川﨑桜

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川﨑桜
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一ノ瀬美空は舟の上で唇を噛んでいた。川崎桜の軍勢は強かった。
可憐にして苛烈。
笑みを浮かべながら、容赦なく美空軍の船列を割ってくる。
「このままでは……負けます」
小川彩が震える声で言った。美空はしばらく黙っていた。
そして、海を見た。
「……漕ぎ手を射よ」
彩が息を呑む。
「美空さま、それはなりませぬ。舟を漕ぐ者は武士ではありません!」
だが美空の目は揺れなかった。
「この戦、負ければ乃木坂の世は終わる」
弓が鳴った。矢は風を裂き、川崎軍の舟へ降り注いだ。次々と櫓が止まり、船足が鈍る。その瞬間、勝敗は決した。川崎桜は、崩れていく船列の中央に立っていた。濡れた黒髪を潮風になびかせ、なおも気高く、美しく。
彼女の腕には、乃木坂に代々伝わる三種の神器があった。
白銀のマイク。
歌う者の魂を映す神器。
紫紺のリボン。
選ばれし者だけが結ぶ絆の証。
星詠みのティアラ。
センターの宿命と孤独を宿す冠。桜はそれらを胸に抱いた。
「これを……渡すわけにはいかない」
美空が叫ぶ。
「桜! もう勝負はついた! 戻れ!」
桜は少しだけ笑った。その笑顔は、ステージの上で見せたものと同じだった。
「美空。あなたは勝ちなさい。私は、物語になる」
次の瞬間、川崎桜は三種の神器を抱いたまま、赤い海へ身を投げた。
波が一度だけ大きく揺れた。
そして、何も残らなかった。
小川彩は弓を落とし、泣いた。
美空はただ、沈む夕陽を見つめていた。
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風の前の塵こと川﨑桜