラー (彼女を掴む)アンナ! 車裂きにされるニグロ、それが俺だ! 咽喉には汚い言葉が詰まっている! 四年だ! こんな俺でもいいかい? アンナ! (アンナを引っ張り回し、にやりと笑って、身を屈めてボーイをじっと見つめる)ボーイ (落ち着きを取り戻し、盆を落としてしまい、どもりながら)大事なのは……彼女が……清らかな百合の花を……まだ持っているかと……2026/06/11 22:14:0023.夢見る名無しさんクラーグラー (両手でアンナを掴んだまま)何て言った? 百合だって? (ボーイは走り出て行ってしまう)ここにいなよ、君は小説の読みすぎだ! ぽろっと意味深長な言葉を言ってしまったんだ! 百合か! ショックだったんだよ! 百合ね! 凄く感じてしまったんだよ!アンナ アンドレ!クラーグラー (屈んで彼女を見つめる、もう彼女を離している)もう一度そういってごらん! あれは君自身の声なんだよ! (上手に走って行く)ボーイさん! 来いったら、畜生!バーブッシュ (戸口に現れて)何て肉欲的な笑い声だ! “肉体の笑い”か! 具合はどうだね?バーリケ夫人 (バーブッシュの後で)アンナ、お前は本当に心配の種だよ!(隣の部屋ではかなり前から「ペルーの女」が演奏されている)バーリケ (少ししらふに戻って、駆け込んで来る)座りたまえ! (カーテンを閉める。金属性の物音が聞こえる) 君は赤い月を背にして、バーブの新聞街の裏に隠した小銃も持っているな。話をつけようじゃないか。(彼はまた全ての蝋燭に火をつける)座りたまえ!バーリケ夫人 何て顔をしているの? 私はまた足が震えてきたわ。ボーイさん! ボーイさん!バーリケ ムルクはどこだ?バーブッシュ フリードリヒ・ムルクはボストンを踊っていますよ。バーリケ (声を落として)あいつを座らせてくれ! 座れば、少しは大人しくなる。座っていてはかっかとすることも出来んからな。 (大声で)みんな座るんだ! しゃんとしろ、アマーリエ! (クラーグラーに)頼むから、君も座ってくれ!バーリケ夫人 (ボーイの盆からチェリーブランデーの瓶を取って)チェリーブランデーでも飲まなきゃ死んでしまうわ。(テーブルに持って戻って来る)(バーリケ夫人、バーリケ、アンナは座る。バーブッシュは歩き回ってみんなを座らせていたが、今度はどうしようもなく立っていたクラーグラーを椅子に押し付ける)2026/06/11 22:16:1124.夢見る名無しさんバーブッシュ 座りなさい、あなたは膝ががくがくしているようですよ。チェリーブランデーをやりますか? なぜあんなに笑うんです?(クラーグラー、また立ち上がる。バーブッシュは彼を押し付ける。今度は笑っている)バーリケ 何がお望みなんだね、アンドレアス・クラーグラー?バーリケ夫人 クラーグラーさん! 皇帝陛下は仰ったわ、嘆かずに、耐え難きを耐えよ、と!アンナ 座ってってば!バーリケ 黙っていろ! 奴に喋らせろ! 何をお望みかね?バーブッシュ (立ち上がる)チェリーブランデーを一口どう? 喋りなさいよ!アンナ よく考えるのよ、アンドレ! 考えてから言うのよ!バーリケ夫人 私をこの上墓場に送り込むつもり? 黙っておいで! お前は何も分かっていないんだ!クラーグラー (立ち上がろうとするがバーブッシュに押さえつけられる。大真面目に)そう訊ねられると、簡単には答えられない。チェリーブランデーを飲む気はありませんよ。だって重大問題ですからね。バーリケ 下らないことを言っているんじゃないよ! 望みを言ってみたまえ! 叩き出すのはそれからだ。アンナ 駄目、駄目よ!バーブッシュ 飲んでもらいたいな! 咽喉は渇いているんだろう。飲んだ方がいいよ、本当に!(この瞬間にフリードリヒがマリーという娼婦を連れて下手から出て来る)2026/06/11 22:17:5525.夢見る名無しさんバーリケ夫人 ムルクったら!バーブッシュ 天才にだって許されないことはあるんだぜ。掛けたまえ!バーリケ いいぞ、フリッツ! 君が男一匹だということを見せてやれ! フリッツは震えたりしないぞ。大いに楽しんでいる。(拍手する)ムルク (陰鬱そう、もう大分飲んでいるが、マリーを置き去りにしてテーブルの方にやって来る)馬鹿げた茶番はまだ終わっていないのか?バーリケ (彼を引っ張って椅子に座らせて)黙ってろ!バーブッシュ さあ続けた、クラーグラー! こんなのに構うな!クラーグラー こいつの耳は潰れている。アンナ やくざっぽい仕事をしていたのよ。ムルク 頭に腫瘍でも出来てるんだろう。クラーグラー 奴には出て行ってもらおう!ムルク やたらと頭を殴られたせいだ。クラーグラー 自分の喋ることに気をつけていなきゃ。ムルク だから頭の中身はぐちゃぐちゃだろう。クラーグラー そうさ、頭を殴られたよ。俺は四年外地にいた。手紙一つ書けなかった。脳味噌は空っぽになった。 (静寂)四年も経ったんだ、気をつけなきゃいけないぞ。君は僕だと見分けがつかなかっただろう、まだ動揺しているし感じがつかめないんだ。でも僕は喋りすぎのようだな。バーリケ夫人 あの人の脳味噌は干上がってしまったのよ。(首を振る)バーリケ 酷い目にあったわけだな? 皇帝と帝国のために戦ったのか? お気の毒なことだ。何がお望みだね?バーリケ夫人 そして皇帝は仰ったのよ、苦しくとも強くあれと、これをお飲みなさい! (チェリーブランデーの瓶を彼の方に押しやる)バーリケ (飲みながら、しつこく)あんたは砲煙弾雨の中に立っていたのか? 鋼鉄のように? 立派だよ。 我が軍は凄いことをやってのけた。笑って壮烈な戦死を遂げたんだからな。飲みたまえ! 何がお望みかね? (彼に煙草の箱を差し出す)アンナ アンドレ! あなたは他に軍服は支給されなかったの? まだその古い青いのを着ているの? もうその服は着なくなったのよ!2026/06/11 22:20:1926.夢見る名無しさんバーリケ夫人 女は他にもこんなにたくさんいるじゃないの! ボーイさん、チェリーをもう一杯! (彼にチェリーブランデーを差し出す)バーリケ 銃後にいた我々も怠けていたわけじゃないぞ。さあ、望みは何だね? 君は一文無しなんだろう? 往来で寝ているのか? 祖国は君らみたいな帰還兵に商売用の手回しオルガンを貸与してくれるか? そうはしてくれない。こんな状況があっちゃならないんだ。望みは何だね?バーリケ夫人 安心しなさい、オルガンを引っ張って街を歩くようなことはさせないよ!アンナ 「闇をついて嵐はたけり、海は荒れ狂う」ってわけ!クラーグラー (立ち上がっている)僕はここでは場違いのような気がするから、それでお願いする、心の底から、一緒にここを出て行こう。バーリケ 何て戯言だ? 何と言った? 心の底からだと? 一緒にだと? 何て言い種だ!(他の連中は笑う)クラーグラー 権利なんて持っている人間はいないから……君なしでは生きていられないから……だから心の底から。(哄笑)ムルク (両足をテーブルに載せ、冷ややかに、悪意を込めて、酔ったまま)完全に水の底まで沈んだな。釣り上げられたんだ。口には泥が詰まっていただろう。 俺のこの靴を見ろよ! 昔はあんたみたいなどた靴を履いていた! 俺みたいなのを買ってみろよ! それで出直して来い! 自分が何者か分かっているのか?マリー (突然に)あんた、軍隊に行ってた?ボーイ あなた、軍隊に行っていましたか?ムルク 口に蓋をしておけ! (クラーグラーに)ローラーにひき潰されたのか? ローラーに轢かれた奴はたくさんいるぜ。 いいじゃないか。ローラーを動かしたのは俺たちじゃない。あんたはもう顔がなくなったのか? え? 一つ譲ってほしいか? 三人がかりで顔を取り付けてやろうか? 俺たちのためにそんなに落ちぶれてくれたんだろう? 自分が何者かまだ分かっていないのか?バーブッシュ 静かにしたらどうだ!2026/06/11 22:22:1127.夢見る名無しさんボーイ (進み出て)あなた、軍隊に行っていましたか?ムルク いいや。俺は君らの英雄的行為の支払いをする側の人間だ。ローラーは壊れたよ。バーブッシュ 下らない長話は止めたまえ! 胸が悪くなるよ! ともかく君は大儲けしたんだろう、違うか? 自分の靴のことなんか持ち出すな!バーリケ いいかね、そこが肝心な所だよ! そこに問題が潜んでいる。決して長話ではないんだ。 これこそ、リアル・ポリティクスってものだ。わが国に欠けているのはこれなんだ。全く簡単な話さ。 君には奥さんを養える資力があるのか? 指の間にもう水かきが出来てしまってるんじゃないか?バーリケ夫人 聞いたかい、アンナ? 彼は一文無しなのよ!ムルク こいつにおふくろがいるなら、そいつと結婚してやりたいよ(乱暴に立ち上がって)こいつはただの結婚詐欺師じゃないか。ボーイ (クラーグラーに)何か言ってやりなさいよ! 喋りなさいよ!クラーグラー (立ち上がっているが、身震いしながら、アンナに)何を言ったらいいか分からない。 僕らが骨と皮みたいに痩せてしまっていた頃、火酒でもひかっけていなきゃ、道路の舗装工事にも行けなかったが、 あの頃俺たちの持ち物は夜の空だけってことが度々あったな。これはとても大事なことだぜ、 だって僕は君と四月に茂みの中で横になっていた時もそうだった。そのことは他の奴らにも話したが、でも奴らは蝿みたいにばたばたくたばってしまった。アンナ 馬みたいに、じゃない?クラーグラー 凄い暑さでやたらと酒をあおったからな。でも何で君に夜の空の話ばかりしているんだろう、そんな気はなかったんだ、どうしてだろう……アンナ いつも私のことを思っていた?バーリケ夫人 この男の喋るのを聞いた? まるで子供みたい! 聞いてるだけで、恥ずかしくなってくるよ!2026/06/11 22:25:0428.夢見る名無しさんムルク 君の軍靴を売ってくれないか? 陸軍博物館に寄付するから。四十マルクでどうだ。バーブッシュ 話を続けたまえ、クラーグラー。まさにそれでいいんだよ。クラーグラー 僕らにはもう肌につけるシャツもなかった。これは、言っておくけど、最悪のことだ。これが最悪だってこと、分かるかな?アンナ アンドレ、しっかり聞いてるわよ!ムルク いっそ六十マルク出そう。売りなさい!クラーグラー そうか、僕のことで恥ずかしく思ってくれてるんだね? 他の奴らはサーカスみたいに、四方から取り囲んで見ているので、 真ん中にいる象は不安になって小便を洩らすんじゃないか? 他の奴らは何も分かっていないんだ。ムルク 八十マルク!クラーグラー 俺は海賊じゃないぞ。赤い月は俺と関係ない! ただ目が上げられないだけなんだ。 おれは生身の人間だし新しいシャツを着てやるぞ。幽霊じゃないんだから!ムルク (飛び上がって)じゃあ百マルクだ!マリー 恥ずかしくないの、引っ込んでいるがいい!ムルク この豚野郎、百マルクでも靴を売ろうとしない!クラーグラー アンナ、誰かが何か言っているな。何の声だ?ムルク あんたは日射病にかかってるんだ! 一人で出て行けるのか?クラーグラー アンナ、踏みにじってはいけない、と言っているみたいだ。ムルク そろそろ素顔を見せたらどうだ?クラーグラー アンナ、俺の顔だって神様の作ったものだ。ムルク 違うんじゃないか? 一体何の用なんだ? あんたは死骸じゃないか! もう臭い始めている! (鼻をつまむ) 清潔感ってものを持ち合わせていないのか? アフリカの太陽に飲み込まれたから、神殿に祭ってくれとでも言うのか? 俺だって働いてきたんだ! 靴の中に血のたまるほどの苦役をやってきた! 俺の両手を見てくれ! 君の人から殴られる身だから、親近感を覚えるだろう、 俺は君を殴る側にはいなかった! 君は英雄、俺は労働者! そしてこれが俺の許婚だ。2026/06/11 22:27:4529.夢見る名無しさんバーブッシュ でも座っていてもいいだろう、ムルク、座っていたって君が労働者であることは変わらない! ねえクラーグラー、人類がもっと尻の上に座っていれば、世界の歴史は変わるとは思わないか!クラーグラー こいつの面からは何も読めない。猥褻な落書きがしてある便所の壁みたいだ! 壁そのものの罪じゃない! アンナ、こいつを愛してるのか、こいつが好きか?(アンナ、笑って飲む)バーブッシュ 角を矯めて牛を殺すような真似はよせ、クラーグラー!クラーグラー むかついて奴のいぼを噛み切ってやるだけさ! こいつが好きなのか? 熟れてないくるみみたいな顔をしたこの青二才が? こんな奴のせいで僕を追い払う気か? イギリス仕立ての服を着て、紙を詰め込んだ胸を張って、靴に血の溜まった野郎。僕は虫食いの古着しかない。服がぼろいから結婚できないんだと言ってくれ、そう言ってくれ! その方がいいんだ!バーブッシュ 座れったら! 畜生! さあ勝手にやれ!マリー (手を叩く)この男よ! 一緒に踊ったけど、膝であたしのお腹を突付くのであたしは恥ずかしくなったわ!ムルク 黙っていろ! 君を見れば分かるぞ! 靴の中にナイフか何かを隠していて、それで俺の咽喉をかき切る気じゃないか? アフリカで変な脳炎にかかってるらしいからな。 ナイフを出せよ、俺はもううんざりしているんだ、咽喉をやりたきゃやってくれ!バーリケ夫人 アンナ、よく聞いていられるね!バーリケ ボーイ、チェリーブランデー四杯! もう勝手にしろだ!ムルク 気をつけて、ナイフを抜いちゃいけません! ここで英雄気取りの振る舞いなんかしないように落ち着いて! ここから刑務所行きになりますよ!マリー あんたは軍隊に行ってたの?ムルク (狂ったようにグラスを彼女にぶつける)なぜお前はいらなかったんだ?クラーグラー 今俺は帰って来た。ムルク 誰もあんたを呼んじゃいない。クラーグラー 今ここに来ている。ムルク 豚め!アンナ 大人しくして。(クラーグラー、身を屈める)2026/06/11 22:30:0830.夢見る名無しさんムルク 強盗!クラーグラー (小声で)こそ泥!ムルク 幽霊!クラーグラー 気を付けろ!ムルク ナイフに用心して! むずむずしますか? 幽霊! 幽霊! 幽霊!マリー あんたは助平よ! 助平!クラーグラー アンナ! アンナ! 何をしてるんだ、俺は? 死体で溢れた海を見下ろして眩暈がしたが、俺は溺死しなかった。真っ暗な家畜貨物車で南に輸送されても平気だった。ボイラーの炎で焼かれたが、自分がもっと熱い火になった。 灼熱の太陽で発狂した奴がいた、でも俺じゃなかった。二人が組み合ったまま水の溜まった穴に墜落した、俺はそのまま眠り続けていたよ。俺はニグロを射った。草を食った。俺は幽霊だ。(この瞬間にボーイが窓辺に駆けて行って窓を弾き開ける。音楽が急に止まる。「奴らが来るぞ! 静かに!」などと興奮した叫び声が聞こえる。ボーイは全ての蝋燭の火を吹き消す。その後外から「インターナショナル」が聞こえる)一人の男 (下手の戸口に現れて)皆さん、落ち着いてください。この店を出ないようにお願いします。 暴動が発生しました。新聞街で戦闘が行われています。状況は予断を許しません。バーリケ (辛そうに笑って)赤どもだ! 君の親友だろう、アンドレアス・クラーグラー! 君のあやしげな仲間だ! 新聞街で喚き立て、殺人放火の臭いを撒き散らしている同志たちは。けだものさ! (静寂)けだもの、けだものだ! なぜけだものかって、肉を食うからだ! お前らはみんな根絶やしにしてやるぞ。ボーイ お前らにか! 食い過ぎ太鼓腹のお前らにか!ムルク ナイフはどこにやった! 抜くといいぞ!マリー (ボーイと彼の方に突進する)静かに!ボーイ こいつは人間じゃない! まさにけだものだよ!ムルク カーテンを閉めろ! 幽霊!2026/06/11 22:32:2331.夢見る名無しさんボーイ 俺たちを壁に並ばせて銃殺する気か、壁を作らされたのも俺たちで、お前らはその後ろでチェリーブランデーを腹に流し込んでいるんだ!クラーグラー これは俺の手で、これは俺の動脈だ。ぶった切れよ! 俺でもくたばる時は血が流れるだろうぜ。ムルク 幽霊! 幽霊め! お前は一体何者なんだ? 俺にこそこそ逃げ出せっていうのか、お前がアフリカの皮をまとって、新聞街で喚き立てたくらいでか? お前がアフリカにやられたのは俺のせいじゃないだろう? 俺がアフリカにやられなかったのも俺のせいじゃない。ボーイ 彼は女を取り戻すべきだ! こんな非人間的なことってあるもんか。バーリケ夫人 (アンナの前で狂ったように)この連中はみん病気だ! みんなどこかが悪いのよ! 梅毒だ! 梅毒だよ! みんな梅毒持ちだ!バーブッシュ (ステッキでテーブルを叩いて)これで底抜けの騒ぎになるぞ!バーリケ夫人 うちの子をそっとしておいてちょうだい! あんた、放っておいてよ! ハイエナだよ、あんたは! 豚だよ、あんたは!アンナ アンドレ、私、嫌よ! みんなが私を目茶目茶にしてしまうわ!マリー あんたこそ豚だよ!ボーイ 人間的じゃないよ。権利ってものは誰にでもあるはずだ。バーリケ夫人 お黙り! 下男風情が! この悪党、私はチェリーブランデーを注文したんだよ、いいか! とっとと出て行け!ボーイ 人間的な問題だ! 俺たち全部に関係がある! 彼は自分の妻を絶対手に……クラーグラー 出て行けよ! もうたくさんだ! 何が人間的だ! この酔っ払った婆さんはどうしたいというんだ! 俺はずっと一人だった、それで女房が必要なんだ。この泣きべそ大天使は何がお望みなんだ! この娘の下半身をコーヒーみたいに一ポンドいくらで切り売りするつもりか? 彼女を俺からフックをかけて引き裂こうとしても、彼女の体が引き裂けるだけだぞ!ボーイ もう彼女を八つ裂きにしているよ!マリー そうよ、コーヒーの切り売りだよ!バーリケ そうとも、びた一文持ってないさ。2026/06/11 22:34:3032.夢見る名無しさんバーブッシュ 奴の歯を叩き折ったら、奴は折れた歯を相手の面めがけて吐き出すぜ!ムルク (アンナに)なんでそんな吐いたミルクのような顔をして、こんな野郎の目で舐られているんだ? まるでいらくさにおしっこを引っ掛けたときみたいな顔をしてさ?バーリケ 自分の許婚に向ってそんなことを言うのか!ムルク 許婚! そうなのか! 僕の許婚ですか? もう切れたんじゃないですか? あいつがまた登場したので。 奴を愛してるんだろう? 青二才は退場だろう? どうやらアフリカの逞しい股が欲しくてむずむずするらしいな? 風向きはそっちになったな?バーブッシュ 座っていればそんな戯言は言わなかっただろう!アンナ (だんだんクラーグラーの方に寄って行って、ムルクを軽蔑するように眺めて、小声で)あんたはべろべろよ。ムルク (アンナを乱暴に引き寄せて)面を見せてみな! 歯をむき出すんだ! 淫売!(クラーグラーはムルクをあっさり抱えあげる。テーブルの上のグラスがガチャガチャいう。マリーは拍手し続けている)マリー 一発食らわせな、一発!クラーグラー こいつは寝かせておけ! 来いよ、アンナ! 今は君が欲しい! こいつは俺の靴を買おうとしやがった! でも俺は上着を脱ぐんだ。俺の肌を氷雨が通って行ったので、肌は真っ赤になった、それから太陽が肌をひび割れにした。 俺の体は空っぽだ、びた一文持っていない。君が欲しい、俺は今の今まで腑抜けだった、でもこうやって飲めば(飲む)さあ出かけようぜ、来いよ!ムルク (すっかりへたばっていたが、腕をだらりと下げてクラーグラーに、ほとんど穏やかに言う)飲んじゃいけませんよ! まだ知らないことがあるんだ! これで終わりにしましょう。 さっきは酔っ払っていました。でもあなたはまだ全部知っちゃいないんです。アンナ、言ってあげろ、どうする気なんだ? 君の今の状態で?2026/06/11 22:36:0733.夢見る名無しさんクラーグラー (彼の言うことを聞いていない)心配するな、アンナ! (チェリーブランデーを持って)何も恐いことはない、安心しろ! 僕らは結婚するんだ。僕はいつもうまくやってきた。ボーイ ブラヴォー!バーリケ夫人 この悪党!クラーグラー 良心をもっている奴の頭には鳥が糞を引っ掛ける。忍耐なんかしている奴は終いには禿鷹に食われてしまうさ。無理して苦労したって意味ないぜ。アンナ (突然走り出し、テーブル越しに倒れかかる)アンドレ、助けて! 助けて、アンドレ!マリー あなたはどうしたの? どうしたの?クラーグラー (びっくりして彼女の方を見て)どうした?アンナ アンドレ、分からないの、私は酷く惨めな気分なの! あんたに何も言えないの、あんたも聞かないで。 (見上げる)私はあんたのものにはなれないの。理由は神様に聞いて。 (クラーグラーはグラスを落とす)それでお願いしたいの、アンドレ、出て行ってちょうだい。(静寂。隣の部屋でさっきの男が「何かあったんですか」と訊ねているのが聞こえる。ボーイは下手ドアから男のいる外に向って答えている)ボーイ アフリカ帰りの鰐の肌をした恋人が四年待っていたんです、許婚はまだ百合を手に持っています。 でもボタン付きの靴を履いたもう一人の恋人は彼女を離そうとしないんです。それでまだ百合を手に持っている許婚はどっちについて行ったらいいか分からないのです。声 それだけのことか?ボーイ 新聞街の革命も一役買っているようです、それに許婚には秘密があるんですが、それを四年待っていたアフリカ帰りの男は知らないようです。声 で、まだ決着はついていないのか?ボーイ まだ全然ついていません。2026/06/11 22:39:2634.夢見る名無しさんバーリケ ボーイ! 何てやくざな野郎だ! ここじゃこんな町の虱どもに囲まれてワインを飲めっていうのか? (クラーグラーに向って)あんたも聞いたかね? 満足したかね? 喋るんじゃない! 太陽は熱かったんだろ、え? 歴史の本に載るだろう。でも会計帳簿には載らないぞ。だから英雄はまたアフリカに戻るといいよ。以上終わり。ボーイ、そこの奴を連れ出してくれ!(ボーイはクラーグラーを引っ張って行く、クラーグラーはのろのろと辛そうについて行く、その右側に娼婦のマリーが寄り添って行く)バーリケ 猿芝居だ! (辺りが静かすぎるので、クラーグラーの後から叫ぶ)肉が欲しかったか? ここじゃ肉の競売はしてないよ! その赤い月の話はしまって余所へ持って行って、 君の仲間のチンパンジーどもにでもぶってやるんだな。なつめやしの木なんて俺の知ったことか! 大体あんたは大衆小説の登場人物さ。あんたの出生証明書はあるのか? (クラーグラーは消えている)バーリケ夫人 精一杯怒鳴っているがいい! あらお前、グラスなんか持って、チェリーブランデーをそっとテーブルの下に隠れて飲もうっていうの?バーリケ この娘は何て顔色だ? 全く血の気がない!バーリケ夫人 あ、駄目よお前、ほら、この子を見て! お前、何てことを考えたの、いくらなんでもそれは酷いよ!(アンナはテーブルの陰で、身動きもせず、ほとんどカーテンに隠れるくらいに座って、悪意を込めた表情、自分の前にグラスが置いてある)ムルク (グラスを掴み、匂いをかぐ)胡椒だ、畜生! (アンナは彼から嘲笑するようにグラスを取り返す) ああ、そうか! 酷いことだ、胡椒で子供を降ろそうとしたんだな? それできかなければ熱い熱湯か? 全く目が離せやしない! 何て悪女だ! (唾を吐き、グラスを床に叩きつける)(アンナは微笑む。機関銃の音が聞こえてくる)バーブッシュ (窓辺で)始まったぞ、大衆蜂起だ、連中が立ち上がった。殺戮が進行するぞ。(一同硬直したように立ったまま、外に耳を澄ます)2026/06/11 22:41:1935.夢見る名無しさん第三幕 ワルキューレの騎行(新聞街への道中。兵営の赤レンガの壁が下手前から上手奥に向って走る。背後は都会の薄汚れた星空。夜。風)マリー どっちへ行くつもり?クラーグラー (帽子はかぶらず、上着の襟を立て、両手をポケットに突っ込んで、口笛を吹きながら)月が赤いなつめみたいだな?マリー そんなに急がないでよ!クラーグラー ついて来れないか?マリー 誰か追いかけてきそうな気がするの?クラーグラー 俺を相手に商売やるか? 君の部屋はどこだ?マリー でもよくないわよ。クラーグラー そうかい。(先を急ごうとする)マリー 私、肺病病みなの。クラーグラー なぜ犬みたいについて来るんだ?マリー だってあんた、許婚が……クラーグラー よせ、もうそれは綺麗さっぱり水に流して忘れてしまうから!マリー じゃあ明日の朝まで何をしているつもり?クラーグラー ナイフがあるからな。マリー 物騒だわ。クラーグラー 驚くな、君が叫んだりするのは聞きたくない、火酒があるよ。どうしてもらいたい? 君が楽しいなら、笑ってみようか? どうなんだ、君は成人式も済まないうちに転がされちゃったのか、階段に押し倒されて? 忘れちまいな! 煙草を吸うか? (彼は笑う)さあ、行こうじゃないか!マリー 新聞街では撃ち合いが始まっているわ。クラーグラー 俺たちの手も借りたがっているかもしれないな。(二人退場)(風。同じ方向から二人の男)2026/06/11 22:44:1836.夢見る名無しさん男一 ここいらでやりましょう。男二 この先でできるかどうか分かりませんからな……男一 大砲だ。男二 何てこった! フリードリヒ街だ!男一 あんたがメチルを混ぜた酒を売っていたところだ。男二 あの月を見ているだけで気が変になってきますよ!男一 あやしげな煙草を闇で売ってた人ならね!男二 確かに煙草の闇売りはしていましたよ! でもあんたは人間を鼠の穴みたいな所に詰め込んで働かせていたじゃないですか!男一 今更そんなことを言っても遅いですよ!男二 首吊り縄にぶら下げられるときはあんたも一緒ですよ!男一 連中のやり口をご存知ですか? 手を見せろ! たこがないな! ばんばんってわけ。(男二、手を眺める)ばんばん。もう死体の臭いがしているでしょう!男二 よしてくれ!男一 山高帽をかぶっているあんたが家まで帰りつけたら、よっぽど運がいい!男二 あんただって山高帽を!男一 でも真中に割れ目がありますよ、君。男二 ぽんと叩いて中折れ帽に出来ますよ。男一 あんたの糊のきいたカラーは、石鹸を塗りこんだ首吊り縄より始末が悪い。男二 もうカラーは汗でくたくたになっています。あなたはボタン付きの靴をお履きだ!男一 それにあんたの太鼓腹!男二 あんたの声!男一 その目つき! 歩き方! 風采!男二 確かにそれで私は街灯に吊るされることになるでしょう、でもあんたは中等教育を受けた人の顔ですよ!男一 私の耳は貫通銃瘡をうけて潰れてますよ。君!男二 畜生! (二人退場)2026/06/11 22:46:5437.夢見る名無しさん(そこへ下手からワルキューレの面々全員が現れる。飛ぶように走るアンナ。彼女に並んでピカデリーバーのボーイ、マンケが、帽子をかぶらず、フロック型の外套を着ている。彼は泥酔したような感じ。二人の後から酔っ払ったムルクを引きずったバーブッシュ、蒼褪め顔がむくんでいる)マンケ 忘れなさい! 彼は行っちまった! 消えちゃったんだ! 新聞街が彼を飲み込んだ! そこら中で撃ち合いだ、新聞社では何が起こるか分からないよ、今夜はね、彼は撃ち殺されるかもしれない。 (泥酔したようにアンナの説得を続けながら)撃ち合いになったら、逃げることもできるが、逃げおおせられないこともある。 いずれにせよ、一時間すれば彼は見つかりっこなくなる、水に落ちた紙切れみたいに消えてしまう。 彼は頭に月が浮かんでるから、太鼓の鳴っている方に突進していくよ。行け行け! 彼を救うんだ、あんたの恋人だった彼、いや、今でもそうだ。バーブッシュ (アンナの行く手をさえぎって)止まれ、ワルキューレのご連中! どこへ行く気だ、寒空で風も強い、彼はどこかの飲み屋に沈没しているよ。 (ボーイの真似をして)四年も待っていた彼、その彼をもう誰も見つけられない。ムルク 誰もな、誰一人さ。(彼は石畳に座る)バーブッシュ こいつのざまを見てみろよ!マンケ こんな奴、俺の知ったことか! 彼にコートを持って行ってやりなさい! 四年間待っていた彼は今、空を流れていく雲よりも早く走っている! この雲が消えるよりも早く消えてしまう!ムルク (感情をまったく入れないで)ポンチ酒は着色剤を混ぜた代物だった。それが全て準備万端整った今になって分かるとは。支度もすっかり済み、部屋も借りたのに。おいこっちへ来てくれ、バーブ!マンケ なぜロトの妻のように突っ立っているんですか? ここはゴモラの町ではありませんよ! 酔っ払った惨めなざまに感心しているんですか? 他のことは考えられないんですか? 結婚準備か? それで消えていく雲のことは後回しですか?バーブッシュ 君に何のかかわりがあるんだ? 雲がどうしたっていうんだ? ボーイの分際で?2026/06/11 22:49:2638.夢見る名無しさんマンケ かかわりがあるかって? 一人の人間を卑劣にも見殺しにしたら、天体の運行も狂ってしまうんだよ! (自分の首を掴む)俺だって片付けられてしまう。首を掴まれてな! 人間が一人かき消されようっていう時に、つまらないことにかかずらっていられない。バーブッシュ 何だと? かき消される? どこで? よく聞け、夜が明ける前に新聞街で牡牛のような叫びがあがるだろうさ。 それは、今こそ昔のつけを取り返すとほざいているごろつきどものことだ。ムルク (立ち上がっている。めそめそと)なぜこんな風の中を引っ張り回すんだ! 酷く吐き気がする。なぜどんどん走っていくんだ? なぜなんだ? 俺は君が必要なんだ! 結婚支度のせいじゃない。アンナ 駄目なのよ。ムルク 俺はもう立っていられない。マンケ 座れよ! お前一人じゃないよ! 親父は卒中の発作を起こし、酔っ払ったおふくろカンガルーは泣いている。でも娘は新聞街に行く気だ。四年間待っていた恋人のもとへ。アンナ 駄目だわ。ムルク 新婚の肌着も揃えただろう。家具も部屋に入れた。マンケ 肌着は畳んで支度は済んだ、でも花嫁は来ない。アンナ 肌着もシーツも買って箪笥にしまったわ、一枚ずつ、でももう必要ない。部屋も借り、カーテンもかけ、壁紙だって張ったわ。でもやってきたのよ、靴も履かず上着一枚の彼が。上着は虫食いだらけだった。マンケ そして新聞街は彼を飲み込んでしまう! 彼を待っているのはあやしげな飲み屋! 今夜だ! 悲惨だな! たむろするごろつきども! 彼を救いなさい!バーブッシュ みんな芝居だよ、題して「波止場の飲み屋の天使」マンケ そうさ、天使だよ!ムルク 君はやっぱり行く気か? フリードリヒ街へ? 引き留めるものは何もないのか?アンナ ないと思うわ。ムルク 何もないのか? 「あれ」のことは考えないのか?アンナ ええ、もう欲しくないわ。ムルク 「あれ」はもう欲しくないのか?2026/06/11 22:51:5239.夢見る名無しさんアンナ それが引き留める綱ってわけ?ムルク 引き留める力はないんだな?アンナ 綱は切れたのよ!ムルク 君の子供はどうでもいいのか?アンナ どうでもいいわ。ムルク 上着も着ない奴が現れたからか?アンナ 彼だと分からなかったわ!ムルク 昔の彼じゃなかった! 君の知らない男だ!アンナ 彼は獣のようにみんなの中に立ったわ。そしてあんたたちが彼を殴ったのよ、獣を殴るように!ムルク 殴られて老いぼれ女のように泣き喚いたぜ!アンナ 女のように泣いたわ。ムルク それからずらかった、君を置き去りにして!アンナ 行ってしまったわ、私を置き去りにして!ムルク 奴はもうお終いだよ!アンナ あの人はもうお終い!ムルク 行ってしまったぜ……アンナ でも行ってしまって、彼がもうお終いと決まった時……ムルク あとには何も残っていない、痕跡もない。アンナ 彼の後から太鼓の連打が聞こえ、一陣の風が巻き起こり、どんどん強くなっていって何もかも巻き込みそうな勢い、私は出て行ってここに来た、あんたもあたしも彼もみんなお終いよ。だって彼はどこに行ってしまったの? 行方は誰にも分からないでしょ? 世界はこんなに広い、そのどこに彼はいるの? (彼女は静かにマンケを見上げて小声で言う)済みませんけど、あなたのバーに戻って、彼を連れて行ってくださいな! でもバーブ、あなたは私と一緒に来てね! (上手に駆けて行く)ムルク (泣き喚いて)彼女はどこに行ってしまったんだ?バーブッシュ これでワルキューレの騎行のご一行は散り散りだよ、みんな。マンケ 恋する男は消えてしまった、だが恋する女は愛の翼に乗って追いかける。ヒーローは破滅させられたが、昇天の準備は出来ている。バーブッシュ でも男は恋する女を溝にぶち込んで、地獄行きを選ぶだろう。君は全くロマンティックだな!マンケ 新聞街に急ぐ彼女は消えて行く。まだ姿は見える、白い帆のようだ、理想のごとく、消えていく詩節のごとく、水面を飛ぶ酔いしれた野郎をどうしようか?2026/06/11 22:53:5540.夢見る名無しさんムルク 俺はエンコする。寒いな。もっと寒くなれば他の奴らも戻って来るさ。君らは何も知っちゃいない。 子供のことは知らないんだから。彼女を追いかけさせておくさ。奴もこぶ付きは引き取らないだろうぜ。 別れた彼女は一人だったが、今奴を追いかけている彼女は腹の子を足すと二人だ。(笑う)バーブッシュ やあ、彼女は本当に消えて行く詩のように消えてしまったぞ! (どかどか追いかけていく)マンケ (彼の後から叫ぶ)グルップの居酒屋だ、ショセー街だよ! 彼について行った淫売はそこが根城だ! (大げさに両腕を広げて)革命が二人を飲み込む、二人は再会するだろうか?2026/06/11 22:56:4541.夢見る名無しさん第四幕 曙は来たらん(小さな居酒屋。居酒屋の亭主グルップ、白い服でギターを弾きながら「死んだ兵士の大道歌」を歌っている。ラールと素性の知れぬ酔っ払い男が彼の指先をじっと見ている。ブルトロッターという角張った顔の男は新聞を読んでいる。ボーイのマンケはピカデリーバーのマンケの兄弟だが、淫売のアウグステと飲んでいる。みんな煙草を吸っている)ブルトロッター 俺は火酒が欲しいんで死んだ兵隊は要らないよ、新聞を読みたいし、読むのに火酒が要る、 飲みながらじゃないと新聞が分からないじゃないか、畜生!グルップ (冷たいガラスのような声で)あんたら居心地が悪いのか?ブルトロッター ああ、でも革命が起こったようだな。グルップ その必要があるかね? 俺の店では、屑野郎は居心地がいいし、癩者ラザルスは歌っている。酔っ払い 俺が屑でお前がラザルスってわけだな。労働者 (入って来てスタンドに行く)ちわ、カール。グルップ 急ぎか?労働者 十一時にハウスフォークタイ広場だ。グルップ いろんな噂が飛んでいる。労働者 アンハルト駅には六時から近衛狙撃兵師団が陣取っている。「前進」社はまだ大丈夫だ。今日はお前の所のパウルの手が要りそうだ、カール。(静寂)マンケ ここじゃ日頃はパウルの名は口にしないもんだ。労働者 (金を払う)今日は異常事態だ。(退場)マンケ (グルップに)じゃあ十一月は異常じゃなかったのか? あんたも銃を手に取って、銃が指にまとわりつく感じを知るといいな。2026/06/11 23:04:0142.夢見る名無しさんグルップ (冷ややかに)何がお望みです?ブルトロッター 自由だよ! (上着とカラーを取る)グルップ シャツだけの格好で飲むのは法律で禁じられていますよ。ブルトロッター 反動的だ。マンケ 奴らはインターナショナルの稽古をしている、四重唱のトレモロ付きでな! 自由か! そうなったら清潔なカフスをつけている奴は便所掃除をさせられることになるのか?グルップ テーブルの大理石板を叩き壊すな、これは木製なんだよ。アウグステ 真っ白な袖をつけている奴らには便所掃除をやらせるべきだろう?ブルトロッター お前なんか銃殺だ、こいつ!アウグステ 真っ白な袖口をつけた紳士連には尻と尻でお繋がりになってもらいたいよ。マンケ アウグステ、お前、品がないなあ。アウグステ お前たち助平どもこそ恥じるがいい、お前たちなんか腸を引きずり出されて、それに吊るされるといいんだ、街灯に吊るされるがいい。白いカフスなんかしやがって、 姐さん、お安くしてくれよ、戦争に負けたんだから! とくる。金がない時は色気は慎めばいいんだ、勝てないくせに戦争なんかやるなよ! 女性の前じゃその足を下ろしたらどうなの! あんたの汗臭い足を嗅げっていうのかい、この悪党!グルップ こいつの袖口は白くないぞ。酔っ払い ごろごろいっているのは何の音だ?マンケ 大砲さ!酔っ払い (蒼褪めて他の連中ににやりと笑いかける)がちゃがちゃいってるのは何だ?(グルップは窓辺に駆け寄り、窓を引き開ける、通りを大砲が通過する音が聞こえる。みんな窓辺に立つ)ブルトロッター あれは近衛連隊だ。アウグステ 大変だ、どこへ行くんだろう?グルップ 新聞社さ、間抜け! 新聞を読みにいくんだとよ! (彼は窓を閉める)アウグステ あらまあ、戸口に立っているのは誰?(クラーグラーは泥酔したようにふらふらし、足を軸に旋回するような感じで戸口に立っている)マンケ 戸口で卵でも産むつもりなんですか?アウグステ あんた誰?クラーグラー (意地悪くにやりと笑って)誰でもないよ!2026/06/11 23:06:0943.夢見る名無しさんアウグステ 汗が首筋を伝わっている! そんなに走ってきたの?酔っ払い 下痢でもしてるのか?クラーグラー いいや、下痢はしてないよ。マンケ (横切って彼の方へ行く)それじゃあ聞くが、何を食ったんだ、お若いの。この手の面はよく知っているよ。マリー (彼の後から姿を現して)何も食っちゃいないよ。私がこの人を誘ったんだよ。 アウグステ、この人ねぐらがないのよ。アフリカにやられたんだ。座りなさいよ。(クラーグラーは戸口に立ったまま)マンケ 捕虜だったのか?マリー そう、それで行方不明にされてたの。アウグステ 行方不明にまでされたの?マリー 捕虜になってたの。その間に許婚を盗まれちゃったのよ。アウグステ じゃあママの所においで。お座りよ、砲兵さん。(グルップに)チェリーブランデーのダブル五つ、カール!(グルップは五杯注ぐ。マンケがそれをテーブルに置く)グルップ 先週俺は自転車を盗まれたぜ。(クラーグラー、テーブルの方へ行く)アウグステ アフリカの話をして!(クラーグラー、答えはしないが、酒は飲む)2026/06/11 23:07:3544.夢見る名無しさんブルトロッター すっかり吐いちまいな。ここの亭主は赤だよ。グルップ 俺が何だって?ブルトロッター 赤さ。マンケ よしてください、旦那、ここには赤なんていませんよ、すみませんが。ブルトロッター よし、じゃ、いないとしよう。アウグステ アフリカじゃ何をしてたの?クラーグラー (マリーに)ニグロの腹を射ってやった。道路の舗装工事も。そうか、肺が悪いのか?アウグステ 何年いたの?クラーグラー (まだマリーに)二十と七だ。マリー 二十七ヶ月ね。アウグステ その前は?クラーグラー その前? 粘土みたいな土の塹壕に転がっていたぜ。ブルトロッター で、何をしてたのかね?クラーグラー 臭い匂いを放っていたよ。グルップ そうさ、みんな好き好きにさぼってたんだろう。ブルトロッター で、アフリカの淫売はどんなだ?(クラーグラー、黙っている)2026/06/11 23:08:4245.夢見る名無しさんアウグステ およしよ、品がないね。ブルトロッター 帰国してみると、女房が家にいなかった、ってんだろう? あんたはそこで考えたんだろう、 女房は朝から兵営に俺を迎えに出かけていって、真夜中まで俺を待っているんだなと。クラーグラー (マリーに)奴の面に一発食らわそうか?グルップ いや、まだやめとけ。でも自動ピアノならかけてもいいぞ、それならいい。クラーグラー (よろよろ立ち上がって、敬礼する)畏まりました。(彼は行って自動ピアノを鳴らす)ブルトロッター センチな曲だな。アウグステ この人の感情は死人同然なのよ。本当の自分より長く生き延びちゃったのね。グルップ そうそう、そうだ。この人はちょっとした理不尽な目にあったんだ。そして後は泣き寝入りさせられた。ブルトロッター おやおや、これでもあんたは赤じゃないのか? グルップ、さっき甥御さんの話が出たな?グルップ 確かに出たさ。でもこの店じゃないぜ。ブルトロッター そう、この店じゃない。ジーメンスの工場だ。グルップ ちょっとの間だよ。ブルトロッター ジーメンスにちょっと勤めてた。旋盤工だったな。短期間旋盤工だった。十一月まで、だろ?酔っ払い (それまではただ笑っていたが、歌い出す)俺の兄弟たちはみんな死んじまった俺だって危ういところだった十一月には俺も赤だったでも今は一月さ2026/06/11 23:09:5746.夢見る名無しさんグルップ マンケさん、このお方は他人の迷惑にはなりたくないと仰ってるんだ。 だから迷惑をかけないように気をつけてあげてください。クラーグラー (アウグステをつかまえて一緒に跳ね回る)犬が一匹台所へ行ってコックの卵を一つ盗んだそこでコックは斧を掴んで犬を真っ二つに叩き切った酔っ払い (笑いで体を揺すって)短期間旋盤工か。グルップ おい、グラスを投げ割らないように頼むぜ、砲兵さんよ!マリー すっかり酔ったのね。これで気が軽くなるでしょう。クラーグラー 気が軽くなるかね? そうだったら嬉しいよな、そこの酔っ払いの兄弟、「そんなことはない」と言ってみな。アウグステ 自分も飲むといいよ。酔っ払い 甥っ子の話が出なかったかね?クラーグラー 神様の前にまかり出たら助平野郎は何だと思うね、商売女の姐さん? 無視される存在だよ。酔っ払い この店じゃないんだな。クラーグラー なぜってな、軍隊を廃止できるか、神様を廃止できるか? おい赤の旦那、君は拷問の苦しみをこの世からなくせるか? 人間が悪魔に教えてやったほどの拷問の苦しみ、あれは君には絶対になくせないぞ、でも火酒を給仕することはできるさ。 だからよ、もう戸を閉めて飲もうじゃないか、そして風が入って来ないように、しんばり棒でもかっておこう。風さえ寒くて震えてるんだからな!ブルトロッター 亭主の話では、不正な目にあったそうだな、それで泣き寝入りだと言っていたな。クラーグラー 補償してもらえるのかよ? 不正と言ったかね、赤の兄弟? 何て言葉だよ、不正か! そういうちまちました言葉を発明しては、やたらと演説を打ちまくるんだね。 それだけで後は野となれ山となれだ、だから不正がはびこるんだよ。結局は強い奴が弱い奴を殴りつけ、太った奴だけが脂身にありつく、それで不正がはびこるっていう寸法よ。酔っ払い 甥っ子だ! 話題にならない甥っ子やいかに!2026/06/11 23:12:1347.夢見る名無しさんクラーグラーすると犬の仲間がやって来てその犬のお墓を掘って墓石を建ててやったその墓碑銘に曰く、犬が一匹台所にやって来て…… だからこそ、このちっぽけな地球では気楽にやろうぜ、この世は冷たく暗いんだよ、赤の旦那、 この地球は老いぼれて、もうもっといい時代なんか期待できない、天国はもう貸し切りだ、諸君。マリー どうしたらいいんだろう? この人は新聞街に行く、そこが正念場だ、と言っているけど、でも新聞街に何があるんだい?クラーグラー 一台の馬車がピカデリーバーに乗りつける。アウグステ 誰が乗っているの?クラーグラー 彼女が乗っているんだ。俺の脈は全然普通だぜ、ほら触ってみろ。(手を差し出し、他の連中と飲む)マリー この人はアンドレっていうんだよ。クラーグラー アンドレ。そうだ、俺はアンドレって名前だった。(彼はまだぼんやりと脈を数えている)ラール 主に松材ばかりだった、小ぶりのな。グルップ おや、石が語りだしたぜ。ブルトロッター それを売っちまったっていうんだろう、この間抜け?ラール 俺がか?ブルトロッター そうだ、銀行だよ! これは面白い話だ、グルップ、でもこの店では駄目か。グルップ お前ら、酷い目にあっているのか? でも我慢するんだな。そりゃ我慢すればもっとやられ放題だ! 皮を剥がれてもじっと耐えるんだ、砲兵さんよ、でないと皮は真っ二つに引き裂かれるぞ、皮は一枚しかないんだ。 (ずっとグラスを洗い続けている)そうさ、あんたらみな何がしか酷い目にあっている、 大砲とサーベルで半殺しの目にあった、騙された上に唾まで引っ掛けられた。でもしょうがないさ!2026/06/11 23:14:3948.夢見る名無しさんブルトロッター (グラスを指して)まだ綺麗になっていないのかね?酔っ払い 我を洗いたまえ、主よ、純白になるまで! 洗いたまえ、雪のごとく純白になるまで! (歌う)俺の兄弟たちはみんな死んじまった俺だって危ういところだった十一月には俺も赤だったでも今は一月だグルップ 我慢もこれまでだ。アウグステ あんたたちは意気地なしだよ!新聞売りの女 (入って来る)新聞街にたむろする赤ども! 赤のローザがティーアパルクで野外演説! 賤民の暴動はいつまで続くか? 軍隊はどこに? 十ペニヒだよ、砲兵さん? 軍隊はどこに、十ペニヒだよ。(誰も買わないので出て行く)アウグステ そしてパウルはいないんだ!クラーグラー またひゅーひゅー弾丸の音がしてないか?グルップ (戸棚を閉めて両手を洗う)店は閉めるぞ。マンケ 行こう、アウグステ! 君は考えてなかったんだが、構わん行こう! (ブルトロッターに)あなたはどうするね、旦那? 勘定は二マルク六十ペニヒ。ブルトロッター 俺はスカゲラーク海戦に参加したんだ、あれも楽しいものじゃなかったぜ。(一同腰を上げる)酔っ払い (マリーの肩に手を回して)天使のごとく善良なあばずれは彼と一緒に洪水に流されて消えたクラーグラー みんな一緒に新聞街へ行こう!犬が一匹やって来てコックの卵を一つ盗んだそこでコックは斧を掴んで犬を真っ二つに叩き切った(ラールは自動ピアノの方に行って太鼓を引っ張り出し、連打しながら他の連中の後について行く)2026/06/11 23:16:3849.夢見る名無しさん第五幕 ベッド(気の橋。再び、大きな赤い月)バーブッシュ 帰らなくてはいけませんよ。アンナ もう駄目なの。帰ったってどうにもならない、写真を抱いて四年も待っていたのに他の男を引き込んでしまった。夜中になると恐かったの。バーブッシュ もう葉巻が切れちまった。家へは全然帰らないつもりですか?アンナ あれを聞いて!バーブッシュ 奴らは新聞を破いて水溜りに撒き散らしたり、機関銃に向って喚いたり、耳に弾丸をぶち込みあったりして、新しい世界を作った気でいる。また奴らの群れがやってきたぞ。アンナ 彼だわ!(連中が近付いてくると共にこの路地も騒然としてくる。いろいろな方角から銃声が起こる)アンナ 今こそあの人に言ってしまうわ!バーブッシュ あなたの口を抑えるよ!アンナ 私は動物じゃないわ! 叫んでやるわ!バーブッシュ こっちは葉巻が切れてるんだ!(家並みの間からグルップ、ラール、二人の女、居酒屋のマンケ、アンドレアス・クラーグラーが現れる)クラーグラー 俺の声はしゃがれてきた。アフリカの声が咽喉の奥から溢れ出してきたんだ。首でも吊るか。グルップ 吊るのは明日にして今は一緒に新聞街に行くんだろう?クラーグラー (アンナの方を凝視して)ああ。アウグステ お化けでも見えるの?マンケ 何てこった、髪の毛が逆立っているじゃないか!グルップ あれがその女か?クラーグラー そうさ、どうしたんだ、みんな立ち止まって? お前らみんな銃殺だぞ! 前進、前進、前進あるのみだ!アンナ (彼の前をさえぎって)アンドレ!酔っ払い 足を上げた上げた、色気のお誘いだ!2026/06/11 23:25:0950.夢見る名無しさんアンナ アンドレ、待って、私よ、あんたに言いたいことがあるの。 (静寂)あんたに知ってもらいたいことがあったの、ちょっと行かないでしょ、私は酔ってないわ。 (静寂)あなた、帽子もかぶっていないわね、寒いのよ。あなたの耳に入れておきたいことがあるの。クラーグラー 酔っ払ってるのか?アウグステ 許婚が追いかけてきたけど、酔っ払ってるってわけ!アンナ そうなの、あんたどう思う? (二、三歩進む)私、子供が出来たの。(アウグステ、げらげら笑う。クラーグラー、よろめいて、橋の方を見て、歩く練習をするようにつかまり歩きのような動作をする)アウグステ あんた、魚なの、口をぱくぱくやって空気を吸ってさ?マンケ 眠っている気になってるのか?クラーグラー (両手をズボンの縫い目にぴたりとつけて直立不動で)そうであります!マンケ 子供が出来たってよ。子供の製造がこの女の商売さ。さあ行こう!クラーグラー (硬直して)かしこまりました! どこへでありますか?マンケ こいつ狂っちまったぞ。グルップ アフリカに行っていたんだろう?クラーグラー モロッコ、カサンブランカ、十号兵舎であります。アンナ アンドレ!クラーグラー (耳を傾けて)聞けよ、俺の許婚のだ! そいつがやって来た、ここにいる、腹が膨れているんだ!グルップ 貧血しているようじゃないか、え?クラーグラー しーっ! 俺じゃなかったんだ、俺じゃないぞ。アンナ アンドレ、人がいるじゃないの!クラーグラー 君の腹は空気で膨らんだのか、それとも淫売になったのか? 俺は外地にいて君を見張っていられなかった。 俺はどぶ泥の塹壕に転がっていた。俺が泥まみれで転がっていた時、君はどこで転がされていたんだ?マリー そんな言い方をしちゃいけないわ。あんたに何が分かるの?2026/06/11 23:26:4751.夢見る名無しさんクラーグラー ただただ君に会いたかった。その執念がなかったら、今頃俺は当然の末路でくたばって頭蓋骨を風が吹き抜け、口には塵が詰まっていたさ、そして何も知らずにいただろう。 でも全てを見ない間は死ねなかった。そのためだけに骨身を削ったぜ。馬の餌も食った。酷い味だった。泥の穴から四つん這いで這い出した。これはおかしかったな! 豚みたいだったぜ! (目をかっと開く)みんな俺を見物してるのかよ、え? ただ券でも持っているのか? (彼は土の塊を拾い上げて投げつける)アウグステ この人を押さえつけなよ!アンナ ぶつけて、アンドレ! ぶつけてよ! こっちへ!マリー この女を連れて行きな、でないと死ぬまでぶつけてるよ!クラーグラー うせやがれ! 欲しいものは何でもくれてやらあ! 口をぱっくり開けるがいい。他には何もないぜ。アウグステ 頭を押さえつけな! 地面に押し付けてやるんだ!(男たちが彼を地面に押さえつける)アウグステ さあお嬢さん、あんたは消えた方がいいよ!グルップ (アンナに)そうだ、家へ帰りなさい、明け方の空気は卵巣によくないぞ。バーブッシュ (修羅場になっている広場の向こう側からクラーグラーの方へ手を叩いて、噛み潰した煙草を噛みながら彼に説明する) さあ、これで君の痛みの在り処がわかっただろう。君は神なのだ。罰の雷を落とした。 でも罰せられた女性は妊娠しているんだ。石畳の上に座らせておいちゃいけない、夜は冷える、何か言ってやれるだろう……グルップ そうだ、何か言ってやれるだろう。(男たちはクラーグラーを立たせる。静かになる。風が吹く。二人の男が急いで通りかかる)男一 ウルシュタイン社は占拠された。男二 モッセ新聞社の前を砲兵隊が通過したぞ。男一 俺たちの数は全然少なすぎる。男二 応援にはたくさん駆けつけてくれるはずだ。男一 もう遅すぎるよ。(彼らは通り過ぎる)アウグステ さあうまくいった! これでお終いにしよう!2026/06/11 23:29:1352.夢見る名無しさんマンケ 奴の面に答えを叩きつけてやれ、ブルジョアとその淫売にな!アウグステ (クラーグラーを引っ張って行こうとする)一緒に新聞社へ行こうよ! あんたももう強く逞しくなっただろう。グルップ あの女は石畳に寝かせておけ、七時には地下鉄が動くよ。アウグステ 今日は地下鉄なんか動かないさ。酔っ払い 前進だ、ハレルヤ!(アンナはまた立ち上がっている)マリー (彼女を眺めて)血の気がないよ。グルップ ちょっと青い、弱っている。バーブッシュ これじゃ参っちまうぞ。グルップ そう見えるだけさ。明るさの加減だよ。(空を眺める)アウグステ ヴェディング区の連中が駆けつけて来たわ。グルップ (両手をこすりながら)あんたは大砲が通るのと一緒に現れたな。ひょっとしたら砲兵隊の仲間じゃないのか! (クラーグラーは黙っている)何も言わないな、それが利口だよ! (歩き回る) あんたの軍服は硝煙で汚れているな、あんたは影が薄く、いささか擦り切れちまっている。でもそれは大したことじゃない。ちょっと不愉快と言えば、そのきゅっきゅと音が出る靴だろうな。 でもそれは靴墨を塗ればいいんだ。(大気を嗅ぎ回るように)もちろん十一時以後からは星空が二つ三つと消えていき、何人かの開放の使徒が倒れて雀の餌食になった。でもあんたがまだ健在なのは結構なことだ。 ただあんたの消化能力だけが私の苦労の種だ。とにかく、まだあんたは透明人間になっていない。少なくともまだ姿が見えるからな。クラーグラー 来いよ、アンナ!マンケ 「来いよ、アンナ!」ときたね。アンナ 地下鉄はどこなの、ねえ?アウグステ 今日は地下鉄なんか来ないよ。地下鉄も高架線も国電も一日動かないよ。今日はどこへ行っても休業さ。どの線路にも列車がエンコしている、あたしらも人間になって、夕方まで足で歩き回るのさ、あんた。クラーグラー こっちへ来いよ、アンナ!2026/06/11 23:31:3053.夢見る名無しさんグルップ まだ一緒に行く気は少しはあるんだろ、砲兵さんよ!(クラーグラー、黙っている)グルップ 仲間の何人かはもう二、三杯焼酎をひっかけたかったんだ、だがあんたは反対した。 何人かはちょっくらベッドにしけこみたかった、ところがあんたは寝るベッドがなかったもんで、そこでみんな家に帰りそびれちまったんだぞ。(クラーグラー、黙っている)アンナ 行かないの、アンドレ? 皆さんが待っているわよ。マンケ あんた、その手をポケットから出したらどうだ!クラーグラー さあ、俺に石をぶつけろ、そらこうして立ってるぞ。あんたたちのためにシャツくらい脱いでやらあ、でもナイフにわざわざ首を差し出すのは、そりゃご免だね。酔っ払い 神よ、お尻よ、兵隊様。アウグステ で、で、それで新聞街はどうなるのよ?クラーグラー どうにもなりやしないよ。俺をシャツのまま新聞街へ引きずって行こうったって駄目だよ。俺はもう犠牲の羊じゃない。くたばるのはご免だぜ。(ズボンのポケットからパイプを取り出す)グルップ そりゃちょっと惨めったらしくないか?クラーグラー 何を、奴らは闇雲にあんたのどてっぱらめがけてぶっ放すぞ! アンナ! 何て面で俺を見てるんだ、畜生? 君さえ警戒しろっていうのか? (グルップに)あんたの甥っ子は射たれて消えたけどな、俺は女房をまた手に入れたんだ、アンナ、来い!2026/06/11 23:33:3154.夢見る名無しさんグルップ 俺たちだけで行くとしようか。アウグステ じゃあアフリカも何もかも、みんな嘘だったの?クラーグラー いや、あれは本当だ! アンナ!マンケ 株の仲買人みたいに喚き立てていたくせに、今はベッドに入りたいだとよ。クラーグラー 今は女房がいるからな。マンケ 本当にいるのか?クラーグラー さあ、アンナ! 傷物じゃないわけじゃない、純潔でもない、君は身持ちがよかったのか? それとも赤ん坊が出来てるのか?アンナ 赤ちゃんが出来てるわ。クラーグラー 出来てるんだな。アンナ このお腹にね、胡椒を飲んだけど効かなかった、ウェストの線はもう戻らないわ。クラーグラー そうか、そういうわけだ。マンケ それで俺たちはどうなる? 胸まで安酒に浸り、臍までお喋りを詰め込まれ、手にはナイフを持たされて、持たせた奴は誰だったんだ?クラーグラー 持たせたのは俺さ。(アンナに)そうさ、君はそんな女さ。アンナ そうよ、そういう女なの。アウグステ 「新聞街へ行け!」と怒鳴ったのはあんたじゃなかった?クラーグラー そうだ、怒鳴ったとも。(アンナに)さあ、行こうぜ!マンケ そうだ、怒鳴った、それがあんたの身の破滅よ。「新聞街へ!」って怒鳴ったぞ。クラーグラー そこで俺はご帰還だ。(アンナに)立たせてやろうか?アウグステ 下司野郎!アンナ 触らないで! 両親にはいい子のふりをして、独身の男とベッドで寝ていたのよ。アウグステ あんたも下司女だ!クラーグラー どうしたって?アンナ その人と一緒にカーテンも買ったわ。一緒にベッドで寝たわ。マンケ 畜生、君がぐらつくなら、俺は首でも吊りたいよ!(背後で遠くから叫びが聞こえてくる)2026/06/11 23:35:4355.夢見る名無しさんアウグステ いよいよモッセ街に突撃を始めたよ。アンナ そしてあなたのことはけろりと忘れてしまったの、写真があったのに綺麗さっぱり。クラーグラー 黙るんだ!アンナ 忘れたの! 忘れちゃったの!クラーグラー そんなことは屁でもない。ナイフで君を奪い返そうか?アンナ ええ、奪い返して。そう、ナイフで!マンケ この女を川にぶち込め!(みんなアンナに襲い掛かる)アウグステ そうよ、彼からこの売女を引き離すんだ。マンケ 首っ玉の手を引っぺがせ!アウグステ 闇屋の淫売を川に沈めろ!アンナ アンドレ!クラーグラー 手をどけろ!(喘ぐ息だけが聞こえる。遠くからこもった砲声が不規則な間隔をおいて聞こえてくる)マンケ あれは何だ?アウグステ 砲兵隊だよ。マンケ 大砲だ。アウグステ ああ、あそこに行った連中はもうお終いだ。砲撃で魚みたいに腸が飛び出すよ!クラーグラー アンナ!(アウグステ、身を屈めて後の方へ走っていく)ブルトロッター (背後の橋の上に現れる)畜生、まだ来ないのか、お前ら?グルップ (もう橋の上に現れる)奴がずっこけてるよ。マンケ 何て野郎だ! (行きかける)2026/06/11 23:36:4656.夢見る名無しさんクラーグラー 俺は家へ帰るぜ、白鳥の君よ。グルップ (もう橋の上で)そうさ、まだお前、睾丸はついているからな。クラーグラー (アンナに)またひゅーひゅー弾丸の音がしてきた、俺の首にしがみついていろ、アンナ。アンナ 体を全部消してしまいたいわ。グルップ お前、結局は明日の朝、便所で首を吊ることになるさ。(アウグステ、もう他の連中と消えている)クラーグラ- あんたは壁に立たされて銃殺だぞ、こいつ。グルップ そうさ、明日は死骸の臭いが凄いだろう、お若いの。もちろん無事に逃げおおせる奴も出て来るだろうさ。(姿を消す)クラーグラー お前らは俺に同情して流す涙の大洪水で溺れそうじゃないか、俺はその涙でシャツを洗わせてもらうだけだよ! お前らの理想が天に届くために、なぜこの俺の肉体が溝の中で腐っていかなきゃならないんだ? お前らは酔っ払ってるのか?アンナ アンドレ! 放っておきなさいよ!2026/06/11 23:38:1557.夢見る名無しさんクラーグラー (彼女の顔は見ないで、辺りをうろつき回り、首に手を当てて)もう吐きそうなほどうんざりだよ! (腹立たしそうに笑う)月並な芝居だよ。舞台も紙で作った月もあり、その奥に肉売り台、これだけはリアリティがあるぜ。 (彼はまた走り回るが、地面にくっつきそうになるほど腕をだらりと下げているので、居酒屋から持ってきた太鼓を拾い上げることになる)奴らは太鼓を置いていっちまいやがった。(それを叩く) タイトルは「なり損ないの赤一名愛の力」「新聞街で流血の大惨劇一名どんな野郎も自分の面をしている時が最高だ」(顔を上げて目配せする)看板はある奴もいればない奴もいるさ。 (太鼓を叩く)バグパイプみたいにひゅーひゅーいう音。新聞街では貧民どもがくたばっていく、建物がその上に崩れ落ちる。朝が白む、奴らは溺死した猫みたいにアスファルトにのびている。俺は豚野郎だ、豚はねぐらに帰るぞ。 (彼は息を吸い込む)ぱりっとしたワイシャツを着よう。俺の肌身はまだ痛んでいない。軍服は脱ぎ捨てよう、靴には脂を塗ろう。(悪意を込めて笑う)明日の朝になれば喚き声はすっかり消える、だがこの俺は明日の朝は、ベッドに横になって、 俺の血が死に絶えないように、子孫の製造に励んでいるって寸法だ。(太鼓を叩く)そんなロマンティックな目をしてみるんじゃない! 高利貸しどもめ! (太鼓を叩く)首切り人足め! (腹の底から声を出して笑い、窒息しそうになる)血に飢えた臆病者だ、お前ら! (笑いが咽喉でつかえてしまい、もう笑えなくなる。よろめきながら歩き回って、太鼓を月めがけて投げる。その月は明かりを仕込んだ装置の月なので、太鼓も月も川に落下するが、その舞台の川も水がない) 泥酔の余興だ、子供騙しの一幕だ。これからベッドの出番だぞ、大きくて、真っ白で、広々としたベッドだ、来いよ!アンナ ああ、アンドレ!2026/06/11 23:40:5358.夢見る名無しさんクラーグラー (彼女の先に立って去ろうとする)暖かく着ているか?アンナ あんた上着を着てないわ。(彼女の首にショールを巻いてやる)さあ、行こう!(二人は並んで体はくっつけずに歩き出す。アンナは彼より少し後から従う。大気の高い所で、とても遠くから純粋な怒号が聞こえる。新聞社の辺りである)クラーグラー (立ち止まり、耳を澄まし、立ったまま片腕をアンナにかける)もう四年になるな。(怒号がまだ途切れないで続いている間に、二人は見えなくなる)2026/06/11 23:41:57
【TBS世論調査】高市内閣の支持率70.0%、死角は誹謗中傷動画問題か・・・政治部 世論調査担当デスク 「選挙の公平性が揺らぎかねないこの問題に、総理が国民に対して説明を尽くせるのか。正念場が続くことになる」ニュース速報+8521526.72026/06/13 22:55:17
【新NISA】「毎月3万円を預金した人」VS「新NISAで積立投資した人」、20年後の資産差はどれくらい?シミュレーションで比較・・新NISA、年5%で1217万円(運用益497万円)、銀行預金、年0.3%で742万円前後ニュース速報+1191439.42026/06/13 23:07:54
私は、今年21になる男です。
高校卒業後実家を飛び出し上京し介護士になりました。
介護士の仕事はつらかったですが楽しくとても面白い仕事ではありました。
ですがその仕事も、4か月で辞め、親せきの家に居候しながら、カフェの店員とキャバクラのボーイを掛け持ちし、ぎりぎりの生活…
のちにそこも半年で辞めました。その後現場監督兼営業職に就き、自分の仕事のできなさを実感しました。
そこの仕事も9か月で辞め、何も続きません。
まともな人生を歩みたいです。
みんなのようにきちんと同じ仕事を続けたいです。
私のようなものが社会のお荷物になっているのでしょうか?
もうこんな掲示板に書き込むくらいしか相談できるとこもありません。
恥ずかしい人生をやり直すにはどうしたらよいのか、皆さんの知恵をお貸しください。
どうかよろしくお願いいたします。
やるとも、アンナ! 僕は下から叩き上げた男だ。給仕をやり、機械工になり、あちこちでいろんな手習いを覚えた。
我が祖国だってこうしてなり上がってきたんだ。いつも手袋をはめていたわけじゃない、
でもいつだって厳しい仕事はやり遂げてきた、そうだとも、そして今ではトップだ! 乾杯、アンナ! (蓄音機が、讃美歌「愛の力に祈る」を奏でる)
バーリケ ブラヴォー! おや、どうしたんだ、アンナ?
アンナ (その間に立ち上がっている、体を半ば後によじって)分からないわ。早すぎるのよ。こんなのはよくないんじゃないかしら、ママ、どう思う?
バーリケ夫人 何だって、お前? 何て馬鹿な娘だろう! 嬉しくないの! 何がよくないんだよ!
バーリケ 座りな! いや、せっかく立っているんだから、蓄音機をまいてくれ!
(アンナ、座る。間)
ムルク そら乾杯だ! (アンナと杯を合わせる)どうしたのさ、一体?
バーリケ で、ビジネスのことだがね、フリッツ、砲弾輸送用バスケット、これはそのうち商売にならなくなるぜ。内乱の続くのはせいぜい二、三週間、それで製造中止だ。今計画しているのは、冗談じゃなく、乳母車なんだ、これがベストだよ。
工場はどの点からいっても好調だよ。(ムルクの腕をとって奥の方へ連れて行き、カーテンを引く)新築の二号棟と三号棟だ。どれも耐久性のあるモダンな建物だ。アンナ、蓄音機をまいてくれ!
いつも胸にぐっと来るやつを頼む。(蓄音機は「祖国、世界に冠たる祖国」を奏でる)
ムルク 向上の中庭に男が一人立っていますよ、ねえ! 何者でしょう?
アンナ ぞっとするわ。こっちを見上げているみたい!
バーリケ 多分守衛だろう! 何がおかしいんだ、フリッツ? 咽喉がつかえたのかね? ご婦人方は真っ青じゃないか!
ムルク 変なことを考えたんです、まさか赤の奴じゃ……
(テーブルの方に行く、アンナはカーテンを閉める)戦争が私を大した成功者にしてくれた! 道端に転がっているものを拾い上げない法律はない、拾わない奴は間抜けだよ。
放っておけば他の奴らに拾われてしまうからな。豚を殺さなければソーセージは出来ないんだ!
つらつら思うに戦争は俺たちの好運だったよ! 財産はしっかり確保した、丸丸たっぷり、いい気分でな。
これからゆっくりと乳母車の製造に取り掛かれる。急ぐことはない! 分かったか?
ムルク 文句なしですよ、パパ! 乾杯!
バーリケ 君たちもゆっくりと子供の製造に取り掛かれるぞ、あはははは。
女中 バーブッシュさんがお見えで、旦那様!
バーブッシュ (よろけて入ってくる)やあ、ここのみんなは赤の暴動にあってもびくともしない我が家の守りを固めていますね!
連中が動因をかけましたよ。交渉は決裂だ。二十四時間後には都市に砲兵隊が放火を浴びせるでしょう!
バーリケ (首にナプキンをしたまま)全く何てこった、奴らは満足してはいないのか?
バーリケ夫人 砲兵隊? ああ神様、神様! 何て晩なの! 恐ろしい晩だ! 私は地下室に入るからね、バーリケ!
バーブッシュ 町の中心部はまだ平穏です。でも噂によると、奴らは新聞社を占拠する気らしいですよ!
バーリケ 何だと! うちは婚約式をするんだぞ! よりによってその日にか! とち狂いやがって!
ムルク 奴らは全員銃殺だ!
バーリケ 不平不満分子は銃殺だ!
バーブッシュ 君が婚約するのかい、バーリケ?
ムルク バーブッシュ、僕の許婚です!
バーリケ夫人 突然降って湧いたようにね。でもいつ撃ち合いが始まるのかしら?
バーブッシュ (アンナとムルクに握手して)連中は凄く武器を隠匿しているらしい。日陰者の悪党どもは!
そうとも、アンナ。邪魔されることはない! ここまでは何もやって来ないよ!
ここには穏やかな我が家ありさ! 家庭だ! 我が家は我が城なり!
バーブッシュ こいつはぞっとするほど面白いですよ、皆さん!
バーリケ 私には全然、全く面白くないね! (ナプキンで口を拭う)
ムルク どうです! 僕らとピカデリーバーへ繰り出しませんか! 婚約式なんです!
バーブッシュ 連中は大丈夫かい?
バーリケ 待ってくれるさ、バーブッシュ。その間は他の奴らを狙って撃ってくれるさ。一緒にピカデリーバーへ行こう! さあ、ご婦人方はおめかしだ!
バーリケ夫人 ピカデリーバー? こんな真夜中に? (椅子に腰を下ろす)
バーリケ 昔はピカデリーバーと言ったが、今はカフェと言うんだ! フリードリヒの奢りだぜ! 夜中が何だ! 貸切り馬車ってものがあるじゃないか! 行くぞ、おめかしだ、母さん!
バーリケ夫人 この家から一歩だって出ませんよ、私は! 何を考えたの、フリッツったら?
アンナ 人間の意志は最高のものよ。これはフリードリヒの意思なのよ! (全員がムルクを見る)
ムルク ここじゃ駄目だ。絶対にここは駄目。音楽が欲しいし照明も必要だ! 素敵な店ですよ! ここは暗すぎる。そのために正装してきたんだから。それで、どうですお義母さん?
バーリケ夫人 まだ飲み込めないけれど。(退場)
アンナ 待っててね、フリードリヒ! すぐ支度するから!
バーブッシュ 凄い事件が続々起こるぜ。ジュークボックスをすっかり空にぶちまけたみたいな騒ぎだ。万国の赤どもよ、団結せよ! ところで杏ジャム一ポンド、とろりとして、果肉入りで果汁もたっぷりってのが十マルクもする。
怠け者らよ、挑発に乗るな! そこら中に妖しげな黒い集団が、口に二本指を突っ込んで、昼も欺く明るいカフェに向って合図の口笛を鳴らす! 旗印は奴らのルンペン服!
ダンスホールにたむろするのは成金ども! さて、結婚に乾杯だ!
ムルク ご婦人方の着替えは必要ありません。どうせ何を着ても同じだ。きらびやかなものを着ていたら人目につくだけですよ。
バーリケ その通りだ! 深刻な時代だ。赤のごろつきのように見せるなら古着でたくさんだ。すぐ下に行こう、アンナ!
ムルク すぐだ、先に行っていよう。着替えないでいい!
万国の赤どもよ、団結せよ! ところで杏ジャム一ポンド、とろりとして、果肉入りで果汁もたっぷりってのが十マルクもする。
怠け者らよ、挑発に乗るな! そこら中に妖しげな黒い集団が、口に二本指を突っ込んで、
昼も欺く明るいカフェに向って合図の口笛を鳴らす! 旗印は奴らのルンペン服! ダンスホールにたむろするのは成金ども! さて、結婚に乾杯だ!
ムルク ご婦人方の着替えは必要ありません。どうせ何を着ても同じだ。きらびやかなものを着ていたら人目につくだけですよ。
バーリケ その通りだ! 深刻な時代だ。赤のごろつきのように見せるなら古着でたくさんだ。すぐ下に行こう、アンナ!
ムルク すぐだ、先に行っていよう。着替えないでいい!
アンナ 乱暴ね! (退場)
バーリケ 進め……ファンファーレと共に天国へ! シャツは着替えて行かないとな。
ムルク お母さんと後から一緒に来てください。バーブッシュは連れて行きますよ、介添え女になってもらおうか?
(歌う)バーブッシュ、バーブッシュ、花嫁の裾を持って広間をちょこちょこ。
バーブッシュ この頭のおかしい青年のみっともない詩を、やめてもらえんかね? (彼と腕を組んで退場)
ムルク (外でまだ歌を歌っている)みんな、指を口から離せ! さあ、乱痴気騒ぎに向って前進、アンナ!
バーリケ (一人。煙草に火をつける)やれやれ! これで一切がうまく収まった。骨身をすり減らしたぜ! 二人をベッドに追い込むんだからな! 色気を煽って死骸みたいな男にくっつけた!
ワイシャツが汗びっしょりになったぞ。さあもう何が来ても恐くない! モットーは乳母車だ。(出て行く)おーい、シャツを替えるぞ!
アンナ (外で)フリードリヒ、フリードリヒ! (急いで入って来る)フリードリヒ!
ムルク (戸口で)アンナ! (醒め切って、不安そうに、オランウータンのように腕をだらりと下げて)一緒に来るかい?
アンナ 一体どうしたの? 何でそんな顔をするの?
今はお抱えの仕立て屋がいるけどね。でもまだぐらつくことがある。下の世界は風が吹く、氷のように冷たい風だ。足が心底冷えるんだ。
(アンナの方に向って行くが、彼女を掴みはしないで、ふらふらしながら前に立つ)
今は贅肉もついた。赤ワインの大盤振る舞いだ。今僕はこれまでになった! 汗にまみれ、両目を閉じ、爪が肉に食い込むほど拳を握り締めて頑張った。もう終わった! 生活は安定した!
この温もり! 作業服とはお別れだ! 真っ白なベッド、広々して柔らかい! (窓を通り過ぎながら、ちらりと外を見る)さあおいで。もう拳骨も開いて、白いシャツで日向に座るんだ、君がいるし!
アンナ (彼の方に飛んでいって)あんた!
ムルク ベッドの上手なうさぎさん!
アンナ 私も手に入れたんでしょう。
ムルク うさぎさんはまだ来ないのかな?
バーブッシュ (外から)おい、まだかい! 私は介添え女なんだよ、いいか!
ムルク (蓄音機をまいている。また愛の力を賛える歌が始まる)思い通りにさせてくれれば、僕は最高の男だぜ。(二人は寄り添って退場)
バーリケ夫人 (黒服でさっと入って来て鏡の前に立ち、ボンネットを被り直す)
月があんなに大きくて赤い……それに子供たちったら、まあ! そうね……今夜はまた感謝のお祈りができるわ。
(この瞬間に泥まみれの濃紺の砲兵の軍服を着て、小さなパイプをくわえた男が戸口に現れる)
男 自分はクラーグラーであります。
バーリケ夫人 (腰が抜けそうになって鏡台の机に身を支える)まあ何てこと……
この死骸はただいまは殺人的な食欲を感じています。毛虫だって食えそうであります! でもどうなさったんです、バーリケのお母さん? 馬鹿げた歌をやっていますね! (蓄音機を止める)
(バーリケ夫人、まだ一言も喋れず、ただ彼をまじまじと見つめる)
クラーグラー ぶっ倒れないで下さいよ! そこに椅子が。水を持ってきましょう。(戸棚の方に鼻歌を歌いながら行く)
このうちの勝手はまだ結構心得ているんですよ。(グラスにワインを注ぐ)ワイン! ニーレンシュタイン産か! どうやら僕は幽霊にしては元気がよすぎるようですね! (バーリケ夫人の介抱をする)
バーリケ (外から)さあおいでよ、母さん! 前進だ! 汝は美しきこと天使の如し! (入って来て心身喪失したように立ち止まる)何てことだ!
クラーグラー こんばんは、バーリケさん! 奥さんはお加減が悪いようですよ! (ワインを飲ませようとするが、彼女はぎょっとして顔を背ける)
(バーリケ、しばらく不安そうに見守っている)
クラーグラー お飲みなさいよ! 駄目ですか? すぐ気分がよくなりますよ!
僕のことをこんなによく覚えていてくださっているなんて思ってませんでした。アフリカから直行で帰ってきました! スペインじゃ旅券を誤魔化したりしてね。
ともかくこうしてここに! アンナは?
バーリケ どうか家内を放っておいてくれないか! この上ワインで溺死させる気か?
クラーグラー ではやめます!
バーリケ夫人 (バーリケの方へ逃げて行く。バーリケは棒を飲んだように直立する)カール!
バーリケ (厳しく)クラーグラーさん、あなたが仰る通りクラーグラーなら、ここに何の御用かお教え願いたい。
クラーグラー (唖然として)だって、僕はアフリカで捕虜になっていたんです。
クラーグラー (よろめいて、いささか不安そうになって)どういうことですか?
バーリケ あなたは四年もいなくなっていた。あの娘は四年待っていました。我々も四年待っていた。もう終わりだ、あなたにはもう見込みはありませんよ。
(クラーグラー、座る)
バーリケ (きっぱりとでなく、少し自信がなく、でも弱腰にならないように努力して)クラーグラーさん、私は今夜は抜けられない式があってね。
クラーグラー (顔を上げて)抜けられない式? (茫然として)そうですか……(また思いに沈む)
バーリケ夫人 クラーグラーさん、悪く思わないで下さいね。世の中に女の子はたくさんいますよ。そういうわけ。黙って、耐えることを学ぶのよ!
クラーグラー アンナ……
バーリケ (乱暴に)そら! (彼女はおずおずと彼の方に行く。彼は突然きっぱりと)なんだよ、センチになるな、前進! (妻を連れて退場。戸口に女中が現れる)
クラーグラー うーん……(首を振る)
女中 ご夫妻はお出かけになりました。(静寂)皆様ピカデリーバーの婚約式にお出かけになりました。(静寂。風)
クラーグラー (女中を下から上まで見上げる)ふーん
(ゆっくりと辛そうに立ち上がり、部屋を眺め渡し、背を屈めて無言で歩き回り、窓から外を見、振り返って、ゆっくりと、口笛を吹きながら、帽子をかぶらずにふらふらと出て行く)
女中 ほら! あなたの帽子! 帽子を忘れていきましたよ!
(ピカデリーバー。背後に大きな窓。音楽。窓から赤い月がのぞく。ドアが開くと風が入って来る)
バーブッシュ 動物園にお入んなさい。諸君! お月様もたっぷりある。万歳! 下手なまやかしだ! 赤ワイン!
ムルク (アンナと腕を組んで入って来る。外套を預ける)小説みたいな夜だぜ。新聞外では勝ち鬨の声があがる、馬車には許婚のカップル!
アンナ 今日はどうしても嫌な気分を追い払えないの。手足が他人のみたい。
バーブッシュ いいぞフリードリヒ、乾杯だ!
ムルク ここはホームグラウンドなんだ。長くいると酷い気分になってくるが、いい店だぜ! 旧世代のお世話はあなたに頼みますよ、バーブッシュ!
バーブッシュ よしきた! (飲む)次の世代は君に頼もう! (出て行く)
アンナ キスして!
ムルク よせよ、馬鹿な! 国の半分がこっちを見ていらあ!
アンナ いいじゃないの、私は自分で決めたら、ほかのことは一切気にしない。あんたは違うの?
ムルク 大違いだ。それに君だって実はそうじゃない。
アンナ あんたは俗物ね。
ムルク だとも!
アンナ 臆病よ!
(ムルク、呼び鈴を鳴らす。ボーイ登場)
ムルク 気をつけ!
(彼は身をテーブルに屈め、グラスを払い落とし、乱暴にアンナにキスする)
ムルク 下がってよし! (ボーイ退場)僕は臆病か? (テーブルの下を見る)もうこの足で僕を突付かなくていいよ。
アンナ 何のこと?
ムルク おみ足に命令してもらうんだな!
バーリケ (バーブッシュ、バーリケ夫人と入って来る)みんな来てるな! おーい、お客だぞ!
アンナ 何してたの?
バーリケ 赤い月が出ててさ。アンナに赤いので気もそぞろになってしまってね。それに新聞街ではまた絶叫が聞こえたよ!
バーブッシュ 狼どもめ!
バーリケ夫人 みんな一緒にいるようにしましょう!
バーリケ ベッドに飛び込むかね、フリードリヒ、え?
アンナ お母さん、具合でも悪いの?
バーリケ夫人 結婚式はいつにするつもり?
ムルク 三週間後ですよ、ママ!
バーリケ夫人 婚約式にもっとたくさんお招きすればよかったかしら? これじゃ誰にも分からないわ。世間に知ってもらわなきゃ。
バーリケ 何を馬鹿な。狼が吠えているからそんな下らんことを言うのか? 吠えさせておけばいいんだ! そのうち真っ赤な舌をだらんと足の間に垂らすだろうさ! わしが一発でしとめるぞ。
バーブッシュ ムルク、栓抜きを手伝ってくれ! (彼に小声で)奴が戻って来た、月と共にな。月と狼男さ。アフリカから来た。
ムルク アンドレ・クラーグラーか?
バーブッシュ それが狼さ。まずいだろう?
ムルク とっくに墓の中のはずだがな。カーテンを開けてくれないか!
バーリケ夫人 お父さんは立て続けに二軒もはしごしたのよ。もうへべれけよ! 本当に男って! こんな亭主じゃ! そのうち子供のせいで飲みすぎて死んでしまうだろうよ、この人!
アンナ でもどうしてそんなに?
バーリケ 全ては赤い乾し葡萄みたいな月のせいだよ、母さん。カーテンを閉めてくれんかね! (ボーイ閉める)
バーブッシュ 大体飲み込めただろう?
ムルク 準備怠りなしだ。うちにはもう現れたのか?
バーブッシュ ああ、さっきな。
ムルク じゃ、ここへ来るな。
バーリケ ワインの瓶の後に隠れて何を企んでいるんだね? ここに来て立ちたまえ! 婚約を祝うんだ! (一同テーブルを囲んで座る)急げ! 疲れている暇なんてないぞ。
アンナ あの馬、ひーんといったわ! とても変だったわ! 舗道の真ん中で立ち止まってしまったの。
フリードリヒ、降りてみて、馬が走ろうとしないわ。見ると馬は舗道の真ん中で立ったまま、震えてるの。
すぐりみたいにぎょろっとした目をしているの。フリードリヒがステッキで目を突付くと、馬は跳ね上がったわ。サーカスみたいだった。
バーリケ 時は金なりだ。ここは恐ろしく暑いな。また汗をかいちまった。今日はもうワイシャツ一枚汗まみれにしちまっているんだ。
バーリケ夫人 そんなに汗をかいていたら、シャツで身代を潰して乞食になるわよ!
バーブッシュ (ポケットから乾し杏を取り出して食べる)今は杏一ポンドが十マルクだ。そうだな、物価についての記事を書くかな。それから杏を買えばいいわけだ。
世界が破滅するようなことになっても、僕はその記事を書くね。でも他の連中はどうすればいいのかね? 僕はティーアガルテン地区が吹っ飛んで消えても泰然自若としているが、でも君たちはどうだ?
バーリケ 三週間後だ。結婚式は三週間後だ、ふーっ。天地神明に誓ったぞ。賛成だね? 皆賛成だろ? さあそれじゃ始めた始めた、婚約のお二人!
(一同グラスを合わせる。ドアがさっと開く。クラーグラーが戸口に立っている。風が蝋燭の火を煽り辺りが暗くなる)
バーリケ おや、なぜグラスを持って震えているんだ? お母さんもお前も、アンナ?
(アンナ、ドアに向って座っているので、クラーグラーをもう見てしまったのだ。彼女はじっと彼を見つめる)
バーリケ夫人 どうしたっていうの、急にがっくりしたりして?
ムルク 何て風だ?
クラーグラー (しゃがれた声で)アンナ!
(アンナ、低い叫びをあげる。そこで一同はそちらに目を向け、激しく立ち上がったり飛び上がったりする。大混乱になる。以下の台詞は同時に)
バーリケ 畜生! (ワインを咽喉に流し込む)幽霊だぞ、母さん!
バーリケ夫人 神様! クラー……
ムルク 放り出せ! 放り出せ!
しかし辛そうにアンナの方へ向う。アンナだけは、顔の前に震える手でグラスを持ったままただ座っている。
彼はアンナの手からグラスを取り、テーブルに寄り掛かり、じっとアンナを見据える)
バーリケ こいつ、酔っ払っていやがる。
ムルク ボーイさん! 秩序撹乱者だ! 放り出せ! (壁沿いに走りながらカーテンを引き開ける。月が見える)
バーブッシュ 気を付けろ! 奴のシャツの下はまだ生身だぞ! 肉体が奴を苛んでいる。触っちゃいけない!
(ステッキでテーブルを叩く)スキャンダルを起こさないようにしましょう! みんな静かに出て行きましょう! 整然と出て行きましょう!
アンナ (その間にテーブルを逃げ出して母親にしがみつく)ママ、助けて!
(クラーグラー、テーブルを回ってよろめきながらアンナの方に向う)
バーリケ夫人 (この後の台詞は同時に発せられる)娘を生かしておいてやって! 監獄行きだよ、あんたは! どうしよう、娘を殺してしまうよ!
バーリケ (離れた所で、居丈高になって)酔っ払っているのかい? 素寒貧め! アナーキスト!
前線帰りめ! 君は海賊だ! 乾し葡萄の幽霊だ! ベッドのシーツも持っていないだろう!
バーブッシュ 卒中にでも見舞われたなら、あの男が娘さんと結婚してしまいますよ。口をつぐんでらっしゃい!
ここでは苦しんでいる者は彼なんです! あなた方は出て行った方がいい! 彼は演説をぶってもいいんだ。その権利はある。
(バーリケ夫人に)あんたには情ってものがないんですか? 彼は四年も外地にいた。情があるかないかという問題ですよ。
バーブッシュ (ムルクに)彼の顔を見てみたまえ! アンナはもう見たんだよ。昔は生気溌剌としていた! 今では腐ったなつめみたいだぞ! 恐がることは全くない! (二人は退場)
ムルク (出て行きながら)嫉妬しているなんて思わないでください、全然していないさ、へっ!
バーリケ (まだテーブルとドアの中間に、相当酩酊し、グラスを手に持ったまま、がに股で立っている。以下の出て行く間に次の台詞を言う)
ニグロは車裂きにしろ! くたばった象みたいな面をしやがって! 完全に壊れてるよ! 破廉恥野郎め!
(よろけて出て行く。今はドアの上手寄りに盆を両手に持ったボーイが立っているだけ。
グノーの“アヴェ・マリア”が聞こえる。明かりは陰陰滅滅と消えていく)
クラーグラー (しばらくして)頭の中が真っ白になったみたいだ、汗しか入っていない、物事がよく理解できない。
アンナ (蝋燭を一本手に取って、腰も定まらないが、彼の顔を照らす)お魚の餌食にはならなかったのね?
クラーグラー それはどういう意味だ、分からん。
アンナ 粉微塵に飛び散りもしなかったのね?
クラーグラー 何を言っているのか分からないよ。
アンナ 顔をぶち抜かれたりもしなかったのね?
クラーグラー なぜそんな顔で見るんだ? 俺の顔がそんなに変か? (静寂。彼は窓から外を見る)
老いさらばえた獣のように君の所に戻って来た。皮は鮫みたいで真っ黒だ。(静寂)昔は紅顔の少年だったのにな。(静寂)それから出血が始まった。とめどなく血が出て行く……
アンナ アンドレ!
クラーグラー そうなんだ。
アンナ (躊躇いながら彼の方に寄る)ああアンドレ、なぜこんなに長いこといなかったの? 大砲とサーベルで見張られていたの? もうあたしはあなたの胸に飛び込めないわ。
クラーグラー そんなにすぐに僕の体は消えてしまったのか?
草原に行けば楓の木の陰からあなたの呼ぶ声がした。あなたが顔を貫通されて、二日後に埋葬されたという通知が来ても信じなかった。
でもやっぱりいつか変わるのよ。外に出ても、人っ子一人いない。楓からは何も聞こえない。洗濯を終わって立ち上がると、水にあなたの顔が見えたわ。でも原っぱで洗濯物を乾かしていると見えなくなったの。
もうあなたの顔を思い出さなくなってから随分になるわ。でも待っていなくちゃいけなかったのね。
クラーグラー 写真があればよかったんだ。
アンナ 恐かったのよ。恐くても持っているべきだった。でも悪い私。手を離して、全部私が悪かったの。
クラーグラー (窓の方を見て)君の言っていることが分からない。多分赤い月のせいだったんだ。どういうことなのかよく考えてみなくちゃ。僕の手は膨らんでいる。水かきがついてるんだ。
人間らしくなくなって、飲んでいるとグラスを握り潰してしまうんだ。もう君の話し相手にもなれそうもない。野蛮人の言葉しか喋れないんだ。
アンナ そう。
クラーグラー 手を出してくれよ。僕が幽霊だと思っているのか? こっちへ来て手を差し出してくれよ。
アンナ この手でいいの?
クラーグラー 出してくれ。さあこれでもう幽霊じゃないぞ。また僕の顔が見えただろ? 鰐みたいな肌だろ? 目もよく見えない。塩水に浸かっていたからな。きっと赤い月のせいだ!
アンナ そうね。
クラーグラー 手を取ってくれよ。なぜ握り締めてくれないんだ? 顔を見せてくれ、酷いかい?
アンナ 駄目、駄目よ!
クラーグラー (彼女を掴む)アンナ! 車裂きにされるニグロ、それが俺だ! 咽喉には汚い言葉が詰まっている! 四年だ! こんな俺でもいいかい? アンナ!
(アンナを引っ張り回し、にやりと笑って、身を屈めてボーイをじっと見つめる)
ボーイ (落ち着きを取り戻し、盆を落としてしまい、どもりながら)大事なのは……彼女が……清らかな百合の花を……まだ持っているかと……
(ボーイは走り出て行ってしまう)ここにいなよ、君は小説の読みすぎだ! ぽろっと意味深長な言葉を言ってしまったんだ! 百合か! ショックだったんだよ! 百合ね! 凄く感じてしまったんだよ!
アンナ アンドレ!
クラーグラー (屈んで彼女を見つめる、もう彼女を離している)もう一度そういってごらん! あれは君自身の声なんだよ! (上手に走って行く)ボーイさん! 来いったら、畜生!
バーブッシュ (戸口に現れて)何て肉欲的な笑い声だ! “肉体の笑い”か! 具合はどうだね?
バーリケ夫人 (バーブッシュの後で)アンナ、お前は本当に心配の種だよ!
(隣の部屋ではかなり前から「ペルーの女」が演奏されている)
バーリケ (少ししらふに戻って、駆け込んで来る)座りたまえ! (カーテンを閉める。金属性の物音が聞こえる)
君は赤い月を背にして、バーブの新聞街の裏に隠した小銃も持っているな。話をつけようじゃないか。(彼はまた全ての蝋燭に火をつける)座りたまえ!
バーリケ夫人 何て顔をしているの? 私はまた足が震えてきたわ。ボーイさん! ボーイさん!
バーリケ ムルクはどこだ?
バーブッシュ フリードリヒ・ムルクはボストンを踊っていますよ。
バーリケ (声を落として)あいつを座らせてくれ! 座れば、少しは大人しくなる。座っていてはかっかとすることも出来んからな。
(大声で)みんな座るんだ! しゃんとしろ、アマーリエ! (クラーグラーに)頼むから、君も座ってくれ!
バーリケ夫人 (ボーイの盆からチェリーブランデーの瓶を取って)チェリーブランデーでも飲まなきゃ死んでしまうわ。(テーブルに持って戻って来る)
(バーリケ夫人、バーリケ、アンナは座る。バーブッシュは歩き回ってみんなを座らせていたが、今度はどうしようもなく立っていたクラーグラーを椅子に押し付ける)
(クラーグラー、また立ち上がる。バーブッシュは彼を押し付ける。今度は笑っている)
バーリケ 何がお望みなんだね、アンドレアス・クラーグラー?
バーリケ夫人 クラーグラーさん! 皇帝陛下は仰ったわ、嘆かずに、耐え難きを耐えよ、と!
アンナ 座ってってば!
バーリケ 黙っていろ! 奴に喋らせろ! 何をお望みかね?
バーブッシュ (立ち上がる)チェリーブランデーを一口どう? 喋りなさいよ!
アンナ よく考えるのよ、アンドレ! 考えてから言うのよ!
バーリケ夫人 私をこの上墓場に送り込むつもり? 黙っておいで! お前は何も分かっていないんだ!
クラーグラー (立ち上がろうとするがバーブッシュに押さえつけられる。大真面目に)そう訊ねられると、簡単には答えられない。
チェリーブランデーを飲む気はありませんよ。だって重大問題ですからね。
バーリケ 下らないことを言っているんじゃないよ! 望みを言ってみたまえ! 叩き出すのはそれからだ。
アンナ 駄目、駄目よ!
バーブッシュ 飲んでもらいたいな! 咽喉は渇いているんだろう。飲んだ方がいいよ、本当に!
(この瞬間にフリードリヒがマリーという娼婦を連れて下手から出て来る)
バーブッシュ 天才にだって許されないことはあるんだぜ。掛けたまえ!
バーリケ いいぞ、フリッツ! 君が男一匹だということを見せてやれ! フリッツは震えたりしないぞ。大いに楽しんでいる。(拍手する)
ムルク (陰鬱そう、もう大分飲んでいるが、マリーを置き去りにしてテーブルの方にやって来る)馬鹿げた茶番はまだ終わっていないのか?
バーリケ (彼を引っ張って椅子に座らせて)黙ってろ!
バーブッシュ さあ続けた、クラーグラー! こんなのに構うな!
クラーグラー こいつの耳は潰れている。
アンナ やくざっぽい仕事をしていたのよ。
ムルク 頭に腫瘍でも出来てるんだろう。
クラーグラー 奴には出て行ってもらおう!
ムルク やたらと頭を殴られたせいだ。
クラーグラー 自分の喋ることに気をつけていなきゃ。
ムルク だから頭の中身はぐちゃぐちゃだろう。
クラーグラー そうさ、頭を殴られたよ。俺は四年外地にいた。手紙一つ書けなかった。脳味噌は空っぽになった。
(静寂)四年も経ったんだ、気をつけなきゃいけないぞ。君は僕だと見分けがつかなかっただろう、まだ動揺しているし感じがつかめないんだ。でも僕は喋りすぎのようだな。
バーリケ夫人 あの人の脳味噌は干上がってしまったのよ。(首を振る)
バーリケ 酷い目にあったわけだな? 皇帝と帝国のために戦ったのか? お気の毒なことだ。何がお望みだね?
バーリケ夫人 そして皇帝は仰ったのよ、苦しくとも強くあれと、これをお飲みなさい! (チェリーブランデーの瓶を彼の方に押しやる)
バーリケ (飲みながら、しつこく)あんたは砲煙弾雨の中に立っていたのか? 鋼鉄のように? 立派だよ。
我が軍は凄いことをやってのけた。笑って壮烈な戦死を遂げたんだからな。飲みたまえ! 何がお望みかね? (彼に煙草の箱を差し出す)
アンナ アンドレ! あなたは他に軍服は支給されなかったの? まだその古い青いのを着ているの? もうその服は着なくなったのよ!
バーリケ 銃後にいた我々も怠けていたわけじゃないぞ。さあ、望みは何だね? 君は一文無しなんだろう?
往来で寝ているのか? 祖国は君らみたいな帰還兵に商売用の手回しオルガンを貸与してくれるか?
そうはしてくれない。こんな状況があっちゃならないんだ。望みは何だね?
バーリケ夫人 安心しなさい、オルガンを引っ張って街を歩くようなことはさせないよ!
アンナ 「闇をついて嵐はたけり、海は荒れ狂う」ってわけ!
クラーグラー (立ち上がっている)僕はここでは場違いのような気がするから、それでお願いする、心の底から、一緒にここを出て行こう。
バーリケ 何て戯言だ? 何と言った? 心の底からだと? 一緒にだと? 何て言い種だ!
(他の連中は笑う)
クラーグラー 権利なんて持っている人間はいないから……君なしでは生きていられないから……だから心の底から。(哄笑)
ムルク (両足をテーブルに載せ、冷ややかに、悪意を込めて、酔ったまま)完全に水の底まで沈んだな。釣り上げられたんだ。口には泥が詰まっていただろう。
俺のこの靴を見ろよ! 昔はあんたみたいなどた靴を履いていた! 俺みたいなのを買ってみろよ!
それで出直して来い! 自分が何者か分かっているのか?
マリー (突然に)あんた、軍隊に行ってた?
ボーイ あなた、軍隊に行っていましたか?
ムルク 口に蓋をしておけ! (クラーグラーに)ローラーにひき潰されたのか? ローラーに轢かれた奴はたくさんいるぜ。
いいじゃないか。ローラーを動かしたのは俺たちじゃない。あんたはもう顔がなくなったのか? え?
一つ譲ってほしいか? 三人がかりで顔を取り付けてやろうか?
俺たちのためにそんなに落ちぶれてくれたんだろう? 自分が何者かまだ分かっていないのか?
バーブッシュ 静かにしたらどうだ!
ムルク いいや。俺は君らの英雄的行為の支払いをする側の人間だ。ローラーは壊れたよ。
バーブッシュ 下らない長話は止めたまえ! 胸が悪くなるよ!
ともかく君は大儲けしたんだろう、違うか? 自分の靴のことなんか持ち出すな!
バーリケ いいかね、そこが肝心な所だよ! そこに問題が潜んでいる。決して長話ではないんだ。
これこそ、リアル・ポリティクスってものだ。わが国に欠けているのはこれなんだ。全く簡単な話さ。
君には奥さんを養える資力があるのか? 指の間にもう水かきが出来てしまってるんじゃないか?
バーリケ夫人 聞いたかい、アンナ? 彼は一文無しなのよ!
ムルク こいつにおふくろがいるなら、そいつと結婚してやりたいよ(乱暴に立ち上がって)こいつはただの結婚詐欺師じゃないか。
ボーイ (クラーグラーに)何か言ってやりなさいよ! 喋りなさいよ!
クラーグラー (立ち上がっているが、身震いしながら、アンナに)何を言ったらいいか分からない。
僕らが骨と皮みたいに痩せてしまっていた頃、火酒でもひかっけていなきゃ、道路の舗装工事にも行けなかったが、
あの頃俺たちの持ち物は夜の空だけってことが度々あったな。これはとても大事なことだぜ、
だって僕は君と四月に茂みの中で横になっていた時もそうだった。そのことは他の奴らにも話したが、でも奴らは蝿みたいにばたばたくたばってしまった。
アンナ 馬みたいに、じゃない?
クラーグラー 凄い暑さでやたらと酒をあおったからな。でも何で君に夜の空の話ばかりしているんだろう、そんな気はなかったんだ、どうしてだろう……
アンナ いつも私のことを思っていた?
バーリケ夫人 この男の喋るのを聞いた? まるで子供みたい! 聞いてるだけで、恥ずかしくなってくるよ!
バーブッシュ 話を続けたまえ、クラーグラー。まさにそれでいいんだよ。
クラーグラー 僕らにはもう肌につけるシャツもなかった。これは、言っておくけど、最悪のことだ。これが最悪だってこと、分かるかな?
アンナ アンドレ、しっかり聞いてるわよ!
ムルク いっそ六十マルク出そう。売りなさい!
クラーグラー そうか、僕のことで恥ずかしく思ってくれてるんだね? 他の奴らはサーカスみたいに、四方から取り囲んで見ているので、
真ん中にいる象は不安になって小便を洩らすんじゃないか? 他の奴らは何も分かっていないんだ。
ムルク 八十マルク!
クラーグラー 俺は海賊じゃないぞ。赤い月は俺と関係ない! ただ目が上げられないだけなんだ。
おれは生身の人間だし新しいシャツを着てやるぞ。幽霊じゃないんだから!
ムルク (飛び上がって)じゃあ百マルクだ!
マリー 恥ずかしくないの、引っ込んでいるがいい!
ムルク この豚野郎、百マルクでも靴を売ろうとしない!
クラーグラー アンナ、誰かが何か言っているな。何の声だ?
ムルク あんたは日射病にかかってるんだ! 一人で出て行けるのか?
クラーグラー アンナ、踏みにじってはいけない、と言っているみたいだ。
ムルク そろそろ素顔を見せたらどうだ?
クラーグラー アンナ、俺の顔だって神様の作ったものだ。
ムルク 違うんじゃないか? 一体何の用なんだ? あんたは死骸じゃないか! もう臭い始めている! (鼻をつまむ)
清潔感ってものを持ち合わせていないのか? アフリカの太陽に飲み込まれたから、神殿に祭ってくれとでも言うのか?
俺だって働いてきたんだ! 靴の中に血のたまるほどの苦役をやってきた! 俺の両手を見てくれ! 君の人から殴られる身だから、親近感を覚えるだろう、
俺は君を殴る側にはいなかった! 君は英雄、俺は労働者! そしてこれが俺の許婚だ。
クラーグラー こいつの面からは何も読めない。猥褻な落書きがしてある便所の壁みたいだ! 壁そのものの罪じゃない! アンナ、こいつを愛してるのか、こいつが好きか?
(アンナ、笑って飲む)
バーブッシュ 角を矯めて牛を殺すような真似はよせ、クラーグラー!
クラーグラー むかついて奴のいぼを噛み切ってやるだけさ! こいつが好きなのか? 熟れてないくるみみたいな顔をしたこの青二才が? こんな奴のせいで僕を追い払う気か?
イギリス仕立ての服を着て、紙を詰め込んだ胸を張って、靴に血の溜まった野郎。僕は虫食いの古着しかない。服がぼろいから結婚できないんだと言ってくれ、そう言ってくれ! その方がいいんだ!
バーブッシュ 座れったら! 畜生! さあ勝手にやれ!
マリー (手を叩く)この男よ! 一緒に踊ったけど、膝であたしのお腹を突付くのであたしは恥ずかしくなったわ!
ムルク 黙っていろ! 君を見れば分かるぞ! 靴の中にナイフか何かを隠していて、それで俺の咽喉をかき切る気じゃないか? アフリカで変な脳炎にかかってるらしいからな。
ナイフを出せよ、俺はもううんざりしているんだ、咽喉をやりたきゃやってくれ!
バーリケ夫人 アンナ、よく聞いていられるね!
バーリケ ボーイ、チェリーブランデー四杯! もう勝手にしろだ!
ムルク 気をつけて、ナイフを抜いちゃいけません! ここで英雄気取りの振る舞いなんかしないように落ち着いて! ここから刑務所行きになりますよ!
マリー あんたは軍隊に行ってたの?
ムルク (狂ったようにグラスを彼女にぶつける)なぜお前はいらなかったんだ?
クラーグラー 今俺は帰って来た。
ムルク 誰もあんたを呼んじゃいない。
クラーグラー 今ここに来ている。
ムルク 豚め!
アンナ 大人しくして。
(クラーグラー、身を屈める)
クラーグラー (小声で)こそ泥!
ムルク 幽霊!
クラーグラー 気を付けろ!
ムルク ナイフに用心して! むずむずしますか? 幽霊! 幽霊! 幽霊!
マリー あんたは助平よ! 助平!
クラーグラー アンナ! アンナ! 何をしてるんだ、俺は? 死体で溢れた海を見下ろして眩暈がしたが、俺は溺死しなかった。真っ暗な家畜貨物車で南に輸送されても平気だった。ボイラーの炎で焼かれたが、自分がもっと熱い火になった。
灼熱の太陽で発狂した奴がいた、でも俺じゃなかった。二人が組み合ったまま水の溜まった穴に墜落した、俺はそのまま眠り続けていたよ。俺はニグロを射った。草を食った。俺は幽霊だ。
(この瞬間にボーイが窓辺に駆けて行って窓を弾き開ける。音楽が急に止まる。
「奴らが来るぞ! 静かに!」などと興奮した叫び声が聞こえる。
ボーイは全ての蝋燭の火を吹き消す。その後外から「インターナショナル」が聞こえる)
一人の男 (下手の戸口に現れて)皆さん、落ち着いてください。この店を出ないようにお願いします。
暴動が発生しました。新聞街で戦闘が行われています。状況は予断を許しません。
バーリケ (辛そうに笑って)赤どもだ! 君の親友だろう、アンドレアス・クラーグラー! 君のあやしげな仲間だ!
新聞街で喚き立て、殺人放火の臭いを撒き散らしている同志たちは。けだものさ! (静寂)けだもの、けだものだ! なぜけだものかって、肉を食うからだ! お前らはみんな根絶やしにしてやるぞ。
ボーイ お前らにか! 食い過ぎ太鼓腹のお前らにか!
ムルク ナイフはどこにやった! 抜くといいぞ!
マリー (ボーイと彼の方に突進する)静かに!
ボーイ こいつは人間じゃない! まさにけだものだよ!
ムルク カーテンを閉めろ! 幽霊!
クラーグラー これは俺の手で、これは俺の動脈だ。ぶった切れよ! 俺でもくたばる時は血が流れるだろうぜ。
ムルク 幽霊! 幽霊め! お前は一体何者なんだ? 俺にこそこそ逃げ出せっていうのか、お前がアフリカの皮をまとって、新聞街で喚き立てたくらいでか?
お前がアフリカにやられたのは俺のせいじゃないだろう? 俺がアフリカにやられなかったのも俺のせいじゃない。
ボーイ 彼は女を取り戻すべきだ! こんな非人間的なことってあるもんか。
バーリケ夫人 (アンナの前で狂ったように)この連中はみん病気だ! みんなどこかが悪いのよ! 梅毒だ! 梅毒だよ! みんな梅毒持ちだ!
バーブッシュ (ステッキでテーブルを叩いて)これで底抜けの騒ぎになるぞ!
バーリケ夫人 うちの子をそっとしておいてちょうだい! あんた、放っておいてよ! ハイエナだよ、あんたは! 豚だよ、あんたは!
アンナ アンドレ、私、嫌よ! みんなが私を目茶目茶にしてしまうわ!
マリー あんたこそ豚だよ!
ボーイ 人間的じゃないよ。権利ってものは誰にでもあるはずだ。
バーリケ夫人 お黙り! 下男風情が! この悪党、私はチェリーブランデーを注文したんだよ、いいか! とっとと出て行け!
ボーイ 人間的な問題だ! 俺たち全部に関係がある! 彼は自分の妻を絶対手に……
クラーグラー 出て行けよ! もうたくさんだ! 何が人間的だ! この酔っ払った婆さんはどうしたいというんだ!
俺はずっと一人だった、それで女房が必要なんだ。この泣きべそ大天使は何がお望みなんだ!
この娘の下半身をコーヒーみたいに一ポンドいくらで切り売りするつもりか? 彼女を俺からフックをかけて引き裂こうとしても、彼女の体が引き裂けるだけだぞ!
ボーイ もう彼女を八つ裂きにしているよ!
マリー そうよ、コーヒーの切り売りだよ!
バーリケ そうとも、びた一文持ってないさ。
ムルク (アンナに)なんでそんな吐いたミルクのような顔をして、こんな野郎の目で舐られているんだ?
まるでいらくさにおしっこを引っ掛けたときみたいな顔をしてさ?
バーリケ 自分の許婚に向ってそんなことを言うのか!
ムルク 許婚! そうなのか! 僕の許婚ですか? もう切れたんじゃないですか? あいつがまた登場したので。
奴を愛してるんだろう? 青二才は退場だろう? どうやらアフリカの逞しい股が欲しくてむずむずするらしいな? 風向きはそっちになったな?
バーブッシュ 座っていればそんな戯言は言わなかっただろう!
アンナ (だんだんクラーグラーの方に寄って行って、ムルクを軽蔑するように眺めて、小声で)あんたはべろべろよ。
ムルク (アンナを乱暴に引き寄せて)面を見せてみな! 歯をむき出すんだ! 淫売!
(クラーグラーはムルクをあっさり抱えあげる。テーブルの上のグラスがガチャガチャいう。マリーは拍手し続けている)
マリー 一発食らわせな、一発!
クラーグラー こいつは寝かせておけ! 来いよ、アンナ! 今は君が欲しい! こいつは俺の靴を買おうとしやがった!
でも俺は上着を脱ぐんだ。俺の肌を氷雨が通って行ったので、肌は真っ赤になった、それから太陽が肌をひび割れにした。
俺の体は空っぽだ、びた一文持っていない。君が欲しい、俺は今の今まで腑抜けだった、でもこうやって飲めば(飲む)さあ出かけようぜ、来いよ!
ムルク (すっかりへたばっていたが、腕をだらりと下げてクラーグラーに、ほとんど穏やかに言う)飲んじゃいけませんよ! まだ知らないことがあるんだ! これで終わりにしましょう。
さっきは酔っ払っていました。でもあなたはまだ全部知っちゃいないんです。アンナ、言ってあげろ、どうする気なんだ? 君の今の状態で?
ボーイ ブラヴォー!
バーリケ夫人 この悪党!
クラーグラー 良心をもっている奴の頭には鳥が糞を引っ掛ける。忍耐なんかしている奴は終いには禿鷹に食われてしまうさ。無理して苦労したって意味ないぜ。
アンナ (突然走り出し、テーブル越しに倒れかかる)アンドレ、助けて! 助けて、アンドレ!
マリー あなたはどうしたの? どうしたの?
クラーグラー (びっくりして彼女の方を見て)どうした?
アンナ アンドレ、分からないの、私は酷く惨めな気分なの! あんたに何も言えないの、あんたも聞かないで。
(見上げる)私はあんたのものにはなれないの。理由は神様に聞いて。
(クラーグラーはグラスを落とす)それでお願いしたいの、アンドレ、出て行ってちょうだい。
(静寂。隣の部屋でさっきの男が「何かあったんですか」と訊ねているのが聞こえる。ボーイは下手ドアから男のいる外に向って答えている)
ボーイ アフリカ帰りの鰐の肌をした恋人が四年待っていたんです、許婚はまだ百合を手に持っています。
でもボタン付きの靴を履いたもう一人の恋人は彼女を離そうとしないんです。それでまだ百合を手に持っている許婚はどっちについて行ったらいいか分からないのです。
声 それだけのことか?
ボーイ 新聞街の革命も一役買っているようです、それに許婚には秘密があるんですが、それを四年待っていたアフリカ帰りの男は知らないようです。
声 で、まだ決着はついていないのか?
ボーイ まだ全然ついていません。
(クラーグラーに向って)あんたも聞いたかね? 満足したかね? 喋るんじゃない! 太陽は熱かったんだろ、え?
歴史の本に載るだろう。でも会計帳簿には載らないぞ。だから英雄はまたアフリカに戻るといいよ。以上終わり。ボーイ、そこの奴を連れ出してくれ!
(ボーイはクラーグラーを引っ張って行く、クラーグラーはのろのろと辛そうについて行く、その右側に娼婦のマリーが寄り添って行く)
バーリケ 猿芝居だ! (辺りが静かすぎるので、クラーグラーの後から叫ぶ)肉が欲しかったか? ここじゃ肉の競売はしてないよ! その赤い月の話はしまって余所へ持って行って、
君の仲間のチンパンジーどもにでもぶってやるんだな。なつめやしの木なんて俺の知ったことか! 大体あんたは大衆小説の登場人物さ。あんたの出生証明書はあるのか? (クラーグラーは消えている)
バーリケ夫人 精一杯怒鳴っているがいい! あらお前、グラスなんか持って、チェリーブランデーをそっとテーブルの下に隠れて飲もうっていうの?
バーリケ この娘は何て顔色だ? 全く血の気がない!
バーリケ夫人 あ、駄目よお前、ほら、この子を見て! お前、何てことを考えたの、いくらなんでもそれは酷いよ!
(アンナはテーブルの陰で、身動きもせず、ほとんどカーテンに隠れるくらいに座って、悪意を込めた表情、自分の前にグラスが置いてある)
ムルク (グラスを掴み、匂いをかぐ)胡椒だ、畜生! (アンナは彼から嘲笑するようにグラスを取り返す)
ああ、そうか! 酷いことだ、胡椒で子供を降ろそうとしたんだな? それできかなければ熱い熱湯か?
全く目が離せやしない! 何て悪女だ! (唾を吐き、グラスを床に叩きつける)
(アンナは微笑む。機関銃の音が聞こえてくる)
バーブッシュ (窓辺で)始まったぞ、大衆蜂起だ、連中が立ち上がった。殺戮が進行するぞ。
(一同硬直したように立ったまま、外に耳を澄ます)
(新聞街への道中。兵営の赤レンガの壁が下手前から上手奥に向って走る。背後は都会の薄汚れた星空。夜。風)
マリー どっちへ行くつもり?
クラーグラー (帽子はかぶらず、上着の襟を立て、両手をポケットに突っ込んで、口笛を吹きながら)月が赤いなつめみたいだな?
マリー そんなに急がないでよ!
クラーグラー ついて来れないか?
マリー 誰か追いかけてきそうな気がするの?
クラーグラー 俺を相手に商売やるか? 君の部屋はどこだ?
マリー でもよくないわよ。
クラーグラー そうかい。(先を急ごうとする)
マリー 私、肺病病みなの。
クラーグラー なぜ犬みたいについて来るんだ?
マリー だってあんた、許婚が……
クラーグラー よせ、もうそれは綺麗さっぱり水に流して忘れてしまうから!
マリー じゃあ明日の朝まで何をしているつもり?
クラーグラー ナイフがあるからな。
マリー 物騒だわ。
クラーグラー 驚くな、君が叫んだりするのは聞きたくない、火酒があるよ。どうしてもらいたい? 君が楽しいなら、笑ってみようか? どうなんだ、君は成人式も済まないうちに転がされちゃったのか、階段に押し倒されて?
忘れちまいな! 煙草を吸うか? (彼は笑う)さあ、行こうじゃないか!
マリー 新聞街では撃ち合いが始まっているわ。
クラーグラー 俺たちの手も借りたがっているかもしれないな。(二人退場)
(風。同じ方向から二人の男)
男二 この先でできるかどうか分かりませんからな……
男一 大砲だ。
男二 何てこった! フリードリヒ街だ!
男一 あんたがメチルを混ぜた酒を売っていたところだ。
男二 あの月を見ているだけで気が変になってきますよ!
男一 あやしげな煙草を闇で売ってた人ならね!
男二 確かに煙草の闇売りはしていましたよ! でもあんたは人間を鼠の穴みたいな所に詰め込んで働かせていたじゃないですか!
男一 今更そんなことを言っても遅いですよ!
男二 首吊り縄にぶら下げられるときはあんたも一緒ですよ!
男一 連中のやり口をご存知ですか? 手を見せろ! たこがないな! ばんばんってわけ。(男二、手を眺める)ばんばん。もう死体の臭いがしているでしょう!
男二 よしてくれ!
男一 山高帽をかぶっているあんたが家まで帰りつけたら、よっぽど運がいい!
男二 あんただって山高帽を!
男一 でも真中に割れ目がありますよ、君。
男二 ぽんと叩いて中折れ帽に出来ますよ。
男一 あんたの糊のきいたカラーは、石鹸を塗りこんだ首吊り縄より始末が悪い。
男二 もうカラーは汗でくたくたになっています。あなたはボタン付きの靴をお履きだ!
男一 それにあんたの太鼓腹!
男二 あんたの声!
男一 その目つき! 歩き方! 風采!
男二 確かにそれで私は街灯に吊るされることになるでしょう、でもあんたは中等教育を受けた人の顔ですよ!
男一 私の耳は貫通銃瘡をうけて潰れてますよ。君!
男二 畜生! (二人退場)
彼女に並んでピカデリーバーのボーイ、マンケが、帽子をかぶらず、フロック型の外套を着ている。彼は泥酔したような感じ。
二人の後から酔っ払ったムルクを引きずったバーブッシュ、蒼褪め顔がむくんでいる)
マンケ 忘れなさい! 彼は行っちまった! 消えちゃったんだ! 新聞街が彼を飲み込んだ! そこら中で撃ち合いだ、新聞社では何が起こるか分からないよ、今夜はね、彼は撃ち殺されるかもしれない。
(泥酔したようにアンナの説得を続けながら)撃ち合いになったら、逃げることもできるが、逃げおおせられないこともある。
いずれにせよ、一時間すれば彼は見つかりっこなくなる、水に落ちた紙切れみたいに消えてしまう。
彼は頭に月が浮かんでるから、太鼓の鳴っている方に突進していくよ。行け行け! 彼を救うんだ、あんたの恋人だった彼、いや、今でもそうだ。
バーブッシュ (アンナの行く手をさえぎって)止まれ、ワルキューレのご連中! どこへ行く気だ、寒空で風も強い、彼はどこかの飲み屋に沈没しているよ。
(ボーイの真似をして)四年も待っていた彼、その彼をもう誰も見つけられない。
ムルク 誰もな、誰一人さ。(彼は石畳に座る)
バーブッシュ こいつのざまを見てみろよ!
マンケ こんな奴、俺の知ったことか! 彼にコートを持って行ってやりなさい! 四年間待っていた彼は今、空を流れていく雲よりも早く走っている! この雲が消えるよりも早く消えてしまう!
ムルク (感情をまったく入れないで)ポンチ酒は着色剤を混ぜた代物だった。それが全て準備万端整った今になって分かるとは。支度もすっかり済み、部屋も借りたのに。おいこっちへ来てくれ、バーブ!
マンケ なぜロトの妻のように突っ立っているんですか? ここはゴモラの町ではありませんよ!
酔っ払った惨めなざまに感心しているんですか? 他のことは考えられないんですか?
結婚準備か? それで消えていく雲のことは後回しですか?
バーブッシュ 君に何のかかわりがあるんだ? 雲がどうしたっていうんだ? ボーイの分際で?
(自分の首を掴む)俺だって片付けられてしまう。首を掴まれてな! 人間が一人かき消されようっていう時に、つまらないことにかかずらっていられない。
バーブッシュ 何だと? かき消される? どこで? よく聞け、夜が明ける前に新聞街で牡牛のような叫びがあがるだろうさ。
それは、今こそ昔のつけを取り返すとほざいているごろつきどものことだ。
ムルク (立ち上がっている。めそめそと)なぜこんな風の中を引っ張り回すんだ! 酷く吐き気がする。なぜどんどん走っていくんだ? なぜなんだ? 俺は君が必要なんだ! 結婚支度のせいじゃない。
アンナ 駄目なのよ。
ムルク 俺はもう立っていられない。
マンケ 座れよ! お前一人じゃないよ! 親父は卒中の発作を起こし、酔っ払ったおふくろカンガルーは泣いている。でも娘は新聞街に行く気だ。四年間待っていた恋人のもとへ。
アンナ 駄目だわ。
ムルク 新婚の肌着も揃えただろう。家具も部屋に入れた。
マンケ 肌着は畳んで支度は済んだ、でも花嫁は来ない。
アンナ 肌着もシーツも買って箪笥にしまったわ、一枚ずつ、でももう必要ない。部屋も借り、カーテンもかけ、壁紙だって張ったわ。でもやってきたのよ、靴も履かず上着一枚の彼が。上着は虫食いだらけだった。
マンケ そして新聞街は彼を飲み込んでしまう! 彼を待っているのはあやしげな飲み屋! 今夜だ! 悲惨だな! たむろするごろつきども! 彼を救いなさい!
バーブッシュ みんな芝居だよ、題して「波止場の飲み屋の天使」
マンケ そうさ、天使だよ!
ムルク 君はやっぱり行く気か? フリードリヒ街へ? 引き留めるものは何もないのか?
アンナ ないと思うわ。
ムルク 何もないのか? 「あれ」のことは考えないのか?
アンナ ええ、もう欲しくないわ。
ムルク 「あれ」はもう欲しくないのか?
ムルク 引き留める力はないんだな?
アンナ 綱は切れたのよ!
ムルク 君の子供はどうでもいいのか?
アンナ どうでもいいわ。
ムルク 上着も着ない奴が現れたからか?
アンナ 彼だと分からなかったわ!
ムルク 昔の彼じゃなかった! 君の知らない男だ!
アンナ 彼は獣のようにみんなの中に立ったわ。そしてあんたたちが彼を殴ったのよ、獣を殴るように!
ムルク 殴られて老いぼれ女のように泣き喚いたぜ!
アンナ 女のように泣いたわ。
ムルク それからずらかった、君を置き去りにして!
アンナ 行ってしまったわ、私を置き去りにして!
ムルク 奴はもうお終いだよ!
アンナ あの人はもうお終い!
ムルク 行ってしまったぜ……
アンナ でも行ってしまって、彼がもうお終いと決まった時……
ムルク あとには何も残っていない、痕跡もない。
アンナ 彼の後から太鼓の連打が聞こえ、一陣の風が巻き起こり、どんどん強くなっていって何もかも巻き込みそうな勢い、私は出て行ってここに来た、あんたもあたしも彼もみんなお終いよ。だって彼はどこに行ってしまったの?
行方は誰にも分からないでしょ? 世界はこんなに広い、そのどこに彼はいるの? (彼女は静かにマンケを見上げて小声で言う)済みませんけど、あなたのバーに戻って、彼を連れて行ってくださいな!
でもバーブ、あなたは私と一緒に来てね! (上手に駆けて行く)
ムルク (泣き喚いて)彼女はどこに行ってしまったんだ?
バーブッシュ これでワルキューレの騎行のご一行は散り散りだよ、みんな。
マンケ 恋する男は消えてしまった、だが恋する女は愛の翼に乗って追いかける。ヒーローは破滅させられたが、昇天の準備は出来ている。
バーブッシュ でも男は恋する女を溝にぶち込んで、地獄行きを選ぶだろう。君は全くロマンティックだな!
マンケ 新聞街に急ぐ彼女は消えて行く。まだ姿は見える、白い帆のようだ、理想のごとく、消えていく詩節のごとく、水面を飛ぶ酔いしれた野郎をどうしようか?
子供のことは知らないんだから。彼女を追いかけさせておくさ。奴もこぶ付きは引き取らないだろうぜ。
別れた彼女は一人だったが、今奴を追いかけている彼女は腹の子を足すと二人だ。(笑う)
バーブッシュ やあ、彼女は本当に消えて行く詩のように消えてしまったぞ! (どかどか追いかけていく)
マンケ (彼の後から叫ぶ)グルップの居酒屋だ、ショセー街だよ! 彼について行った淫売はそこが根城だ!
(大げさに両腕を広げて)革命が二人を飲み込む、二人は再会するだろうか?
(小さな居酒屋。居酒屋の亭主グルップ、白い服でギターを弾きながら「死んだ兵士の大道歌」を歌っている。
ラールと素性の知れぬ酔っ払い男が彼の指先をじっと見ている。ブルトロッターという角張った顔の男は新聞を読んでいる。
ボーイのマンケはピカデリーバーのマンケの兄弟だが、淫売のアウグステと飲んでいる。みんな煙草を吸っている)
ブルトロッター 俺は火酒が欲しいんで死んだ兵隊は要らないよ、新聞を読みたいし、読むのに火酒が要る、
飲みながらじゃないと新聞が分からないじゃないか、畜生!
グルップ (冷たいガラスのような声で)あんたら居心地が悪いのか?
ブルトロッター ああ、でも革命が起こったようだな。
グルップ その必要があるかね? 俺の店では、屑野郎は居心地がいいし、癩者ラザルスは歌っている。
酔っ払い 俺が屑でお前がラザルスってわけだな。
労働者 (入って来てスタンドに行く)ちわ、カール。
グルップ 急ぎか?
労働者 十一時にハウスフォークタイ広場だ。
グルップ いろんな噂が飛んでいる。
労働者 アンハルト駅には六時から近衛狙撃兵師団が陣取っている。「前進」社はまだ大丈夫だ。
今日はお前の所のパウルの手が要りそうだ、カール。
(静寂)
マンケ ここじゃ日頃はパウルの名は口にしないもんだ。
労働者 (金を払う)今日は異常事態だ。(退場)
マンケ (グルップに)じゃあ十一月は異常じゃなかったのか? あんたも銃を手に取って、銃が指にまとわりつく感じを知るといいな。
ブルトロッター 自由だよ! (上着とカラーを取る)
グルップ シャツだけの格好で飲むのは法律で禁じられていますよ。
ブルトロッター 反動的だ。
マンケ 奴らはインターナショナルの稽古をしている、四重唱のトレモロ付きでな! 自由か! そうなったら清潔なカフスをつけている奴は便所掃除をさせられることになるのか?
グルップ テーブルの大理石板を叩き壊すな、これは木製なんだよ。
アウグステ 真っ白な袖をつけている奴らには便所掃除をやらせるべきだろう?
ブルトロッター お前なんか銃殺だ、こいつ!
アウグステ 真っ白な袖口をつけた紳士連には尻と尻でお繋がりになってもらいたいよ。
マンケ アウグステ、お前、品がないなあ。
アウグステ お前たち助平どもこそ恥じるがいい、お前たちなんか腸を引きずり出されて、それに吊るされるといいんだ、街灯に吊るされるがいい。白いカフスなんかしやがって、
姐さん、お安くしてくれよ、戦争に負けたんだから! とくる。金がない時は色気は慎めばいいんだ、勝てないくせに戦争なんかやるなよ!
女性の前じゃその足を下ろしたらどうなの! あんたの汗臭い足を嗅げっていうのかい、この悪党!
グルップ こいつの袖口は白くないぞ。
酔っ払い ごろごろいっているのは何の音だ?
マンケ 大砲さ!
酔っ払い (蒼褪めて他の連中ににやりと笑いかける)がちゃがちゃいってるのは何だ?
(グルップは窓辺に駆け寄り、窓を引き開ける、通りを大砲が通過する音が聞こえる。みんな窓辺に立つ)
ブルトロッター あれは近衛連隊だ。
アウグステ 大変だ、どこへ行くんだろう?
グルップ 新聞社さ、間抜け! 新聞を読みにいくんだとよ! (彼は窓を閉める)
アウグステ あらまあ、戸口に立っているのは誰?
(クラーグラーは泥酔したようにふらふらし、足を軸に旋回するような感じで戸口に立っている)
マンケ 戸口で卵でも産むつもりなんですか?
アウグステ あんた誰?
クラーグラー (意地悪くにやりと笑って)誰でもないよ!
酔っ払い 下痢でもしてるのか?
クラーグラー いいや、下痢はしてないよ。
マンケ (横切って彼の方へ行く)それじゃあ聞くが、何を食ったんだ、お若いの。この手の面はよく知っているよ。
マリー (彼の後から姿を現して)何も食っちゃいないよ。私がこの人を誘ったんだよ。
アウグステ、この人ねぐらがないのよ。アフリカにやられたんだ。座りなさいよ。
(クラーグラーは戸口に立ったまま)
マンケ 捕虜だったのか?
マリー そう、それで行方不明にされてたの。
アウグステ 行方不明にまでされたの?
マリー 捕虜になってたの。その間に許婚を盗まれちゃったのよ。
アウグステ じゃあママの所においで。お座りよ、砲兵さん。(グルップに)チェリーブランデーのダブル五つ、カール!
(グルップは五杯注ぐ。マンケがそれをテーブルに置く)
グルップ 先週俺は自転車を盗まれたぜ。
(クラーグラー、テーブルの方へ行く)
アウグステ アフリカの話をして!
(クラーグラー、答えはしないが、酒は飲む)
グルップ 俺が何だって?
ブルトロッター 赤さ。
マンケ よしてください、旦那、ここには赤なんていませんよ、すみませんが。
ブルトロッター よし、じゃ、いないとしよう。
アウグステ アフリカじゃ何をしてたの?
クラーグラー (マリーに)ニグロの腹を射ってやった。道路の舗装工事も。そうか、肺が悪いのか?
アウグステ 何年いたの?
クラーグラー (まだマリーに)二十と七だ。
マリー 二十七ヶ月ね。
アウグステ その前は?
クラーグラー その前? 粘土みたいな土の塹壕に転がっていたぜ。
ブルトロッター で、何をしてたのかね?
クラーグラー 臭い匂いを放っていたよ。
グルップ そうさ、みんな好き好きにさぼってたんだろう。
ブルトロッター で、アフリカの淫売はどんなだ?
(クラーグラー、黙っている)
ブルトロッター 帰国してみると、女房が家にいなかった、ってんだろう? あんたはそこで考えたんだろう、
女房は朝から兵営に俺を迎えに出かけていって、真夜中まで俺を待っているんだなと。
クラーグラー (マリーに)奴の面に一発食らわそうか?
グルップ いや、まだやめとけ。でも自動ピアノならかけてもいいぞ、それならいい。
クラーグラー (よろよろ立ち上がって、敬礼する)畏まりました。(彼は行って自動ピアノを鳴らす)
ブルトロッター センチな曲だな。
アウグステ この人の感情は死人同然なのよ。本当の自分より長く生き延びちゃったのね。
グルップ そうそう、そうだ。この人はちょっとした理不尽な目にあったんだ。そして後は泣き寝入りさせられた。
ブルトロッター おやおや、これでもあんたは赤じゃないのか? グルップ、さっき甥御さんの話が出たな?
グルップ 確かに出たさ。でもこの店じゃないぜ。
ブルトロッター そう、この店じゃない。ジーメンスの工場だ。
グルップ ちょっとの間だよ。
ブルトロッター ジーメンスにちょっと勤めてた。旋盤工だったな。短期間旋盤工だった。十一月まで、だろ?
酔っ払い (それまではただ笑っていたが、歌い出す)
俺の兄弟たちはみんな死んじまった
俺だって危ういところだった
十一月には俺も赤だった
でも今は一月さ
だから迷惑をかけないように気をつけてあげてください。
クラーグラー (アウグステをつかまえて一緒に跳ね回る)
犬が一匹台所へ行って
コックの卵を一つ盗んだ
そこでコックは斧を掴んで
犬を真っ二つに叩き切った
酔っ払い (笑いで体を揺すって)短期間旋盤工か。
グルップ おい、グラスを投げ割らないように頼むぜ、砲兵さんよ!
マリー すっかり酔ったのね。これで気が軽くなるでしょう。
クラーグラー 気が軽くなるかね? そうだったら嬉しいよな、そこの酔っ払いの兄弟、「そんなことはない」と言ってみな。
アウグステ 自分も飲むといいよ。
酔っ払い 甥っ子の話が出なかったかね?
クラーグラー 神様の前にまかり出たら助平野郎は何だと思うね、商売女の姐さん? 無視される存在だよ。
酔っ払い この店じゃないんだな。
クラーグラー なぜってな、軍隊を廃止できるか、神様を廃止できるか? おい赤の旦那、君は拷問の苦しみをこの世からなくせるか?
人間が悪魔に教えてやったほどの拷問の苦しみ、あれは君には絶対になくせないぞ、でも火酒を給仕することはできるさ。
だからよ、もう戸を閉めて飲もうじゃないか、そして風が入って来ないように、しんばり棒でもかっておこう。風さえ寒くて震えてるんだからな!
ブルトロッター 亭主の話では、不正な目にあったそうだな、それで泣き寝入りだと言っていたな。
クラーグラー 補償してもらえるのかよ? 不正と言ったかね、赤の兄弟? 何て言葉だよ、不正か! そういうちまちました言葉を発明しては、やたらと演説を打ちまくるんだね。
それだけで後は野となれ山となれだ、だから不正がはびこるんだよ。結局は強い奴が弱い奴を殴りつけ、太った奴だけが脂身にありつく、それで不正がはびこるっていう寸法よ。
酔っ払い 甥っ子だ! 話題にならない甥っ子やいかに!
すると犬の仲間がやって来て
その犬のお墓を掘って
墓石を建ててやった
その墓碑銘に曰く、
犬が一匹台所にやって来て……
だからこそ、このちっぽけな地球では気楽にやろうぜ、この世は冷たく暗いんだよ、赤の旦那、
この地球は老いぼれて、もうもっといい時代なんか期待できない、天国はもう貸し切りだ、諸君。
マリー どうしたらいいんだろう? この人は新聞街に行く、そこが正念場だ、と言っているけど、でも新聞街に何があるんだい?
クラーグラー 一台の馬車がピカデリーバーに乗りつける。
アウグステ 誰が乗っているの?
クラーグラー 彼女が乗っているんだ。俺の脈は全然普通だぜ、ほら触ってみろ。(手を差し出し、他の連中と飲む)
マリー この人はアンドレっていうんだよ。
クラーグラー アンドレ。そうだ、俺はアンドレって名前だった。(彼はまだぼんやりと脈を数えている)
ラール 主に松材ばかりだった、小ぶりのな。
グルップ おや、石が語りだしたぜ。
ブルトロッター それを売っちまったっていうんだろう、この間抜け?
ラール 俺がか?
ブルトロッター そうだ、銀行だよ! これは面白い話だ、グルップ、でもこの店では駄目か。
グルップ お前ら、酷い目にあっているのか? でも我慢するんだな。そりゃ我慢すればもっとやられ放題だ!
皮を剥がれてもじっと耐えるんだ、砲兵さんよ、でないと皮は真っ二つに引き裂かれるぞ、皮は一枚しかないんだ。
(ずっとグラスを洗い続けている)そうさ、あんたらみな何がしか酷い目にあっている、
大砲とサーベルで半殺しの目にあった、騙された上に唾まで引っ掛けられた。でもしょうがないさ!
酔っ払い 我を洗いたまえ、主よ、純白になるまで! 洗いたまえ、雪のごとく純白になるまで! (歌う)
俺の兄弟たちはみんな死んじまった
俺だって危ういところだった
十一月には俺も赤だった
でも今は一月だ
グルップ 我慢もこれまでだ。
アウグステ あんたたちは意気地なしだよ!
新聞売りの女 (入って来る)新聞街にたむろする赤ども! 赤のローザがティーアパルクで野外演説!
賤民の暴動はいつまで続くか? 軍隊はどこに? 十ペニヒだよ、砲兵さん? 軍隊はどこに、十ペニヒだよ。(誰も買わないので出て行く)
アウグステ そしてパウルはいないんだ!
クラーグラー またひゅーひゅー弾丸の音がしてないか?
グルップ (戸棚を閉めて両手を洗う)店は閉めるぞ。
マンケ 行こう、アウグステ! 君は考えてなかったんだが、構わん行こう!
(ブルトロッターに)あなたはどうするね、旦那? 勘定は二マルク六十ペニヒ。
ブルトロッター 俺はスカゲラーク海戦に参加したんだ、あれも楽しいものじゃなかったぜ。(一同腰を上げる)
酔っ払い (マリーの肩に手を回して)
天使のごとく善良なあばずれは
彼と一緒に洪水に流されて消えた
クラーグラー みんな一緒に新聞街へ行こう!
犬が一匹やって来て
コックの卵を一つ盗んだ
そこでコックは斧を掴んで
犬を真っ二つに叩き切った
(ラールは自動ピアノの方に行って太鼓を引っ張り出し、連打しながら他の連中の後について行く)
(気の橋。再び、大きな赤い月)
バーブッシュ 帰らなくてはいけませんよ。
アンナ もう駄目なの。帰ったってどうにもならない、写真を抱いて四年も待っていたのに他の男を引き込んでしまった。夜中になると恐かったの。
バーブッシュ もう葉巻が切れちまった。家へは全然帰らないつもりですか?
アンナ あれを聞いて!
バーブッシュ 奴らは新聞を破いて水溜りに撒き散らしたり、機関銃に向って喚いたり、耳に弾丸をぶち込みあったりして、新しい世界を作った気でいる。また奴らの群れがやってきたぞ。
アンナ 彼だわ!
(連中が近付いてくると共にこの路地も騒然としてくる。いろいろな方角から銃声が起こる)
アンナ 今こそあの人に言ってしまうわ!
バーブッシュ あなたの口を抑えるよ!
アンナ 私は動物じゃないわ! 叫んでやるわ!
バーブッシュ こっちは葉巻が切れてるんだ!
(家並みの間からグルップ、ラール、二人の女、居酒屋のマンケ、アンドレアス・クラーグラーが現れる)
クラーグラー 俺の声はしゃがれてきた。アフリカの声が咽喉の奥から溢れ出してきたんだ。首でも吊るか。
グルップ 吊るのは明日にして今は一緒に新聞街に行くんだろう?
クラーグラー (アンナの方を凝視して)ああ。
アウグステ お化けでも見えるの?
マンケ 何てこった、髪の毛が逆立っているじゃないか!
グルップ あれがその女か?
クラーグラー そうさ、どうしたんだ、みんな立ち止まって? お前らみんな銃殺だぞ! 前進、前進、前進あるのみだ!
アンナ (彼の前をさえぎって)アンドレ!
酔っ払い 足を上げた上げた、色気のお誘いだ!
(静寂)あんたに知ってもらいたいことがあったの、ちょっと行かないでしょ、私は酔ってないわ。
(静寂)あなた、帽子もかぶっていないわね、寒いのよ。あなたの耳に入れておきたいことがあるの。
クラーグラー 酔っ払ってるのか?
アウグステ 許婚が追いかけてきたけど、酔っ払ってるってわけ!
アンナ そうなの、あんたどう思う? (二、三歩進む)私、子供が出来たの。
(アウグステ、げらげら笑う。クラーグラー、よろめいて、橋の方を見て、歩く練習をするようにつかまり歩きのような動作をする)
アウグステ あんた、魚なの、口をぱくぱくやって空気を吸ってさ?
マンケ 眠っている気になってるのか?
クラーグラー (両手をズボンの縫い目にぴたりとつけて直立不動で)そうであります!
マンケ 子供が出来たってよ。子供の製造がこの女の商売さ。さあ行こう!
クラーグラー (硬直して)かしこまりました! どこへでありますか?
マンケ こいつ狂っちまったぞ。
グルップ アフリカに行っていたんだろう?
クラーグラー モロッコ、カサンブランカ、十号兵舎であります。
アンナ アンドレ!
クラーグラー (耳を傾けて)聞けよ、俺の許婚のだ! そいつがやって来た、ここにいる、腹が膨れているんだ!
グルップ 貧血しているようじゃないか、え?
クラーグラー しーっ! 俺じゃなかったんだ、俺じゃないぞ。
アンナ アンドレ、人がいるじゃないの!
クラーグラー 君の腹は空気で膨らんだのか、それとも淫売になったのか? 俺は外地にいて君を見張っていられなかった。
俺はどぶ泥の塹壕に転がっていた。俺が泥まみれで転がっていた時、君はどこで転がされていたんだ?
マリー そんな言い方をしちゃいけないわ。あんたに何が分かるの?
でも全てを見ない間は死ねなかった。そのためだけに骨身を削ったぜ。馬の餌も食った。酷い味だった。泥の穴から四つん這いで這い出した。これはおかしかったな! 豚みたいだったぜ!
(目をかっと開く)みんな俺を見物してるのかよ、え? ただ券でも持っているのか? (彼は土の塊を拾い上げて投げつける)
アウグステ この人を押さえつけなよ!
アンナ ぶつけて、アンドレ! ぶつけてよ! こっちへ!
マリー この女を連れて行きな、でないと死ぬまでぶつけてるよ!
クラーグラー うせやがれ! 欲しいものは何でもくれてやらあ! 口をぱっくり開けるがいい。他には何もないぜ。
アウグステ 頭を押さえつけな! 地面に押し付けてやるんだ!
(男たちが彼を地面に押さえつける)
アウグステ さあお嬢さん、あんたは消えた方がいいよ!
グルップ (アンナに)そうだ、家へ帰りなさい、明け方の空気は卵巣によくないぞ。
バーブッシュ (修羅場になっている広場の向こう側からクラーグラーの方へ手を叩いて、噛み潰した煙草を噛みながら彼に説明する)
さあ、これで君の痛みの在り処がわかっただろう。君は神なのだ。罰の雷を落とした。
でも罰せられた女性は妊娠しているんだ。石畳の上に座らせておいちゃいけない、夜は冷える、何か言ってやれるだろう……
グルップ そうだ、何か言ってやれるだろう。
(男たちはクラーグラーを立たせる。静かになる。風が吹く。二人の男が急いで通りかかる)
男一 ウルシュタイン社は占拠された。
男二 モッセ新聞社の前を砲兵隊が通過したぞ。
男一 俺たちの数は全然少なすぎる。
男二 応援にはたくさん駆けつけてくれるはずだ。
男一 もう遅すぎるよ。
(彼らは通り過ぎる)
アウグステ さあうまくいった! これでお終いにしよう!
アウグステ (クラーグラーを引っ張って行こうとする)一緒に新聞社へ行こうよ! あんたももう強く逞しくなっただろう。
グルップ あの女は石畳に寝かせておけ、七時には地下鉄が動くよ。
アウグステ 今日は地下鉄なんか動かないさ。
酔っ払い 前進だ、ハレルヤ!
(アンナはまた立ち上がっている)
マリー (彼女を眺めて)血の気がないよ。
グルップ ちょっと青い、弱っている。
バーブッシュ これじゃ参っちまうぞ。
グルップ そう見えるだけさ。明るさの加減だよ。(空を眺める)
アウグステ ヴェディング区の連中が駆けつけて来たわ。
グルップ (両手をこすりながら)あんたは大砲が通るのと一緒に現れたな。ひょっとしたら砲兵隊の仲間じゃないのか! (クラーグラーは黙っている)何も言わないな、それが利口だよ! (歩き回る)
あんたの軍服は硝煙で汚れているな、あんたは影が薄く、いささか擦り切れちまっている。でもそれは大したことじゃない。ちょっと不愉快と言えば、そのきゅっきゅと音が出る靴だろうな。
でもそれは靴墨を塗ればいいんだ。(大気を嗅ぎ回るように)もちろん十一時以後からは星空が二つ三つと消えていき、何人かの開放の使徒が倒れて雀の餌食になった。でもあんたがまだ健在なのは結構なことだ。
ただあんたの消化能力だけが私の苦労の種だ。とにかく、まだあんたは透明人間になっていない。少なくともまだ姿が見えるからな。
クラーグラー 来いよ、アンナ!
マンケ 「来いよ、アンナ!」ときたね。
アンナ 地下鉄はどこなの、ねえ?
アウグステ 今日は地下鉄なんか来ないよ。地下鉄も高架線も国電も一日動かないよ。今日はどこへ行っても休業さ。どの線路にも列車がエンコしている、あたしらも人間になって、夕方まで足で歩き回るのさ、あんた。
クラーグラー こっちへ来いよ、アンナ!
(クラーグラー、黙っている)
グルップ 仲間の何人かはもう二、三杯焼酎をひっかけたかったんだ、だがあんたは反対した。
何人かはちょっくらベッドにしけこみたかった、ところがあんたは寝るベッドがなかったもんで、そこでみんな家に帰りそびれちまったんだぞ。
(クラーグラー、黙っている)
アンナ 行かないの、アンドレ? 皆さんが待っているわよ。
マンケ あんた、その手をポケットから出したらどうだ!
クラーグラー さあ、俺に石をぶつけろ、そらこうして立ってるぞ。あんたたちのためにシャツくらい脱いでやらあ、でもナイフにわざわざ首を差し出すのは、そりゃご免だね。
酔っ払い 神よ、お尻よ、兵隊様。
アウグステ で、で、それで新聞街はどうなるのよ?
クラーグラー どうにもなりやしないよ。俺をシャツのまま新聞街へ引きずって行こうったって駄目だよ。俺はもう犠牲の羊じゃない。くたばるのはご免だぜ。(ズボンのポケットからパイプを取り出す)
グルップ そりゃちょっと惨めったらしくないか?
クラーグラー 何を、奴らは闇雲にあんたのどてっぱらめがけてぶっ放すぞ! アンナ! 何て面で俺を見てるんだ、畜生? 君さえ警戒しろっていうのか?
(グルップに)あんたの甥っ子は射たれて消えたけどな、俺は女房をまた手に入れたんだ、アンナ、来い!
アウグステ じゃあアフリカも何もかも、みんな嘘だったの?
クラーグラー いや、あれは本当だ! アンナ!
マンケ 株の仲買人みたいに喚き立てていたくせに、今はベッドに入りたいだとよ。
クラーグラー 今は女房がいるからな。
マンケ 本当にいるのか?
クラーグラー さあ、アンナ! 傷物じゃないわけじゃない、純潔でもない、君は身持ちがよかったのか? それとも赤ん坊が出来てるのか?
アンナ 赤ちゃんが出来てるわ。
クラーグラー 出来てるんだな。
アンナ このお腹にね、胡椒を飲んだけど効かなかった、ウェストの線はもう戻らないわ。
クラーグラー そうか、そういうわけだ。
マンケ それで俺たちはどうなる? 胸まで安酒に浸り、臍までお喋りを詰め込まれ、手にはナイフを持たされて、持たせた奴は誰だったんだ?
クラーグラー 持たせたのは俺さ。(アンナに)そうさ、君はそんな女さ。
アンナ そうよ、そういう女なの。
アウグステ 「新聞街へ行け!」と怒鳴ったのはあんたじゃなかった?
クラーグラー そうだ、怒鳴ったとも。(アンナに)さあ、行こうぜ!
マンケ そうだ、怒鳴った、それがあんたの身の破滅よ。「新聞街へ!」って怒鳴ったぞ。
クラーグラー そこで俺はご帰還だ。(アンナに)立たせてやろうか?
アウグステ 下司野郎!
アンナ 触らないで! 両親にはいい子のふりをして、独身の男とベッドで寝ていたのよ。
アウグステ あんたも下司女だ!
クラーグラー どうしたって?
アンナ その人と一緒にカーテンも買ったわ。一緒にベッドで寝たわ。
マンケ 畜生、君がぐらつくなら、俺は首でも吊りたいよ!
(背後で遠くから叫びが聞こえてくる)
アンナ そしてあなたのことはけろりと忘れてしまったの、写真があったのに綺麗さっぱり。
クラーグラー 黙るんだ!
アンナ 忘れたの! 忘れちゃったの!
クラーグラー そんなことは屁でもない。ナイフで君を奪い返そうか?
アンナ ええ、奪い返して。そう、ナイフで!
マンケ この女を川にぶち込め!
(みんなアンナに襲い掛かる)
アウグステ そうよ、彼からこの売女を引き離すんだ。
マンケ 首っ玉の手を引っぺがせ!
アウグステ 闇屋の淫売を川に沈めろ!
アンナ アンドレ!
クラーグラー 手をどけろ!
(喘ぐ息だけが聞こえる。遠くからこもった砲声が不規則な間隔をおいて聞こえてくる)
マンケ あれは何だ?
アウグステ 砲兵隊だよ。
マンケ 大砲だ。
アウグステ ああ、あそこに行った連中はもうお終いだ。砲撃で魚みたいに腸が飛び出すよ!
クラーグラー アンナ!
(アウグステ、身を屈めて後の方へ走っていく)
ブルトロッター (背後の橋の上に現れる)畜生、まだ来ないのか、お前ら?
グルップ (もう橋の上に現れる)奴がずっこけてるよ。
マンケ 何て野郎だ! (行きかける)
グルップ (もう橋の上で)そうさ、まだお前、睾丸はついているからな。
クラーグラー (アンナに)またひゅーひゅー弾丸の音がしてきた、俺の首にしがみついていろ、アンナ。
アンナ 体を全部消してしまいたいわ。
グルップ お前、結局は明日の朝、便所で首を吊ることになるさ。
(アウグステ、もう他の連中と消えている)
クラーグラ- あんたは壁に立たされて銃殺だぞ、こいつ。
グルップ そうさ、明日は死骸の臭いが凄いだろう、お若いの。もちろん無事に逃げおおせる奴も出て来るだろうさ。(姿を消す)
クラーグラー お前らは俺に同情して流す涙の大洪水で溺れそうじゃないか、俺はその涙でシャツを洗わせてもらうだけだよ!
お前らの理想が天に届くために、なぜこの俺の肉体が溝の中で腐っていかなきゃならないんだ? お前らは酔っ払ってるのか?
アンナ アンドレ! 放っておきなさいよ!
(彼はまた走り回るが、地面にくっつきそうになるほど腕をだらりと下げているので、居酒屋から持ってきた太鼓を拾い上げることになる)奴らは太鼓を置いていっちまいやがった。(それを叩く)
タイトルは「なり損ないの赤一名愛の力」「新聞街で流血の大惨劇一名どんな野郎も自分の面をしている時が最高だ」(顔を上げて目配せする)看板はある奴もいればない奴もいるさ。
(太鼓を叩く)バグパイプみたいにひゅーひゅーいう音。新聞街では貧民どもがくたばっていく、建物がその上に崩れ落ちる。朝が白む、奴らは溺死した猫みたいにアスファルトにのびている。俺は豚野郎だ、豚はねぐらに帰るぞ。
(彼は息を吸い込む)ぱりっとしたワイシャツを着よう。俺の肌身はまだ痛んでいない。軍服は脱ぎ捨てよう、靴には脂を塗ろう。(悪意を込めて笑う)明日の朝になれば喚き声はすっかり消える、だがこの俺は明日の朝は、ベッドに横になって、
俺の血が死に絶えないように、子孫の製造に励んでいるって寸法だ。(太鼓を叩く)そんなロマンティックな目をしてみるんじゃない! 高利貸しどもめ!
(太鼓を叩く)首切り人足め! (腹の底から声を出して笑い、窒息しそうになる)血に飢えた臆病者だ、お前ら!
(笑いが咽喉でつかえてしまい、もう笑えなくなる。よろめきながら歩き回って、太鼓を月めがけて投げる。その月は明かりを仕込んだ装置の月なので、太鼓も月も川に落下するが、その舞台の川も水がない)
泥酔の余興だ、子供騙しの一幕だ。これからベッドの出番だぞ、大きくて、真っ白で、広々としたベッドだ、来いよ!
アンナ ああ、アンドレ!
アンナ あんた上着を着てないわ。(彼女の首にショールを巻いてやる)さあ、行こう!
(二人は並んで体はくっつけずに歩き出す。アンナは彼より少し後から従う。大気の高い所で、とても遠くから純粋な怒号が聞こえる。新聞社の辺りである)
クラーグラー (立ち止まり、耳を澄まし、立ったまま片腕をアンナにかける)もう四年になるな。
(怒号がまだ途切れないで続いている間に、二人は見えなくなる)