結婚できない男IDなし最終更新 2024/11/20 15:091.夢見る名無しさん佐藤友幸2024/09/10 05:49:2762コメント欄へ移動すべて|最新の50件2.夢見る名無しさん1つの声が闇の中の誰かに届く想像すること2024/10/12 15:21:473.夢見る名無しさん1つの声が闇の中で仰向けになっている誰かに届くそれは背中にかかる圧力で分かり、彼が目を開けてまた瞑るときの闇の変化で分かる言われたことはごく一部しか確かめられない例えば、お前は闇の中で仰向けになっている、というのが聞こえてくる時この場合彼は言われたことを認めるしかないしかし、言われたことの大部分はとても確かめられない例えば、お前はこれこれの日に日の目を見た、というのが聞こえてくる時例えば、二つが結びつくこともあるお前はこれこれの日、日の目を見た、そして今お前は闇の中で仰向けになっているこれはおそらく、一方に他方の明確さを波及させようとする策略だ2024/10/12 15:22:494.夢見る名無しさん闇の中で仰向けになっている誰かに、1つの声が1つの過去を告げる場合によっては現在に関すること、稀に未来に関することもある例えば、お前はちっとも変らないまま、くたばってしまうだろう、というようにそして、別の闇、あるいは同じ闇に、もう一人誰かが全てを自分の友達だと想像しながらそっとしておこう2024/10/12 15:24:135.夢見る名無しさん二人称は声が実際に使っている三人称はもう一人が声は誰かに向かって、またその誰かについて話しているが、この誰かに彼も向かって、この誰かについて話せるとしたら、3人目がいることになるしかし、彼にはそれができない彼はそうしないだろうお前にはそれができないお前はそうしないだろう2024/10/12 15:25:246.夢見る名無しさん声とその息のかすかな音の他には音が何もない少なくとも聞こえるほどの音はないその息のかすかな音が彼にそう言う2024/10/12 15:26:097.夢見る名無しさん今はもう以前ほど物事を疑問に思わないのだが、彼は時々、声が彼に向けて、彼について語っているのかどうか、という質問を自分にしてしまう彼は、他人に向けられた知らせを邪魔しているのではないかもし闇の中で一人で仰向けになっているのだとすれば、なぜ声はそう言わないのかなぜ声は、例えば、お前はこれこれの日に日の目を見た、今お前は闇の中で仰向けになっている、と決して言わないのか?なぜ?多分、彼の心にあの不確かさと気詰まりの感情を生じさせることだけが目的だ2024/10/12 15:27:418.夢見る名無しさんいつも消極的なお前の精神は、前よりもいっそう消極的になっているそれは彼が自分から認めることだお前はこれこれの日生まれた、そしてお前のいつも消極的な精神は前よりもいっそう消極的だしかし友達として役に立つには、どんなに頼りなくても、何かしら精神の活力が必要だだからこそ、声は言わないのだ、お前は闇の中に仰向けになっていて、お前の精神は、どんな種類の活動もしない、というようには声だけが友達だが、それでは不充分なのだ聞き手に対するその効果が、どうしても補足として必要なのだたとえそれがさっき言ったような不確かさと気詰まりの、曖昧な感情の形であってもしかし友達の問題は別にしても、このような効果が必要なことは確かだというのは、彼がただ声を聞くだけでよく、声がダモ語やらワイアット語やらのように、彼に対して何の効果も与えないなら、黙っていてもいいではないか声が純粋に雑音として、沈黙や静寂に飢えている人間を拷問にかけようとしているなら話は別だが当然、さっき推測されたように、声が他人に向けられている場合も話は別だ2024/10/12 15:30:239.夢見る名無しさんお前は幼い男の子、母親の手を握って肉屋を出るお前達は右に曲がり、黙って大通りを南に進む百歩ほど行ってお前達は内側に折れ、家に向かう長い坂にかかる夏の生暖かい、穏やかな空気の中を黙って進む午後遅く、百歩ほど行くと太陽が山頂に現れる紺碧の空、そして母親の顔を見上げ、あれは見かけよりも実際はるか遠くにあるのではないか、と沈黙を破ってお前は尋ねる空の事を聞いたのだ答えがないので、お前は心の中で質問を練り直し、もう百歩ほど歩いてから、また母の顔を見上げ、あれは実際よりもずっと近くに見えているのではないか、と尋ねるお前には決して納得できない理由で、この質問は彼女を苛立たせたに違いない彼女はお前の小さな手を突き放し、忘れられない、意地悪な答えをお前に返したのだから2024/10/12 15:32:0810.夢見る名無しさんもし声が彼について語っているのではないなら、当然他人について語っているわけだこうしてなけなしの分別で彼は考える一人の他人に向かってこの他人についてあるいは別の誰かについてある他人に向かってこの他人について、または彼について、あるいはまた別の誰かについてとにかく闇の中で仰向けになっている誰かについてこうして、彼はなけなしの分別で考える、間違って考えるというのは、もし声が語りかけているのが彼にではなく、他人に向けてであるとすれば、当然ながら声はこの他人について語っているのであり、彼についてでも、別の他人についてでもない声は二人称で語っているのだから声が語りかけている当人について語っているのでなければ、二人称で語るはずがなく、三人称で語るはずだ例えば、彼はこれこれの日に日の目を見て、今闇の中に仰向けになっているだから声が彼に向けてではなく、他人に向けて語っているのであれば、声は彼についてではなく、この他人について語っているのであって、他の誰についてでもないこうして、なけなしの分別で彼は間違って考える友達になるために彼は、何か精神的な活力を示さなければならないしかし特別である必要はない特別でなければ、なおさらいいと言ってもいいくらいだ特別でないならないだけ、彼はいい友達になれるある程度は2024/10/12 15:34:2511.夢見る名無しさんお前は多分、お前が受胎された部屋で日の目を見た大きな窓が西の山に向かって開いているほぼ西に弓形に張り出しているので、それは少し北と南に向かってもいた当たり前のことだやはり山がある南に少し、山が平地にむけて少しなだらかになっている北に少しお産をさせた医者 ごつごつした灰色の髭と、せっぱつまった表情祭日だったので、お前の父は朝食をたいらげると、飲み物の入った瓶と、好物の卵のサンドイッチを包んで、山歩きに出かけていったこれは普段と変らなかったしかしこの朝は大好きな散歩や自然だけが理由ではなかった出産に伴う仕事のつらさ、他のあまり気乗りのしない面が彼にもたらす嫌悪も加わっていたそして正午の頃、海に面した大きな岩の陰で、サンドイッチを味わった彼が草をかきわけていた頃の、前後の思いをお前は想像することができる日が落ちて、家に戻り勝手口から入ろうとして彼は、お産は最高潮に達してまだ続いていると聞かされて驚愕する十時間も前、まだ出発以前の状況と同じだ自分の愛車がとめてある車庫へと走っていった扉を閉めて運転席へはいあがった彼が暗闇の中でハンドルにつかまり、ただ考えることしかできないで待ち続けた間の、彼の考えをお前は想像することができる疲れきって足は痺れているのに、彼は薄暗い月の下、野原を横切ってまた出て行こうとしていたその時誰かが、やっとみんな終わった、と彼に言いに走ってきた終わった2024/10/12 15:36:3112.夢見る名無しさん声は一方から、また別の方から彼に届く離れている為に弱まり、あるいは耳に囁かれる同じ文を言う間に声は場所を変え、強さを変えることがあるこうして例えば、仰向けになった頭の方からはっきりと、お前はこれこれの日に日の目を見た、そして今さらに耳に囁かれる、お前は闇の中で仰向けになっているもちろん、逆の場合もある別の特徴はといえば、それが長い間沈黙することで、彼はほとんど、声が最後の言葉を言ってしまったのだ、と信じそうになるすると、仰向けになった頭の上の方から、同じようにはっきりと、お前はこれこれの日に日の目を見た、そして今それから長い間をおいて彼に希望が生まれようとしている時、つぶやきがやってくるお前は、闇の中で仰向けになっているあるいはもちろん逆の場合もあるもう1つの特徴はくどい繰り返しだいつまでもほとんど変らない同じ[過去]まるで、その繰り返しを彼が自分の物にするように、無理強いするみたいにそう、私は思い出す、と彼に白状させようとしてそのうえ、彼に多分ひとつの声を持たせようとしてそう、私は思い出す、と彼につぶやかせようとそれは友達としてはずいぶん役に立つのだろう途切れ途切れにつぶやく一人称単数の声、そう、私は思い出す2024/10/12 15:38:2413.夢見る名無しさんほとんど盲目の年老いた乞食が、庭の玄関に執拗にせまるお前はその場所をよく知っているつんぼでもうろくした女主人は、お前の母親と一緒のときが一番安心できた彼女はいつか空を飛べるのだと確信していたそれで、ある日二階の窓から身を投げたのだ遊園地から、子供自転車に乗って帰る時、可哀想な老婆が、玄関と格闘しているのをお前は見る玄関を開けてやると彼女はお前に感謝する彼女はどう言っただろうか坊ちゃんに神様の御加護がありますようにこんな調子だ坊ちゃんに神様の御加護を2024/10/12 15:39:1314.夢見る名無しさんあらん限りの力を振り絞ってもかすかな声それは緩やかに聴覚の限界まで遠のくそしてそのかすかな最大値まで緩やかに戻る緩やかに減少するたびに、声が途絶えてしまうだろうという希望が、緩やかに生まれる彼は声が戻ってくることを知っているはずだそれでも、緩やかな減少のたび、それが途絶えてしまうだろうという希望が、緩やかに生まれる2024/10/12 15:40:5215.夢見る名無しさん彼は少しずつ闇と沈黙にたどりつき、そこに寝そべった非常に長い時間をかけて、なけなしの判断力で、彼は闇と沈黙が永遠に続くのだと判断するそして、ある日声が聞こえるある日ついにそしてついに声は言うお前は闇の中で仰向けになっているこれが最初の言葉だ彼が自分の耳を信じられるようになるまでの長い休止、そしてもう一度同じ言葉そして、聴覚が停止するときだけ停止するというお前は闇の中で仰向けになっているそしてこの声は、聴覚が停止するときだけ停止するだろう薄明かりの中で横になり、物音がほとんどやんだ時、少しずつやってきた沈黙と闇これは友達としてはたぶん好都合だというのも、とぎれとぎれの物音は何? 薄明かりはどこから?2024/10/12 15:42:3016.夢見る名無しさんお前は高い飛び込み板の端に立っている海にはお前の父親の仰向けの顔お前に向けて仰向けになっている親しい気さくな顔が下に見える彼はお前に飛べと叫ぶ、勇気を出せと潮が彼を波間に浮き沈みさせるまた遠くから呼ぶ声がする、勇気を出せとみんながお前を見ている沖の方から 硬い陸地から薄明かりはどこから?闇の中にはどんな友達が?目を閉じてそれを想像しようとする昔、薄明かりがどこから来たのか?彼は自分の仰向けになった顔の上に、いったい何を見ることができたのだろう闇の中で目を閉じ、それを想像すること2024/10/12 15:43:5917.夢見る名無しさんもう1つの特徴はさえない調子生気のないいつも同じさえない調子断定するときも否定するときも質問するときも感嘆するときも説得するときもお前はかつて存在したお前はかつて存在しなかったお前はかつて存在したのかおお、決して存在しなかったもう一度存在せよ相変わらずのさえない調子2024/10/12 15:44:4618.夢見る名無しさん彼は動けるか動くか動かなくてはならないか何の役に立つことか声がとぎれる時どんなかすかでもいい何らかの動きにぎりしめる手でもいいはじめ閉じていたなら、開く手でもいい闇の中では、どんなに役に立つことか目を閉じてこの手を見ること差し出された手のひらが視野を満たす様々な線、緩やかに折られる指、はじめ折られていたなら、今度は伸ばされるもちろん目がある緩やかに下りる覆い最初下りていたなら引き上げられる目垂直にかっと開かれ、覆われ剥き出しにされ、また覆われまた剥き出しにされ2024/10/12 15:45:5119.夢見る名無しさんそしてついに彼が喋るとすればどんなにかすかにであってもそれは友達としてどんなに役立つことかお前は闇の中で仰向けになっているそしてある日、お前はついに喋り出すある日ついにお前はついに再び喋るだろうそう、私は思い出すそれは私だったあの時それは私だった2024/10/12 15:47:2320.夢見る名無しさんお前は一人で庭にいるお前の母親は台所で さんと食べるおやつを用意している薄くバターを塗ったパンを作っている茂みの後ろから、お前は さんが着くのをうかがっている痩せてぎすぎすした小柄の女だお前の母は彼女に答えて言うあの子は庭で遊んでいるわお前は高い縦の木の天辺によじ登るそこであらゆる物音に耳を傾けているそして下に落ちる大きな枝が落下を妨げる針のような葉お前はしばらく地面にうつぶせになっているそしてまた木に上るお前の母は さんに答えて言うあの子は手がつけられないのよ彼はなけなしの感情で、以前に比べて現在をどう感じているのかなけなしの判断力で、彼が自分の状態は取り返しがつかないと判断した時同じように、彼がその時、それ以前に比べて、その時のことをどう感じていたか問うことその時にも、以前などというものがなかったように、今もそんなものはない2024/10/12 15:48:4921.夢見る名無しさん同じ闇、あるいは別の闇の中で、もう一人の人間が、全てを自分の友達として想像するちょっと見たところ明白な言葉だだが、まじまじと見られると言葉は混乱するしかも目がまじまじと見れば見るほど、それは余計に混乱するこうしてようやく楽になった頭は自問する、これはどういうことだ一見明らかに見えたのに、これはいったいどういうことだいわば、頭の方もまた閉じてしまうまで暗い、空っぽの部屋の窓が閉じられるように薄暗い外側に向かった唯一の窓あとはもう何もない不幸なことに、ない瀕死の人間の僅かな目の光、そして身震い言葉にならない心の震えいやしがたい2024/10/12 15:49:4622.夢見る名無しさんそれにしてもなぜ、また、なのかどうして、別の闇、あるいは同じ闇なのかそして誰がそう尋ねるのかまた誰が、誰がそう尋ねている、と尋ねるのかそして、答えるのか誰であれ、全体を想像するものであると自分が生み出したものと同じ闇の中で、または別の闇の中で自分自身の友達として誰が尋ねている、と尋ねているのは結局誰なのかそして結局先のように答えるのは誰か長いことたってから、低い声がつぶやく、それがさらにまた別の誰かでない限りはとどこにも見つからないどこにも探せない最後の思考不可能名付けられない本当に最後の人称私そっとしておこう2024/10/12 15:51:5223.夢見る名無しさんその時あった光闇の中のお前の背中にその時あった光雲も太陽もない輝きお前は夜明けとともに姿を消して、丘の中腹にある隠れ家に登っていくエニシダの中の巣窟東の海の向こうには、高い山のかすかな輪郭お前の地理の教科書を信じるならお前の生涯で、三回目あるいは四回目最初、お前は大喜びで彼らにそれを知らせたお前は雲を見ただけかもしれなかっただからそれからは、他のことと一緒に心の中にしまっておく日が落ちて家に戻り、食事もせずに床につくまたあの光の中の闇に横たわるエニシダの中の巣窟から、お前は目が痛くなるほど海の向こうを睨んでいるお前は百まで数える間、目を閉じ、また開いて再び睨みつけるしまいに山が見えてくるまで青白い空にどこまでも青く、青白くお前は、闇の中、この光の中に再び横たわっている雲も太陽もないこの光の中で眠りこむ夜明けまで眠るがいい2024/10/12 15:55:1324.夢見る名無しさん声と、聞き手と、自分自身を考え出すもの自分の友達として、自己を考え出すものそのままにしておくこと彼は自分について、まるで他人についてのように話す自分について話しながら、彼は言うのだ彼はまるで他人について話すように自分について話していると彼もまた自分の友達として、自分を想像しているとそのままにしておくこと混乱もまた友達になるのだある程度まではいかさまな望みでもないよりはましだある程度までは心をもてあますようになるまで友達にももてあましてある程度まではもてあました心でも無よりはましだくたばってしまうまではこうして自分について語りながら、彼はとりあえず結論するとりあえずは、このままでいい2024/10/12 15:56:1625.夢見る名無しさん自分の生み出したものと同じ闇の中、あるいは別の闇の中さらに想像しなくてはならない例えば自分の姿勢立つ、あるいは座る、あるいは横になる、あるいは闇の中で、他のごくありきたりの姿勢でいるさらに想像すべき様々な答えの中の答え同様に別の問いに対しても、様々な答えがある中で友達の度合いを考慮して二つの闇のうちどちらが友達に適しているか想像可能なあらゆる闇のうちどれが、友達として好都合か同じようにまた別の問いも想像しなくてはならない例えば、このような決定は、覆すことのできないものかどうか例えば、充分想像が熟した後、仰向けにあるいは腹ばいに横たわるのがいいと決まり、しかも結局この姿勢は友達として不適当だと仮定しようこの場合、別の姿勢でおきかえることは可能かどうか例えば、腕で作った半円の中に足を折りたたんで、頭は膝につけて、しゃがみこんだ姿勢それに動きを加える例えば四つんばいでもいい同じ闇、あるいは別の闇の中の他人が、四つんばいに放り出され、全てを自分の友達として想像しているところだあるいは別の移動の仕方出会いの様々な可能性死んだ鼠それはなんと友達として役に立つことかずっと前に死んだ鼠2024/10/12 15:57:5526.夢見る名無しさん聞き手をもう少しましな人間に変える余地はないかもっと感じのいい、でなければ本当に人間的なつきあいのできる奴にする余地は精神的な面で、多分、もう少し活気に満ちたところのあるとか少なくとも思案の努力回復の努力または区別の努力感情の跡何らかの悲しみのしるし挫折の感情2024/10/12 16:01:3927.夢見る名無しさん人格を抜け出てしまうのではなく厄介な試みださらに肉体的な面はどこまでもじっと横になったままでいなければいけないものかときどき瞼だけが動くのは、技巧として必要だ闇を許容し、または拒絶するためだ足を組むことはできないかとぎれとぎれに左足を右足にでもいい、または好きな間だけ、逆に組んでもいいいや、全く矛盾する足を組んだまま横になっているなんて一目見て駄目と分かる手の動きは緊張 緊張の緩み禁止することは難しいあるいは蝿を追うたびに起き上がることしかし蝿がいないそれでは蝿を存在させよういいじゃないか誘惑は強い蝿を一匹存在させること彼を死んだものと思い込む一匹の生きた蝿間違いに気付いては、すぐ同じ間違いを犯すなんと友達として効果的か彼を死んだと思い込む一匹の蝿いや、彼は一匹の蝿さえ追わないだろう2024/10/12 16:02:2828.夢見る名無しさんお前は外の寒さにふるえている鼠を可哀想に思って、古い帽子の箱に餌のみみずと一緒に入れてやるそれから、その箱を使い古したウサギ小屋に入れて、開いたままの戸を固定し、哀れな動物が、行き来できるようにしてやる餌を食べにいくこと、そして食べ終わったら、小屋の中の箱の温もりと安全に戻っていくことつまり箱の中の鼠は、生きるための十分なみみずを与えられている全てにぬかりがないことを確かめる為の最後の一瞥、それからお前は、まだ幼いのにもう死ぬほどゆっくり流れていく時間を潰す為に、また別の何かを見つけに出かけていくこの善行によって灯された小さな炎は、弱まり、ほのかになってしまう前に、いつもよりは長く続いたこの頃お前は物事に熱中したものだが、決して長続きはしなかったお前の施す何らかの善行や、敵に対する些細な勝利、両親や肉親から出た誉め言葉によって、炎は灯っても、たちまちその炎は弱まり、かすかになって、前のようにお前を臆病に陰気にしてしまうしかしその日は違った過去形で結論するとすれば、お前が鼠に出くわし、そして憐れみを抱き、寝るときになっても、まだその善行を味わっていたのは、ある秋の午後のことだったお前は、毎晩報告する親しいものたちのリストに、鼠を加えたシーツの温もりの中で、何度も身体を転がして、眠るのを待ちながらお前はまだ少し心を熱くしていたこの鼠がお前の通り道に居合わせるという幸運を思いながらそれはなびたツゲに縁取られた泥の道だった寝るときまでの時間を潰すのに一番いい仕方を探して、お前がそこにじっとしていたとき、そいつは道の縁の所をかき分けて、別の縁へまっすぐ走った2024/10/12 16:05:5529.夢見る名無しさんお前はその時、そいつの人生に関わりあったのだところが、明くる日、小さな炎は消えたばかりか、強い不快感がやってきた多分、全てがうまくいっているわけではないという漠然とした感じむしろ、お前がしたようにするよりも、自然の成り行きに任せ、鼠に自分の道を行かせるのがよかった、という感じだウサギ小屋に戻るまでに、何日も、いや何週間も過ぎたその時見たものをお前は決して忘れなかったお前は、闇の中に仰向けになっているそして、その時見出したものを決して忘れないあのぐちゃぐちゃあの悪臭2024/10/12 16:06:5230.夢見る名無しさん少し前から、次のことにおびえている途切れがちな友達の要求他に何もなく、自分からする同伴は、時々心をくつろがせるその時声が割り込んでくる聞き手のイメージも、自分自身のイメージも同時にこれらを思い起こしたことが悔やまれ、どんな風にけりをつけるかが問題になる他に何もなく自分からする同伴とはいったい何どんなくつろぎがあるさしあたってこのままにしておくこと聞き手がHという名だとしようお前、Hは、闇の中で仰向けになっているそして彼は自分の名前を知っているとしようもう彼に関わりのないことを聞くなんて論外だ声が彼に向けられていないということもない確かに、論理的には何の問題もないのだ耳たぶの中のささやきについて、それが彼に向けられたものかどうか自問するなんて彼はそういう奴だだからあの漠然とした不信感はもうないあのかすかな希望ももうない彼にはものを感じる機会があまりにも少ない感じることには全然向いていないのだ彼が願いうる範囲内で、彼は何も感じないことしか願わないのだからそれは望ましいことか いいえ彼は友達という点で得をするか いいえではもう彼はHという名ではない彼はまたいつもと同じ名前はないお前2024/10/12 16:08:0131.夢見る名無しさん彼が横になっている場所をもっと細かく想像すること何も誇張しないでその形と広さの指標は、遠い声によって与えられる遠くから、緩やかな引き潮の果てに彼にたどりつき、あるいは突然投げ出され、あるいは長い沈黙の後、遠くで再開されそれは高いところからも、四方からもやってくるそしてどの高さでも、最大に隔たっているときは、同じ度合いまで最大に減衰する決して下からは来ない今のところはつまり論理的に言って、大きな直径を持つ円形の建物の中で、頭を中心に置き、仰向けになっている人物がいるどれくらいの大きさだろう一番強い時でもかすかな声の弱さからして、約二十メートルというところか、耳から、包囲している面のどの点までも、約十メートルくらいだろう形と広さはこんなものだでは素材はもし、仮に素材に対する指標が存在するなら、それはどんな指標かどこから来るかさしあたっては何も決めずにおこう玄武岩だろうか黒い玄武岩さしあたっては何も決めずにおこう2024/10/12 16:12:3732.夢見る名無しさんこうして、声にも、声の聞き手にも飽き飽きして、彼は密かに想像するしかし、もう少し想像すると、間違った想像をしていたことが分かるというのは、かすかな音から、どういうわけで断定できるのかもう少し大きな音が、離れているため小さくなったのであって、単にもっとかすかな音が、すぐ近くから聞こえたのではないとあるいは、よりかすかになっていく音について、よりかすかになっていくかすかな音について、それが、その場で減衰しているのではなく、むしろ遠ざかりつつあると断定できるのかたぶん少しも根拠はないだから声からは、聞き手が横たわっている場所の特徴について、どんな光も期待できないはかりしれない闇、果てしのない、さしあたってはここまでにしておこうただ、こんなに理性によって損なわれた想像力とはいったいなにものか、と付け加えるだけにして全てを自分の友達として想像するもう一人の男自分が作り出したものと同じ闇の中、あるいは別の闇の中で、素早く想像すること、同じ闇の中で2024/10/12 16:14:0433.夢見る名無しさん声を改善する方法はあるだろうかもう少し気持ちよく付き合えるようにする方法だ少し前から、変りつつあると仮定しようこの真暗な意識には、どんな動詞のどんな時制もないのだが全てが、いつも終わっており、そして途上であり、終わりがないしかし、もう一人にとっては、しばらく前から、声は改善されつつある、と仮定しようはじめに想像された通りの、いつもくすんだ調子、そして同じくどくどしさこれについては、改めて言うことなど何もないしかし、動きは稀になっている弱さの変化はもっと僅かだ最適の配置を探すようにしてそこから最大の効果で発生すること容易に聞こえるための理想的な大きさ過ぎた音量や、反対に緊張を強いるようなかすかさで耳を害さないように気を配ってこんな声は、最初に性急に想像されたような声より、はるかに友達に適している目的に達するには、はるかに適しているのだ目的とは、聞き手に過去を持たせて、それをしかも彼が認めることだお前は、長い労苦のあげく、これこれの日に生まれたそう私は思い出す木の後に、ちょうど太陽が沈んだところだったそう私は思い出すちょうど水滴が、よりうまく浸蝕するには、下にある層に、斜めにではなく、まっすぐ落ちなくてはならぬように2024/10/12 16:15:1534.夢見る名無しさん若い盛りその見本みたいな香りを想像することお前は、闇の中に横たわって思い出す雲のない四月の一日彼女は小さな小屋にいるお前に会いに来る粗末な六面体の丸太小屋高さ3メートル床の広さは3平方メートル二つの小さな光が両側から色のついた小さな菱形の窓ガラスその一つ一つに窓台がついている夏の日曜日、昼食の後、お前の父は、雑誌とクッションを持ってきて、ここで休むのが好きだった窓台に腰掛け、ズボンのベルトをはずし、彼はページをめくったお前は、彼の真向かいで脚をぶらぶらさせていた彼がくっくっと笑えば、お前もくっくっと笑ってみた彼の笑いが消えかけると、お前のも消えていったお前がくっくっという笑いを真似ようとするのが好きで、彼はひどく面白がったそしてお前がくっくっと笑おうとするのを聞きたくて、わざと笑うことさえあったお前は時々振り返り、窓の向こうを眺める2024/10/12 16:30:1135.夢見る名無しさん小さな鼻を押し付け、ばら色に染まった外をくまなく見つめる年月が過ぎ、あの時と同じ場所で、虹色の光を浴び、目を空虚に向けている彼女は遅いお前は目を閉じて、体積を計算しようとする困難な時、お前はわざと、簡単な算数の問題で気を紛らわすまるで隠れ家に行くようについにお前は、およそ七立方メートルまでたどりつく今でもまだ、闇の中で、時と無関係に、数字はお前を慰めるお前は、心臓の一定のリズムを仮想して、一日何回動悸を打つか計算する一週間一月一年そして、一人一人の人生の一定時間最後の動悸までのしかし、さしあたってまだ百億くらい数えなくてはならないところでやめて、お前は小さな小屋の中で、その容積を数えながら、座っているのだ約七立方メートル不思議な理由で、この数字はありえないものに思われ、お前はゼロから計算をやり直すしかしはじめたかと思うと、たちまち彼女の軽い足音が聞こえてくる体格の割には軽い音だ心臓が高鳴り、お前は目を開け、また果てしない時が過ぎ、彼女の顔が窓に現れるお前の方から見ると、ほとんど顔中真っ青だお前の大好きな自然な青白さ、同じように、たぶん彼女から見ればお前も青いはずというのは、自然な青白さはお前たち二人に共通の特徴だから紫色の唇はお前の微笑に答えない2024/10/12 16:33:4736.夢見る名無しさんお前の方から見たこの窓は、お前の目の高さにあり、一方床板は、外の地面とほぼすれすれのところにあるので、彼女が膝をついているのではないかとお前は思ってしまうお前たちの等しい背丈や大きさは等しい部分の合計であることを、経験で知っているからなぜって、まっすぐ立って、あるいは全身を伸ばして横になって、お前たちが互いに向かい合っているとき、膝はくっつき、恥骨も髪もからみあうからだから、座ったせいで背丈が低くなるのと、ひざまずいたせいで低くなるのは同じ、と結論するべきだったかここでお前は目をつぶり、脚の裏から膝までと、膝から腰までを、心の中でもっと正確に測り、比較しようとするお前は目を閉じたまま、しかもすっかり醒めきって、なんと集中していたことか夜も昼もこの完全な闇でこの影のない光ただ消えてしまおうとしてあるいは難題に没頭して1つの脚が現れるお前はそこから部分を引き離し、部分を横に並べるお前が少し予想していた通りだ高いところが一番長く、結果として、椅子が膝の高さにある場合の方が座ることによって減る長さよりは大きいお前はもう断片をうっちゃって、目を開け、お前の前に座っている彼女を見出す沈黙真っ赤な唇はお前の微笑に答えないお前の目は彼女の胸に下りるそれがそんなに豊かなのを見た覚えがない彼女の腹にしても2024/10/12 16:36:5937.夢見る名無しさん同じことだそれは、留め金をはずしたベルトからはみ出たお前の腹とひとつになる彼女の手にさえ触れなかったのに、妊娠するなんてことがあるだろうか?お前は自分に閉じこもる彼女もお前が気付かぬうちに目を閉じたお前たちはこうして、小さな小屋の中に座っているこの光の中にこの沈黙2024/10/12 16:37:4838.夢見る名無しさんこんな想像力の濫費でからっぽになり、彼は中止する、そして全てが中止するまた友達が必要になり、彼が決意して聞き手を少なくともMと呼ぶまで指示を容易にするためだ自分自身は別の文字Wで自分の友達として、自分を含む全てを想像しながら最後の知らせでは、Mと同じ闇の中でどんな知らせか、動かないか、動くか、まだ想像されていない彼は自分について語りながら、またこうも言う彼が自分自身について最後に語ったとき、それは自分の作り出したものと同じ闇の中に、自分がいると言うためだったと最初予想されたように、別の闇においてではない同じ闇で同伴するのにより好都合な闇としてまた彼は言う、その上自分の姿勢を想像しなければならなかったとそして動かないか、または動くか想像できるあらゆる理由のうち、結局どれが一番退屈させないですむか長い目で見れば、どんな運動、どんな静止が、一番気を紛らわせてくれることになるのかそして、同時に、まだ知るのは早すぎても、もう待つのはやめて、後で反故にされるかもしれないことを一息に言ってしまわないのか、もしたまたまそれが反故にならない場合は2024/10/12 16:39:2739.夢見る名無しさんその時は?もし彼が望ましいと判断すれば、彼が最後に選んだらしい闇から引き上げ、彼が作り出したものから離れ、全く別の闇の方へ行くことが出きるかもし今、彼が決心して横になり、しばらくしてそれを後悔することになれば、その時彼は、例えば立ちあがったり、壁にもたれたり、あるいは百歩歩いたりできるだろうかMは、また自分が揺り椅子の中に想像されることに甘んじるだろうか彼を助けに行くのは勝手だ自分を作り出したものと同じ闇の中、そこで彼はこうした困惑にさらされて、友達を台無しにしてしまう今までも時々したように、世の中の苦しみはいつも同じなのだろうか、と心の奥底で自問しながら2024/10/12 16:40:5740.夢見る名無しさんMは現在まで、こんなふうにしている暗いところで仰向けになっていて、形と次元はまだ想像するしかない断続的な声の聞き手彼は時々、声が彼にむけて語られているか、それとも同じ状況にある別の人間に向けられているか、自問する声が彼の状況を正しく説明していても、この説明は同じ状況にある別の人間に向けられていることもありえるからであるこの疑いは、声が四方に霧散するのではなく、彼に向けて押し寄せるにしたがって、徐々に否定される声がやむとき、唯一の音は自分の呼吸だ声が長い間やむとき、もうすっかりやんでしまったというかすかな希望まったくありふれた精神の動きたまに推理がひらめいても、すぐに消えてしまう希望と絶望というこの古びた、かろうじて感じ取れるペア彼の現在の状況がどこから来たかについては、全然手がかりがないあちらとこちら、かつてと今を連想させることもできない瞼だけが動いている目が外と内の闇に退屈したとき、瞼は一つ一つ閉じては開く他の部分的な、些細な運動の希望もなくなってしまったわけではないしかし、この点では、今のところ何一つ良好なことはないあるいは、より高い水準で同伴に有利なのは、例えばあらわな悲しみの仕草、または欲望、または後悔、または好奇心、または憤怒等々のしぐさあるいは、知性のありきたりの行為がうまくいって、例えば自分自身について語りながら、彼は自分に言い聞かせることができる、考えることができないから諦めるのだと2024/10/12 18:53:4641.夢見る名無しさんこのスケッチにはまだ付け加えることがある彼の名付け難さMでさえ消えなくてはならないこうしてWは、自分の作ったものをこれまで作ってきた通りに回顧するW?しかし彼もまた作られたものだ幻影それゆえ、さらにもう一人彼については何もない自分の無を和らげる為に、幻影を生み出してそっとしておこう少し時がたち、また心の中でうろたえそっと、そっとしておこう2024/10/12 18:54:3942.夢見る名無しさん全てを自分の友達として想像する、想像された、想像するもの自分が作り出した他の幻影達と同じ、幻影のような闇の中でどんな姿勢で?もう決まりきった姿勢をした聞き手のようには、まだ決まっていない?一人じっとしているだけではいけないかこんな気慰みを倍にしていっていったい何になる?それなら彼は動けばいい控えめに四つんばいで控えめな這い歩き胴体は地面からちゃんと離れ、警戒する目は歩みの方角にそれが何もしないよりましでないとしたら、やめてしまうこと、可能ならばそしてまた見出された空虚の中で、別の動作あるいは何もしないそれなら一番好都合な姿勢を想像するしかないしかしさしあたっては這うがいい這って歩き、転ぶまた這っては、また転ぶ自分の作った他の幻影達と同じように、幻影のような幻の中でまるで道に迷ったように、長いことさまよったあげく、声は自分の場所と自分のどうしようもない弱さを見出すその場所はどこか慎重に想像すること2024/10/12 18:55:4043.夢見る名無しさん仰向いた顔の上後頭部に対して垂直にだから、声の放つ光に、1つの口が浮かび上がるとしても、彼にはそれが見えない絶望して、彼が目を右往左往させても床とすれすれのところ?腕の先力?かすか後ろから、ゆりかごの枕もとに身体を傾ける母の声のように母は、父に見えるように離れる今度は父が赤ん坊につぶやくいつもの気の抜けた調子愛のしるしはない2024/10/12 18:57:0544.夢見る名無しさんお前は、ポプラの下に横たわっているその震える影の中にいる彼女は、肘をついて身体を直角に曲げて横になっているお前のつむった目は、彼女の目の中をのぞきこんでいたところだ闇の中で、お前はまたのぞきこむもう一度お前は自分の顔の上で、彼女の長く黒い髪の端が、静かな空気の中に動いているのを感じる髪の束の下にお前達の顔が隠れる彼女はつぶやく、葉の音を聞いてお前達は見つめあい、葉のすれる音を聞くその震える影の中で2024/10/12 18:57:5345.夢見る名無しさんそういうわけで、這っては、転びまた這っては、また転びもしそれが何の足しにもならないなら、いつでも彼は転んで、終わりにすることができるもう決して膝で立ちあがらなかった、ということもありうるこのような這い歩きが、いったいどうなふうに、声とは反対に、場所の配置を掴むのに役立つか、想像することまず這い歩きの単位とは何か歩くときの一またぎに当たるものは彼は四足で立ち、発進の用意をする手と膝は、80センチほどで、幅が任意の、長方形の角をなす結局、右膝はおよそ20センチだけ進み、こうして右手との距離を四分の一減らす手の方も、同じだけ進むこうして私達の長方形は、菱形に変形するしかし、左の膝と手が同じ事をする為に必要な時間だけだそうしてまた長方形に戻るこんなふうに、彼が転ぶまで続くこのとき這って歩くものは、いわゆる側対歩(※)を行うのだこれはおそらくあらゆる方法のうちでも、一番珍しい進み方だそれゆえ、たぶん一番気晴らしになる※ 馬術で馬が片側の二つの脚を同時にあげて進む歩き方2024/10/12 18:59:1546.夢見る名無しさん這い歩きしながら、心の中で計算する頭の中で ひとつふたつみっつよっつひとつ膝、手、膝、手、ふたつ 1つの足たぶん、いつつで彼がころぶまでそして遅かれ早かれ、ゼロからまた前進ひとつふたつみっつよっつひとつ膝、手、膝、手、ふたつむっつたぶん、こんなふうに続くできるだけまっすぐにちっとも障害に出会わないので、がっかりして道を引き返すその時までゼロからやり直しあるいはまったく別の方向に向かうできるかぎり一直線にそれでもまだ、苦労した割に終点につかないので、結局諦め、向きを変える暗闇がどんなに道を誤らせるか、ちゃんとわきまえながら、あるいはほとんどそんなことは思わずに心臓が原因の左回りまるで地獄に来たようあるいは熟考されただ円を直線に変えてしまうとにかく、どんなに元気に這っても、彼はまだちっとも終点近くについたわけではない膝、手、膝、手果てしない闇2024/10/12 18:59:5447.夢見る名無しさん聞き手が、完全な心理停止状態にあると想像するのは、理にかなったことか彼が聞いているときをのぞいてつまり、声が聞こえている時をのぞいてなぜなら、声と自分自身の呼吸以外に、いったい彼に何が聞こえているというのかああ這い歩き?彼に這い歩きが聞こえるか転倒が?這い歩きの音を聞くことができたら、どんなに友達として役に立つだろう転倒四つんばいに戻るまた這い歩きこんな物音にいったい何の意味があるか、首を傾げながらもっと後もっと空しいときのためにとっておけばいいそしてこの音のほかに、何が彼の心に活気を与えることができよう見えるもの?見えるものなど何もないと、どうしてはっきり言わずにいられようしかしさしあたっては遅すぎる目を開け、また閉じるとき、彼は闇の変化を感じるからだそしてとにかく、声が放つかすかな光を、想像した通りに感じるからだ性急に想像したのだった確かに、極端に弱い光だ、ほとんどつぶやきでしかない今突然それが見えても、 目は閉じてしまうこの瞬間、開いていたと仮定してだから、しまいにはかろうじて存在しているあの光は、せいぜい瞬きの半分ほどの間しか感知されない2024/10/12 19:03:2648.夢見る名無しさん味?口の中の味?ずっと以前から鈍っている床が彼の骨格にのしかかる?端から端まで、踵から、後頭部の突起まで動こうとすれば、彼の無気力がかきたてられないか脇腹を下にひっくり返す?または腹を下に変化をつけるために最小限の欲求が彼に与えられるようにそして同時に、彼が思いのまま、ただ身を捩じらせることができた時代は終わったと知ることの安らぎ嗅覚?彼自身の臭い?ずっと前から彼のものそして、他の臭いに対する壁、他の臭いがあるとしての話だが例えば、ある時はずっと前に死んだ鼠の臭いあるいは他の腐った死骸の臭いさらに想像しなくてはならない2024/10/12 19:04:5749.夢見る名無しさんただし這い歩きする奴が臭うとしてああ這い歩きする創造者這いながら、創造者が臭うなどと想像することは、正気の沙汰だろうか自分の作ったものよりもっと臭いなんてそして、驚きに対してはひどく無関心なこの精神を、驚かすなんてこのむかむかするような息は、いったい誰の、何の?もし自分が創造したものが臭うとすれば、どんなにか友達としては好都合だろう彼が創造者の臭いを嗅ぐことができさえすれば第六感という奴か?差し迫った不幸の言い難い予感はい、それともいいえ?いいえ純粋理性?経験以下神は愛はい、それともいいえ?いいえ2024/10/12 19:05:3350.夢見る名無しさん自分の被造物と同じ創造された闇の中を這う創造者は、這いながらも創造する事ができるだろうかこれが、二回の這い歩きの間で、横になって彼が自分に問うた問題そして、明らかな答えはすぐやってきても、一番有利な答えはなかなかやってこないそして、このことについて想像力を持てるまでには、何度も繰り返し這い歩きしなければならず、同じくらいの数、意気消沈しなくてはならなかった同時に一息に、心の中で、彼の考えるどんな答えも絶対ではない、と自信なく付け加えながらなるようになれ彼が、けりをつけるためにあえてした答えは、否定的であったいや、彼にそんなことはできない闇の中を、さっき想像したような仕方で這うなんて、たとえ虚無の断片を物体化するような活動であれ、とにかく他のどんな活動もできなくなってしまうだろう彼は単に、あまりに性急に想像されたあの特殊なやり方で移動しなければならないだけでなく、おまけに可能なかぎり、直線上を進まなくてはならないしかも、進みながら、半歩ごとに足し算し、既に計算したものの、常に変化していく和を記憶に留めなければならないそしてついには、場所の特徴に関するほんの些細な手がかりに対して、目も耳も警戒状態に保っておかなくてはならないこの場所に、彼は想像力によって、たぶんあまりにも急に閉じ込められたのだだから理性によってこんなに損なわれた想像力をかこちながら、同時に、どんな高揚もかりそめであることを忘れずに、彼は結局、いや、それはできない、と答えることができるだけだ自分の被造物と同じく創造された闇の中を這いながら、理性的に創造することなどできないと砂浜夕方光は死に絶えるすっかりなくなって、やがて光はもう死に絶えることもないいや光がないなら、もうこんなことさえない2024/10/12 19:07:5351.夢見る名無しさん光は夜明けまで死んでいき、もう決して死ぬことはないお前は海を背にして立っているただ海のざわめきがあるだけとても静かに遠ざかりながら、絶えず弱まっていくとても静かに、それが戻ってくるときまでお前は長い杖にもたれかかる杖の柄に手を置き、その上に頭を置くお前の目がたまたま開いたら、まず、最後の明かりで遠くに、お前の上着の裾と、砂に埋もれたお前の編み上げ靴の胴が見えるだろうそれから、砂の上の棒の影だけが、それが消えていく間、見えるだろうお前の視野から影が消える月も星もない夜もしお前の目がたまたま開いていたら、闇が輝くのに2024/10/12 19:08:3352.夢見る名無しさん這って、転ぶ横になる闇の中で目を閉じ、息をつくまたやり直す物理的に、そして何にもならないのに、また這って歩いたことを失望するいったいなんで這って歩くのか、とたぶん一人ごちながらなぜただ闇の中に目をつむって、横たわり、全てを放棄してしまわないのかみんな終わりにすること気違いじみた這い歩きと、空しい幻影もしかしこんなふうに勇気を失ってしまうことがあるにしても、それは決して長い間は続かないなぜなら、ぐったりした彼の心に、また少しずつ友達の欲求が生まれるからだあるいは自分自身との同伴を逃れようとする欲求がもう一度あの声を聞きたくなるそれが再びこう言っているのに過ぎないにしてもお前は闇の中で、仰向けになっているあるいはさらに、お前はこれこれの日、日の目を見たよく聞くために目を閉じて、あの広がる光を見ようとする欲求あるいは、何らかの人間的弱さが加わり、聞き手をましな奴にしようという欲求例えば、手の届かないところの痒さ、あるいはもっといいのは、麻痺した手に届くところの痒さかくことのできない痒さそれは友達として、なんと好都合かあるいは自分について語りながら、自分が横になっていることを漠然と暗示することによって、彼はいったい何を意味しているのか、という問いが最後の楽しみにとってある言いかえれば、無数の横たわり方のうち、長い目で見ると、どれが一番好ましいか?もし特定のやり方で這って転ぶとすれば、当然顔は地面に向いているだろう2024/10/12 19:11:3353.夢見る名無しさんこのときの疲労と落胆の度合いを考えれば、これ以外はほとんど不可能だしかし一度すっかり脱力すれば、当然、彼はどちらかの脇腹を下にして、あるいはたった1つの背中を下にして、ひっくり返ることができるはずだそして、これらの三つの姿勢のうちどれかが、他のどれかより気晴らしになるとして、とにかく横になるはずだ背中を下にした姿勢は魅力的だが、既に聞き手に採用されているので、結局は斥けられる横腹については、一目見て駄目と分かるそれなら、虚脱状態しかないかしかしどんなふうに?どんなふうにして虚脱状態になるのか?足はどんなふうに置けばいいか腕は?頭は?闇の中で虚脱して彼は、どうしたら、うまい具合に虚脱していられるか賢明に知ろうとするどんなふうに、虚脱して自分に同伴するか2024/10/12 19:13:1754.夢見る名無しさん聞き手のイメージをはっきりすることいろんなやり方のうち、どんなふうに仰向けになるのが、一番人を退屈させないか虚脱し、目を閉じ、闇の中にかっと見開き、しまいに彼はぼんやりと見始めるそれにしてもまず裸で?あるいは何かを纏って?ただの布切れでも裸声の放つ光に幽霊のように浮かぶ、骨のように白いこの肉体が友達前述した喉頭部の突起にほぼ支えられた頭こわばった形に組まれた両足直角に開かれた足の裏見えない手錠で恥丘の上に交差させられた手必要に応じて、別の細かいこともあるだろうさしあたって、彼をそのまま放っておこう2024/10/12 19:14:1355.夢見る名無しさんまったくお似合いの災いに打ちのめされ、それでもお前は、頭を手の支えから上げ、また目を見開くお前は、自分のいる場所から動かずに、頭の上の光を灯すお前の目は、目の前の腕時計を見るしかし夜の時間を確かめるかわりに、目は秒針の回転を追うその影は、針の先を行ったり、針を追いかけたりする何時間もたつと、やがてこんなふうに感じられる60秒と30秒で、影は針の下に消える60秒から30秒まで、影は針の先を行くが、その間の距離は、60のときゼロで、15で最大値に達するそこから、今度は30の所でまたゼロにまで減少する30秒から60秒まで、影は針を追いかけ、その間の距離は、30のときゼロで、45で最大値に達し60でまたゼロに減少する今お前が、光か時計かをどちらかに移動させて、光を斜めに腕時計に当てると、影はまったく違う点、例えば、50と20で針の下に消えるまた、傾斜の角度によってこの2点は、まったく違うところに移るしかし傾斜がどんなふうでも、また、影がゼロになる点が、最初の場合と新たな場合でどれほど隔たっていても、ふたつの点の間の開きは、いつも30秒だ影は、回転しながらどこであろうと、針の下から現れて、30秒間針を追いかけ、あるいは針の先を行くそれから、1秒を計算できないほど小さく割った瞬間だけまた消えて、またあらわれ、針の先を行き、あるいは針を追いかけるこれが絶え間なく続く見たところ、これだけが唯一、一定している2024/10/12 19:16:5156.夢見る名無しさんなぜなら、針とその影の間の距離そのものもまた、傾斜の度合いにしたがって変るしかし、その距離がいくらであろうと、相変わらず15秒間ゼロから最大値まで増加し、また15秒間にそのつどゼロまで減少するこれが絶え間なく続くこれがおそらく、二番目に一定しているこの秒針とその影が、一見絶えず平行して文字盤を回転する様子を、お前はもっと観察することができただろうこの回転からの他の変数、定数が取り出され、今まで感じてきたことに含まれていた誤謬が、訂正されたかもしれないしかし、それ以上のことはできずに、お前は頭をもとのところに下ろし、目を閉じて、お前にお似合いの災いに戻っていく明け方、お前のいつもの姿勢が光にさらされる海側の窓から、低い太陽がお前を照らし、床にお前の影を投げ、頭の上にいつも灯っている明かりや、さらに他のものの影を投げる2024/10/12 19:18:1157.夢見る名無しさん光の闇の中には、何が見えるのか誰がそう叫んでいるのか誰が、誰が叫んでいると問うのか光も影も、影を落とさぬ闇の中に、何が見えるのかさらにまた別の誰か?全てを自分の友達として想像しながらそれは、友達としてどんなに役に立つことかさらにまた別の者が、全てを自分の友達として想像するそっと、そっとしておこう2024/10/12 19:18:5158.夢見る名無しさん是が非でも、なんとか、始末をつけるため、もう外出できなくなった時、お前は闇の中にしゃがんでいた最初の歩みから約三万里、およそ地球を三周決してお前の家から半径一理以上離れたことはないお前のすみかここには窓がないお前が目を開けると、闇が輝いているだからお前は闇の中で仰向けになっているが、昔はここでしゃがんでいたものだお前の身体は、もう外出することができない、とお前に告げた田舎の小道のつづら折りや、その間の、群れでにぎわう、あるいは空っぽの牧場を歩くことはもうできないのだお前の脇には、長い年月、日雇いのぼろ服を着た父の影があった、それから長い間一人だった一歩一歩、既にした歩みの、絶えず増えていく合計に、お前の歩みを付け加え時々、一番最後の合計を勘定する為、うなだれて立ち止まりまたゼロから前進しお前はうずくまって、もう一人ではないと想像しようとする、そんな想像を可能にするものは何も生き延びてはいないことを知りながらそれでも事態は、いわばその愚かしさによって和らげられ進行する一つ一つの言葉を、一人でつぶやくのは止めろ、私は、私のすることが水の泡と分かっているが、それでも続ける違うなぜなら、一人称単数は、ついでに複数は尚更、お前の語彙には決して存在しなかったしかし、こうしてお前は、黙ったまま、自分を観察するのだ時々、お前は身体を伸ばす同時に、様々な部分が揺さぶられる腕は膝から離れる頭が起きあがる足は伸びる胴は後ろにのけぞるそして、他の数え切れないものと一緒に、それらは一つ一つの移動を、もう不可能になるまで続け、そして一緒に滞る2024/10/12 19:20:4959.夢見る名無しさん伸びる動作を中止したところで、今仰向けになって、お前は作り話を続けるそして、逆の動きがまた中止するまで、お前は続けるこんなふうに、闇の中にうずくまり、あるいは仰向けになり、お前は無駄な骨折りを続けるそして、最初の姿勢から次の姿勢への移行が、時に連れて簡単に、より自発的になるように、その反対はやはり反対になるだから、たまたまくつろいでいただけだったのに、身体を伸ばすことは習慣となり、しまいには規則となる今闇の中で仰向けになったお前は、もう両腕で足を抱えて、ぎりぎりまで頭を低くして座るということもないだろうやむをえず、顔をのけぞらせ、お前は空しく作り話をいじりまわす言葉が終わりに達したらしいとついに悟ってしまうまで空虚な言葉を重ねるたび、お前は最後の言葉に近づいていく作り話もお前と一緒に闇の中にいる他人についての作り話闇の中にお前と一緒にいる他人についての作り話をするお前についての作り話そういうわけで、要するに、徒労の方がましで、おまえは相変わらず2024/10/12 19:21:5960.夢見る名無しさんただ一人2024/10/12 19:22:3161.夢見る名無しさん松本人志2024/11/11 15:28:5462.夢見る名無しさんは18日、三重県菰野町福村の機械器具設置工事会社「西森組」が津地裁四日市支部から破産手続き開始決定を受けたと発表した。決定は7日付。負債は約5千万円。 支店によると、同社は昭和14年に創業し、同45年に法人化。北勢を中心に空調機械や発電機、変電設備などの設置を手がけ、平成6年1月期には約3億円の年売上高を計上していた。 一方、競争の激化や新型コロナウイルスの感染拡大によって受注が減少2024/11/20 15:09:16
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想像すること
それは背中にかかる圧力で分かり、
彼が目を開けてまた瞑るときの闇の変化で分かる
言われたことはごく一部しか確かめられない
例えば、お前は闇の中で仰向けになっている、というのが聞こえてくる時
この場合彼は言われたことを認めるしかない
しかし、言われたことの大部分はとても確かめられない
例えば、お前はこれこれの日に日の目を見た、というのが聞こえてくる時
例えば、二つが結びつくこともある
お前はこれこれの日、日の目を見た、そして今お前は闇の中で仰向けになっている
これはおそらく、一方に他方の明確さを波及させようとする策略だ
場合によっては現在に関すること、稀に未来に関することもある
例えば、お前はちっとも変らないまま、くたばってしまうだろう、というように
そして、別の闇、あるいは同じ闇に、もう一人誰かが
全てを自分の友達だと想像しながら
そっとしておこう
三人称はもう一人が
声は誰かに向かって、またその誰かについて話しているが、
この誰かに彼も向かって、この誰かについて話せるとしたら、3人目がいることになる
しかし、彼にはそれができない
彼はそうしないだろう
お前にはそれができない
お前はそうしないだろう
少なくとも聞こえるほどの音はない
その息のかすかな音が彼にそう言う
彼は時々、声が彼に向けて、彼について語っているのかどうか、
という質問を自分にしてしまう
彼は、他人に向けられた知らせを邪魔しているのではないか
もし闇の中で一人で仰向けになっているのだとすれば、なぜ声はそう言わないのか
なぜ声は、例えば、お前はこれこれの日に日の目を見た、
今お前は闇の中で仰向けになっている、と決して言わないのか?
なぜ?
多分、彼の心にあの不確かさと気詰まりの感情を生じさせることだけが目的だ
それは彼が自分から認めることだ
お前はこれこれの日生まれた、
そしてお前のいつも消極的な精神は前よりもいっそう消極的だ
しかし友達として役に立つには、どんなに頼りなくても、何かしら精神の活力が必要だ
だからこそ、声は言わないのだ、お前は闇の中に仰向けになっていて、
お前の精神は、どんな種類の活動もしない、というようには
声だけが友達だが、それでは不充分なのだ
聞き手に対するその効果が、どうしても補足として必要なのだ
たとえそれがさっき言ったような不確かさと気詰まりの、曖昧な感情の形であっても
しかし友達の問題は別にしても、このような効果が必要なことは確かだ
というのは、彼がただ声を聞くだけでよく、声がダモ語やらワイアット語やらのように、
彼に対して何の効果も与えないなら、黙っていてもいいではないか
声が純粋に雑音として、沈黙や静寂に飢えている人間を拷問にかけようとしているなら話は別だが
当然、さっき推測されたように、声が他人に向けられている場合も話は別だ
お前達は右に曲がり、黙って大通りを南に進む
百歩ほど行ってお前達は内側に折れ、家に向かう長い坂にかかる
夏の生暖かい、穏やかな空気の中を黙って進む
午後遅く、百歩ほど行くと太陽が山頂に現れる
紺碧の空、そして母親の顔を見上げ、
あれは見かけよりも実際はるか遠くにあるのではないか、と沈黙を破ってお前は尋ねる
空の事を聞いたのだ
答えがないので、お前は心の中で質問を練り直し、もう百歩ほど歩いてから、
また母の顔を見上げ、あれは実際よりもずっと近くに見えているのではないか、と尋ねる
お前には決して納得できない理由で、この質問は彼女を苛立たせたに違いない
彼女はお前の小さな手を突き放し、
忘れられない、意地悪な答えをお前に返したのだから
こうしてなけなしの分別で彼は考える
一人の他人に向かってこの他人について
あるいは別の誰かについて
ある他人に向かってこの他人について、または彼について、
あるいはまた別の誰かについて
とにかく闇の中で仰向けになっている誰かについて
こうして、彼はなけなしの分別で考える、間違って考える
というのは、もし声が語りかけているのが彼にではなく、他人に向けてであるとすれば、
当然ながら声はこの他人について語っているのであり、
彼についてでも、別の他人についてでもない
声は二人称で語っているのだから
声が語りかけている当人について語っているのでなければ、
二人称で語るはずがなく、三人称で語るはずだ
例えば、彼はこれこれの日に日の目を見て、今闇の中に仰向けになっている
だから声が彼に向けてではなく、他人に向けて語っているのであれば、
声は彼についてではなく、この他人について語っているのであって、
他の誰についてでもない
こうして、なけなしの分別で彼は間違って考える
友達になるために彼は、何か精神的な活力を示さなければならない
しかし特別である必要はない
特別でなければ、なおさらいいと言ってもいいくらいだ
特別でないならないだけ、彼はいい友達になれる
ある程度は
大きな窓が西の山に向かって開いている
ほぼ西に
弓形に張り出しているので、それは少し北と南に向かってもいた
当たり前のことだ
やはり山がある南に少し、山が平地にむけて少しなだらかになっている北に少し
お産をさせた医者 ごつごつした灰色の髭と、せっぱつまった表情
祭日だったので、お前の父は朝食をたいらげると、
飲み物の入った瓶と、好物の卵のサンドイッチを包んで、山歩きに出かけていった
これは普段と変らなかった
しかしこの朝は大好きな散歩や自然だけが理由ではなかった
出産に伴う仕事のつらさ、他のあまり気乗りのしない面が彼にもたらす嫌悪も加わっていた
そして正午の頃、海に面した大きな岩の陰で、サンドイッチを味わった
彼が草をかきわけていた頃の、前後の思いをお前は想像することができる
日が落ちて、家に戻り勝手口から入ろうとして彼は、
お産は最高潮に達してまだ続いていると聞かされて驚愕する
十時間も前、まだ出発以前の状況と同じだ
自分の愛車がとめてある車庫へと走っていった
扉を閉めて運転席へはいあがった
彼が暗闇の中でハンドルにつかまり、ただ考えることしかできないで待ち続けた間の、
彼の考えをお前は想像することができる
疲れきって足は痺れているのに、
彼は薄暗い月の下、野原を横切ってまた出て行こうとしていた
その時誰かが、やっとみんな終わった、と彼に言いに走ってきた
終わった
離れている為に弱まり、あるいは耳に囁かれる
同じ文を言う間に声は場所を変え、強さを変えることがある
こうして例えば、仰向けになった頭の方からはっきりと、
お前はこれこれの日に日の目を見た、そして今
さらに耳に囁かれる、お前は闇の中で仰向けになっている
もちろん、逆の場合もある
別の特徴はといえば、それが長い間沈黙することで、
彼はほとんど、声が最後の言葉を言ってしまったのだ、と信じそうになる
すると、仰向けになった頭の上の方から、同じようにはっきりと、
お前はこれこれの日に日の目を見た、そして今
それから長い間をおいて彼に希望が生まれようとしている時、つぶやきがやってくる
お前は、闇の中で仰向けになっている
あるいはもちろん逆の場合もある
もう1つの特徴はくどい繰り返しだ
いつまでもほとんど変らない同じ[過去]
まるで、その繰り返しを彼が自分の物にするように、無理強いするみたいに
そう、私は思い出す、と彼に白状させようとして
そのうえ、彼に多分ひとつの声を持たせようとして
そう、私は思い出す、と彼につぶやかせようと
それは友達としてはずいぶん役に立つのだろう
途切れ途切れにつぶやく一人称単数の声、そう、私は思い出す
お前はその場所をよく知っている
つんぼでもうろくした女主人は、お前の母親と一緒のときが一番安心できた
彼女はいつか空を飛べるのだと確信していた
それで、ある日二階の窓から身を投げたのだ
遊園地から、子供自転車に乗って帰る時、可哀想な老婆が、玄関と格闘しているのをお前は見る
玄関を開けてやると彼女はお前に感謝する
彼女はどう言っただろうか
坊ちゃんに神様の御加護がありますように
こんな調子だ
坊ちゃんに神様の御加護を
それは緩やかに聴覚の限界まで遠のく
そしてそのかすかな最大値まで緩やかに戻る
緩やかに減少するたびに、声が途絶えてしまうだろうという希望が、緩やかに生まれる
彼は声が戻ってくることを知っているはずだ
それでも、緩やかな減少のたび、それが途絶えてしまうだろうという希望が、
緩やかに生まれる
非常に長い時間をかけて、なけなしの判断力で、彼は闇と沈黙が永遠に続くのだと判断する
そして、ある日声が聞こえる
ある日
ついに
そしてついに声は言う
お前は闇の中で仰向けになっている
これが最初の言葉だ
彼が自分の耳を信じられるようになるまでの長い休止、
そしてもう一度同じ言葉
そして、聴覚が停止するときだけ停止するという
お前は闇の中で仰向けになっている
そしてこの声は、聴覚が停止するときだけ停止するだろう
薄明かりの中で横になり、物音がほとんどやんだ時、
少しずつやってきた沈黙と闇
これは友達としてはたぶん好都合だ
というのも、とぎれとぎれの物音は何? 薄明かりはどこから?
海にはお前の父親の仰向けの顔
お前に向けて仰向けになっている
親しい気さくな顔が下に見える
彼はお前に飛べと叫ぶ、勇気を出せと
潮が彼を波間に浮き沈みさせる
また遠くから呼ぶ声がする、勇気を出せと
みんながお前を見ている
沖の方から 硬い陸地から
薄明かりはどこから?
闇の中にはどんな友達が?
目を閉じてそれを想像しようとする
昔、薄明かりがどこから来たのか?
彼は自分の仰向けになった顔の上に、いったい何を見ることができたのだろう
闇の中で目を閉じ、それを想像すること
生気のない
いつも同じさえない調子
断定するときも
否定するときも
質問するときも
感嘆するときも
説得するときも
お前はかつて存在した
お前はかつて存在しなかった
お前はかつて存在したのか
おお、決して存在しなかった
もう一度存在せよ
相変わらずのさえない調子
動くか
動かなくてはならないか
何の役に立つことか
声がとぎれる時
どんなかすかでもいい
何らかの動き
にぎりしめる手でもいい
はじめ閉じていたなら、開く手でもいい
闇の中では、どんなに役に立つことか
目を閉じてこの手を見ること
差し出された手のひらが視野を満たす
様々な線、緩やかに折られる指、はじめ折られていたなら、今度は伸ばされる
もちろん目がある
緩やかに下りる覆い
最初下りていたなら引き上げられる
目
垂直にかっと開かれ、覆われ
剥き出しにされ、また覆われ
また剥き出しにされ
どんなにかすかにであっても
それは友達としてどんなに役立つことか
お前は闇の中で仰向けになっている
そしてある日、お前はついに喋り出す
ある日
ついに
お前はついに再び喋るだろう
そう、私は思い出す
それは私だった
あの時それは私だった
お前の母親は台所で さんと食べるおやつを用意している
薄くバターを塗ったパンを作っている
茂みの後ろから、お前は さんが着くのをうかがっている
痩せてぎすぎすした小柄の女だ
お前の母は彼女に答えて言う
あの子は庭で遊んでいるわ
お前は高い縦の木の天辺によじ登る
そこであらゆる物音に耳を傾けている
そして下に落ちる
大きな枝が落下を妨げる
針のような葉
お前はしばらく地面にうつぶせになっている
そしてまた木に上る
お前の母は さんに答えて言う
あの子は手がつけられないのよ
彼はなけなしの感情で、以前に比べて現在をどう感じているのか
なけなしの判断力で、彼が自分の状態は取り返しがつかないと判断した時
同じように、彼がその時、それ以前に比べて、その時のことをどう感じていたか問うこと
その時にも、以前などというものがなかったように、今もそんなものはない
ちょっと見たところ明白な言葉だ
だが、まじまじと見られると言葉は混乱する
しかも目がまじまじと見れば見るほど、それは余計に混乱する
こうしてようやく楽になった頭は自問する、これはどういうことだ
一見明らかに見えたのに、これはいったいどういうことだ
いわば、頭の方もまた閉じてしまうまで
暗い、空っぽの部屋の窓が閉じられるように
薄暗い外側に向かった唯一の窓
あとはもう何もない
不幸なことに、ない
瀕死の人間の僅かな目の光、そして身震い
言葉にならない心の震え
いやしがたい
どうして、別の闇、あるいは同じ闇なのか
そして誰がそう尋ねるのか
また誰が、誰がそう尋ねている、と尋ねるのか
そして、答えるのか
誰であれ、全体を想像するものであると
自分が生み出したものと同じ闇の中で、または別の闇の中で
自分自身の友達として
誰が尋ねている、と尋ねているのは結局誰なのか
そして結局先のように答えるのは誰か
長いことたってから、低い声がつぶやく、それがさらにまた別の誰かでない限りはと
どこにも見つからない
どこにも探せない
最後の思考不可能
名付けられない
本当に最後の人称
私
そっとしておこう
闇の中のお前の背中にその時あった光
雲も太陽もない輝き
お前は夜明けとともに姿を消して、丘の中腹にある隠れ家に登っていく
エニシダの中の巣窟
東の海の向こうには、高い山のかすかな輪郭
お前の地理の教科書を信じるなら
お前の生涯で、三回目あるいは四回目
最初、お前は大喜びで彼らにそれを知らせた
お前は雲を見ただけかもしれなかった
だからそれからは、他のことと一緒に心の中にしまっておく
日が落ちて家に戻り、食事もせずに床につく
またあの光の中の闇に横たわる
エニシダの中の巣窟から、お前は目が痛くなるほど海の向こうを睨んでいる
お前は百まで数える間、目を閉じ、また開いて再び睨みつける
しまいに山が見えてくるまで
青白い空にどこまでも青く、青白く
お前は、闇の中、この光の中に再び横たわっている
雲も太陽もないこの光の中で眠りこむ
夜明けまで眠るがいい
自分の友達として、自己を考え出すもの
そのままにしておくこと
彼は自分について、まるで他人についてのように話す
自分について話しながら、彼は言うのだ
彼はまるで他人について話すように自分について話していると
彼もまた自分の友達として、自分を想像していると
そのままにしておくこと
混乱もまた友達になるのだ
ある程度までは
いかさまな望みでもないよりはましだ
ある程度までは
心をもてあますようになるまで
友達にももてあまして
ある程度までは
もてあました心でも無よりはましだ
くたばってしまうまでは
こうして自分について語りながら、彼はとりあえず結論する
とりあえずは、このままでいい
さらに想像しなくてはならない
例えば自分の姿勢
立つ、あるいは座る、あるいは横になる、あるいは闇の中で、
他のごくありきたりの姿勢でいる
さらに想像すべき様々な答えの中の答え
同様に別の問いに対しても、様々な答えがある中で
友達の度合いを考慮して
二つの闇のうちどちらが友達に適しているか
想像可能なあらゆる闇のうちどれが、友達として好都合か
同じようにまた別の問いも想像しなくてはならない
例えば、このような決定は、覆すことのできないものかどうか
例えば、充分想像が熟した後、
仰向けにあるいは腹ばいに横たわるのがいいと決まり、
しかも結局この姿勢は友達として不適当だと仮定しよう
この場合、別の姿勢でおきかえることは可能かどうか
例えば、腕で作った半円の中に足を折りたたんで、
頭は膝につけて、しゃがみこんだ姿勢
それに動きを加える
例えば四つんばいでもいい
同じ闇、あるいは別の闇の中の他人が、四つんばいに放り出され、
全てを自分の友達として想像しているところだ
あるいは別の移動の仕方
出会いの様々な可能性
死んだ鼠
それはなんと友達として役に立つことか
ずっと前に死んだ鼠
もっと感じのいい、でなければ本当に人間的なつきあいのできる奴にする余地は
精神的な面で、多分、もう少し活気に満ちたところのあるとか
少なくとも思案の努力
回復の努力
または区別の努力
感情の跡
何らかの悲しみのしるし
挫折の感情
厄介な試みだ
さらに肉体的な面は
どこまでもじっと横になったままでいなければいけないものか
ときどき瞼だけが動くのは、技巧として必要だ
闇を許容し、または拒絶するためだ
足を組むことはできないか
とぎれとぎれに
左足を右足にでもいい、または好きな間だけ、逆に組んでもいい
いや、全く矛盾する
足を組んだまま横になっているなんて
一目見て駄目と分かる
手の動きは
緊張 緊張の緩み
禁止することは難しい
あるいは蝿を追うたびに起き上がること
しかし蝿がいない
それでは蝿を存在させよう
いいじゃないか
誘惑は強い
蝿を一匹存在させること
彼を死んだものと思い込む一匹の生きた蝿
間違いに気付いては、すぐ同じ間違いを犯す
なんと友達として効果的か
彼を死んだと思い込む一匹の蝿
いや、彼は一匹の蝿さえ追わないだろう
それから、その箱を使い古したウサギ小屋に入れて、開いたままの戸を固定し、哀れな動物が、行き来できるようにしてやる
餌を食べにいくこと、そして食べ終わったら、小屋の中の箱の温もりと安全に戻っていくこと
つまり箱の中の鼠は、生きるための十分なみみずを与えられている
全てにぬかりがないことを確かめる為の最後の一瞥、それからお前は、まだ幼いのにもう死ぬほどゆっくり流れていく時間を潰す為に、また別の何かを見つけに出かけていく
この善行によって灯された小さな炎は、弱まり、ほのかになってしまう前に、いつもよりは長く続いた
この頃お前は物事に熱中したものだが、決して長続きはしなかった
お前の施す何らかの善行や、敵に対する些細な勝利、
両親や肉親から出た誉め言葉によって、炎は灯っても、たちまちその炎は弱まり、
かすかになって、前のようにお前を臆病に陰気にしてしまう
しかしその日は違った
過去形で結論するとすれば、お前が鼠に出くわし、そして憐れみを抱き、
寝るときになっても、まだその善行を味わっていたのは、ある秋の午後のことだった
お前は、毎晩報告する親しいものたちのリストに、鼠を加えた
シーツの温もりの中で、何度も身体を転がして、
眠るのを待ちながらお前はまだ少し心を熱くしていた
この鼠がお前の通り道に居合わせるという幸運を思いながら
それはなびたツゲに縁取られた泥の道だった
寝るときまでの時間を潰すのに一番いい仕方を探して、
お前がそこにじっとしていたとき、そいつは道の縁の所をかき分けて、
別の縁へまっすぐ走った
ところが、明くる日、小さな炎は消えたばかりか、強い不快感がやってきた
多分、全てがうまくいっているわけではないという漠然とした感じ
むしろ、お前がしたようにするよりも、自然の成り行きに任せ、
鼠に自分の道を行かせるのがよかった、という感じだ
ウサギ小屋に戻るまでに、何日も、いや何週間も過ぎた
その時見たものをお前は決して忘れなかった
お前は、闇の中に仰向けになっている
そして、その時見出したものを決して忘れない
あのぐちゃぐちゃ
あの悪臭
途切れがちな友達の要求
他に何もなく、自分からする同伴は、時々心をくつろがせる
その時声が割り込んでくる
聞き手のイメージも、自分自身のイメージも
同時にこれらを思い起こしたことが悔やまれ、どんな風にけりをつけるかが問題になる
他に何もなく自分からする同伴とはいったい何
どんなくつろぎがある
さしあたってこのままにしておくこと
聞き手がHという名だとしよう
お前、Hは、闇の中で仰向けになっている
そして彼は自分の名前を知っているとしよう
もう彼に関わりのないことを聞くなんて論外だ
声が彼に向けられていないということもない
確かに、論理的には何の問題もないのだ
耳たぶの中のささやきについて、それが彼に向けられたものかどうか自問するなんて
彼はそういう奴だ
だからあの漠然とした不信感はもうない
あのかすかな希望ももうない
彼にはものを感じる機会があまりにも少ない
感じることには全然向いていないのだ
彼が願いうる範囲内で、彼は何も感じないことしか願わないのだから
それは望ましいことか いいえ
彼は友達という点で得をするか いいえ
ではもう彼はHという名ではない
彼はまたいつもと同じ
名前はない
お前
何も誇張しないで
その形と広さの指標は、遠い声によって与えられる
遠くから、緩やかな引き潮の果てに彼にたどりつき、
あるいは突然投げ出され、あるいは長い沈黙の後、遠くで再開され
それは高いところからも、四方からもやってくる
そしてどの高さでも、最大に隔たっているときは、同じ度合いまで最大に減衰する
決して下からは来ない
今のところは
つまり論理的に言って、大きな直径を持つ円形の建物の中で、
頭を中心に置き、仰向けになっている人物がいる
どれくらいの大きさだろう
一番強い時でもかすかな声の弱さからして、約二十メートルというところか、
耳から、包囲している面のどの点までも、約十メートルくらいだろう
形と広さはこんなものだ
では素材は
もし、仮に素材に対する指標が存在するなら、それはどんな指標か
どこから来るか
さしあたっては何も決めずにおこう
玄武岩だろうか
黒い玄武岩
さしあたっては何も決めずにおこう
しかし、もう少し想像すると、間違った想像をしていたことが分かる
というのは、かすかな音から、どういうわけで断定できるのか
もう少し大きな音が、離れているため小さくなったのであって、
単にもっとかすかな音が、すぐ近くから聞こえたのではないと
あるいは、よりかすかになっていく音について、
よりかすかになっていくかすかな音について、
それが、その場で減衰しているのではなく、むしろ遠ざかりつつあると断定できるのか
たぶん少しも根拠はない
だから声からは、聞き手が横たわっている場所の特徴について、どんな光も期待できない
はかりしれない闇、果てしのない、さしあたってはここまでにしておこう
ただ、こんなに理性によって損なわれた想像力とはいったいなにものか、と付け加えるだけにして
全てを自分の友達として想像するもう一人の男
自分が作り出したものと同じ闇の中、あるいは別の闇の中で、素早く想像すること、同じ闇の中で
もう少し気持ちよく付き合えるようにする方法だ
少し前から、変りつつあると仮定しよう
この真暗な意識には、どんな動詞のどんな時制もないのだが
全てが、いつも終わっており、そして途上であり、終わりがない
しかし、もう一人にとっては、しばらく前から、声は改善されつつある、と仮定しよう
はじめに想像された通りの、いつもくすんだ調子、そして同じくどくどしさ
これについては、改めて言うことなど何もない
しかし、動きは稀になっている
弱さの変化はもっと僅かだ
最適の配置を探すようにして
そこから最大の効果で発生すること
容易に聞こえるための理想的な大きさ
過ぎた音量や、反対に緊張を強いるようなかすかさで耳を害さないように気を配って
こんな声は、最初に性急に想像されたような声より、はるかに友達に適している
目的に達するには、はるかに適しているのだ
目的とは、聞き手に過去を持たせて、それをしかも彼が認めることだ
お前は、長い労苦のあげく、これこれの日に生まれた
そう私は思い出す
木の後に、ちょうど太陽が沈んだところだった
そう私は思い出す
ちょうど水滴が、よりうまく浸蝕するには、
下にある層に、斜めにではなく、まっすぐ落ちなくてはならぬように
その見本みたいな香りを想像すること
お前は、闇の中に横たわって思い出す
雲のない四月の一日
彼女は小さな小屋にいるお前に会いに来る
粗末な六面体の丸太小屋
高さ3メートル
床の広さは3平方メートル
二つの小さな光が両側から
色のついた小さな菱形の窓ガラス
その一つ一つに窓台がついている
夏の日曜日、昼食の後、お前の父は、雑誌とクッションを持ってきて、ここで休むのが好きだった
窓台に腰掛け、ズボンのベルトをはずし、彼はページをめくった
お前は、彼の真向かいで脚をぶらぶらさせていた
彼がくっくっと笑えば、お前もくっくっと笑ってみた
彼の笑いが消えかけると、お前のも消えていった
お前がくっくっという笑いを真似ようとするのが好きで、彼はひどく面白がった
そしてお前がくっくっと笑おうとするのを聞きたくて、わざと笑うことさえあった
お前は時々振り返り、窓の向こうを眺める
年月が過ぎ、あの時と同じ場所で、虹色の光を浴び、目を空虚に向けている
彼女は遅い
お前は目を閉じて、体積を計算しようとする
困難な時、お前はわざと、簡単な算数の問題で気を紛らわす
まるで隠れ家に行くように
ついにお前は、およそ七立方メートルまでたどりつく
今でもまだ、闇の中で、時と無関係に、数字はお前を慰める
お前は、心臓の一定のリズムを仮想して、一日何回動悸を打つか計算する
一週間
一月
一年
そして、一人一人の人生の一定時間
最後の動悸までの
しかし、さしあたってまだ百億くらい数えなくてはならないところでやめて、
お前は小さな小屋の中で、その容積を数えながら、座っているのだ
約七立方メートル
不思議な理由で、この数字はありえないものに思われ、お前はゼロから計算をやり直す
しかしはじめたかと思うと、たちまち彼女の軽い足音が聞こえてくる
体格の割には軽い音だ
心臓が高鳴り、お前は目を開け、また果てしない時が過ぎ、彼女の顔が窓に現れる
お前の方から見ると、ほとんど顔中真っ青だ
お前の大好きな自然な青白さ、同じように、たぶん彼女から見ればお前も青いはず
というのは、自然な青白さはお前たち二人に共通の特徴だから
紫色の唇はお前の微笑に答えない
一方床板は、外の地面とほぼすれすれのところにあるので、彼女が膝をついているのではないかとお前は思ってしまう
お前たちの等しい背丈や大きさは等しい部分の合計であることを、経験で知っているから
なぜって、まっすぐ立って、あるいは全身を伸ばして横になって、お前たちが互いに向かい合っているとき、膝はくっつき、恥骨も髪もからみあうから
だから、座ったせいで背丈が低くなるのと、ひざまずいたせいで低くなるのは同じ、と結論するべきだったか
ここでお前は目をつぶり、脚の裏から膝までと、膝から腰までを、心の中でもっと正確に測り、比較しようとする
お前は目を閉じたまま、しかもすっかり醒めきって、なんと集中していたことか
夜も昼も
この完全な闇で
この影のない光
ただ消えてしまおうとして
あるいは難題に没頭して
1つの脚が現れる
お前はそこから部分を引き離し、部分を横に並べる
お前が少し予想していた通りだ
高いところが一番長く、結果として、
椅子が膝の高さにある場合の方が座ることによって減る長さよりは大きい
お前はもう断片をうっちゃって、目を開け、お前の前に座っている彼女を見出す
沈黙
真っ赤な唇はお前の微笑に答えない
お前の目は彼女の胸に下りる
それがそんなに豊かなのを見た覚えがない
彼女の腹にしても
それは、留め金をはずしたベルトからはみ出たお前の腹とひとつになる
彼女の手にさえ触れなかったのに、妊娠するなんてことがあるだろうか?
お前は自分に閉じこもる
彼女もお前が気付かぬうちに目を閉じた
お前たちはこうして、小さな小屋の中に座っている
この光の中に
この沈黙
また友達が必要になり、彼が決意して聞き手を少なくともMと呼ぶまで
指示を容易にするためだ
自分自身は別の文字
Wで
自分の友達として、自分を含む全てを想像しながら
最後の知らせでは、Mと同じ闇の中で
どんな知らせか、動かないか、動くか、まだ想像されていない
彼は自分について語りながら、またこうも言う
彼が自分自身について最後に語ったとき、
それは自分の作り出したものと同じ闇の中に、自分がいると言うためだったと
最初予想されたように、別の闇においてではない
同じ闇で
同伴するのにより好都合な闇として
また彼は言う、その上自分の姿勢を想像しなければならなかったと
そして動かないか、または動くか
想像できるあらゆる理由のうち、結局どれが一番退屈させないですむか
長い目で見れば、どんな運動、どんな静止が、
一番気を紛らわせてくれることになるのか
そして、同時に、まだ知るのは早すぎても、もう待つのはやめて、
後で反故にされるかもしれないことを一息に言ってしまわないのか、
もしたまたまそれが反故にならない場合は
もし彼が望ましいと判断すれば、彼が最後に選んだらしい闇から引き上げ、
彼が作り出したものから離れ、全く別の闇の方へ行くことが出きるか
もし今、彼が決心して横になり、しばらくしてそれを後悔することになれば、
その時彼は、例えば立ちあがったり、壁にもたれたり、
あるいは百歩歩いたりできるだろうか
Mは、また自分が揺り椅子の中に想像されることに甘んじるだろうか
彼を助けに行くのは勝手だ
自分を作り出したものと同じ闇の中、そこで彼はこうした困惑にさらされて、
友達を台無しにしてしまう
今までも時々したように、世の中の苦しみはいつも同じなのだろうか、
と心の奥底で自問しながら
暗いところで仰向けになっていて、形と次元はまだ想像するしかない
断続的な声の聞き手
彼は時々、声が彼にむけて語られているか、
それとも同じ状況にある別の人間に向けられているか、自問する
声が彼の状況を正しく説明していても、
この説明は同じ状況にある別の人間に向けられていることもありえるからである
この疑いは、声が四方に霧散するのではなく、彼に向けて押し寄せるにしたがって、
徐々に否定される
声がやむとき、唯一の音は自分の呼吸だ
声が長い間やむとき、もうすっかりやんでしまったというかすかな希望
まったくありふれた精神の動き
たまに推理がひらめいても、すぐに消えてしまう
希望と絶望というこの古びた、かろうじて感じ取れるペア
彼の現在の状況がどこから来たかについては、全然手がかりがない
あちらとこちら、かつてと今を連想させることもできない
瞼だけが動いている
目が外と内の闇に退屈したとき、瞼は一つ一つ閉じては開く
他の部分的な、些細な運動の希望もなくなってしまったわけではない
しかし、この点では、今のところ何一つ良好なことはない
あるいは、より高い水準で同伴に有利なのは、
例えばあらわな悲しみの仕草、または欲望、または後悔、または好奇心、または憤怒等々のしぐさ
あるいは、知性のありきたりの行為がうまくいって、
例えば自分自身について語りながら、彼は自分に言い聞かせることができる、考えることができないから諦めるのだと
彼の名付け難さ
Mでさえ消えなくてはならない
こうしてWは、自分の作ったものをこれまで作ってきた通りに回顧する
W?
しかし彼もまた作られたものだ
幻影
それゆえ、さらにもう一人
彼については何もない
自分の無を和らげる為に、幻影を生み出して
そっとしておこう
少し時がたち、また心の中でうろたえ
そっと、そっとしておこう
自分が作り出した他の幻影達と同じ、幻影のような闇の中で
どんな姿勢で?
もう決まりきった姿勢をした聞き手のようには、まだ決まっていない?
一人じっとしているだけではいけないか
こんな気慰みを倍にしていっていったい何になる?
それなら彼は動けばいい
控えめに
四つんばいで
控えめな這い歩き
胴体は地面からちゃんと離れ、警戒する目は歩みの方角に
それが何もしないよりましでないとしたら、やめてしまうこと、可能ならば
そしてまた見出された空虚の中で、別の動作
あるいは何もしない
それなら一番好都合な姿勢を想像するしかない
しかしさしあたっては這うがいい
這って歩き、転ぶ
また這っては、また転ぶ
自分の作った他の幻影達と同じように、幻影のような幻の中で
まるで道に迷ったように、長いことさまよったあげく、声は自分の場所と自分のどうしようもない弱さを見出す
その場所はどこか
慎重に想像すること
後頭部に対して垂直に
だから、声の放つ光に、1つの口が浮かび上がるとしても、彼にはそれが見えない
絶望して、彼が目を右往左往させても
床とすれすれのところ?
腕の先
力?
かすか
後ろから、ゆりかごの枕もとに身体を傾ける母の声のように
母は、父に見えるように離れる
今度は父が赤ん坊につぶやく
いつもの気の抜けた調子
愛のしるしはない
その震える影の中にいる
彼女は、肘をついて身体を直角に曲げて横になっている
お前のつむった目は、彼女の目の中をのぞきこんでいたところだ
闇の中で、お前はまたのぞきこむ
もう一度
お前は自分の顔の上で、彼女の長く黒い髪の端が、
静かな空気の中に動いているのを感じる
髪の束の下にお前達の顔が隠れる
彼女はつぶやく、葉の音を聞いて
お前達は見つめあい、葉のすれる音を聞く
その震える影の中で
また這っては、また転び
もしそれが何の足しにもならないなら、いつでも彼は転んで、終わりにすることができる
もう決して膝で立ちあがらなかった、ということもありうる
このような這い歩きが、いったいどうなふうに、声とは反対に、
場所の配置を掴むのに役立つか、想像すること
まず這い歩きの単位とは何か
歩くときの一またぎに当たるものは
彼は四足で立ち、発進の用意をする
手と膝は、80センチほどで、幅が任意の、長方形の角をなす
結局、右膝はおよそ20センチだけ進み、こうして右手との距離を四分の一減らす
手の方も、同じだけ進む
こうして私達の長方形は、菱形に変形する
しかし、左の膝と手が同じ事をする為に必要な時間だけだ
そうしてまた長方形に戻る
こんなふうに、彼が転ぶまで続く
このとき這って歩くものは、いわゆる側対歩(※)を行うのだ
これはおそらくあらゆる方法のうちでも、一番珍しい進み方だ
それゆえ、たぶん一番気晴らしになる
※ 馬術で馬が片側の二つの脚を同時にあげて進む歩き方
頭の中で ひとつふたつみっつよっつひとつ
膝、手、膝、手、ふたつ 1つの足
たぶん、いつつで彼がころぶまで
そして遅かれ早かれ、ゼロからまた前進
ひとつふたつみっつよっつひとつ
膝、手、膝、手、ふたつ
むっつ
たぶん、こんなふうに続く
できるだけまっすぐに
ちっとも障害に出会わないので、がっかりして道を引き返すその時まで
ゼロからやり直し
あるいはまったく別の方向に向かう
できるかぎり一直線に
それでもまだ、苦労した割に終点につかないので、結局諦め、向きを変える
暗闇がどんなに道を誤らせるか、ちゃんとわきまえながら、
あるいはほとんどそんなことは思わずに
心臓が原因の左回り
まるで地獄に来たよう
あるいは熟考されただ円を直線に変えてしまう
とにかく、どんなに元気に這っても、彼はまだちっとも終点近くについたわけではない
膝、手、膝、手
果てしない闇
彼が聞いているときをのぞいて
つまり、声が聞こえている時をのぞいて
なぜなら、声と自分自身の呼吸以外に、いったい彼に何が聞こえているというのか
ああ
這い歩き?
彼に這い歩きが聞こえるか
転倒が?
這い歩きの音を聞くことができたら、どんなに友達として役に立つだろう
転倒
四つんばいに戻る
また這い歩き
こんな物音にいったい何の意味があるか、首を傾げながら
もっと後もっと空しいときのためにとっておけばいい
そしてこの音のほかに、何が彼の心に活気を与えることができよう
見えるもの?
見えるものなど何もないと、どうしてはっきり言わずにいられよう
しかしさしあたっては遅すぎる
目を開け、また閉じるとき、彼は闇の変化を感じるからだ
そしてとにかく、声が放つかすかな光を、想像した通りに感じるからだ
性急に想像したのだった
確かに、極端に弱い光だ、ほとんどつぶやきでしかない
今突然それが見えても、 目は閉じてしまう
この瞬間、開いていたと仮定して
だから、しまいにはかろうじて存在しているあの光は、
せいぜい瞬きの半分ほどの間しか感知されない
口の中の味?
ずっと以前から鈍っている
床が彼の骨格にのしかかる?
端から端まで、踵から、後頭部の突起まで
動こうとすれば、彼の無気力がかきたてられないか
脇腹を下にひっくり返す?
または腹を下に
変化をつけるために
最小限の欲求が彼に与えられるように
そして同時に、彼が思いのまま、
ただ身を捩じらせることができた時代は終わったと知ることの安らぎ
嗅覚?
彼自身の臭い?
ずっと前から彼のもの
そして、他の臭いに対する壁、他の臭いがあるとしての話だが
例えば、ある時はずっと前に死んだ鼠の臭い
あるいは他の腐った死骸の臭い
さらに想像しなくてはならない
ああ
這い歩きする創造者
這いながら、創造者が臭うなどと想像することは、正気の沙汰だろうか
自分の作ったものよりもっと臭いなんて
そして、驚きに対してはひどく無関心なこの精神を、驚かすなんて
このむかむかするような息は、いったい誰の、何の?
もし自分が創造したものが臭うとすれば、どんなにか友達としては好都合だろう
彼が創造者の臭いを嗅ぐことができさえすれば
第六感という奴か?
差し迫った不幸の言い難い予感
はい、それともいいえ?
いいえ
純粋理性?
経験以下
神は愛
はい、それともいいえ?
いいえ
這いながらも創造する事ができるだろうか
これが、二回の這い歩きの間で、横になって彼が自分に問うた問題
そして、明らかな答えはすぐやってきても、一番有利な答えはなかなかやってこない
そして、このことについて想像力を持てるまでには、
何度も繰り返し這い歩きしなければならず、同じくらいの数、意気消沈しなくてはならなかった
同時に一息に、心の中で、彼の考えるどんな答えも絶対ではない、と自信なく付け加えながら
なるようになれ
彼が、けりをつけるためにあえてした答えは、否定的であった
いや、彼にそんなことはできない
闇の中を、さっき想像したような仕方で這うなんて、
たとえ虚無の断片を物体化するような活動であれ、とにかく他のどんな活動もできなくなってしまうだろう
彼は単に、あまりに性急に想像されたあの特殊なやり方で移動しなければならないだけでなく、
おまけに可能なかぎり、直線上を進まなくてはならない
しかも、進みながら、半歩ごとに足し算し、既に計算したものの、
常に変化していく和を記憶に留めなければならない
そしてついには、場所の特徴に関するほんの些細な手がかりに対して、
目も耳も警戒状態に保っておかなくてはならない
この場所に、彼は想像力によって、たぶんあまりにも急に閉じ込められたのだ
だから理性によってこんなに損なわれた想像力をかこちながら、
同時に、どんな高揚もかりそめであることを忘れずに、彼は結局、
いや、それはできない、と答えることができるだけだ
自分の被造物と同じく創造された闇の中を這いながら、
理性的に創造することなどできないと
砂浜
夕方
光は死に絶える
すっかりなくなって、やがて光はもう死に絶えることもない
いや
光がないなら、もうこんなことさえない
お前は海を背にして立っている
ただ海のざわめきがあるだけ
とても静かに遠ざかりながら、絶えず弱まっていく
とても静かに、それが戻ってくるときまで
お前は長い杖にもたれかかる
杖の柄に手を置き、その上に頭を置く
お前の目がたまたま開いたら、まず、最後の明かりで遠くに、
お前の上着の裾と、砂に埋もれたお前の編み上げ靴の胴が見えるだろう
それから、砂の上の棒の影だけが、それが消えていく間、見えるだろう
お前の視野から影が消える
月も星もない夜
もしお前の目がたまたま開いていたら、闇が輝くのに
横になる
闇の中で目を閉じ、息をつく
またやり直す
物理的に、そして何にもならないのに、また這って歩いたことを失望する
いったいなんで這って歩くのか、とたぶん一人ごちながら
なぜただ闇の中に目をつむって、横たわり、全てを放棄してしまわないのか
みんな終わりにすること
気違いじみた這い歩きと、空しい幻影も
しかしこんなふうに勇気を失ってしまうことがあるにしても、それは決して長い間は続かない
なぜなら、ぐったりした彼の心に、また少しずつ友達の欲求が生まれるからだ
あるいは自分自身との同伴を逃れようとする欲求が
もう一度あの声を聞きたくなる
それが再びこう言っているのに過ぎないにしても
お前は闇の中で、仰向けになっている
あるいはさらに、お前はこれこれの日、日の目を見た
よく聞くために目を閉じて、あの広がる光を見ようとする欲求
あるいは、何らかの人間的弱さが加わり、聞き手をましな奴にしようという欲求
例えば、手の届かないところの痒さ、あるいはもっといいのは、
麻痺した手に届くところの痒さ
かくことのできない痒さ
それは友達として、なんと好都合か
あるいは自分について語りながら、自分が横になっていることを漠然と暗示することによって、
彼はいったい何を意味しているのか、という問いが最後の楽しみにとってある
言いかえれば、無数の横たわり方のうち、長い目で見ると、どれが一番好ましいか?
もし特定のやり方で這って転ぶとすれば、当然顔は地面に向いているだろう
しかし一度すっかり脱力すれば、
当然、彼はどちらかの脇腹を下にして、あるいはたった1つの背中を下にして、ひっくり返ることができるはずだ
そして、これらの三つの姿勢のうちどれかが、他のどれかより気晴らしになるとして、とにかく横になるはずだ
背中を下にした姿勢は魅力的だが、既に聞き手に採用されているので、結局は斥けられる
横腹については、一目見て駄目と分かる
それなら、虚脱状態しかないか
しかしどんなふうに?
どんなふうにして虚脱状態になるのか?
足はどんなふうに置けばいいか
腕は?
頭は?
闇の中で虚脱して彼は、どうしたら、うまい具合に虚脱していられるか賢明に知ろうとする
どんなふうに、虚脱して自分に同伴するか
いろんなやり方のうち、どんなふうに仰向けになるのが、一番人を退屈させないか
虚脱し、目を閉じ、闇の中にかっと見開き、しまいに彼はぼんやりと見始める
それにしてもまず裸で?
あるいは何かを纏って?
ただの布切れでも
裸
声の放つ光に幽霊のように浮かぶ、骨のように白いこの肉体が友達
前述した喉頭部の突起にほぼ支えられた頭
こわばった形に組まれた両足
直角に開かれた足の裏
見えない手錠で恥丘の上に交差させられた手
必要に応じて、別の細かいこともあるだろう
さしあたって、彼をそのまま放っておこう
それでもお前は、頭を手の支えから上げ、また目を見開く
お前は、自分のいる場所から動かずに、頭の上の光を灯す
お前の目は、目の前の腕時計を見る
しかし夜の時間を確かめるかわりに、目は秒針の回転を追う
その影は、針の先を行ったり、針を追いかけたりする
何時間もたつと、やがてこんなふうに感じられる
60秒と30秒で、影は針の下に消える
60秒から30秒まで、影は針の先を行くが、
その間の距離は、60のときゼロで、15で最大値に達する
そこから、今度は30の所でまたゼロにまで減少する
30秒から60秒まで、影は針を追いかけ、
その間の距離は、30のときゼロで、45で最大値に達し60でまたゼロに減少する
今お前が、光か時計かをどちらかに移動させて、
光を斜めに腕時計に当てると、影はまったく違う点、例えば、50と20で針の下に消える
また、傾斜の角度によってこの2点は、まったく違うところに移る
しかし傾斜がどんなふうでも、また、影がゼロになる点が、
最初の場合と新たな場合でどれほど隔たっていても、
ふたつの点の間の開きは、いつも30秒だ
影は、回転しながらどこであろうと、針の下から現れて、
30秒間針を追いかけ、あるいは針の先を行く
それから、1秒を計算できないほど小さく割った瞬間だけまた消えて、
またあらわれ、針の先を行き、あるいは針を追いかける
これが絶え間なく続く
見たところ、これだけが唯一、一定している
しかし、その距離がいくらであろうと、相変わらず15秒間ゼロから最大値まで増加し、
また15秒間にそのつどゼロまで減少する
これが絶え間なく続く
これがおそらく、二番目に一定している
この秒針とその影が、一見絶えず平行して文字盤を回転する様子を、
お前はもっと観察することができただろう
この回転からの他の変数、定数が取り出され、
今まで感じてきたことに含まれていた誤謬が、訂正されたかもしれない
しかし、それ以上のことはできずに、お前は頭をもとのところに下ろし、
目を閉じて、お前にお似合いの災いに戻っていく
明け方、お前のいつもの姿勢が光にさらされる
海側の窓から、低い太陽がお前を照らし、床にお前の影を投げ、
頭の上にいつも灯っている明かりや、さらに他のものの影を投げる
誰がそう叫んでいるのか
誰が、誰が叫んでいると問うのか
光も影も、影を落とさぬ闇の中に、何が見えるのか
さらにまた別の誰か?
全てを自分の友達として想像しながら
それは、友達としてどんなに役に立つことか
さらにまた別の者が、全てを自分の友達として想像する
そっと、そっとしておこう
最初の歩みから約三万里、およそ地球を三周
決してお前の家から半径一理以上離れたことはない
お前のすみか
ここには窓がない
お前が目を開けると、闇が輝いている
だからお前は闇の中で仰向けになっているが、昔はここでしゃがんでいたものだ
お前の身体は、もう外出することができない、とお前に告げた
田舎の小道のつづら折りや、その間の、群れでにぎわう、あるいは空っぽの牧場を歩くことはもうできないのだ
お前の脇には、長い年月、日雇いのぼろ服を着た父の影があった、それから長い間一人だった
一歩一歩、既にした歩みの、絶えず増えていく合計に、お前の歩みを付け加え
時々、一番最後の合計を勘定する為、うなだれて立ち止まり
またゼロから前進し
お前はうずくまって、もう一人ではないと想像しようとする、そんな想像を可能にするものは何も生き延びてはいないことを知りながら
それでも事態は、いわばその愚かしさによって和らげられ進行する
一つ一つの言葉を、一人でつぶやくのは止めろ、私は、私のすることが水の泡と分かっているが、それでも続ける
違う
なぜなら、一人称単数は、ついでに複数は尚更、お前の語彙には決して存在しなかった
しかし、こうしてお前は、黙ったまま、自分を観察するのだ
時々、お前は身体を伸ばす
同時に、様々な部分が揺さぶられる
腕は膝から離れる
頭が起きあがる
足は伸びる
胴は後ろにのけぞる
そして、他の数え切れないものと一緒に、それらは一つ一つの移動を、もう不可能になるまで続け、そして一緒に滞る
そして、逆の動きがまた中止するまで、お前は続ける
こんなふうに、闇の中にうずくまり、あるいは仰向けになり、
お前は無駄な骨折りを続ける
そして、最初の姿勢から次の姿勢への移行が、
時に連れて簡単に、より自発的になるように、その反対はやはり反対になる
だから、たまたまくつろいでいただけだったのに、身体を伸ばすことは習慣となり、しまいには規則となる
今闇の中で仰向けになったお前は、もう両腕で足を抱えて、
ぎりぎりまで頭を低くして座るということもないだろう
やむをえず、顔をのけぞらせ、お前は空しく作り話をいじりまわす
言葉が終わりに達したらしいとついに悟ってしまうまで
空虚な言葉を重ねるたび、お前は最後の言葉に近づいていく
作り話も
お前と一緒に闇の中にいる他人についての作り話
闇の中にお前と一緒にいる他人についての作り話をするお前についての作り話
そういうわけで、要するに、徒労の方がましで、おまえは相変わらず